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「ど…、どういう事でしょうか…?」
(姉だった人っていうのも何だし、マーニャ様、でいいかしら?)
マーニャ様は唖然とした表情で王女殿下に尋ねた。
「わたくし、レイジの婚約者になる事になったの。今年、15歳になるから、さすがに婚約者を探さないといけないと思っていたんだけど、あなたがレイジと別れてくれたおかげで、わたくしは、本当に大好きな人と幸せになれるわ…」
「そ、そんな…」
マーニャ様はショックを受けた表情になった。
「ねえ、マーニャさん、あなたも幸せになってね? だって、ショーはレイジよりも素敵なんでしょう?」
にこりと微笑まれたけれど、王女殿下が本気で微笑んでおられるようには見えなかった。
(レイジ様を傷付けた事、かなり怒っていらっしゃるみたいね。気持ちはわかるけれど…)
「それは…、その、私は、ショー様に騙されただけで…」
「何だって!?」
お姉様の言葉にショー様が噛みつく。
「嘘をついていたのはそっちの方じゃないか!」
「私のせいにしないで下さい! 大体、私は伯爵令嬢ですが、あなたはもう元公爵令息で貴族でもなんでもないんですから話しかけないで!」
「何だと!?」
喧嘩を始めた2人に、ハンス様が大きなため息を吐いて言う。
「あのね、君達はいつかは結婚しなければいけないんだ。諦めて仲良くしなよ」
「私に平民になれと言うんですか!?」
「あのね、マーニャさん。私の元で働いてもらうには平民じゃ駄目なの」
マーニャ様に王女殿下が話しかけると、マーニャ様は叫ぶ。
「……私は平民ではありません!」
「そう。そうじゃないといけないの。だからね、アザレアさん。彼女を罪人にするのは、わたくしの為にも、そして、トーリやあなたの家の事を考えても良くないと思うの」
王女殿下はお姉様に頷いた後、わたしの方に振り返り笑顔で言った。
(罪人が王女殿下の近くで働けるわけがないし、ショー様やマーニャ様が裁かれれば、ブロット家にもミノン家にも傷がつくという事を仰りたいのね…)
「承知いたしました。ですが、二度と、マーニャ様がわたしに近付けない様にする事は可能でしょうか?」
「ええ、もちろんよ。外へ出られる環境であっても、そんな元気もないと思うから。それに結婚してしまったら隣国に行くでしょうしね…」
わたしの言葉に頷くと、王女殿下は廊下の方に振り返る。
「マーニャさんをお連れする人を呼んできてちょうだい」
「承知しました」
男性の声と、階段を駆け上がる音が聞こえ、その後すぐに、コツコツと先程よりも小さな足音が聞こえてくると、メイド服姿の女性達が現れ、呆然としているマーニャ様の腕をつかんで言う。
「さあ、参りましょう」
「参りましょうって何なの!? 嫌よ! ちょっと、アザレア! 助けなさいよ!」
「あなたはわたしの中ではもう他人ですし、第一王女殿下の命令に逆らえる人はそういないでしょう?」
「アザレア! お願いよ! 謝るわ! 謝るから助けてちょうだい! ビトイもショー様もあなたに返すから!」
「わたしにはトーリ様がいますから結構です」
きっぱりと答えると、マーニャ様はトーリ様の方を見た。
すると、トーリ様はわたしを、さっきよりも自分の方に引き寄せてから言う。
「彼女には俺がいる。余計な事をしないでくれ」
トーリ様の言葉を聞いたマーニャ様は泣きそうな顔になり、王女殿下に訴える。
「そんな…っ! お願いします、王女殿下! せめて、レイジ様に会わせてください!」
「今は嫌よ。わたくしとレイジが結婚してから会わせてあげるわね? それまでは、わたくしの元で頑張って下働きをしてちょうだい?」
「そんなっ! 嫌です! 下働きなんて絶対に嫌! アザレア、お願い! 助けて!」
マーニャ様は必死にわたしに向かって叫び、手を伸ばしてきたけれど、数人のメイド達に無理矢理連れて行かれた。
マーニャ様の叫び声が聞こえなくなった頃、王女殿下が口を開く。
「ショーに関してはハンスに任せるわ。元気でね、ショー。もう二度と会う事はないと思うけれど」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
ショー様は第一王女殿下に追いすがろうとしたけれど、わたしをハンス様に預けた、トーリ様に阻まれた。
「お前はやりすぎたんだよ。兄弟喧嘩の枠を越えてしまった」
「何なんだよ! トーリがっ、トーリがいなければ良かったんだ!! トーリがいなければ、僕はこんな目に」
