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1 フォークス殿下の『運命の人』
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フォークス様が二十歳になる当日には、王城のダンスホールで盛大な誕生日パーティーが開かれることになっている。彼のためにできることなら何でもしたい私は、誕生日パーティーの企画に携わっていた。
二日前である今日も登城して、ダンスホールに向かっていると、曲がり角で嫌な人物と出くわしてしまった。
「あら、あなた、今日も馬の尻尾なのね」
胸の周りが大きく開いた赤のドレスに身を包んだ、ウェンディ・デーニー様はポニーテール姿の私を見て、ふんと鼻を鳴らした。
ウェンディ様はデーニー公爵家の長女で、学生時代に非公式で行われていた全校アンケートで、5年連続で美少女部門1位の座を獲得している。
金色の瞳に陶器のような白い肌を持ち、亜麻色の腰まである長い髪を背中に垂らしたウェンディ様は、昔から私のことを嫌っていた。
「ごきげんよう、ウェンディ様。お会いできて光栄です」
私は恭しくカーテシーをして、これ以上、嫌なことを言われないうちに立ち去った。
どうして私が彼女に目をつけられてしまったのか。友人が言うには、私がウェンディ様と同じクラスになった際、公爵令嬢に面倒なことはさせられないと気を利かした先生が私をクラス委員にしたからだった。
ウェンディ様は当時、クラス委員に決まっていた男子に恋をしていたので、私が望んだわけでもないのに邪魔者扱いされてしまったのだ。
当時の私はクラス委員になりたくなくて辞退しようとしたが許されず、その日から、私は何かと彼女の目の敵にされている。
公爵令嬢なんだから、権力を使ってクラス委員になれば良かったのに、それをしないのは親の前では良い子でいなければならなかったからだ。
この時の私は、彼女から逃れられたことに安堵していて、彼女がやって来た、私にとって進行方向右側には、王族のプライベートルームしかないことに気がついていなかった。
******
パーティー当日、フォークス様から今日はエスコートできないから欠席してくれても良いと言われた。パーティーの主役だからエスコートできないだけだと思った私は、婚約者の誕生日を祝わないわけにはいかないと出席することに決めた。
婚約者になってからのフォークス様はとても優しく、私を大事にしてくれていたから余計に、そんなポジティブな考えになっていた。
彼の瞳の色の青いドレスを着て、家族でパーティー会場に入場してすぐ、ウェンディ様の取り巻きが私を見て、くすくす笑っていることに気がついた。
人の顔を見て笑うなんて失礼な人たちね。そんな人たちに悲しい顔を見せる必要はないわ。
余裕の笑みを浮かべて軽く一礼すると、取り巻きたちは扇で顔を隠して背を向けた。
呪いが発動するのは今日からだが、私がすることは変わらない。ただ、フォークス様を愛するだけ。
そう気合いを入れ直した時、まだ、開演時間ではないのにフォークス様が会場に現れた。
白いタキシードを着たフォークス様はいつもよりもカッコ良く見えて頬が緩んだ瞬間、彼の後ろに立っている人物に気がついた。
青色のドレスを着たウェンディ様は私と目が合うと、フォークス様に声をかけて、私を指差した。
「フォークス様?」
近づいてきた彼に笑顔で駆け寄ろうとすると、フォークス様は私に向かって手を突き出した。
「近づかないでくれ」
「……どういうことです?」
驚いて立ち止まると、ウェンディ様はフォークス様の腕に自分の手を絡ませた。彼はそれを振り払うこともせず、眉尻を下げる。
「ララティア、君には本当に申し訳ないと思っている」
「……え?」
驚く私を、フォークス様は冷たい目で見つめる。
「私にはもう君は必要ない。今日、この場で君との婚約を破棄し、私は運命の人と結婚する」
そう言って、フォークス様はすでに自分の名を書いた婚約破棄の同意書を差し出してきたのだった。
二日前である今日も登城して、ダンスホールに向かっていると、曲がり角で嫌な人物と出くわしてしまった。
「あら、あなた、今日も馬の尻尾なのね」
胸の周りが大きく開いた赤のドレスに身を包んだ、ウェンディ・デーニー様はポニーテール姿の私を見て、ふんと鼻を鳴らした。
ウェンディ様はデーニー公爵家の長女で、学生時代に非公式で行われていた全校アンケートで、5年連続で美少女部門1位の座を獲得している。
金色の瞳に陶器のような白い肌を持ち、亜麻色の腰まである長い髪を背中に垂らしたウェンディ様は、昔から私のことを嫌っていた。
「ごきげんよう、ウェンディ様。お会いできて光栄です」
私は恭しくカーテシーをして、これ以上、嫌なことを言われないうちに立ち去った。
どうして私が彼女に目をつけられてしまったのか。友人が言うには、私がウェンディ様と同じクラスになった際、公爵令嬢に面倒なことはさせられないと気を利かした先生が私をクラス委員にしたからだった。
ウェンディ様は当時、クラス委員に決まっていた男子に恋をしていたので、私が望んだわけでもないのに邪魔者扱いされてしまったのだ。
当時の私はクラス委員になりたくなくて辞退しようとしたが許されず、その日から、私は何かと彼女の目の敵にされている。
公爵令嬢なんだから、権力を使ってクラス委員になれば良かったのに、それをしないのは親の前では良い子でいなければならなかったからだ。
この時の私は、彼女から逃れられたことに安堵していて、彼女がやって来た、私にとって進行方向右側には、王族のプライベートルームしかないことに気がついていなかった。
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パーティー当日、フォークス様から今日はエスコートできないから欠席してくれても良いと言われた。パーティーの主役だからエスコートできないだけだと思った私は、婚約者の誕生日を祝わないわけにはいかないと出席することに決めた。
婚約者になってからのフォークス様はとても優しく、私を大事にしてくれていたから余計に、そんなポジティブな考えになっていた。
彼の瞳の色の青いドレスを着て、家族でパーティー会場に入場してすぐ、ウェンディ様の取り巻きが私を見て、くすくす笑っていることに気がついた。
人の顔を見て笑うなんて失礼な人たちね。そんな人たちに悲しい顔を見せる必要はないわ。
余裕の笑みを浮かべて軽く一礼すると、取り巻きたちは扇で顔を隠して背を向けた。
呪いが発動するのは今日からだが、私がすることは変わらない。ただ、フォークス様を愛するだけ。
そう気合いを入れ直した時、まだ、開演時間ではないのにフォークス様が会場に現れた。
白いタキシードを着たフォークス様はいつもよりもカッコ良く見えて頬が緩んだ瞬間、彼の後ろに立っている人物に気がついた。
青色のドレスを着たウェンディ様は私と目が合うと、フォークス様に声をかけて、私を指差した。
「フォークス様?」
近づいてきた彼に笑顔で駆け寄ろうとすると、フォークス様は私に向かって手を突き出した。
「近づかないでくれ」
「……どういうことです?」
驚いて立ち止まると、ウェンディ様はフォークス様の腕に自分の手を絡ませた。彼はそれを振り払うこともせず、眉尻を下げる。
「ララティア、君には本当に申し訳ないと思っている」
「……え?」
驚く私を、フォークス様は冷たい目で見つめる。
「私にはもう君は必要ない。今日、この場で君との婚約を破棄し、私は運命の人と結婚する」
そう言って、フォークス様はすでに自分の名を書いた婚約破棄の同意書を差し出してきたのだった。
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