【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

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14 これからの事

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 レイブンは動けはしないけれど、意識はあった。
 自業自得なところもあるけれど、私の為でもあったから、やっぱり、放っておく事も出来なくて、その日はレイブンの部屋で一緒に過ごした。
 もちろん、隣に寝てはいない。
 ただ、ベッドサイドに椅子を持ってきて座り、他愛もない会話をして、笑ったり、少しだけ怒ったりするだけだった。
 それでも、私にとっては、とても幸せな時間だった。

 午後にシブン様が私達の元にやって来て、わかった事と今後の事について簡単に話をしてくれた。

 ヘーベル家に魔道士の一人を潜入させていたらしく、その人からの報告が来たとの事だった。
 その人は転移魔法が使えない為、戻ってくるのが遅くなってしまい、こんな時間になってしまったと教えてくれた。

 そして、やはり、ヘーベル家は私を逃がすつもりではない様だった。

「レティア、北の地に家と仮の家族を用意する。君が元々住んでいた場所だと、すぐに奴らに特定されてしまう恐れがあるから、彼らの手が及びにくい、田舎町になるが、家には人がいるから、寂しくはないはずだ。それから、アメリアを連れて行ってもいい」
「という事は、ノースも連れて行ってもいいんですか?」

 アメリアが来るならノースも来たがるだろうと思って聞いてみると、シブン様は首を縦に振る。

「そうだな。レイブンの護衛が二人も一度に抜けるのは、あまり良くないだろうし、後任が見つかったら彼も君の元へ送ろう」

 シブン様は話し終えると「邪魔したな」と言って去っていった。

 別に邪魔されたなんて思っていないけれど、特に止める事はせずに、頭を軽く下げて見送った。

「しばらくまた、レイブンに会えなくなるのね」
「様子を見て、会いに行くから」
「待ってる」

 レイブンが手をのばしてきたので、その手を握りしめて頷いた。




 そして、次の日の朝、夜勤のアメリアに会いに、レイブンの部屋に向かった。
 
「おはよう、アメリア、ノース」

 レイブンの部屋の前にはアメリアとノースがいたので、二人に挨拶する。

「おはようございます、レティア様」
「はよー、レティア」
「ちょっと、ちゃんと挨拶しなさいよ!」

 アメリアに耳を引っ張られて、ノースが叫ぶ。

「いでででで!! 悪かったよ! おはようございます、レティア」
「別に、はよー、で良かったのに」

 私が笑うと、アメリアはつかんでいたノースの耳をはなした。
 部屋の前が騒がしかったからか、中から扉が開いて、寝癖が爆発しているレイブンが顔を出した。

 すると、アメリアとノースが挨拶をする。

「おはよう、エロ魔道士」
「おはようございます、エロレイブン様」
「おはよう。……お前ら、本当に仲が良いよな」

 ノースとアメリアの挨拶に、レイブンは半眼になって答えた後、アメリアの隣りにいた私に笑顔を向ける。

「おはよう、レティア」
「おはよう、レイブン。体調はどう?」
「元気だよ。思ったよりも長引かなかった」
「エロパワーが体力と魔力を超回復させたか」
「お前には言われたくないんだが!?」

 ノースとレイブンは仲が良くて、悪口言い合ってても、嫌っているから言っているのではない事が、すごくわかる。
 だから、二人の喧嘩を見ていると、犬がじゃれ合ってるみたいで、微笑ましく思ってしまう。

「そういえば、父さんからの話はしたのか?」
「まだなの。アメリアにその事でお願いをしようと思っていて」
「私にお話ですか?」
「ええ。アメリア、ちょっとだけお話できる?」
「レイブン様がよろしければ…」

 レイブンの部屋の前にいるという事は、アメリアは仕事中だということ。
 だから、アメリアと私がレイブンの方を見ると、彼は首を縦に振る。

「かまわない。俺とノースも話を聞いた方がいいか?」
「うん。どうせだから、一緒に聞いてほしいかも」
「なら、中に入って話をしようか」

 レイブンに促され、アメリアと一緒に彼の部屋に入ると、レイブンはノースが入ってくるのを止めた。

「やっぱり、お前はそこで待ってろ」
「何でだよ!?」
「レイブン、意地悪するのはやめて! ノースにも聞いてもらいたいから」
「……わかった」
「やーい、怒られた!」

 ノースがからかった瞬間、彼の上に大量の水が降ってきた。

「何すんだ!」
「何もしてない」

 レイブンはしれっと答えると、風の魔法なのか、濡れてしまった床などを一瞬にして乾かした。
 
 ノースはびしょ濡れのままだけど。

 結局、ノースは自分に魔法をかけて自分を乾かした後、先にソファーに座っていたレイブンの隣りに腰をおろした。

「18歳になるまで、とにかく身を隠さないといけないんですね」

 アメリアに事情を話すと、顎に指を当てて頷いた後、笑顔で首を縦に振る。

「レティア様をお護り出来るなんて幸せです。私で良ければ、一緒に住まわせて下さい」
「ありがとう、アメリア!」
「俺も一緒に住んでやってもいいぞ。男の護衛はもう飽きた」

