【完結】もう二度とあなたを選ぶことはありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
7 / 28

7  彼らの願いは叶わない ①(アリアナ死後〜流星群の日まで)

しおりを挟む
※アリアナがいませんので、三人称に変更しています。


 アリアナの最後の抵抗は、傷跡を残すことだった。目を攻撃されれば、訓練されていない限り、気が削がれて力が弱まると思っていたが、ガンチャの執念が勝り、残念な結果となった。
 それでも、アリアナに片目を攻撃されたガンチャは、白目部分が真っ赤になり、眼帯姿で多くの人の前に姿を見せなければならなくなった。
 ものもらいができからと言って誤魔化すと、多くの人は信じたが、アリアナの家族やアルフたちは、何かあったのではないかと疑った。
 アリアナの性格ならば無抵抗で殺されるはずがない。彼女のことをよく知る人間たちはそう考えたのだ。

 アリアナの葬儀はウロイカ邸近くの教会で行われたが、その日は葬儀に参列した人の表情とは裏腹に、空は晴れ渡っていた。

「僕がアリアナを大事にしていたことは知っているよね」


 色とりどりの花に囲まれ、棺に眠るアリアナに献花を供えたアルフは、ガンチャに尋ねた。ガンチャは、憔悴しきった表情でうなずく。

「も……、もちろんです」
「それなのにこんな結果? 僕のことがなくても自分の妻だろう。妻一人も守れないのに辺境を守れると思っているのか?」
「も、申し訳ございません」

 喪服に身を包んだガンチャは、隣に立つロビンと母親と共に何度も頭を下げた。

 ガンチャとアルフは古くからの知り合いではあるが、仲が良いわけではない。アリアナがガンチャのことを好きだったから、アルフも彼を気にかけていただけだった。
 辺境伯になった今でも公爵令息のアルフに、ガンチャは頭が上がらない。いつかは彼が自分よりも上の爵位を継ぐことになるというのもあるが、レイネの夫である、レタ・キマコマ公爵とアルフはプライベートで仲が良かった。

 下手なことをして、キマコマ公爵に話が行き、レイネに嫌われたくない。そう思ったガンチャは、余計にアルフに強く出ることはできなかった。

「真実は自首した使用人から聞かせてもらう」

 そう言ってガンチャに背を向け、アリアナの元に向かうアルフを目で追うと、そこには1輪の花を持って棺に顔を向けている女性がいた。
 黒のショールで顔が覆われているが、ガンチャにはその女性がレイネだとすぐにわかった。

 献花を終え、アルフと会話を始めたレイネの元に、ガンチャは大股で近づいて話しかける。

「キマコマ公爵夫人、本日はお越しいただきありがとうございます」
「この度はご愁傷さまです」
「顔色が良くないようです。よろしければ、少し休んでいかれてはどうですか」
「お気遣いには感謝いたしますが結構ですわ」

 レイネは拒絶するように、ガンチャから目を逸らして答えた。
 
「そ、そうですか」

 残念そうにするガンチャに、アルフが声を掛ける。

「ここにいる必要はないだろう。戻ればいい」
「は、はい……」

 ガンチャは大人しくうなずき、親族者用の席に戻っていく。すると、声を震わせてレイネが話し始める。

「アルフレッド様……、もしかしたら……っ、ウロイカ辺境伯夫人は、こ、ころ……」
「ど、どうしたんだ?」
「ああ。どうしたらいいのでしょうか! わたくしのせいなの?」

 様子がおかしいので、アルフはレイネを外へ連れ出し、近くにあった白いベンチに座らせた。すると、レイネが立ったままのアルフを涙目で見上げる。

「このお話は、勘違いかと思って夫以外には誰にもしていませんが聞いていただけますか」
「どんな話だ?」
「ウロイカ辺境伯夫人は、辺境伯に殺されたのではないでしょうか」
「なぜそう思う?」

 緊迫した内容なだけに、アルフはレイネの隣に座って尋ねた。

「ウロイカ辺境伯は昔、私に付きまとい行為をしていたのです」
「付きまとい行為?」
「はい。マナー講師の先生がたまたま同じ方だったので、実習として話す機会があったのです。その時、先生に怒られている彼を庇ってから、ウロイカ辺境伯は私が彼に好意があると勘違いしたのです」
 
 そう言って、レイネはガンチャが自分にどんな風に話しかけてきたのか、アルフに詳しい話をした。


 
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

あなたに恋した私はもういない

梅雨の人
恋愛
僕はある日、一目で君に恋に落ちてしまった。 ずっと僕は君に恋をする。 なのに、君はもう、僕に振り向いてはくれないのだろうか――。 婚約してからあなたに恋をするようになりました。 でも、私は、あなたのことをもう振り返らない――。

【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』

恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り リリアーナ・レーヴェン(17) 容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる 完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢” エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生 ユリウス・エルンスト(17) 誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“ 祖父たちが、親しい学友であった縁から エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに 5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。 果たして、この婚約は”政略“なのか? 幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー 今日もリリアーナの胸はざわつく… 🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...