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26 それぞれのその後 2(レティシアside)
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※ 最後の方に精神的にくるかもしれないシーンが出てきます。
ざまぁシーンではありますが、気分が悪くなられる方もおられるかもしれませんので、最後の方は読み飛ばして下さいませ。(血が云々ではなく、精神的なものです。ただ、私の表現の下手さもあり、大丈夫と思われる可能性もありますが、精神的にくるようなものが苦手な方は読み飛ばし下さい)
どんなシーンであったかは、簡単に次話でレティアがレイブンから話を聞きますので、それでわかるかと思います。
レティシアは現在、別邸ではなく、母方の祖父母の家に、母と一緒に匿われていた。
父方の祖父母は亡くなっていた為、逃げる場所がそこしかなかったという事もある。
幸い、敵対する公爵家は、ヘーベル元公爵を捕虜にしただけで、元夫人達に対して、何かをするわけではなかった。
ヘーベル元公爵は宣戦布告する前に、離縁していたからだ。
他人に対して情けのない、ヘーベル元公爵も自分の家族は大事だったらしい。
もちろん、報復の可能性も無きにしもあらずなので、監視の目がついてはいるのだが、レティシア達は気付いていない。
敗戦したヘーベル公爵領は今のところは、王家の管轄にされ、新しく領土を管轄する人間を探しているところで、フォーウッドも人質としての価値もなくなった為、面会も簡単に出来るようになっていた。
だから、今日、レティシアは兄の無様な姿を笑いに行こうと、フォーウッドが捕まえられている留置所に来ていた。
兄に面会しようとすると、先客がいると聞き、レティシアは眉を寄せた。
(私以外にお兄様に会おうとするなんて、家族以外考えられないんだけど…)
先客がどんな人間か確かめようと、大人しく待合室で待っていると、レイブンが出てきた。
「レイブン様!」
レティシアは立ち上がり、彼の名を呼んだ。
レイブンは彼女の方に目を向けると、軽く頭を下げただけで、彼女の前を通り過ぎていく。
(話せる機会は今しかないわ!)
「レイブン様! 待って下さい! どうして、あなたは私じゃなく、レティアを選ぶんですか!? 彼女はもう公爵家の人間じゃないんですよ!?」
呼び止められたレイブンは、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、彼女の方に顔を向けて答える。
「君だってそうだろう。それにそうかもしれないが、もう関係ない」
「関係ないって、どういう事ですか!?」
レティシアはレイブンの前にまわって叫ぶ。
「南と北が和平する条件は、レイブン様とヘーベル公爵家の令嬢との結婚だったはずです! このままでは、和平の条件を満たしません!」
(レイブン様は、他人にも優しいと聞いたわ。この事で、北の住民が苦しむ事をわかっていて、そんな選択肢をとれるはずがないわ!)
「その件だが、こちら側から、王家に対して、条件の変更を申し出ていて認められている」
「……条件の変更…?」
「ああ。こちらが希望する女性との結婚を認めるなら、北に対しての制裁を止めると」
「北に対しての制裁…?」
意味がわからない、レティシアはただ、レイブンの言葉を聞き返す事しか出来なかった。
アリシアの事件で、北からの宣戦布告だと南側は王家に苦情を入れると、経済制裁を始めた。
南側の銀行に置かれていたお金が北から、一切、引き出せなくなったのだ。
南には優れた魔道士が多いため、銀行のセキュリティも魔法でされている事が多く、魔法を解除しない限り、盗む事は困難だった。
北の銀行は、魔法でのセキュリティではない為、たびたび、強盗に押し入られていた。
多くの貴族は財産を守りたかったので、南の銀行に預けていたのだ。
それがアリシアの件で資産が凍結されてしまい、多くの貴族から不満が出る事になり、王家は南側の要求をのみ、制裁は解除された。
貴族の令嬢なら、新聞を読んでいてもおかしくないはずだが、レティシアは政治などに興味はなかった事と、家族の事を考える事で精一杯だったため、そんな事を知らなかったのだ。
「知らないのなら、それはそれで良いけど、もう、俺はあなたとは関係がない。大体、さっきも言ったが、君はもう公爵令嬢じゃないだろう? 俺に執着するより、自分がこれからどう生きていくか考えた方が良い」
「そ、そんな…っ!」
「じゃあな」
レイブンが背中を向けると、レティシアは追いすがる。
「待って下さい! 私も連れて行って下さい!」
「…どうして、そんな事をする必要があるんだ?」
「私は、レティアと同じ顔です。しかも、レティアよりも優れています! だから、私を選ばないなんておかしいです…!」
「人には人の好みがあるんだ。たとえば、双子のどちらかを好きになったからって、もう一人の相手も同じ様に好きになるかといったら、また違ってくるだろう? 大体、君とレティアでは中身が全く違う」
足を止め、大きく息を吐いてから、レティシアを見て答えたレイブンの表情は、彼女にとって、本当に冷たいものだった。
「私があの女に負けるわけがないんです!」
「そうか…。なら、証明してもらおうかな。ただ、俺だって鬼じゃないから、あまり気は進まない。だから、ここで諦めてくれると助かるんだが…」
「あなたに認めてもらえるなら、何だってやるわ!」
「認める認めないの問題じゃない。かなり辛いだろうし、俺は出来れば、誰であろうと、そうなるとわかっていて、そんな目に合わせたくない」
レイブンが悲しげな顔をするので、レティシアの胸が高鳴る。
(なんだかんだ言って、レイブン様は私のことが好きなんだわ!)