「ショー、こんな事を言いたくはないけど、今の状態の君だと、僕にしてみれば君がいなかった方が良かった様に思えるんだけど?」
ハンス様の言葉に、さすがのトーリ様も驚いた顔をして、ハンス様の方を見た。
ショー様は呆然とした表情で口を開く。
「……え?」
「迷惑をかける弟もそりゃあ悪くはない。だけどさ、ショーの場合はやりすぎだよね。それなら、僕にしてみれば弟はトーリだけで良いんだけど?」
「……そんな…。僕が…いらない?」
そんな事を言われるだなんて予想もしていなかったのか、ショー様は床に崩れ落ちた。
ショー様に近付き、ハンス様が悲しそうな表情で話しかける。
「ショー、辛い事を言ってしまってごめんね。だけどさ、それでわかっただろ。君は、それくらいの事をトーリに言い続けていたんだ」
「……僕が…、いらないだって? 違う! いらないのはトーリだ! 僕は必要とされる人間なんだ! だから、何をしてもいいんだ!」
「そんな訳ないだろ! ショー、俺もお前への配慮が足りなかったのかもしれない。だけど、やらなくても良いことばかりやりすぎた。お前と俺は双子だから、俺が理解しているように、お前もおかしい事をやってるって自分で気付けると思ったんだ!」
トーリ様はしゃがんで、ショー様の襟首を掴んで叫ぶ。
「お前に嫌な思いをさせられた俺の元婚約者達は俺からの謝罪ではなく、お前からの心からの謝罪を望んでる。彼女達が納得してくれるまで反省して謝罪しろ」
「――っ!!」
(ショー様はこれから、他国へ行かないといけない事になる。ショー様が許される、もしくは、王女殿下の気が済むまでは、マーニャ様とショー様の結婚はなさそうだけれど、この調子だと、マーニャ様が王女殿下から解放され、ショー様と一緒に他国で使用人として暮らす事になりそうね…)
怒りなのか、悔しさなのか、それとも嘆きなのか、どんな感情なのかはわからないけれど、ブルブルと震えているショー様を見ながら、わたしはぼんやりとそんな事を思った。
その後、ショー様はハンス様が手配した人達に連れて行かれ、そのまま隣国へと連れて行かれた。
学園では突然、ショー様が辞められた事に驚きはしたけれど、その代わりに王太子殿下が転入して来られたので、すぐに話題はそちらに映ってしまった。
ショー様は最初の方は反抗的な態度を取り、ムチで打たれたりしていたみたいだけれど、2年経った今では従順になった様で、今では下男扱いされても何も言わなくなったんだそう。
マーニャ様はマーニャ様で、第一王女殿下だったシエラ様に散々こき使われていたけれど、現在は、シエラ様がレイジ様とご結婚された為、以前、自分が夫人として暮らしていた家で今は、下女として働いているらしく、聞いた話では、屈辱と後悔で泣きながら仕事をしているとの事だった。
(2人共、反省してくれたのなら良いんだけれど…)
今日はトーリ様と会う約束をしていたので、彼が来るのを待ちながら自室でゆっくりとお茶を飲んでいると、メイドが直接、彼を部屋まで連れてきてくれた。
「おはよう、アザレア」
「おはようございます、トーリ様」
立ち上がって出迎えると、トーリ様がぎゅうっと抱きしめてきた。
外で会う時以外、こうやって挨拶をするのが普通になってしまった。
「実は、ちょっとしばらく会いに来れなくなる」
「…どうかしたのですか?」
「アズアルド殿下が他国に婚約者を迎えに行く事になって、それに付いていく事になった」
「殿下に婚約者が!? で、ですけど、アズアルド殿下には想いを寄せている方がいらっしゃったのでは?」
「それが…」
ソファーに並んで座り、トーリ様が詳しい話を教えてくれた。
この頃のわたし達は学園を卒業していて、トーリ様は王太子殿下の側近として働いていて、わたしは現在、嫁入り前の修行中で、家で色々なレッスンを受けていた。
(といっても、トーリ様は忙しくて、結婚どころじゃなさそうなんだけれど…)
仕事で生き生きしている彼を見るのが好きだから、わたしも結婚は焦っていない。
トーリ様の話では、王太子殿下の婚約者が決まり、その方が他国の方なのでお迎えに行くのだといい、それに付いて行かれるのだそう。
「気を付けて行ってきてくださいね」
「ああ。お土産は何がいい?」
「トーリ様や王太子殿下が無事に婚約者の方を連れて帰ってきてくだされば十分です」
「俺の婚約者はえらく謙虚だな」
トーリ様はそう言うと、わたしを抱き寄せて額にキスしてくれた。
ビトイとの婚約破棄が決まった時は、まさか、こんな事になるとは思っていなかった。
あの時の、わたしの婚約者の好きな人は、マーニャ様だった。
いつかは、わたしの事を見てくれる。
