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5 迎えに来た男
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結局、着ていた服や靴、ちょうどつけていた、レイブンから預かっていたネックレスだけは取り上げられなかったけれど、それ以外は何も持たされずに、私は見知らぬ地に放り出された。
浮浪者らしきボロボロの服を着た、たくさんの人達が、道の両端に並んで座っていて、その中には小さな子供の姿もあった。
私の着ている服はベージュのワンピースで地味な色合いだから、貴族だとは思われないだろうけれど、大して服が汚れてはいないから、ここにいると目立ちそうな気がした。
人相の悪い人もたくさんいるし、悪い奴らに捕まれば、奴隷として売り飛ばされるかもしれない。
そんな恐怖を感じながら、どこか、安全な場所を探そうと歩き始めてすぐに、案の定、ガラの悪そうな男達に囲まれた。
「おい、姉ちゃん。見ない顔だな」
「……今、ここに来たばかりなの。あなた達の縄張りに勝手に入ったのなら謝るわ。すぐに出ていくから」
「そう焦りなさんなって。可愛い顔してるし、いい店を紹介してやるよ」
「結構よ」
こういう時に、私でも使える魔法をレイブンに教えてもらったのを思い出した。
今こそ、魔法を使うべきなの?
不安と恐怖からか、無意識に私はレイブンから預かっているネックレスの石の部分を握りしめていた。
すると、それに気が付いた男の一人が、私の手ごと、赤い石を掴んだ。
「おい、隠してないで見せろ」
「やめてよ!」
「いいから、見せろってんだ!」
男に手をはがされ、ルビーの様な色の石が、男達の目にしっかりと認識された。
そして、一人の男が、その石に触れた。
「これ、珍しそうだし、高値で売れるんじゃねぇか」
触れた男が、仲間の方を見ながら、そう言った時だった。
石に触れていた男の手が突然、燃え上がった。
「うわあああああ」
情けない声を上げて、男は私から離れ、手を振り回す。
「何で!? 何で火が!?」
「うわっ! こっちに来るな!」
男が手を振り回した為、火の粉が飛び、周りにいた他の男達に燃え移っていくけれど、近くにある樽や木の家には一向に燃え移る気配はない。
もしかして、これ、レイブンとシブン様の魔法なの?
『この石は、俺が近くにいなくても、お前を守ってくれるから』
レイブンの言葉が頭の中に浮かんだ。
だけど、彼にとって、私はもう、どうでも良い人間のはず。
それなのに、魔法が発動するなんて。
持っている人間であれば、誰でも守ってくれるの?
男達は近くにあったバケツに入っていた水をかぶって、火を消そうとしたけれど、魔法の火は消えない。
私は、十分、男達から間合いを取ったところで、石に触れて、震える声で言った。
「もういいわ。ありがとう」
呟くと、火は一瞬にして消え去った。
男達は一瞬、ホッとしたようだったけど、今度は火傷の痛みが襲ってきたのか、その場で泣き叫び始めた。
気の毒だとは思うけれど、向こうが悪いし、こっちも他人の事を気にしていられる場合ではない。
とにかく、少しでも安全な場所を探さなくちゃ。
そう思って、走り出した。
走る私に色んな人が声を掛けてくるけれど、今は誰も信じちゃ駄目。
甘い言葉にのったら、どうなるかわからない。
幸い、先程、馬車に乗せられた時は、目隠しをされる事もなかったから、どちらの方面から来たかはわかっている。
だから、せめて治安の良い場所に出ようと、人の多い通りを、人になるべくぶつからない様にしながら、馬車で通った道を早足で歩く。
時刻は昼を過ぎた頃だろうか。
人が多くて歩きにくいけれど、暗くなるまでには何とか抜け出せそうな気はしてきた。
そんな時、前方から馬車が走ってくるのが見えた。
見覚えのある馬車だった為、人混みにまぎれて身を隠す。
たまたま、乗っていた相手が窓から外を覗いていたのでわかったけれど、乗っていたのはレティシア様の兄、フォーウッド様だった。
どうして、彼がこんな所にやって来たのかわからない。
もしかして、私を探している?
私をいやらしい目で見てくる、彼の顔を思い出すと、怖気立つ。
彼に捕まっても、ろくな目に合わない気がした。
馬車は停まる様子がないので、私に気付いていないようだった。
もしくは、私を探しているんじゃなければいいと、無意識に赤い石を握りしめていた。
日が傾き始める頃、やっと私は、比較的、治安の良い場所に出た。
たどり着いた頃にはクタクタだったけれど、休めそうな広場を見つけ、その中央にあった噴水に近付くと、誰もが自由に飲める水飲み場があったので、そこで喉を潤した。
噴水の近くにあったベンチに座り、大きく息を吐く。
やっと一息つけた。
けれど、ここだって完全に安全なわけでもない。
何より、お金がないから食べる物も買えない。
住み込みで働かせてくれる所があればいいけれど、それが難しければ、せめて賄いがある飲食店で働くしかない。
少し休憩したら、仕事を探しに行こう。
私はまだ18歳じゃないし、身分を証明するものは何もない。
身元保証人がいない人を受け入れてくれる所があるか不明だけど、何か食べないと、餓死してしまう。
そう思い、痛むふくらはぎを手でもみながら、もう少ししたら動こうと思っていた時だった。
「見つけた」
嬉しそうな声が聞こえた。
そして、そんな声とは逆に、私は背筋が凍りついた気がした。
「探してたんだよ、レティア。怖がらなくていい。さぁ、僕と一緒に行こう」
私の目の前に現れたのは、狂気にも見える笑みを浮かべた、フォーウッド様だった。
浮浪者らしきボロボロの服を着た、たくさんの人達が、道の両端に並んで座っていて、その中には小さな子供の姿もあった。
私の着ている服はベージュのワンピースで地味な色合いだから、貴族だとは思われないだろうけれど、大して服が汚れてはいないから、ここにいると目立ちそうな気がした。
人相の悪い人もたくさんいるし、悪い奴らに捕まれば、奴隷として売り飛ばされるかもしれない。
そんな恐怖を感じながら、どこか、安全な場所を探そうと歩き始めてすぐに、案の定、ガラの悪そうな男達に囲まれた。
「おい、姉ちゃん。見ない顔だな」
「……今、ここに来たばかりなの。あなた達の縄張りに勝手に入ったのなら謝るわ。すぐに出ていくから」
「そう焦りなさんなって。可愛い顔してるし、いい店を紹介してやるよ」
「結構よ」
こういう時に、私でも使える魔法をレイブンに教えてもらったのを思い出した。
今こそ、魔法を使うべきなの?
