【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

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22 裏切り

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「お、お前、どうしてここに!? やはり、レティアはここにいるのか!?」
「さあな。俺は、逃げたお前を追いかけて、ここまで来ただけだ。レティアがここにいるというんなら、それは助かる。俺をここに連れてきてくれてありがとう」

 レイブンは私がここにいる事を知らないわけがないので、フォーウッド様には知らないふりをして、今、知ったという様にしているみたいだった。
 ベッドの下から這い出て、扉に近付こうとすると、ゆっくりと扉のノブが回された。
 立ち止まり、赤い石を握りしめると、扉が開き、部屋の中に入ってきたのは、ミントだった。

「ミント! もう帰ってこれたの?」
「嫌な予感がしまして。でも、急いで帰ってきて良かったです。裏口にいた男達は全て倒しました。ここからレティア様を連れて逃げるか逃げないか迷っていましあが、レイブン様がいらっしゃっているなら、逃げずに、このままレイブン様が連れて帰ったという様にした方がいいかもしれませんね」

 ミントは小声で言うと、私の背中を撫でながら、ベッドの上に座らせると続ける。

「とにかく、この部屋で大人しくしていましょう」
「レイブン一人で大丈夫なの?」
「レイブン様は大魔道士であるシブン様の息子さんです。それに、小さな頃から努力されてきた事を知っていますし、魔力量も半端なものではありません。そして、剣術も体術も。レイブン様は大切な人を守るからといって、自分が犠牲になるのは違うと考えていらっしゃいますから大丈夫ですよ」
「…そうなのね」

 お母様の死と関係がある事なのかしら。
 いつか、私にも教えてもらえるといいけど、レイブンにとって悲しい記憶なら、話すだけでも辛いだろうし、無理に聞かない方がいいかもしれない。

 ただ、レイブンが無事でいてくれればいい。

 その時、玄関の方で叫び声が聞こえた。
 体を震わせて顔を上げると、ミントが横に座ってくれて言う。

「レイブン様のものではございません」
「…ありがとう」

 ミントにお礼を言ってから、耳を澄ます。

「く、来るな! 僕はお前には何もしていないぞ!」
「お前は何もしていないつもりかもしれないが、俺はさんざん、お前に不愉快な思いをさせてもらってる。その御礼をしないとな。それに、ここ、お前の家じゃないだろ? 不法侵入で捕まえて、警察に連れて行ってやる。公爵令息が平民の家に押し入ったなんて世間にしれたら、ヘーベル家は平民だけでなく、多くの貴族にどう思われるか楽しみだ」
「警察なんて何とでもなる! 金を渡せば…!」
「残念。ここはヘーベル家の領地じゃない。ヘーベル家と敵対関係に近い公爵領だ。だから、そう簡単に助けてもらえるとは思うなよ?」
 
 レイブンの言葉を聞いて、初めて、その事を知った。
 ちょうどいい家族と場所を見つけたから、ここを選んだのだと思ったら、ヘーベル家と敵対関係にある領地だったのね…。
 それなら、ヘーベル家も余計にここを探しにくいはず。

 フォーウッド様は、その事を何も考えていないから、気軽に乗り込んでこれたんだわ。
 別に他の公爵領に出入りするのは悪い事じゃないけれど、犯罪を犯したとなったら別だろうし、この事で、ヘーベル家に対して有利な材料になるはず。

「ったく、どうなってんだ?」
「私はレイブン様の所に行くわ。あなたは、レティア様の無事を確認して」
「わかった」

 ノースとアメリアの声が聞こえた。
 
「良かった。アメリアは元気になったのね」

 こんな時なのに、二人が来てくれたという安心感もあって胸をなでおろす。
 私の部屋の扉がノックもなく開き、顔を見せたのはノースだった。

「ノース!」

 小声で彼の名を呼ぶと、ノースが安堵の表情を見せて、ベッドに座っている私の前にしゃがみ、目線を合わせて言う。

「レティア、良かった。無事だったか。って、あれ? ミントしかいねぇの? 他の奴らは?」
「女性騎士がいてくれたんだけど、フォーウッド様に連れてきた人達にやられてしまったみたい。レイブンが来てくれているし、回復魔法が使えるから大丈夫よね? あと、フォーウッド様が来た時は、ミントは出かけていたの。だから、彼女は何も悪くないわ」
「…何で、ミントが出かけてた?」

 ノースが厳しい表情になって、ミントの方を見た。

「……」

 ミントは何も答えずに、唇を噛んで俯いた。

 どういう事?

