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今日の夜会は、実はトーリ様達のお兄様である、ハンス様の20歳のお祝いも兼ねていた。
わたし達の国では、20歳で成人扱いになる。
ブロット公爵はこの日を待っていた。
それは、トーリ様達のお兄様であるハンス様も同じ気持ちだった。
公爵家主催のパーティーという事もあり、豪華で招待された人数も、かなりの数だった。
特に今日は、公爵家が重大発表をするという噂が流れていたので、招待客はどこか落ち着かない様に思えた。
「大丈夫か?」
「……はい」
パーティーが始まってから、何度もトーリ様に尋ねられていて、さすがにわたしも苦笑して答える。
「わたしなら大丈夫です。トーリ様を信じてますから」
「……そうか。本当にごめん」
「謝らないでください。わたしもやると承諾した事ですから」
「だけど、それ以外にも方法があっただろ?」
「ありましたけど、クボン候爵の命令ですし、ブロット公爵閣下もわたしの判断に任せると仰られましたから」
「……」
トーリ様はまだ納得いかない感じだった。
(そんな顔をされていたら、ショー様達に気付かれるかも…。計画が失敗してしまうかもしれないから、気にしなくても良いのに…)
どうしたら、トーリ様にわたしは大丈夫と伝えられるのか考えたけれど、良いアイデアは浮かんでこなかった。
それからしばらくして、わざとわたしは1人になり、会場の隅でジュースを飲んでいると、お姉様が近付いてきた。
「久しぶりね、アザレア」
「お久しぶりです、お姉様」
「あなたがそんな色のドレスを着ているなんて初めて見たわ」
「もう今までのわたしとは違いますから」
「へえ? どう違うの? ゆっくり話が聞きたいわ。家族も元気? お父様とお母様はどうしてるの? 私に会いたがってるんじゃない?」
「……いいえ」
首を横に振ると、お姉様の笑顔がひきつった。
「嘘を言わなくてもいいのよ?」
「本当の事です。お姉様がショー様と結婚して、ミノン家の名前を使わなくても良くなる時を待っておられます」
「……うそよ! お父様とお母様が私を見捨てるわけない!」
お姉様の叫び声は会場内に響き渡り、談笑していた人達は驚いて言葉を止めた。
会場内は波紋が広がる様にゆっくりと静かになっていく。
お姉様はそんな様子などおかまいなしに叫ぶ。
「そうやって嘘をついたって騙されないから!」
「嘘なんかじゃありません!」
お姉様がつかみかかってこようとしたところを、突然現れたショー様が間に入って止める。
「マーニャ、ちょっと落ち着いたほうがいい。アザレア、君もマーニャを挑発する様な事を言うのは良くないよ」
「事実を伝えたまでですが?」
「……本当に君の家族は、マーニャを見捨てたのか?」
先程までの会話を聞いていたのか、ショー様が聞いできたけれど、答えたのはお姉様だった。
「いいえ。見捨てたのではありません」
「君に聞いてるんじゃない!」
ショー様に睨まれて、お姉様は体をびくりと震わせた。
ショー様の手の動きに反応したので、もしかすると、お姉様も暴力をふるわれているのかもしれない。
「こんな所ではなんだから場所を変えないか?」
ショー様が笑顔でわたしを促してきた。
(…きた)
ここまでは、予想内の展開。
どこに連れて行かれるかは、はっきりとはわかっていない。
「ここでかまいませんが?」
すぐに付いていけば怪しまれる。
だから、一度は警戒して嫌がってみせた。
「何もしやしない。マーニャも一緒に行ってくれるよ」
(何の安心材料にもならないんだけど?)
「さあ、行こう!」
「そうよ、行きましょう!」
わたしが返事をする前に、お姉様に手を引かれ、無理やり連れて行かれそうになる。
「トーリ様に連絡を」
「僕がしておくよ」
するつもりもないくせに、ショー様は笑顔でわたしに言った。
わたし達の国では、20歳で成人扱いになる。
ブロット公爵はこの日を待っていた。
それは、トーリ様達のお兄様であるハンス様も同じ気持ちだった。
公爵家主催のパーティーという事もあり、豪華で招待された人数も、かなりの数だった。
特に今日は、公爵家が重大発表をするという噂が流れていたので、招待客はどこか落ち着かない様に思えた。
「大丈夫か?」
「……はい」
パーティーが始まってから、何度もトーリ様に尋ねられていて、さすがにわたしも苦笑して答える。
「わたしなら大丈夫です。トーリ様を信じてますから」
「……そうか。本当にごめん」
「謝らないでください。わたしもやると承諾した事ですから」
「だけど、それ以外にも方法があっただろ?」
「ありましたけど、クボン候爵の命令ですし、ブロット公爵閣下もわたしの判断に任せると仰られましたから」
「……」
トーリ様はまだ納得いかない感じだった。
(そんな顔をされていたら、ショー様達に気付かれるかも…。計画が失敗してしまうかもしれないから、気にしなくても良いのに…)
どうしたら、トーリ様にわたしは大丈夫と伝えられるのか考えたけれど、良いアイデアは浮かんでこなかった。
それからしばらくして、わざとわたしは1人になり、会場の隅でジュースを飲んでいると、お姉様が近付いてきた。
「久しぶりね、アザレア」
「お久しぶりです、お姉様」
「あなたがそんな色のドレスを着ているなんて初めて見たわ」
「もう今までのわたしとは違いますから」
「へえ? どう違うの? ゆっくり話が聞きたいわ。家族も元気? お父様とお母様はどうしてるの? 私に会いたがってるんじゃない?」
「……いいえ」
首を横に振ると、お姉様の笑顔がひきつった。
「嘘を言わなくてもいいのよ?」
「本当の事です。お姉様がショー様と結婚して、ミノン家の名前を使わなくても良くなる時を待っておられます」
「……うそよ! お父様とお母様が私を見捨てるわけない!」
お姉様の叫び声は会場内に響き渡り、談笑していた人達は驚いて言葉を止めた。
会場内は波紋が広がる様にゆっくりと静かになっていく。
お姉様はそんな様子などおかまいなしに叫ぶ。
「そうやって嘘をついたって騙されないから!」
「嘘なんかじゃありません!」
お姉様がつかみかかってこようとしたところを、突然現れたショー様が間に入って止める。
「マーニャ、ちょっと落ち着いたほうがいい。アザレア、君もマーニャを挑発する様な事を言うのは良くないよ」
「事実を伝えたまでですが?」
「……本当に君の家族は、マーニャを見捨てたのか?」
先程までの会話を聞いていたのか、ショー様が聞いできたけれど、答えたのはお姉様だった。
「いいえ。見捨てたのではありません」
「君に聞いてるんじゃない!」
ショー様に睨まれて、お姉様は体をびくりと震わせた。
ショー様の手の動きに反応したので、もしかすると、お姉様も暴力をふるわれているのかもしれない。
「こんな所ではなんだから場所を変えないか?」
ショー様が笑顔でわたしを促してきた。
(…きた)
ここまでは、予想内の展開。
どこに連れて行かれるかは、はっきりとはわかっていない。
「ここでかまいませんが?」
すぐに付いていけば怪しまれる。
だから、一度は警戒して嫌がってみせた。
「何もしやしない。マーニャも一緒に行ってくれるよ」
(何の安心材料にもならないんだけど?)
「さあ、行こう!」
「そうよ、行きましょう!」
わたしが返事をする前に、お姉様に手を引かれ、無理やり連れて行かれそうになる。
「トーリ様に連絡を」
「僕がしておくよ」
するつもりもないくせに、ショー様は笑顔でわたしに言った。
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