そう信じて、辛い日々を送っていて、最終的には裏切られて、もう人を好きになりたくないと思ったけれど、それで人生が終わりではなかった。
「トーリ様の婚約者ですから、淑女でいないと駄目でしょう?」
「少しくらいはワガママ言ってもいいと思うけど」
「そうですね…」
うーんと考えてみたけれど、やっぱり、大事な人達が元気でいてくれる事が一番だと思って答える。
「じゃあ、怪我をしないで下さい」
「……難しい事を言うな。怪我はする可能性はあるだろ」
「では、大きな怪我をしないで下さい」
「わかった」
そう言って、トーリ様は額や頬にキスを落としてくる。
「トーリ様!」
「しばらく会えなくなるんだから、アザレアをチャージさせてくれ」
わたしを抱きしめて、頭に顎をのせて言うから、トーリ様の胸の中で笑いながら答える。
「じゃあ、わたしもチャージします!」
彼の背中に腕を回し抱きしめ返した。
こんなに幸せな日が来るだなんて思っていなかった。
昔のわたしの婚約者の好きな人は、わたしではなかったけれど、今は違う。
わたしの婚約者の好きな人は、わたしだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ビトイとオサヤに関してのざまぁのご意見をいただいておりましたので、本日の夜にそちらを更新して完結といたしますが、別にいらない、という方にはここで完結とさせていただきます。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
そして、「価値がない人間と言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした」の投稿を始めました。
話のラストに名前だけ出てきている王太子殿下がヒーローのお話になります。
ヒロインは婚約者になる子です。
というわけで、サブキャラとして、本編からでいえば2年後のトーリやアザレアが出てまいりますので、ご興味ありましたら、読んでいただけますと嬉しいです。
そして、ビトイとオサヤにつきましてのお話を読んでくださる方は、夜の更新までお待ちくださいませ。
(過度なざまぁではなく、彼らにとっては厳しいざまぁになるといった感じです)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
(姉だった人っていうのも何だし、マーニャ様、でいいかしら?)
マーニャ様は唖然とした表情で王女殿下に尋ねた。
「わたくし、レイジの婚約者になる事になったの。今年、15歳になるから、さすがに婚約者を探さないといけないと思っていたんだけど、あなたがレイジと別れてくれたおかげで、わたくしは、本当に大好きな人と幸せになれるわ…」
「そ、そんな…」
マーニャ様はショックを受けた表情になった。
「ねえ、マーニャさん、あなたも幸せになってね? だって、ショーはレイジよりも素敵なんでしょう?」
にこりと微笑まれたけれど、王女殿下が本気で微笑んでおられるようには見えなかった。
(レイジ様を傷付けた事、かなり怒っていらっしゃるみたいね。気持ちはわかるけれど…)
「それは…、その、私は、ショー様に騙されただけで…」
「何だって!?」
お姉様の言葉にショー様が噛みつく。
「嘘をついていたのはそっちの方じゃないか!」
「私のせいにしないで下さい! 大体、私は伯爵令嬢ですが、あなたはもう元公爵令息で貴族でもなんでもないんですから話しかけないで!」
「何だと!?」
喧嘩を始めた2人に、ハンス様が大きなため息を吐いて言う。
「あのね、君達はいつかは結婚しなければいけないんだ。諦めて仲良くしなよ」
「私に平民になれと言うんですか!?」
「あのね、マーニャさん。私の元で働いてもらうには平民じゃ駄目なの」
マーニャ様に王女殿下が話しかけると、マーニャ様は叫ぶ。
「……私は平民ではありません!」
「そう。そうじゃないといけないの。だからね、アザレアさん。彼女を罪人にするのは、わたくしの為にも、そして、トーリやあなたの家の事を考えても良くないと思うの」
王女殿下はお姉様に頷いた後、わたしの方に振り返り笑顔で言った。
(罪人が王女殿下の近くで働けるわけがないし、ショー様やマーニャ様が裁かれれば、ブロット家にもミノン家にも傷がつくという事を仰りたいのね…)
「承知いたしました。ですが、二度と、マーニャ様がわたしに近付けない様にする事は可能でしょうか?」
「ええ、もちろんよ。外へ出られる環境であっても、そんな元気もないと思うから。それに結婚してしまったら隣国に行くでしょうしね…」