「ノース、どうかしたの?」
「レイブンは魔道士は必ず、この家に一人はいないといけないと言っていたはずだろ。ネックレスの力が発動しなければ、レイブンはこの状況に気付けていなくて、今頃、レティアがどうなってたかわかんねぇんだぞ!? 何を考えてんだ!」
「何を考えてる? それはあなたの方でしょう?」
 
 ミントは立ち上がると、ノースに向かって叫ぶ。

「レティア様にはレイブン様がいるのよ!? それなのに…!」
「何の話をしてんだ?」

 ノースが困惑した様子で、ミントに尋ねる。

 ミントはなぜか、とても怒っていて、ノースにより近付いて、彼を見上げて答える。

「あなた、レティア様の事が好きなんでしょう?」
「はあ?」

 聞き返したのは、ノースだけではなく、私もだった。

「ミント、こんな時に何を言ってるの?」
「あなたは、レティア様に恋愛感情を持ってるんでしょう!?」

 私の問いかけには答えず、ミントはノースに食って掛かる。

 ノースは眉を寄せ、こめかみを手でおさえてから答える。

「何を言ってんのかわかんねぇ。大事だと思ってるのは確かだが、ミントが言っている好きとは違う」
「そうよ。ミント、ノースはアメリアの事が好きなのよ?」
「そんな訳ありません! ノースのレティア様を見る目は、普通とは違います!」
「それは…っ!」

 ノースが焦った顔で何か言おうとしたけれど、私の顔を見て止めた。

「…ノース?」
「ほら、やっぱりそうなんでしょう!?」

 ノースの様子を見て、ミントが叫ぶ。

 いきなり、どうしちゃったの?

 もしかして…。

「ミント、私がここにいると誰かに教えたのは、あなたなの…?」
「……っ」

 ミントが気まずそうに、目線を斜め下に向けた。

「どうして? さっきのノースの話が原因? 私が邪魔だった…? ノースが私を恋愛感情として好きだなんてありえないけど、そう思ったあなたは、私が憎かったって事? どうして、私の居場所を教えたの!?」
「そうですよ! あなたは、ただ守られているだけ! 私達は駒なんです!」
「駒なんて思った事はないわ! だけど、守られているだけというのは、その通りかもしれない…。自分が強くならないといけない事を忘れていて、それがあなたを苛立たせたなら謝るし、これからは強くなる様に努力するわ! だけど、仲間を裏切る行為は間違ってる!」
「だって、ノースが!」

 ミントが泣きながら叫んだけれど、そんなのは言い訳にならない。

「あなた、自分の子供は大事じゃないの…? こんな事をしたら、あなたに処分が下るわよ…?」
「全部、ノースが悪いのよ! レティア様ばかり見てるから!」
「つーか、違うって言ってんだろ! とにかく、その話は後だ。今は、そんな場合じゃねぇだろ。ミント、今は任務を遂行しろ。レティア、俺はレイブン達の様子を見てくる。何かあったら叫べ」

 ノースがそう言って、私達に背を向けて、歩き出した時だった。

「レティア、レティアって、やっぱり好きなんじゃないの!」

 ミントが叫んだかと思うと、腰に巻いていたダガーベルトから短剣を抜き出すと、ノースの背中に向かって突進した。

「ノース!!」

 私が叫んだからか、ノースが振り返り横に避けたけれど、少し遅かった。

 ノースの横腹にミントの短剣が刺さり、ミントが剣を抜くとノースが膝をついた。
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