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13 止まらない笑い(レティシアside)
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「あの女が、私の妹になっているというんですか!?」
レティアが公爵家の養女になっていると聞いたレティシアは、ソファーから立ち上がって叫んだ。
「一体、どういう事なの、メーゼス!」
ヘーベル公爵の妻であるメーナも知らなかった様で、震える声で夫に問うと、ヘーベル公爵は首を横に振る。
「ベーゼフが、勝手に手続きをしていたらしい」
「ベーゼフが!?」
べーゼフというのは、ヘーベル公爵家のバトラーの名だった。
公爵家の中の事は、彼が取り仕切っており、ヘーベル公爵自身も彼を信用しており、好きな様にやらせていたという自覚はあった。
「べーゼフが言うには、レティアをレティシアの身代わりにしている事がバレても、公爵家の娘である事にかわりはないという逃げ道を作っていた様だ。それに関しては、感謝している」
「あなた!」
メーナが夫を責める様な厳しい声を上げたが、ヘーベル公爵は妻に向かって諭す様に言う。
「王家にこの事をバラすとニーソン家に脅されていたが、我が家の娘であるなら騙した事にはならない。レティアを連れてきた事について深く突っ込まれると面倒だが、レティアの家族は失踪しているから調べようがないはずだ」
「失踪!? あの女の家族は、あの女を売ったんじゃなかったんですか!?」
レティシアの言葉に、ヘーベル公爵は首を横に振る。
「これもべーゼフに任せていたんだが、彼らは和解金を受け取らなかったらしい。そして、次の日にべーゼフが家に行くと、大事なものだけ持って夜逃げした様だった」
(夜逃げですって!? でも、家族に捨てられた事は間違いないわね。ざまぁみろだわ)
レティシアはレティアが少しでも不幸だと感じると喜びを覚える様な人間だった。
大声で笑いたかったが、その様な場面ではない事に、さすがに気付いた為、必死に笑いをこらえた。
「失踪した事で、ベーゼフはレティアの両親が子供を捨てたと役所に報告し、養女にした様だ」
「そんな事をバトラーがするだなんて! クビにしても良いくらいだわ!」
「だが、今回ばかりはそれで助かりそうなんだ!」
ヘーベル公爵は非難してくる妻に叫んだ後、レティシアに向かって言う。
「レティアが戻ってきたら、レイブンとの婚約を進める。レティシア、お前にはもっと良い男を見つけてやるから、今回は諦めなさい」
「嫌です!」
「レティシア、魔道士と結婚なんてするものじゃないわよ! 不幸になるだけだわ!」
メーナがレティシアの手を取り叫んだが、レティシアはその手を振り払って言う。
「レイブン様は私の婚約者なんです! それをあんな女に盗られるなんて!」
(絶対に、あんな女に負けるもんですか! 私は生まれた時から勝ち組なのよ。私が我慢するなんてありえないわ! どうしたら、あの女じゃなく、私がレイブン様の妻になれるの!?)
ちらりと、レティシアは黙ったままの兄の方を見た。
フォーウッドは難しい顔をして下を向いていたので、彼も何か良い案を探しているのだろうと、レティシアは考え、とにかく父に訴える。
「お父様、お母様、お願いです! 私とレイブン様の結婚をお許し下さい!」
「許すも何も、あの男はレティシアではなく、レティアが良いと言っているんだ。そんな、男の何が良いと言うんだ」
「そうよ、レティシア。あなたにはもっと良い人がいるわ」
メーナがレティシアの背を優しく撫でながら続ける。
「あなたはどんな男性が好みなの? 魔道士じゃなければ、平民でもかまわないわ」
「あの、父上、母上、少しお聞きしたいのですが」
フォーウッドが手を挙げると、メーナは口を閉じ、ヘーベル公爵は話を促す様に首を縦に振った。
「どうして、父上と母上はそんなに魔道士を嫌うのですか? レイブンは魔道士といっても、大魔道士の息子でしょう? しかも、財力もあります。レティシアを嫁がせても悪くないと思うのですが?」
(ありがとう、お兄様!)