実際は、この時、彼の優しいところを見せてしまっただけだった。
けれど、レティシアはそれを勘違いした。
「でも、認めてもらえるかもしれないんでしょう? 私がレティアよりも上だと!」
(私があの女に負けるはずがないのよ!)
レティシアが胸を張って言うと、レイブンは苦笑した後、彼女に向かって告げる。
「認めるのは無理だ。だけど、どうしてもというなら、しょうがない。準備をするから、君は君の祖父母の家で大人しくしていてくれ」
「わかりました!」
レティシアが頷くと、レイブンは近くにいた職員に声を掛ける。
「彼を一時保釈したい。金額は?」
この時のレティシアは、レイブンが何を考えているか、全くわからなかった。
数時間後、祖父母の家に戻ったレティシアに遅れて、レイブンがフォーウッドを連れて、屋敷にやってきた。
フォーウッドは逃げられないようにか、手枷をされ、片方の足には鉛玉のついた足枷を付けられていた。
ただ、それよりもレティシアが驚いたのは、フォーウッドの表情だった。
目はどこか虚ろで、焦点が定まっておらず、迎えた母と祖父母の反応に対しても反応がなかった。
「お兄様、一体、どうして」
「どうやら、留置場で酷い扱いを受けたみたいだ。彼がこんな状態だから、この家に戻すのは危険だと思って、場所を変更しようと思ってた」
レティシアに対し、レイブンはそう答えた後、フォーウッドに縋り付いて泣いている、ヘーベル元公爵夫人を悲しげな目で見た。
(どうして、そんな悲しい目をするのかしら…? お兄様はちょっとおかしくなっているだけでしょう?)
「レティシア嬢、少し話をしたいんだ。彼も一緒に」
レイブンがフォーウッドを手で示すと、レティシアはメイドに指示をして、レイブンとフォーウッドを応接室に案内させた。
応接室には、なぜか、レイブンが連れてきた騎士二人も入ってきたので、レティシアは眉を寄せる。
「どうして、この人達まで?」
「君が危険だから」
「…私が?」
「ああ」
レイブンは頷くと、フォーウッドをレティシアの隣に座らせ、自分は向かい側のソファーに座ると、彼女に尋ねた。
「レティアはいつも、どんな髪型をしてた?」
「レティア…? いつもはハーフアップとかいう髪型だったと思いますが…」
「だよな? 悪いが、君の姿をレティアに真似る事は出来るか?」
「真似は出来ますが、レティアよりも美しいですわよ?」
「雰囲気がレティアならかまわない」
今のレティシアは長い髪をシニヨンにしていた為、一度、外に出て、髪型をハーフアップにして戻ってくると、また、フォーウッドの隣に座った。
相変わらず、フォーウッドは前を向いているだけで、一言も言葉を発しない。
「これで良いかしら?」
「ありがとう」
レティシアの言葉にレイブンは首を縦に振ると、口をぽかんと開けて、虚空を見ているフォーウッドに話しかけた。
「フォーウッド」
「……」
フォーウッドからの返事はない。
「フォーウッド…、横を見てみろ。彼女はレティアよりも上らしい」
今まで何の反応もなかったフォーウッドがレティアという名前に反応し、ゆっくりと首を横に向けた。
「ひっ!」
レティシアは兄の表情を見て、悲鳴を上げ、体を後ろに仰け反らせた。
なぜなら、先程まで空虚だったフォーウッドの目が獲物を狙うようなギラギラとしたものに変わっていたからだ。
(本当に、お兄様なの!?)
