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23 ノースの隠し事
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「ノース! 大丈夫!?」
彼の所に駆け寄って叫ぶ。
大丈夫な訳がないのはわかっているけれど、そんな言葉しか出なかった。
ノースは刺された横腹を片手でおさえ、痛みをこらえながらも口元に笑みを浮かべる。
「大丈夫だ…、心配すんな…」
「でもっ!」
「図星を言われて、頭に血がのぼっていたから気付けなかったでしょう? やっぱり、あなたはレティア様が好きなんじゃないの!! ……、……」
ミントが何か言っているけれど、全然、頭に入ってこなかった。
横腹をおさえているノースの服にじわじわと染みが広がり、彼の手は赤に染まっていく。
「どうしよう…」
「レティア…、わりぃけど…、レイブンを…っ、呼んできてくれねぇ…?」
「無理よ。ノースを置いていけない。ミントが何をするかわからないもの!」
「いいから、行ってくれ…! ………どっちにしても一緒だ!」
ノースの息が荒い。
どうしよう。
私のせいで…!
助けを呼びにいかなければいけないのはわかってる。
だけど、ノースを置いていったら、ミントが彼に何をするか…!
「…レイブン…」
彼はすぐ近くにいる。
絶対に、声が届く。
「レイブン! 助けて! ノースがっ!」
赤い石を握りしめて叫ぶと、まるで拡声器を使ったみたいに、自分でも耳をふさぎたくなるくらいの大きな声が出て驚いてしまった。
考えたら、回復魔法を使える様に願ったら良かった?
でも、私に対しての加護の魔法だから、私じゃないと意味がないわよね…?
そんな事を考えたのと同時、レイブンの声が聞こえた。
「アリシア、そのバカを頼む!」
「承知しました! さあ、フォーウッドさん、私と遊びましょう?」
「や、やめろ! 僕に触るな! ぎゃあああっ!」
フォーウッド様の叫びと共に、ボキリという鈍い音が聞こえ、その後は、フォーウッド様が泣き叫ぶ声が続く。
「レティア!」
レイブンが部屋に入ってきて、ノースの様子を見て息を呑み近付いてくる。
「誰にやられた!?」
レイブンは聞いてきたけれど、ミントの手に握られているものに気が付いて、彼女に向かって言う。
「ミント…、お前、どういう事だ…」
「…ノースが彼女ばかり気にかけるから!」
「……何を言ってるんだ?」
レイブンが聞き返した時、ノースの体が崩れ落ちた。
血が多く流れたからか、座っていられなくなった様だった。
「ノース! しっかりして!!」
「くそ!」
レイブンはノースの体を支え、回復魔法をかけながら、ミントを見上げて睨んだ。
「ふざけるなよ。お前、何をやったのかわかってるのか!」
「レイブン様、彼はあなたのレティア様を狙ってたんですよ? ずっと好意を寄せていた、私の気持ちにはこたえてくれなかったくせに!!」
「は? 何を言ってるんだよ!?」
「どういう事? あなた、まさか、ノースが好きだったの!?」
レイブンの後に私が尋ねると、ミントは涙を流しながら答える。
「ずっと好きだったんです。だけど、噂で、好きな人がいるって聞いて、言えなくて…。だから、今の夫と…」
「ミント、あなた…、ノースを忘れる為に結婚したの…?」
「そうです! だけど、中々、忘れられなくて…! だって、そうじゃないですか! ノースはレティア様が好きなんです! どうせ、いつかは失恋するじゃないですか! それなら、私、諦めなくても良かったじゃないですか!」
「ふざけるな! こんな事をするお前をノースが選ぶわけないだろ! 大体、ミント、お前は間違ってる! ノースが恋愛感情を持ってるのはレティアじゃない!」
「そんなの嘘です!」
レイブンの言葉に、ミントが叫んだ時だった。
「嘘ではありません」
黒のケープマントをなびかせ、ポニーテールを揺らしながら入ってきたアメリアは、脇目もふらずにミントの所へ近寄ると、短剣を持っていた手首をつかみ、ひねりあげた。
「きゃあっ!」
ミントが悲鳴を挙げて、短剣を床に落とす。