レティシアは拍手をしたい気分だったが、我慢して、兄に問われた父と母を見る。
二人は困ったような表情で顔を見合わせただけで、答えようとはしなかった。
なぜなら、二人が魔道士を嫌っている理由があまりにもくだらないからだ。
理由は、それぞれが好きだった人にふられ、好きな人の好きな相手が魔道士だっただけである。
正直にそんな話をする事が出来ない為、二人は焦った表情で答える。
「過去に色々とあったんだ」
「そうよ。魔道士には野蛮な人間が多いのよ」
その時、ヘーベル夫妻を救うかの様なタイミングで、扉がノックされ、先程の話題の人物、ベーゼフがサービングカートを押したメイドと一緒に中に入ってきた。
メイドはお茶をいれると、すぐに出て行ったが、長身で眼鏡をかけた初老の男は、メイドが部屋から離れるのを廊下に出て見送った後、すぐに部屋に戻ってきた。
「レティアはまだ見つかりません。もしかすると、ニーソン家がすでに彼女を保護したかもしれません」
「何だって!?」
フォーウッドが立ち上がって叫んだ。
「旦那様がレティアを迎えに行かせた騎士が、たった一人の女性魔道士に倒されております。騎士から聞いた容姿と一致するだけで確実とは言いかねますが、本日来ていた、ニーソン家の護衛の一人で間違いないでしょう」
「という事は、もう、レティアを探さなくてもいいという事だな?」
ヘーベル公爵はホッとした様子でベーゼフに言ったが、レティシアが拒否する。
「レティアを返してもらいましょう!」
「何を言っているのよ、レティシア。このまま、彼らの元に置いておけばいいじゃないの」
「駄目です! そうしたら、レイブン様の妻はレティアになってしまうじゃないですか!」
「レティシア、いいかげんにしろ! あんな男の事は忘れるんだ!」
「嫌よ! 学園の皆に羨ましがられているのよ!? あんな女に奪われたなんて皆にバレたら笑いものにされるわ! 公爵家の令嬢がそんな事になってはいけないでしょう!?」
普通の人間が聞けば、苦しい理由かもしれないが、面子を大事にしているヘーベル公爵には効果があった。
「では、どうしたいんだ?」
「ですから、レティアを返してもらいましょう」
「そうです、父上。レティアは僕の妹なのでしょう? でしたら、妹が誘拐されたのに黙っていられません」
フォーウッドがレティシアの味方をする。
すると、ベーゼフが言う。
「王家に連絡しましょう。レティアが何の断りもなく、ニーソン家に連れ去られたと」
「そ、そうか。そうすれば良いのか! 陛下から証拠を見せろと言われたら、ニーソン家に立ち入り調査をすればいい。分断状態とはいえ、王家からの命令は断れないはずだ。何より、断るという事はやましい事があるという証拠だからな! そこで見つからなければ、南の地を全て探せばいい。大事なものだから必ず手元に置いておこうとするだろう。見つけ出せるはずだ」
「南の地に入ろうとすると、魔道士側から反発を受けるのでは?」
「だから言ったろう。レティアがいないのであれば何もやましい事なんてないのだから、見せる様に言えばいい。南の地で見つかれば、不法入国を斡旋したとして、奴らを責められる」
ベーゼフが頷いたのを確認すると、ヘーベル公爵はソファーから立ち上がる。
「あと3日程、レティアを探した後、陛下に謁見を求める事にする。これでもし、レティアが、あいつらの家から見つかれば、大魔道士の一人を罪人として潰せるんだ! レティシア、レイブンも罪人の息子になるから、処罰の対象になるかもしれない。そうなった時、あの男を奴隷として、お前にプレゼントしよう」
「奴隷でも何でもいいわ! 私のものになるなら!」
「では、父上、レティアは僕に下さい」
「ああ、好きな様にすればいい」
レティシアとフォーウッドの言葉に、ヘーベル公爵はご満悦といった調子で頷いた。
(やったわ! これでレイブン様は私の手に入る! しかも、レティアはお兄様のものになる。なんて、幸せなの!)