「レティア…」
フォーウッドがレティシアにそっと手枷のついた手を伸ばす。
「いや、来ないで!」
レティシアの悲鳴と同時に、レイブンが目で合図をし、騎士をレティシアの横と後ろに立たせた。
「レティア、どうして、僕から逃げるんだ? 君のせいで、僕がどんな目にあったかわかってるのか…?」
「お兄様! しっかりして! 私はレティアじゃないわ!」
「嘘をつくな! お前はレティアだ! レティシアはそんな髪型は貧乏人みたいだから嫌だと言ってしなかったんだ!」
「違うわ、お兄様! これはレイブン様にお願いされて!」
「嘘をつくなあぁぁぁ!!」
フォーウッドは手枷をされたままの手を前に突き出し、レティシアの体を何とかつかもうとしながら叫ぶ。
「僕が、どんな思いでお前を探していたんだと思うんだ! そんな事も知らずに、お前はレイブンなんかと!!」
「お兄様! 私はレティアではないわ!! しっかりして!」
「嘘をつくなぁぁっ!!」
(お兄様…、完全に頭がおかしくなっている…!)
「レイブン様! 助けて下さい!」
レティシアは黙って成り行きを見守っているレイブンに向かって叫ぶと、彼は大きな息を吐いてから答える。
「レティアは彼に捕まっていれば、君が受けている様な仕打ちを受けるはずだったんだ。君はレティアよりも上なんだろう? 彼女が耐えられない事でも耐えられるんじゃないのか?」
「そんなっ…、そういう意味では!」
「ああああああ!! レティア! どうしてあげよう。逃げられないように、足を切り落としてあげようか…!」
「やめて! やめて、お兄様!!」
目を充血させ、自分の体に触れてこようとするフォーウッドを見たレティシアはまるで、兄が獣の様に思えた。
「ああ、レティア、可愛いよ…。俺の可愛いレティアァァ!!」
「いやあっ…! 無理です! 助けて! ごめんなさい! ごめんなさい!」
レティシアが泣き叫んだ時、レイブンが立ち上がって騎士に叫んだ。
「止めさせろ!」
その瞬間、騎士が動き、レティシアからフォーウッドを離させた。
「怖い思いをさせて悪かった。だけど、君達がやろうとしていた事は、こんな恐ろしい事だったって事を、少しでもわかってくれたらと思う」
レイブンはレティシアに向かってそう言うと、騎士を促し、フォーウッドを立ち上がらせ、呆然としたままのレティシアを残し、騎士やフォーウッドと共に部屋から出て行った。
ざまぁシーンではありますが、気分が悪くなられる方もおられるかもしれませんので、最後の方は読み飛ばして下さいませ。(血が云々ではなく、精神的なものです。ただ、私の表現の下手さもあり、大丈夫と思われる可能性もありますが、精神的にくるようなものが苦手な方は読み飛ばし下さい)
どんなシーンであったかは、簡単に次話でレティアがレイブンから話を聞きますので、それでわかるかと思います。
レティシアは現在、別邸ではなく、母方の祖父母の家に、母と一緒に匿われていた。
父方の祖父母は亡くなっていた為、逃げる場所がそこしかなかったという事もある。
幸い、敵対する公爵家は、ヘーベル元公爵を捕虜にしただけで、元夫人達に対して、何かをするわけではなかった。
ヘーベル元公爵は宣戦布告する前に、離縁していたからだ。
他人に対して情けのない、ヘーベル元公爵も自分の家族は大事だったらしい。
もちろん、報復の可能性も無きにしもあらずなので、監視の目がついてはいるのだが、レティシア達は気付いていない。
敗戦したヘーベル公爵領は今のところは、王家の管轄にされ、新しく領土を管轄する人間を探しているところで、フォーウッドも人質としての価値もなくなった為、面会も簡単に出来るようになっていた。
だから、今日、レティシアは兄の無様な姿を笑いに行こうと、フォーウッドが捕まえられている留置所に来ていた。
兄に面会しようとすると、先客がいると聞き、レティシアは眉を寄せた。
(私以外にお兄様に会おうとするなんて、家族以外考えられないんだけど…)
先客がどんな人間か確かめようと、大人しく待合室で待っていると、レイブンが出てきた。
「レイブン様!」
レティシアは立ち上がり、彼の名を呼んだ。
レイブンは彼女の方に目を向けると、軽く頭を下げただけで、彼女の前を通り過ぎていく。
(話せる機会は今しかないわ!)
