【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

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12 予想していなかった手続き

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 ダウンしているレイブンをメイド達に任せて、私はアメリアに案内され、私の部屋として用意してもらった客室で普段着に着替えてから、シブン様の部屋に向かった。

「シブン様。改めましてお礼を申し上げます。助けていただき、本当にありがとうございました」
「そんな事は気にしなくていい。当たり前の事をしただけだ」

「でも、こうして家に置いていただいているだけじゃなく、追われている時も魔法で助けて下さいました。当たり前以上の事をしていただいていると思います」

「それに関しては気にするな。守りたい人を守れない方が辛い。それに、そのネックレスに魔法をかけるのも、そう大変な事じゃなかったから。レティアが無事なら、それでいいんだ」
「ですが…」

 首につけていたネックレスの赤い石に触れて、私が何か言う前に、シブン様が口を開く。

「…どうしても気にするというのなら、この家にいる間は素直に感情を見せてくれ。俺はただ、君があの家の本当の娘じゃないと知っていながら、知らないふりをしていた事に対しての罪滅ぼしをしたいだけだから」
「罪滅ぼしだなんて…!」

 私が言うと、シブン様は苦笑する。

「このままだと堂々巡りになりそうだから、違う話にしようか」
「…そうですね。でも、ありがとうございます。それから、もし、どうしてもシブン様が罪滅ぼしだとおっしゃるのであれば、今回の件で、罪は帳消しにして下さい」
「…レティアは良い奴だな」
「シブン様達が優しくしてくださったからです」

 笑顔で言うと、シブン様はどこかレイブンを思い出させる、優しい笑みを見せてくれた。
 けれど、すぐに真剣な表情になって、シブン様は口を開く。

「レティアをこのまま家に置いて、18歳になったら、レイブンと結婚をさせようと思っていたんだが、そうもいかなくなりそうだ」
「どういう事でしょうか?」

「ヘーベル公爵家も馬鹿じゃない。近い内に、レティアが俺達に保護されている事を知る事になるだろう。そうなったら、引き渡しを求めてくる可能性がある」
「…どういう事ですか? ヘーベル公爵にそんな権利はないはずでは?」
「その事なんだが、君は、公爵家の養女になっている」

 シブン様の言葉を聞いて、一瞬、頭が真っ白になった。
 私の動揺をわかってくださったのか、シブン様は私が次に口を開くまで、しばらく黙って待っていてくれた。
 そして、私も時間が経った事により、少しだけ冷静になって、口を開く。

「…私が、ヘーベル公爵家の娘という扱いになっているんですか?」

 どうしても信じられなくて聞き返すと、シブン様は難しい顔で頷く。

「君の本当の両親の承諾はないが、君は正式にヘーベル公爵家の次女という事になっている。しかも、十年以上も前の話だ」
「……ヘーベル公爵の独断でしょうか?」

「かもしれないが、まだわからない。自分で養女にしていたのなら、俺達が行った時に何も言わなかったのはおかしく感じる。レティアを養女にした事を誰にも知られたくなくて言わなかっただけなのか、誰かが勝手に動いたから、ヘーベル公爵は知らないだけなのか…」
「でも、どうして私を養女に…?」
「今回の様な事が起こった時の為だろう」

 意味が分からなくて、無言でシブン様を見つめると答えてくれる。

「こちら側が約束を破ったと怒った場合、養女にしているから、自分の家の娘であると言い返せるだろう?」
「それはそうかもしれませんが、その場合、どうして隠していたんだと言われませんか?」
「そうなんだ。だから、ヘーベル公爵が手続きしたんじゃないかもしれない…」
「勝手に手続きをした人がいるという事ですか?」
「その可能性があるな。金を渡せば不正がまかり通る世の中だから」

 シブン様は頷いてから続ける。

「レティアがここにいるとわかれば、奴らは君が俺達に誘拐されたと言い出すかもしれない」
「そんな…!」
「だから、レティア、君には悪いが、北の地に戻ってもらわないといけなくなるかもしれない。もちろん、ヘーベル公爵家には戻らなくていい」

「これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいきませんから、今すぐに出ていきます。今まで、ありがとうございました」
「レティア、結論が早すぎる。君をいきなり放り出すわけがないだろ。何より、レイブンの妻になってくれるんだろ?」

 シブン様に聞かれ、迷いながらも正直な気持ちを伝える。

「昔はそうなれたら良いなと思っていました。ですが、和平の為には、レティシア様が結婚しないといけないですよね?」
「レティア、和平の条件は、公爵家の娘を差し出す事だろ? レティシアじゃなくて良い。その事について、今までは、どうしようか考えていたけど、君は公爵家の人間なんだから、条件にあてはまるんだ。だから、公爵夫妻は不本意かもしれないが、君を養女のままにしておくはずだ」
「あの…、シブン様…」
「どうした?」

