無償の愛を捧げる人と運命の人は、必ずしも同じではないのです

風見ゆうみ

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8  『無償の愛』を捧げ続けることができない公爵令嬢(フォークスとウェンディの話)

「どうして……! どうしてこんなことになったんだ!?」
 
 服を着たフォークスは、気を抜くと動き始めてしまう複数の足に怯えながらウェンディに訴えた。

「わ、わかりません! 私のフォークス様への無償の愛は……」
  
 『無償の愛』は変わらないと言ってしまえば、どうして呪いが発動してしまったのかと責められるに違いない。そう考えたウェンディは言葉を止めて、間を置いてから答える。

「ここ最近、フォークス様がララティアさんの話ばかりしておられるので、ヤキモチを焼いてしまっていました。そのせいで、無償の愛を捧げられなくなっているのかもしれません。本当に申し訳ございません!」
「……無償の愛を捧げなければならないのに、私を独占したいと思ってしまったということか?」
「そ、そうなんです。私は本当に最低な人間です!」

 ウェンディは自分が泣きたいと思えば、十秒ほどあれば涙を出すことができる。ぽろぽろと涙を流す彼女を見たフォークスは彼女を抱きしめた。

「わかった。泣かないでくれ。お前を責めたりしない。それに、もう、ララティアの話はしない。だから、安心して私に無償の愛を捧げてくれないか」
「うっ、うっ、そんなに、簡単には切り替えができなくて」
「どうしてだ?」
「フォークス様の服が……っ」

 横腹から脇にかけて揺れている服を指さして、ウェンディは訴える。

「私は虫が、虫が苦手なのです! その動く足をどうにかできませんか!」
「どうにかと言っても無理だ! この状態になったのは君のせいだろう!」
「いいえ! フォークス様が私を不安にさせたからです!」

 フォークスにしてみれば、ウェンディの言い分は決して納得できるものではない。だが、ここで彼女を責め立てるのも、自分にとって良くない結果になると考えた。

「父上がララティアに私のことを愛し続けるようにと言っていた意味が、やっとわかった気がする」

 ため息を吐いて呟くと、ウェンディが反応する。

「フォークス様、酷いです! ララティア様の話はしないとおっしゃったばかりなのに!」
「わ、悪かった。でも、ウェンディ、私は君の運命の人なんだ。そのことを信じて私を愛してくれればいいだろう」
「……承知いたしました」

 運命の人だと教えてくれたのは、ウェンディの父であるデーニー公爵が信用している魔法使いだ。そんな嘘をつく理由がないと思ったため、今までは自分たちが『運命の人』であると信じて疑わなかった。

(まさか、ウェンディは私の運命の人じゃないというのか?)

 フォークスが不安になった時、今まで感じていた体の違和感が急になくなった。服を脱いで確認してみると、見るのも嫌だった複数の足は消えてなくなっていた。

「や、やった! ありがとう、ウェンディ!」
「当然のことですわ」

 フォークスに改めて抱きしめられたウェンディは、彼の胸の中で安堵のため息を吐いた。

 ウェンディの心を惑わせるララティアは、もう近くにいない。これで安心して暮らしていくことができる。そう思ったフォークスだったが、ララティアとアーサーの婚約が大々的に発表された日、再度、彼の体に複数の足が出始めたのだった。

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