わたしの言葉に頷くと、王女殿下は廊下の方に振り返る。
「マーニャさんをお連れする人を呼んできてちょうだい」
「承知しました」
男性の声と、階段を駆け上がる音が聞こえ、その後すぐに、コツコツと先程よりも小さな足音が聞こえてくると、メイド服姿の女性達が現れ、呆然としているマーニャ様の腕をつかんで言う。
「さあ、参りましょう」
「参りましょうって何なの!? 嫌よ! ちょっと、アザレア! 助けなさいよ!」
「あなたはわたしの中ではもう他人ですし、第一王女殿下の命令に逆らえる人はそういないでしょう?」
「アザレア! お願いよ! 謝るわ! 謝るから助けてちょうだい! ビトイもショー様もあなたに返すから!」
「わたしにはトーリ様がいますから結構です」
きっぱりと答えると、マーニャ様はトーリ様の方を見た。
すると、トーリ様はわたしを、さっきよりも自分の方に引き寄せてから言う。
「彼女には俺がいる。余計な事をしないでくれ」
トーリ様の言葉を聞いたマーニャ様は泣きそうな顔になり、王女殿下に訴える。
「そんな…っ! お願いします、王女殿下! せめて、レイジ様に会わせてください!」
「今は嫌よ。わたくしとレイジが結婚してから会わせてあげるわね? それまでは、わたくしの元で頑張って下働きをしてちょうだい?」
「そんなっ! 嫌です! 下働きなんて絶対に嫌! アザレア、お願い! 助けて!」
マーニャ様は必死にわたしに向かって叫び、手を伸ばしてきたけれど、数人のメイド達に無理矢理連れて行かれた。
マーニャ様の叫び声が聞こえなくなった頃、王女殿下が口を開く。
「ショーに関してはハンスに任せるわ。元気でね、ショー。もう二度と会う事はないと思うけれど」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
ショー様は第一王女殿下に追いすがろうとしたけれど、わたしをハンス様に預けた、トーリ様に阻まれた。
「お前はやりすぎたんだよ。兄弟喧嘩の枠を越えてしまった」
「何なんだよ! トーリがっ、トーリがいなければ良かったんだ!! トーリがいなければ、僕はこんな目に」
「ショー、こんな事を言いたくはないけど、今の状態の君だと、僕にしてみれば君がいなかった方が良かった様に思えるんだけど?」
ハンス様の言葉に、さすがのトーリ様も驚いた顔をして、ハンス様の方を見た。
ショー様は呆然とした表情で口を開く。
「……え?」
「迷惑をかける弟もそりゃあ悪くはない。だけどさ、ショーの場合はやりすぎだよね。それなら、僕にしてみれば弟はトーリだけで良いんだけど?」
「……そんな…。僕が…いらない?」
そんな事を言われるだなんて予想もしていなかったのか、ショー様は床に崩れ落ちた。
ショー様に近付き、ハンス様が悲しそうな表情で話しかける。
「ショー、辛い事を言ってしまってごめんね。だけどさ、それでわかっただろ。君は、それくらいの事をトーリに言い続けていたんだ」
「……僕が…、いらないだって? 違う! いらないのはトーリだ! 僕は必要とされる人間なんだ! だから、何をしてもいいんだ!」
「そんな訳ないだろ! ショー、俺もお前への配慮が足りなかったのかもしれない。だけど、やらなくても良いことばかりやりすぎた。お前と俺は双子だから、俺が理解しているように、お前もおかしい事をやってるって自分で気付けると思ったんだ!」
トーリ様はしゃがんで、ショー様の襟首を掴んで叫ぶ。
「お前に嫌な思いをさせられた俺の元婚約者達は俺からの謝罪ではなく、お前からの心からの謝罪を望んでる。彼女達が納得してくれるまで反省して謝罪しろ」
「――っ!!」
(ショー様はこれから、他国へ行かないといけない事になる。ショー様が許される、もしくは、王女殿下の気が済むまでは、マーニャ様とショー様の結婚はなさそうだけれど、この調子だと、マーニャ様が王女殿下から解放され、ショー様と一緒に他国で使用人として暮らす事になりそうね…)
怒りなのか、悔しさなのか、それとも嘆きなのか、どんな感情なのかはわからないけれど、ブルブルと震えているショー様を見ながら、わたしはぼんやりとそんな事を思った。
その後、ショー様はハンス様が手配した人達に連れて行かれ、そのまま隣国へと連れて行かれた。
学園では突然、ショー様が辞められた事に驚きはしたけれど、その代わりに王太子殿下が転入して来られたので、すぐに話題はそちらに映ってしまった。
ショー様は最初の方は反抗的な態度を取り、ムチで打たれたりしていたみたいだけれど、2年経った今では従順になった様で、今では下男扱いされても何も言わなくなったんだそう。