「レイブン様! 待って下さい! どうして、あなたは私じゃなく、レティアを選ぶんですか!? 彼女はもう公爵家の人間じゃないんですよ!?」
呼び止められたレイブンは、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、彼女の方に顔を向けて答える。
「君だってそうだろう。それにそうかもしれないが、もう関係ない」
「関係ないって、どういう事ですか!?」
レティシアはレイブンの前にまわって叫ぶ。
「南と北が和平する条件は、レイブン様とヘーベル公爵家の令嬢との結婚だったはずです! このままでは、和平の条件を満たしません!」
(レイブン様は、他人にも優しいと聞いたわ。この事で、北の住民が苦しむ事をわかっていて、そんな選択肢をとれるはずがないわ!)
「その件だが、こちら側から、王家に対して、条件の変更を申し出ていて認められている」
「……条件の変更…?」
「ああ。こちらが希望する女性との結婚を認めるなら、北に対しての制裁を止めると」
「北に対しての制裁…?」
意味がわからない、レティシアはただ、レイブンの言葉を聞き返す事しか出来なかった。
アリシアの事件で、北からの宣戦布告だと南側は王家に苦情を入れると、経済制裁を始めた。
南側の銀行に置かれていたお金が北から、一切、引き出せなくなったのだ。
南には優れた魔道士が多いため、銀行のセキュリティも魔法でされている事が多く、魔法を解除しない限り、盗む事は困難だった。
北の銀行は、魔法でのセキュリティではない為、たびたび、強盗に押し入られていた。
多くの貴族は財産を守りたかったので、南の銀行に預けていたのだ。
それがアリシアの件で資産が凍結されてしまい、多くの貴族から不満が出る事になり、王家は南側の要求をのみ、制裁は解除された。
貴族の令嬢なら、新聞を読んでいてもおかしくないはずだが、レティシアは政治などに興味はなかった事と、家族の事を考える事で精一杯だったため、そんな事を知らなかったのだ。
「知らないのなら、それはそれで良いけど、もう、俺はあなたとは関係がない。大体、さっきも言ったが、君はもう公爵令嬢じゃないだろう? 俺に執着するより、自分がこれからどう生きていくか考えた方が良い」
「そ、そんな…っ!」
「じゃあな」
レイブンが背中を向けると、レティシアは追いすがる。
「待って下さい! 私も連れて行って下さい!」
「…どうして、そんな事をする必要があるんだ?」
「私は、レティアと同じ顔です。しかも、レティアよりも優れています! だから、私を選ばないなんておかしいです…!」
「人には人の好みがあるんだ。たとえば、双子のどちらかを好きになったからって、もう一人の相手も同じ様に好きになるかといったら、また違ってくるだろう? 大体、君とレティアでは中身が全く違う」
足を止め、大きく息を吐いてから、レティシアを見て答えたレイブンの表情は、彼女にとって、本当に冷たいものだった。
「私があの女に負けるわけがないんです!」
「そうか…。なら、証明してもらおうかな。ただ、俺だって鬼じゃないから、あまり気は進まない。だから、ここで諦めてくれると助かるんだが…」
「あなたに認めてもらえるなら、何だってやるわ!」
「認める認めないの問題じゃない。かなり辛いだろうし、俺は出来れば、誰であろうと、そうなるとわかっていて、そんな目に合わせたくない」
レイブンが悲しげな顔をするので、レティシアの胸が高鳴る。
(なんだかんだ言って、レイブン様は私のことが好きなんだわ!)
実際は、この時、彼の優しいところを見せてしまっただけだった。
けれど、レティシアはそれを勘違いした。
「でも、認めてもらえるかもしれないんでしょう? 私がレティアよりも上だと!」
(私があの女に負けるはずがないのよ!)
レティシアが胸を張って言うと、レイブンは苦笑した後、彼女に向かって告げる。
「認めるのは無理だ。だけど、どうしてもというなら、しょうがない。準備をするから、君は君の祖父母の家で大人しくしていてくれ」
「わかりました!」
レティシアが頷くと、レイブンは近くにいた職員に声を掛ける。
「彼を一時保釈したい。金額は?」
この時のレティシアは、レイブンが何を考えているか、全くわからなかった。
数時間後、祖父母の家に戻ったレティシアに遅れて、レイブンがフォーウッドを連れて、屋敷にやってきた。
フォーウッドは逃げられないようにか、手枷をされ、片方の足には鉛玉のついた足枷を付けられていた。
ただ、それよりもレティシアが驚いたのは、フォーウッドの表情だった。
目はどこか虚ろで、焦点が定まっておらず、迎えた母と祖父母の反応に対しても反応がなかった。
「お兄様、一体、どうして」
「どうやら、留置場で酷い扱いを受けたみたいだ。彼がこんな状態だから、この家に戻すのは危険だと思って、場所を変更しようと思ってた」
レティシアに対し、レイブンはそう答えた後、フォーウッドに縋り付いて泣いている、ヘーベル元公爵夫人を悲しげな目で見た。
(どうして、そんな悲しい目をするのかしら…? お兄様はちょっとおかしくなっているだけでしょう?)