 前々から気になっていた事があり、それを口に出してみようか迷う。
 もし、本当の話だとしたら…。

「言いにくい事か? それとも、知りたいけど、知りたくない事か?」
「……はい」
「本当の家族の話か…?」
「……はい」

 聞くのが怖いけれど、聞けるなら今しかない気がして、シブン様を見つめて尋ねる。

「私の家族は今、どうしていますか? 本当に私を売ったのですか?」
「……その話だが、売ったという言い方は、間違っている…」
「どういう事ですか?」
「まだ、詳しく調べきれていないんだ。当時の事を知る人が少なくてな。しかも、君の家族は夜逃げした事になっている」
「夜逃げ…?」

 聞き返すと、シブン様は首を縦に振る。

「子供が一人いなくなったんだから、少ないながらも、はっきりと当時の事を覚えてくれている人はいたんだ。その人が言うには、レティアの家族は、お前の事を仕事を休んで探していたらしい。お前が帰ってきた時に家に誰もいなくては困るから、兄も学校を休ませて、家で待たせていたらしい」
「……」

 無言で会話の続きを促すと、シブン様は続けてくれる。

「そんなある日、身なりの良い人物がやって来て、レティアの家に入っていったけれど、すぐに両親がその男を追い出したらしい。どうしてそこまで詳しく知ってるのかと聞いたら、暇だったから、様子を見ていたっていうから驚いた。そんなに暇なら、自分もレティアを探してやるべきだろう、と思うが、今回に関しては良かった事にする。で、その次の日の朝には、君の家族の姿は消えていた」

「…私の家族は、生きているんでしょうか」
「それがわからない。ただ、生きる為に逃げたのではないかと思う。後は、ヘーベル公爵家が追っ手を出したかにもよるな」
「追っ手を出されていたら、口封じに殺されたかもしれないという事ですか?」
「レティア…」

 シブン様は柔らかい声で、私の名を読んだ後に続ける。

「俺は君の家族は生きてると思ってる。きっとレティアの幸せを願って、どこかで暮らしているはずだ」
「…ありがとうございます、シブン様」

 絶望的な気がしたけれど、死んでしまったかどうかは、実際はわからない。
 どこかで幸せに暮らしてくれていればそれでいい。

 そう思って、涙がこぼれない様に気持ちを切り替える。

「私は、これからどうしたら良いんでしょうか。今の状態では、この家にいると、ご迷惑になりますよね?」
「そうだな。迷惑というわけではないが、さっきも言った通り、親権を利用してくる恐れがある。もちろん、ヘーベル公爵夫妻は、レティアがこの家で18歳になり、レイブンと結婚してしまえばそれでいいかもしれないが、世間体があるから、可愛い娘を返してほしいなどと、ふざけた事を言い出すかもしれない」

「そうなった時に、シブン様達が悪く言われてしまいますよね…」
「それから、一番の問題が、南と北の行き来は、以前と比べて楽にはなっているが、まだ、通行証が必要だ。今の段階では、君は北から不正をして出た事になる」

 そう言われてみればそうだけれど、今まで、レイブンが転移魔法で南に連れて行ってくれた時は大丈夫だったのかしら?

 疑問が顔に出ていたのか、シブン様が答えてくれる。

「今までは、通行証の手配は一応していたし、気にしなくて大丈夫だったんだ」
「そうだったんですね…」
「君には、18歳になるまで、北の地で新しい生活を送ってもらおうと思っている。18歳にならないと、親の許可なしでは結婚ができないからな。だが、まずは、相手側の様子を見てからにする」

「どういう事ですか?」
「向こうがレティアを返せと言ってこなければ、このまま、レティアはこの家で暮らせる。ただ、返せと言われたら、あのヘーベル公爵家に返さないといけない」

 頭がこんがらがってきそう。
 まとめると、私は現在は通行証が必要なところを、不正をして南側に入ってしまっている。

 それから、もし、それが許されたとしても、ヘーベル公爵家が私を家に戻せと言ってくる可能性がある。

 これに関しては、可能性であって、まだわからない。
 
 私がニーソン家にいる事がバレたら、ヘーベル家が何を言ってくるかわからない。
 そのままでいいよ、と言ってくれたらいいけど、返せと言われて返さなかったら、ニーソン家が悪者になる。

 だから、何か言われる前に、私はニーソン家とは無関係という事にして、北の地に戻った方がいいという事。
 こんな感じよね?

「とにかく、この何日かは大丈夫だろうから、家でゆっくりしてくれ。それまでに、彼らの考えを調べておく」
「……ありがとうございます」

 頭を下げると、シブン様は立ち上がり、大きな手で頭を撫でてくれた。

「今まで、よく耐えたな。頑張ってくれてありがとう」

 シブン様の言葉に、涙があふれてきて、しばらく、顔を上げる事が出来なかった。

 
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