【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

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3   レティシアの恋

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 レティシア様は、何とか両親を説得した様で、自らが夜会に出席し、レイブンと出会い、そして、彼女は彼の事を一晩で好きになってしまった様だった。

「どうして、あんな素敵な方を隠していたの!」

 レティシア様は夜会から帰ってくるなり、その足で私の部屋まで来て、そう言うと、私の頬を叩いた。

 今まで、殴ったり、叩いたりするのは禁止されていたのに、レティシア様がそんな事を気にせずに叩いたのには、彼女なりの理由があった。

「あんなに素敵な人だったなんて…! あんたなんてもう用無しよ! これからは、レイブン様と会う時は、全てわたくしが行きますから!」
「…どういう、意味ですか」

 ジンジンする頬をおさえながら尋ねると、レティシア様は声を上げて笑う。

「キャハハ。何、その顔。悔しい? 悔しいわよねえ? 隠してた大事なものを取られちゃいそうだものねぇ? キャハハ! でも、その顔を見ると、余計に嬉しくなっちゃうわ!」
「……」

 何も言わずに彼女を見つめると、声を上げて笑うのは止めて、にんまりと意地の悪い笑みを浮かべる。

「さっきも言ったけれど、わたくしがこれからは、レイブン様に会いに行くわ。わたくしの身代わりなんて必要なくなったの。だから、下婢、あなたは用無しって事」
「公爵閣下はお許しになられるんですか? 元々は、大魔道士の息子であるレイブン様とあなたを近付けさせない為に、私をここに連れてきたんですよ?」
「そんなの何とかするに決まってるじゃない。今回だって何とかなったんだから、下婢が心配する様な事じゃないわ。魔道士にも例外がいるって事を、お父様達に教えて差し上げればいいんだから」

 レティシア様はキャハハと笑った後、何も言えないでいる私を一瞥してから、部屋を出ていった。

 外側から鍵が締められる音がして、私はへなへなと、冷たい床に座り込んだ。

 ……レイブンは気付いてくれなかったの…?
 魔力の流れが、レティシア様と私では違うはずだから、気付いてくれると思っていたのに…。
 それに、ネックレスをしていない事にだって気付いたはず。
 なのに、どうして…?
 どうして、何も言わなかったの?

 そこまで考えて、気が付いた。

 レイブンは気が付かなかったんじゃなくて、レティシア様を選んだのかもしれない…。
 私が勝手に、レイブンは私の事を好きでいてくれているのだと、勘違いしていただけなのかもしれない。
 
 でも、本当はそうじゃなかった。
 彼は、公爵令嬢である、レティシアであれば、誰でも良かった?
 
 ううん。
 彼はそんな人じゃない。
 きっと、嘘をついていた私に怒ったんだわ。
 大事な形見を渡してしまった事を、とても悔やんでるに違いない。

 もっと早くに、素直に彼に真実を話していれば良かった?
 それとも、何があっても、彼からネックレスは受け取るべきじゃなかった?

 もうレイブンに会えないのなら、ネックレスをレティシア様に渡さないと…。

 ベッドに倒れ込み、その日は、これから自分の身がどうなるかわからないという不安と、レイブンともう二度と会えない事が悲しくて、こんな事になるくらいなら、自分から打ち明ければ良かったという事を悔やんで、夜遅くまで泣いた。

 結局、レイブンとの次の約束の日も、レティシア様が行く事になり、私はレイブンから預かっていたネックレスを彼女に渡そうとしたけれど「そんなダサいネックレスはいらない」と投げ返されてしまい、ネックレスは私の手元に残る事になってしまった。

 きっと、レイブンがいつかはこのネックレスの事を口にするはず。
 その時に返せばいいわよね?

 ネックレスの石を握りしめて、そう考えていると、まるで返事をする様に、石がキラキラと光った気がした。




 それから、数日後の事、なぜかレイブンが、急遽、屋敷に来る事になったと、部屋にやって来たヘーベル公爵から聞かされた。
 こんな事は今までになかったから驚きだった。
 いつもは、私を迎えに来てくれた後は、どこかに出かける事が多く、家に来たいだなんて言われた事がなかったから。

 よっぽど、レティシア様の事を気に入ったのかもしれない。
 そんな事を考えていると、今度はレティシア様が部屋にやって来た。

「あんたはもういらないわ」
「……え?」
「今日はレイブン様が来るの。私に正式にプロポーズして下さるはずよ。あんたは、もう用済み。ほら、この子を連れて行って!」

 レティシア様はそう言うと、部屋の中に騎士を二人、呼び込んだ。

「私をどうするつもりなんですか!?」
「心配しないで。せめてもの情けで売り飛ばしたりはしないわ。治安の悪い場所に放り出すだけよ」

 キャハハと笑ってから、レティ様は続ける。

「天罰が下ったと思って諦めるのね。下婢のくせに、レイブン様を隠したりなんかするから。ああ、彼は私に本当に夢中なのよ! もっと早くにお会いしてさしあげるべきだったわ!」
「隠したりなんかしていません! それに、こんな事になるなら、あなたが最初から会えばよかったのに!」
 
 叫ぶと、騎士が私の腕をつかんだ。

「はなして!」
「大人しくしろ! レティシア様、言われた場所に捨ててくれば良いのですね?」
「ええ、そうよ。早くして」
「絶対に許さないから…!」

 騎士に両腕をつかまれ、彼女の前を通り過ぎる際、睨みつけながら言うと、レティシア様は笑う。

「キャハハ。何を怒ってるの? 今まで、この部屋で幸せに暮らしていれただけマシでしょ」
「幸せなんかじゃなかった!」

 レイブンと一緒にいた時は幸せだった。
 それは嘘じゃない。
 だけど、本当なら、今頃は本当の家族とそれなりの幸せをつかんでいるはずだった!
 貴族のマナーだなんて知りたくもなかったのに!

「そうよね。だって、あんた、実の両親にも捨てられてるもんねぇ」
「…どういう事ですか」
「知らないようだから教えてあげる! お父様はあんたを拉致させた後、騒ぎにならない様に、あんたの家に大金を送りつけたの。この金をあげるから、子供の事は諦めろって。そうしたら騒ぎ立てなかったそうよ! 警察には相談しないし、あんたの兄が騒いでも、それを止めさせていたらしいわ! あんたは人生で二度も捨てられるの! 何でかわかる!? それくらいの価値しかないから! キャハハハハ!」
「あなたなんかにそんな事を言われたくない。嫌な事はせずに、好きな事だけして、苦労もせずに生きてるあなたなんかに!」
「うるさぁい。早く捨てて来て!」

 レティシア様は私の顔を扇で叩くと、騎士に叫んだ。

「はなしてよ!」
「大人しくしろ!」
「嫌よ、はなして!」

 せめて、一発くらい、彼女の頬を殴りたい!

 そんな考えが頭に浮かんだ時、私のお腹に騎士の拳が入った。
 
 ゲホゲホと咳き込み、抵抗できなくなっている内に、私は騎士の肩に担ぎ上げられ、裏口から屋敷の外に運ばれると、待たせていた馬車の中に放り込まれたのだった。


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