アメリアは、それを足で蹴り、ベッドの下に滑らせると、ミントの手をはなし、左手でミントの頬を拳で殴った。
「きゃっ!!」
ミントの悲鳴がまた上がり、彼女は床に倒れ込んだ。
「ノースの好きな人がレティア様? そりゃあ、好きでしょう。大事な人ですからね。ですが、レイブン様もおっしゃった通り、あなたの言っている好きな人とは違います」
アメリアは床に倒れ込んだまま、自分の頬をおさえているミントに向かって続ける。
「ノースの好きな女性は私です。お間違えないようにお願い致します」
こんな事に反応している場合ではないと思っていたけれど、つい、ノースの方を見ると、レイブンも同じ様に彼のの方を呆れた顔で見ているのがわかり、彼の視線を追うと、ノースが小さくガッツポーズをしてるのが見えた。
だいぶ楽になったみたいね。
本当に良かった。
ホッとしていると、レイブンが苦笑して私を見たので、小さな声でお礼を言う。
「ノースを助けてくれてありがとう」
「当たり前だろ。友達だからな。それに、義理の…になるし」
「えっと、何? 聞こえなかったんだけど?」
「何でもない。ノースを頼むな。おい、気絶したふりすんなよ。バレてるぞ」
レイブンはノースの体を床に寝かせるのではなく、軽く押しのける様に床に落とした。
「いって! ちょっとは優しくしてくれよ! 怪我人なんだぞ!」
「血は止まったろ。だけど、貧血だろうから、大人しくしてろ」
「へーい」
「ノース、私に体を預けていいわよ?」
「え」
ノースだけじゃなく、レイブンまで動きを止めた。
すると、ノースは手を横に振る。
「いや、なんかそれは違う。壁にもたれかかっとくわ」
「遠慮しなくてもいいのに…」
「それこそ、ミントが誤解するだろ。体を預けるとか、膝枕とかしてもらうなら、アメリアにしてもらうから」
「しません!」
アメリアがノースを見下ろして、キッパリと断ると、ノースは頬を緩ませる。
「うん。知ってる」
こんな状況で、ほっこりしている場合ではないけれど、私も思わず、頬が緩んだ。
アメリアは気を取り直す様に一息吐いてから、レイブンに声を掛ける。
「彼女は私が拘束します」
「フォーウッドは?」
「痛みで気を失っています。レイブン様の回復魔法で動ける様になった騎士達に見張らせています」
「ありがとう」
レイブンは踵を返そうとしたけれど、足を止めて呆然として床に座り込んでいるミントを見下ろして言う。
「家族を人質にとられたとか、やむを得ない事情ならまだしも、夫や子供がいるのに、昔、好きだった男を忘れられないからと、仲間を裏切り、傷付ける行為は許せない。父さんに処分は任せるが、今まで通りの生活に戻れるとは思うなよ?」
「……っ!」
ミントはここまで大事になるとは考えていなかったみたいだった。
誰かが密告した、それだけで終わらせるつもりだったのかもしれない。
フォーウッド様から私を守る事で、自分は密告者ではないとアピールしようとしたのかも。
だけど、私がレイブンからかけてもらった加護の魔法とネックレスにお願いした事により、レイブンとシブン様に私のピンチが伝わり、レイブンが来てくれて、そして、アメリアとノースも来てくれた。
レイブン達が来るのは、ミントにとって予想外だったのかもしれない。
涙を流すミントを残し、レイブンは部屋から出て行き、フォーウッド様の所に向かう。
アメリアがミントを拘束している間に、ノースに尋ねる。
「ノースはミントの気持ちを知ってたの?」
「いや、全然。関わった事も仕事でしかねぇし、仕事中に雑談するにしても、ミントの家族の話を聞くだけで、俺のプライベートな話はした事もなかった。ミントの旦那、友達なんだよ…。まあ、ミントの旦那にも俺が誰を好きかは教えてなかったけど」
「だから、ノースがアメリアを好きだって事を知らなかったのね?」
「というか、知ってるのは師匠とシブン様、レティアとレイブンくらいじゃねぇの?」
「ノースの口からアメリアの話以外、女性についての話は聞いた事なかったし、あなたはあまり、自分の話をしなかったものね」
でも、どうして、ミントはノースが私の事を好きだなんて勘違いしたんだろう。
妹みたいに思ってくれてるから、その感じがミントには特別に思えた?