「キャハハハハ!」
レティシアは笑いがこらえきれなくなり、とうとう声に出して笑った。
そして、そんな会話が繰り広げられていた部屋の外では、小さな黒い犬が座っており、彼らの話題が違うものに切り替わったところで、眠らせていた見張りの騎士の意識を戻し、静かに立ち去ったのだった。
レティアが公爵家の養女になっていると聞いたレティシアは、ソファーから立ち上がって叫んだ。
「一体、どういう事なの、メーゼス!」
ヘーベル公爵の妻であるメーナも知らなかった様で、震える声で夫に問うと、ヘーベル公爵は首を横に振る。
「ベーゼフが、勝手に手続きをしていたらしい」
「ベーゼフが!?」
べーゼフというのは、ヘーベル公爵家のバトラーの名だった。
公爵家の中の事は、彼が取り仕切っており、ヘーベル公爵自身も彼を信用しており、好きな様にやらせていたという自覚はあった。
「べーゼフが言うには、レティアをレティシアの身代わりにしている事がバレても、公爵家の娘である事にかわりはないという逃げ道を作っていた様だ。それに関しては、感謝している」
「あなた!」
メーナが夫を責める様な厳しい声を上げたが、ヘーベル公爵は妻に向かって諭す様に言う。
「王家にこの事をバラすとニーソン家に脅されていたが、我が家の娘であるなら騙した事にはならない。レティアを連れてきた事について深く突っ込まれると面倒だが、レティアの家族は失踪しているから調べようがないはずだ」
「失踪!? あの女の家族は、あの女を売ったんじゃなかったんですか!?」
レティシアの言葉に、ヘーベル公爵は首を横に振る。
「これもべーゼフに任せていたんだが、彼らは和解金を受け取らなかったらしい。そして、次の日にべーゼフが家に行くと、大事なものだけ持って夜逃げした様だった」
(夜逃げですって!? でも、家族に捨てられた事は間違いないわね。ざまぁみろだわ)
レティシアはレティアが少しでも不幸だと感じると喜びを覚える様な人間だった。
大声で笑いたかったが、その様な場面ではない事に、さすがに気付いた為、必死に笑いをこらえた。
「失踪した事で、ベーゼフはレティアの両親が子供を捨てたと役所に報告し、養女にした様だ」
「そんな事をバトラーがするだなんて! クビにしても良いくらいだわ!」
「だが、今回ばかりはそれで助かりそうなんだ!」
ヘーベル公爵は非難してくる妻に叫んだ後、レティシアに向かって言う。
「レティアが戻ってきたら、レイブンとの婚約を進める。レティシア、お前にはもっと良い男を見つけてやるから、今回は諦めなさい」
「嫌です!」
「レティシア、魔道士と結婚なんてするものじゃないわよ! 不幸になるだけだわ!」
メーナがレティシアの手を取り叫んだが、レティシアはその手を振り払って言う。
「レイブン様は私の婚約者なんです! それをあんな女に盗られるなんて!」
(絶対に、あんな女に負けるもんですか! 私は生まれた時から勝ち組なのよ。私が我慢するなんてありえないわ! どうしたら、あの女じゃなく、私がレイブン様の妻になれるの!?)
ちらりと、レティシアは黙ったままの兄の方を見た。
フォーウッドは難しい顔をして下を向いていたので、彼も何か良い案を探しているのだろうと、レティシアは考え、とにかく父に訴える。
「お父様、お母様、お願いです! 私とレイブン様の結婚をお許し下さい!」
「許すも何も、あの男はレティシアではなく、レティアが良いと言っているんだ。そんな、男の何が良いと言うんだ」
「そうよ、レティシア。あなたにはもっと良い人がいるわ」
メーナがレティシアの背を優しく撫でながら続ける。
「あなたはどんな男性が好みなの? 魔道士じゃなければ、平民でもかまわないわ」
「あの、父上、母上、少しお聞きしたいのですが」
フォーウッドが手を挙げると、メーナは口を閉じ、ヘーベル公爵は話を促す様に首を縦に振った。
「どうして、父上と母上はそんなに魔道士を嫌うのですか? レイブンは魔道士といっても、大魔道士の息子でしょう? しかも、財力もあります。レティシアを嫁がせても悪くないと思うのですが?」
(ありがとう、お兄様!)