「レティシア嬢、少し話をしたいんだ。彼も一緒に」
レイブンがフォーウッドを手で示すと、レティシアはメイドに指示をして、レイブンとフォーウッドを応接室に案内させた。
応接室には、なぜか、レイブンが連れてきた騎士二人も入ってきたので、レティシアは眉を寄せる。
「どうして、この人達まで?」
「君が危険だから」
「…私が?」
「ああ」
レイブンは頷くと、フォーウッドをレティシアの隣に座らせ、自分は向かい側のソファーに座ると、彼女に尋ねた。
「レティアはいつも、どんな髪型をしてた?」
「レティア…? いつもはハーフアップとかいう髪型だったと思いますが…」
「だよな? 悪いが、君の姿をレティアに真似る事は出来るか?」
「真似は出来ますが、レティアよりも美しいですわよ?」
「雰囲気がレティアならかまわない」
今のレティシアは長い髪をシニヨンにしていた為、一度、外に出て、髪型をハーフアップにして戻ってくると、また、フォーウッドの隣に座った。
相変わらず、フォーウッドは前を向いているだけで、一言も言葉を発しない。
「これで良いかしら?」
「ありがとう」
レティシアの言葉にレイブンは首を縦に振ると、口をぽかんと開けて、虚空を見ているフォーウッドに話しかけた。
「フォーウッド」
「……」
フォーウッドからの返事はない。
「フォーウッド…、横を見てみろ。彼女はレティアよりも上らしい」
今まで何の反応もなかったフォーウッドがレティアという名前に反応し、ゆっくりと首を横に向けた。
「ひっ!」
レティシアは兄の表情を見て、悲鳴を上げ、体を後ろに仰け反らせた。
なぜなら、先程まで空虚だったフォーウッドの目が獲物を狙うようなギラギラとしたものに変わっていたからだ。
(本当に、お兄様なの!?)
「レティア…」
フォーウッドがレティシアにそっと手枷のついた手を伸ばす。
「いや、来ないで!」
レティシアの悲鳴と同時に、レイブンが目で合図をし、騎士をレティシアの横と後ろに立たせた。
「レティア、どうして、僕から逃げるんだ? 君のせいで、僕がどんな目にあったかわかってるのか…?」
「お兄様! しっかりして! 私はレティアじゃないわ!」
「嘘をつくな! お前はレティアだ! レティシアはそんな髪型は貧乏人みたいだから嫌だと言ってしなかったんだ!」
「違うわ、お兄様! これはレイブン様にお願いされて!」
「嘘をつくなあぁぁぁ!!」
フォーウッドは手枷をされたままの手を前に突き出し、レティシアの体を何とかつかもうとしながら叫ぶ。
「僕が、どんな思いでお前を探していたんだと思うんだ! そんな事も知らずに、お前はレイブンなんかと!!」
「お兄様! 私はレティアではないわ!! しっかりして!」
「嘘をつくなぁぁっ!!」
(お兄様…、完全に頭がおかしくなっている…!)
「レイブン様! 助けて下さい!」
レティシアは黙って成り行きを見守っているレイブンに向かって叫ぶと、彼は大きな息を吐いてから答える。
「レティアは彼に捕まっていれば、君が受けている様な仕打ちを受けるはずだったんだ。君はレティアよりも上なんだろう? 彼女が耐えられない事でも耐えられるんじゃないのか?」
「そんなっ…、そういう意味では!」
「ああああああ!! レティア! どうしてあげよう。逃げられないように、足を切り落としてあげようか…!」
「やめて! やめて、お兄様!!」
目を充血させ、自分の体に触れてこようとするフォーウッドを見たレティシアはまるで、兄が獣の様に思えた。
「ああ、レティア、可愛いよ…。俺の可愛いレティアァァ!!」
「いやあっ…! 無理です! 助けて! ごめんなさい! ごめんなさい!」
レティシアが泣き叫んだ時、レイブンが立ち上がって騎士に叫んだ。
「止めさせろ!」
その瞬間、騎士が動き、レティシアからフォーウッドを離させた。
「怖い思いをさせて悪かった。だけど、君達がやろうとしていた事は、こんな恐ろしい事だったって事を、少しでもわかってくれたらと思う」
レイブンはレティシアに向かってそう言うと、騎士を促し、フォーウッドを立ち上がらせ、呆然としたままのレティシアを残し、騎士やフォーウッドと共に部屋から出て行った。
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