「嫌な形になってしまったけれど、ノースが私の事を大事に思ってくれている事を知れて、ちょっと嬉しい。私もノースやアメリア、レイブンやシブン様の事、私の家族と同じくらいに大事に思ってるから」
笑顔で言うと、なぜか、ノースが表情を歪めた。
「ノース?」
何か嫌な事を言ってしまったのかと思って焦ると、アメリアがミントの首根っこをつかみ立ち上がらせ、彼女を連れて、私達の方に向かって歩いてくると、ノースに向かって言った。
「彼女には私から伝えておくから。あなたは、自分の口でレティア様にお話して」
「え!? で、でも!」
「ノース。あなた、今日は私にカッコ悪いところばかり見せてるわよ。レイブン様の方が素敵だわ。一人で何人倒されたと思ってるの」
「そ、そんな、アメリア…!!」
ノースが焦った様子で立ち上がろうとしたけれど、アメリアがそれを制する。
「ちゃんと話して。覚悟を決めて、少しくらい、カッコ良いところを見せてよ」
「……っ!」
ノースは私に何か言わないといけない事があるみたいだけど、言いたくないみたい。
だけど、アメリアは、話した方が良いと判断したってところ?
「ノース、無理に言いたくないのなら…」
「いや、言うよ」
ノースが首を横に振る。
それを見た、アメリアは微笑んで、ノースの頭を優しくなでた。
「大丈夫よ」
「ん」
アメリアはノースが頷いたのを確認すると、私に向かって言う。
「レティア様。怖い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。ノースが二人きりで話をしたい事があるようですから、私達は部屋を出ます。レイブン様と待っていますので、話が終わったら出てきて下さいね。ミント、あなたには私の口から本当の事を話してあげるわ」
アメリアは私には笑顔を向けてくれていたけれど、私が頷いたのを確認すると、ミントの方には厳しい表情を向けて、ミントを連れて部屋から出て行った。
扉が閉まり、ノースと私は、二人で床に座り込んだまま、顔を見合わせた。
彼の所に駆け寄って叫ぶ。
大丈夫な訳がないのはわかっているけれど、そんな言葉しか出なかった。
ノースは刺された横腹を片手でおさえ、痛みをこらえながらも口元に笑みを浮かべる。
「大丈夫だ…、心配すんな…」
「でもっ!」
「図星を言われて、頭に血がのぼっていたから気付けなかったでしょう? やっぱり、あなたはレティア様が好きなんじゃないの!! ……、……」
ミントが何か言っているけれど、全然、頭に入ってこなかった。
横腹をおさえているノースの服にじわじわと染みが広がり、彼の手は赤に染まっていく。
「どうしよう…」
「レティア…、わりぃけど…、レイブンを…っ、呼んできてくれねぇ…?」
「無理よ。ノースを置いていけない。ミントが何をするかわからないもの!」
「いいから、行ってくれ…! ………どっちにしても一緒だ!」
ノースの息が荒い。
どうしよう。
私のせいで…!
助けを呼びにいかなければいけないのはわかってる。
だけど、ノースを置いていったら、ミントが彼に何をするか…!
「…レイブン…」
彼はすぐ近くにいる。
絶対に、声が届く。
「レイブン! 助けて! ノースがっ!」
赤い石を握りしめて叫ぶと、まるで拡声器を使ったみたいに、自分でも耳をふさぎたくなるくらいの大きな声が出て驚いてしまった。
考えたら、回復魔法を使える様に願ったら良かった?
でも、私に対しての加護の魔法だから、私じゃないと意味がないわよね…?