レティシアは拍手をしたい気分だったが、我慢して、兄に問われた父と母を見る。
二人は困ったような表情で顔を見合わせただけで、答えようとはしなかった。
なぜなら、二人が魔道士を嫌っている理由があまりにもくだらないからだ。
理由は、それぞれが好きだった人にふられ、好きな人の好きな相手が魔道士だっただけである。
正直にそんな話をする事が出来ない為、二人は焦った表情で答える。
「過去に色々とあったんだ」
「そうよ。魔道士には野蛮な人間が多いのよ」
その時、ヘーベル夫妻を救うかの様なタイミングで、扉がノックされ、先程の話題の人物、ベーゼフがサービングカートを押したメイドと一緒に中に入ってきた。
メイドはお茶をいれると、すぐに出て行ったが、長身で眼鏡をかけた初老の男は、メイドが部屋から離れるのを廊下に出て見送った後、すぐに部屋に戻ってきた。
「レティアはまだ見つかりません。もしかすると、ニーソン家がすでに彼女を保護したかもしれません」
「何だって!?」
フォーウッドが立ち上がって叫んだ。
「旦那様がレティアを迎えに行かせた騎士が、たった一人の女性魔道士に倒されております。騎士から聞いた容姿と一致するだけで確実とは言いかねますが、本日来ていた、ニーソン家の護衛の一人で間違いないでしょう」
「という事は、もう、レティアを探さなくてもいいという事だな?」
ヘーベル公爵はホッとした様子でベーゼフに言ったが、レティシアが拒否する。
「レティアを返してもらいましょう!」
「何を言っているのよ、レティシア。このまま、彼らの元に置いておけばいいじゃないの」
「駄目です! そうしたら、レイブン様の妻はレティアになってしまうじゃないですか!」
「レティシア、いいかげんにしろ! あんな男の事は忘れるんだ!」
「嫌よ! 学園の皆に羨ましがられているのよ!? あんな女に奪われたなんて皆にバレたら笑いものにされるわ! 公爵家の令嬢がそんな事になってはいけないでしょう!?」
普通の人間が聞けば、苦しい理由かもしれないが、面子を大事にしているヘーベル公爵には効果があった。
「では、どうしたいんだ?」
「ですから、レティアを返してもらいましょう」
「そうです、父上。レティアは僕の妹なのでしょう? でしたら、妹が誘拐されたのに黙っていられません」
フォーウッドがレティシアの味方をする。
すると、ベーゼフが言う。
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「そ、そうか。そうすれば良いのか! 陛下から証拠を見せろと言われたら、ニーソン家に立ち入り調査をすればいい。分断状態とはいえ、王家からの命令は断れないはずだ。何より、断るという事はやましい事があるという証拠だからな! そこで見つからなければ、南の地を全て探せばいい。大事なものだから必ず手元に置いておこうとするだろう。見つけ出せるはずだ」
「南の地に入ろうとすると、魔道士側から反発を受けるのでは?」
「だから言ったろう。レティアがいないのであれば何もやましい事なんてないのだから、見せる様に言えばいい。南の地で見つかれば、不法入国を斡旋したとして、奴らを責められる」
ベーゼフが頷いたのを確認すると、ヘーベル公爵はソファーから立ち上がる。
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「奴隷でも何でもいいわ! 私のものになるなら!」
「では、父上、レティアは僕に下さい」
「ああ、好きな様にすればいい」
レティシアとフォーウッドの言葉に、ヘーベル公爵はご満悦といった調子で頷いた。
(やったわ! これでレイブン様は私の手に入る! しかも、レティアはお兄様のものになる。なんて、幸せなの!)
「キャハハハハ!」
レティシアは笑いがこらえきれなくなり、とうとう声に出して笑った。
そして、そんな会話が繰り広げられていた部屋の外では、小さな黒い犬が座っており、彼らの話題が違うものに切り替わったところで、眠らせていた見張りの騎士の意識を戻し、静かに立ち去ったのだった。
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