 ノースが言うと、アメリアが睨み、レイブンがノースの頭を叩いた。

「男の護衛が飽きたっていうんなら、馬小屋の見張りをしてくれよ。メス馬がいるから」
「そういう問題じゃねぇんだよ! どうせなら、か弱い女性を守りたい!」
「それなら、お前のばあちゃんと母さんを守って来い」
「ばあちゃんも母さんも、か弱いって感じじゃねぇんだよ! そりゃ、二人を守りたい気持ちはあるけど、違う! それとは何か違う!」
「レティア様。馬鹿がうつってはいけませんので、ノースから離れましょう」
「ちょ、アメリア!?」

 私の肩を優しく抱いて、アメリアが遠ざかろうとするから、ノースが立ち上がったけれど、レイブンに止められる。

「よし、ノース、行くか」
「どこへだよ!?」
「馬小屋」
「馬が嫌いなわけじゃねぇけど、やっぱり、俺はレイブン様の護衛をしたいですぅ!」

 ノースが情けない声を上げるので笑ってしまう。
 隣でアメリアも笑っていて、とても幸せな気分になる。

 こんな風に笑える日が当たり前になる日常はくるのかしら…。

 駄目だわ。
 新しい生活を始める前から、そんな弱気な事は考えないでいよう。
 私の誕生日まで、あと半年以上ある。

 その間、ヘーベル公爵家に見つからずに、どう暮らしていけるか考えよう。

「でも、何で北の地なんだ?」
「万が一、見つかった時に困るだろ。姿を隠せる魔法があればいいが、残念ながら、その魔法を使える魔道士がいない。それに、使えたとしても、レティアの姿を消せないんじゃ意味がないだろ」
「そうか。南の地で見つかれば、レイブン達が関与していたって事がバレバレだよな」
「私の姿が見られているから、もうバレていると思うけれど、それに関しては似ていた誰かだと言い張ればいいものね。だけど、レティア様については、関所を通っていないのに、南にいたらおかしいから北なんですね?」
「それと、南を探すってご丁寧に言ってくれてたからな」

 レイブンが昨日、シブン様から聞いた話を話すと、ノースとアメリアは顔を見合わせる。
 そして、アメリアがレイブンに尋ねる。

「その話が罠だったら?」
「どっちにしても、北を探し始めたら、こっちも動くだけだ。そうなったら、アメリアには屋敷に戻ってもらう。アメリアとノースはもう顔を知られてるから、その時は二人に囮になってもらわないといけないし、身の危険があるだろうから、俺や父さんの近くにいた方がいい。特にお前らのマークが厳しくなるだろうから、レティアがいる場所とは関係のない場所に動いてもらう事になる」
「承知しました」

 レイブンの言葉にアメリアが頷くと、ノースが言う。

「レティア、アメリア、北の地で、もし何か困った事があったら言えよな? すぐに駆けつけるからな」
「ありがとう、ノース」

 お礼を言うと、ノースは満足そうに笑う。

「アメリア、お前一人では辛いだろうから、誰か、交代の女性魔道士を探しておくから、少しの間、大変だろうがお願いできるか?」
「もちろんです」
「それから、不本意だが、ノースも後から行かせるから」
「マジで!?」

 ノースがレイブンの言葉に歓喜の表情を浮かべて聞き返す。

「ああ。父さんが許可したからな」
「何だよ、レイブン、意地悪言ってばっかりでよぉ! 最初から、そういってくれよ!」

 ノースはレイブンの肩に手をまわしたかと思うと、耳元でぼそりと何か呟いた。

「……は?」
「な? だから、安心して俺に任せろ!」
「待て。とにかく、話を聞かせろ」
「りょーかい。さ、ここからの話は男同士でしか話せない話だから、レディ達は部屋を出てくれるかな?」

 ノースがレイブンの肩を組んだまま、にんまりと笑って、私とアメリアに言った。

「わかったけど、このまま、アメリアを借りてもいい? もう少し詳しい話をしたいから」
「ああ。アメリアはレティアと話を終えたら、そのまま今日の勤務は終えてくれていいから」
「ありがとうございます」

 レイブンとノースの様子がおかしかった気がして、部屋から出てすぐに、アメリアに尋ねる。

「一体、どうしたのかしら」
「さあ。どうせ、ノースのことですから、エッチな事を言ったんじゃないでしょうか」
「それはまあ、ありえるわね」

 頷き合いながら、とにかく、私の部屋で、これからの事を話す事にした。
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