そんな事を考えたのと同時、レイブンの声が聞こえた。
「アリシア、そのバカを頼む!」
「承知しました! さあ、フォーウッドさん、私と遊びましょう?」
「や、やめろ! 僕に触るな! ぎゃあああっ!」
フォーウッド様の叫びと共に、ボキリという鈍い音が聞こえ、その後は、フォーウッド様が泣き叫ぶ声が続く。
「レティア!」
レイブンが部屋に入ってきて、ノースの様子を見て息を呑み近付いてくる。
「誰にやられた!?」
レイブンは聞いてきたけれど、ミントの手に握られているものに気が付いて、彼女に向かって言う。
「ミント…、お前、どういう事だ…」
「…ノースが彼女ばかり気にかけるから!」
「……何を言ってるんだ?」
レイブンが聞き返した時、ノースの体が崩れ落ちた。
血が多く流れたからか、座っていられなくなった様だった。
「ノース! しっかりして!!」
「くそ!」
レイブンはノースの体を支え、回復魔法をかけながら、ミントを見上げて睨んだ。
「ふざけるなよ。お前、何をやったのかわかってるのか!」
「レイブン様、彼はあなたのレティア様を狙ってたんですよ? ずっと好意を寄せていた、私の気持ちにはこたえてくれなかったくせに!!」
「は? 何を言ってるんだよ!?」
「どういう事? あなた、まさか、ノースが好きだったの!?」
レイブンの後に私が尋ねると、ミントは涙を流しながら答える。
「ずっと好きだったんです。だけど、噂で、好きな人がいるって聞いて、言えなくて…。だから、今の夫と…」
「ミント、あなた…、ノースを忘れる為に結婚したの…?」
「そうです! だけど、中々、忘れられなくて…! だって、そうじゃないですか! ノースはレティア様が好きなんです! どうせ、いつかは失恋するじゃないですか! それなら、私、諦めなくても良かったじゃないですか!」
「ふざけるな! こんな事をするお前をノースが選ぶわけないだろ! 大体、ミント、お前は間違ってる! ノースが恋愛感情を持ってるのはレティアじゃない!」
「そんなの嘘です!」
レイブンの言葉に、ミントが叫んだ時だった。
「嘘ではありません」
黒のケープマントをなびかせ、ポニーテールを揺らしながら入ってきたアメリアは、脇目もふらずにミントの所へ近寄ると、短剣を持っていた手首をつかみ、ひねりあげた。
「きゃあっ!」
ミントが悲鳴を挙げて、短剣を床に落とす。
アメリアは、それを足で蹴り、ベッドの下に滑らせると、ミントの手をはなし、左手でミントの頬を拳で殴った。
「きゃっ!!」
ミントの悲鳴がまた上がり、彼女は床に倒れ込んだ。
「ノースの好きな人がレティア様? そりゃあ、好きでしょう。大事な人ですからね。ですが、レイブン様もおっしゃった通り、あなたの言っている好きな人とは違います」
アメリアは床に倒れ込んだまま、自分の頬をおさえているミントに向かって続ける。
「ノースの好きな女性は私です。お間違えないようにお願い致します」
こんな事に反応している場合ではないと思っていたけれど、つい、ノースの方を見ると、レイブンも同じ様に彼のの方を呆れた顔で見ているのがわかり、彼の視線を追うと、ノースが小さくガッツポーズをしてるのが見えた。
だいぶ楽になったみたいね。
本当に良かった。
ホッとしていると、レイブンが苦笑して私を見たので、小さな声でお礼を言う。
「ノースを助けてくれてありがとう」
「当たり前だろ。友達だからな。それに、義理の…になるし」
「えっと、何? 聞こえなかったんだけど?」
「何でもない。ノースを頼むな。おい、気絶したふりすんなよ。バレてるぞ」
レイブンはノースの体を床に寝かせるのではなく、軽く押しのける様に床に落とした。
「いって! ちょっとは優しくしてくれよ! 怪我人なんだぞ!」
「血は止まったろ。だけど、貧血だろうから、大人しくしてろ」
「へーい」
「ノース、私に体を預けていいわよ?」
「え」
ノースだけじゃなく、レイブンまで動きを止めた。
すると、ノースは手を横に振る。
「いや、なんかそれは違う。壁にもたれかかっとくわ」
「遠慮しなくてもいいのに…」
「それこそ、ミントが誤解するだろ。体を預けるとか、膝枕とかしてもらうなら、アメリアにしてもらうから」
「しません!」
アメリアがノースを見下ろして、キッパリと断ると、ノースは頬を緩ませる。
「うん。知ってる」
こんな状況で、ほっこりしている場合ではないけれど、私も思わず、頬が緩んだ。