マーニャ様はマーニャ様で、第一王女殿下だったシエラ様に散々こき使われていたけれど、現在は、シエラ様がレイジ様とご結婚された為、以前、自分が夫人として暮らしていた家で今は、下女として働いているらしく、聞いた話では、屈辱と後悔で泣きながら仕事をしているとの事だった。
(2人共、反省してくれたのなら良いんだけれど…)
今日はトーリ様と会う約束をしていたので、彼が来るのを待ちながら自室でゆっくりとお茶を飲んでいると、メイドが直接、彼を部屋まで連れてきてくれた。
「おはよう、アザレア」
「おはようございます、トーリ様」
立ち上がって出迎えると、トーリ様がぎゅうっと抱きしめてきた。
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「…どうかしたのですか?」
「アズアルド殿下が他国に婚約者を迎えに行く事になって、それに付いていく事になった」
「殿下に婚約者が!? で、ですけど、アズアルド殿下には想いを寄せている方がいらっしゃったのでは?」
「それが…」
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この頃のわたし達は学園を卒業していて、トーリ様は王太子殿下の側近として働いていて、わたしは現在、嫁入り前の修行中で、家で色々なレッスンを受けていた。
(といっても、トーリ様は忙しくて、結婚どころじゃなさそうなんだけれど…)
仕事で生き生きしている彼を見るのが好きだから、わたしも結婚は焦っていない。
トーリ様の話では、王太子殿下の婚約者が決まり、その方が他国の方なのでお迎えに行くのだといい、それに付いて行かれるのだそう。
「気を付けて行ってきてくださいね」
「ああ。お土産は何がいい?」
「トーリ様や王太子殿下が無事に婚約者の方を連れて帰ってきてくだされば十分です」
「俺の婚約者はえらく謙虚だな」
トーリ様はそう言うと、わたしを抱き寄せて額にキスしてくれた。
ビトイとの婚約破棄が決まった時は、まさか、こんな事になるとは思っていなかった。
あの時の、わたしの婚約者の好きな人は、マーニャ様だった。
いつかは、わたしの事を見てくれる。
そう信じて、辛い日々を送っていて、最終的には裏切られて、もう人を好きになりたくないと思ったけれど、それで人生が終わりではなかった。
「トーリ様の婚約者ですから、淑女でいないと駄目でしょう?」
「少しくらいはワガママ言ってもいいと思うけど」
「そうですね…」
うーんと考えてみたけれど、やっぱり、大事な人達が元気でいてくれる事が一番だと思って答える。
「じゃあ、怪我をしないで下さい」
「……難しい事を言うな。怪我はする可能性はあるだろ」
「では、大きな怪我をしないで下さい」
「わかった」
そう言って、トーリ様は額や頬にキスを落としてくる。
「トーリ様!」
「しばらく会えなくなるんだから、アザレアをチャージさせてくれ」
わたしを抱きしめて、頭に顎をのせて言うから、トーリ様の胸の中で笑いながら答える。
「じゃあ、わたしもチャージします!」
彼の背中に腕を回し抱きしめ返した。
こんなに幸せな日が来るだなんて思っていなかった。
昔のわたしの婚約者の好きな人は、わたしではなかったけれど、今は違う。
わたしの婚約者の好きな人は、わたしだ。
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ビトイとオサヤに関してのざまぁのご意見をいただいておりましたので、本日の夜にそちらを更新して完結といたしますが、別にいらない、という方にはここで完結とさせていただきます。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
そして、「価値がない人間と言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした」の投稿を始めました。
話のラストに名前だけ出てきている王太子殿下がヒーローのお話になります。
ヒロインは婚約者になる子です。
というわけで、サブキャラとして、本編からでいえば2年後のトーリやアザレアが出てまいりますので、ご興味ありましたら、読んでいただけますと嬉しいです。
そして、ビトイとオサヤにつきましてのお話を読んでくださる方は、夜の更新までお待ちくださいませ。
(過度なざまぁではなく、彼らにとっては厳しいざまぁになるといった感じです)
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