不安と恐怖からか、無意識に私はレイブンから預かっているネックレスの石の部分を握りしめていた。
すると、それに気が付いた男の一人が、私の手ごと、赤い石を掴んだ。
「おい、隠してないで見せろ」
「やめてよ!」
「いいから、見せろってんだ!」
男に手をはがされ、ルビーの様な色の石が、男達の目にしっかりと認識された。
そして、一人の男が、その石に触れた。
「これ、珍しそうだし、高値で売れるんじゃねぇか」
触れた男が、仲間の方を見ながら、そう言った時だった。
石に触れていた男の手が突然、燃え上がった。
「うわあああああ」
情けない声を上げて、男は私から離れ、手を振り回す。
「何で!? 何で火が!?」
「うわっ! こっちに来るな!」
男が手を振り回した為、火の粉が飛び、周りにいた他の男達に燃え移っていくけれど、近くにある樽や木の家には一向に燃え移る気配はない。
もしかして、これ、レイブンとシブン様の魔法なの?
『この石は、俺が近くにいなくても、お前を守ってくれるから』
レイブンの言葉が頭の中に浮かんだ。
だけど、彼にとって、私はもう、どうでも良い人間のはず。
それなのに、魔法が発動するなんて。
持っている人間であれば、誰でも守ってくれるの?
男達は近くにあったバケツに入っていた水をかぶって、火を消そうとしたけれど、魔法の火は消えない。
私は、十分、男達から間合いを取ったところで、石に触れて、震える声で言った。
「もういいわ。ありがとう」
呟くと、火は一瞬にして消え去った。
男達は一瞬、ホッとしたようだったけど、今度は火傷の痛みが襲ってきたのか、その場で泣き叫び始めた。
気の毒だとは思うけれど、向こうが悪いし、こっちも他人の事を気にしていられる場合ではない。
とにかく、少しでも安全な場所を探さなくちゃ。
そう思って、走り出した。
走る私に色んな人が声を掛けてくるけれど、今は誰も信じちゃ駄目。
甘い言葉にのったら、どうなるかわからない。
幸い、先程、馬車に乗せられた時は、目隠しをされる事もなかったから、どちらの方面から来たかはわかっている。
だから、せめて治安の良い場所に出ようと、人の多い通りを、人になるべくぶつからない様にしながら、馬車で通った道を早足で歩く。
時刻は昼を過ぎた頃だろうか。
人が多くて歩きにくいけれど、暗くなるまでには何とか抜け出せそうな気はしてきた。
そんな時、前方から馬車が走ってくるのが見えた。
見覚えのある馬車だった為、人混みにまぎれて身を隠す。
たまたま、乗っていた相手が窓から外を覗いていたのでわかったけれど、乗っていたのはレティシア様の兄、フォーウッド様だった。
どうして、彼がこんな所にやって来たのかわからない。
もしかして、私を探している?
私をいやらしい目で見てくる、彼の顔を思い出すと、怖気立つ。
彼に捕まっても、ろくな目に合わない気がした。
馬車は停まる様子がないので、私に気付いていないようだった。
もしくは、私を探しているんじゃなければいいと、無意識に赤い石を握りしめていた。
日が傾き始める頃、やっと私は、比較的、治安の良い場所に出た。
たどり着いた頃にはクタクタだったけれど、休めそうな広場を見つけ、その中央にあった噴水に近付くと、誰もが自由に飲める水飲み場があったので、そこで喉を潤した。
噴水の近くにあったベンチに座り、大きく息を吐く。
やっと一息つけた。
けれど、ここだって完全に安全なわけでもない。
何より、お金がないから食べる物も買えない。
住み込みで働かせてくれる所があればいいけれど、それが難しければ、せめて賄いがある飲食店で働くしかない。
少し休憩したら、仕事を探しに行こう。
私はまだ18歳じゃないし、身分を証明するものは何もない。
身元保証人がいない人を受け入れてくれる所があるか不明だけど、何か食べないと、餓死してしまう。
そう思い、痛むふくらはぎを手でもみながら、もう少ししたら動こうと思っていた時だった。
「見つけた」
嬉しそうな声が聞こえた。
そして、そんな声とは逆に、私は背筋が凍りついた気がした。
「探してたんだよ、レティア。怖がらなくていい。さぁ、僕と一緒に行こう」
私の目の前に現れたのは、狂気にも見える笑みを浮かべた、フォーウッド様だった。
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