アメリアは気を取り直す様に一息吐いてから、レイブンに声を掛ける。
「彼女は私が拘束します」
「フォーウッドは?」
「痛みで気を失っています。レイブン様の回復魔法で動ける様になった騎士達に見張らせています」
「ありがとう」
レイブンは踵を返そうとしたけれど、足を止めて呆然として床に座り込んでいるミントを見下ろして言う。
「家族を人質にとられたとか、やむを得ない事情ならまだしも、夫や子供がいるのに、昔、好きだった男を忘れられないからと、仲間を裏切り、傷付ける行為は許せない。父さんに処分は任せるが、今まで通りの生活に戻れるとは思うなよ?」
「……っ!」
ミントはここまで大事になるとは考えていなかったみたいだった。
誰かが密告した、それだけで終わらせるつもりだったのかもしれない。
フォーウッド様から私を守る事で、自分は密告者ではないとアピールしようとしたのかも。
だけど、私がレイブンからかけてもらった加護の魔法とネックレスにお願いした事により、レイブンとシブン様に私のピンチが伝わり、レイブンが来てくれて、そして、アメリアとノースも来てくれた。
レイブン達が来るのは、ミントにとって予想外だったのかもしれない。
涙を流すミントを残し、レイブンは部屋から出て行き、フォーウッド様の所に向かう。
アメリアがミントを拘束している間に、ノースに尋ねる。
「ノースはミントの気持ちを知ってたの?」
「いや、全然。関わった事も仕事でしかねぇし、仕事中に雑談するにしても、ミントの家族の話を聞くだけで、俺のプライベートな話はした事もなかった。ミントの旦那、友達なんだよ…。まあ、ミントの旦那にも俺が誰を好きかは教えてなかったけど」
「だから、ノースがアメリアを好きだって事を知らなかったのね?」
「というか、知ってるのは師匠とシブン様、レティアとレイブンくらいじゃねぇの?」
「ノースの口からアメリアの話以外、女性についての話は聞いた事なかったし、あなたはあまり、自分の話をしなかったものね」
でも、どうして、ミントはノースが私の事を好きだなんて勘違いしたんだろう。
妹みたいに思ってくれてるから、その感じがミントには特別に思えた?
「嫌な形になってしまったけれど、ノースが私の事を大事に思ってくれている事を知れて、ちょっと嬉しい。私もノースやアメリア、レイブンやシブン様の事、私の家族と同じくらいに大事に思ってるから」
笑顔で言うと、なぜか、ノースが表情を歪めた。
「ノース?」
何か嫌な事を言ってしまったのかと思って焦ると、アメリアがミントの首根っこをつかみ立ち上がらせ、彼女を連れて、私達の方に向かって歩いてくると、ノースに向かって言った。
「彼女には私から伝えておくから。あなたは、自分の口でレティア様にお話して」
「え!? で、でも!」
「ノース。あなた、今日は私にカッコ悪いところばかり見せてるわよ。レイブン様の方が素敵だわ。一人で何人倒されたと思ってるの」
「そ、そんな、アメリア…!!」
ノースが焦った様子で立ち上がろうとしたけれど、アメリアがそれを制する。
「ちゃんと話して。覚悟を決めて、少しくらい、カッコ良いところを見せてよ」
「……っ!」
ノースは私に何か言わないといけない事があるみたいだけど、言いたくないみたい。
だけど、アメリアは、話した方が良いと判断したってところ?
「ノース、無理に言いたくないのなら…」
「いや、言うよ」
ノースが首を横に振る。
それを見た、アメリアは微笑んで、ノースの頭を優しくなでた。
「大丈夫よ」
「ん」
アメリアはノースが頷いたのを確認すると、私に向かって言う。
「レティア様。怖い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。ノースが二人きりで話をしたい事があるようですから、私達は部屋を出ます。レイブン様と待っていますので、話が終わったら出てきて下さいね。ミント、あなたには私の口から本当の事を話してあげるわ」
アメリアは私には笑顔を向けてくれていたけれど、私が頷いたのを確認すると、ミントの方には厳しい表情を向けて、ミントを連れて部屋から出て行った。
扉が閉まり、ノースと私は、二人で床に座り込んだまま、顔を見合わせた。
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