謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?

風見ゆうみ

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「イザメル・ロードウェルの昔の姓はザーター。伯爵の爵位をもらう際に、ロードウェルの姓をもらってる。メガイクス・ザーターは彼女の兄だ」
「メガイクス…」

 閣下に教えてもらった後、私は小さく、あの男の名を呟いた。

 この名前を忘れるわけがない。
 お祖父様とお祖母様を使い捨てにして殺した上に、私達を迫害しようとした男の名前なんだから。

 閣下の真後ろに立っているイザメル様を見上げて尋ねる。

「私が2人の孫だとわかっていて、結婚を認めたんですか…」
「そうよ。近くに置けば、あなたを存分にいたぶってやれるから。大体、そういう家系なのでしょう?」
「……そういう、家系?」

 高級レストランで取り乱すわけにはいかない。
 他の人の迷惑になるし、何より閣下の迷惑になる。
 だから、我慢しようと思った。

「私は魔法使いなんて得体のしれない人間は大嫌いだったのよ。だから、兄に頼んで、あなたの祖父母を最前線に行かせた。そうしたら、国を守るためになんて命を差し出したわ。とんだマゾ気質じゃないの! 国のため!? それで死ぬだなんてバカだわ! 本当に滑稽」

 イザメル様の言葉に怒りが頂点に達して、立ち上がった時だった。

「夫人、あなたには僕が見えないのか」

 静かに冷ややかな声で、閣下が顔はこちらに向けたままでイザメル様に言った。
 
「なんですって!?」
「ここがどこかわかっていないようだな」

 ゆっくりと閣下がイザメル様の方に振り返る。

「あ、あなたは!」
「あなたが馬鹿にしている二人は、僕の両親にとって大事な人だった。そして僕にとっても」

 閣下は座ったまま話を続ける。

「あと、あなたやロードウェル伯爵は彼女の良さがわからなかった様だが、僕はあなた達と違って見る目がある。だから、エアリスは僕がもらう」
「な、何を…何を言ってらっしゃるんですか? 彼女は魔法使いの子孫なのですよ!?」

 イザメル様はブルブルと怒りに震えながら閣下に尋ねる。

「それがどうした。僕は彼女の祖父母を尊敬していた。もちろん、今もな」

 完全にイザメル様の方に顔を向けてしまったため、私から閣下の表情は見えなかったけれど、イザメル様や、彼女を連れてきたネル様は青ざめた表情で俯いている。

「おい。ご婦人方の気分が優れないみたいだが?」

 イザメル様達のテーブルに付くはずだったウェイターに閣下が声を掛けると、すぐに対応する。

「休憩室がございますので、ご案内いたしましょう」
「け、結構ですわ! 本日は帰らせていただきます! 皆さん、帰りましょう!」

 イザメル様がネル様達に声を掛けるけれど、彼女達は、首を横に振った。

「私達は残るわ」
「そうね、せっかく来たんだもの。あなただけ帰ったら良いと思うわ」

 そう言うと、ご婦人方はイザメル様を無惨にも切り捨てるようにして、背を向け、ウェイターに声を掛ける。

「食事をして帰るわ。一人分減ったけれど」
「承知いたしました」

 見捨てられたイザメル様は怒りで顔を真っ赤にして、ご婦人方を睨んでいたけれど、すぐにくるりと踵を返して店を出て行った。
 彼女が出ていって少しすると、私も気が抜けて、すとんと椅子に腰を下ろした。

「よく我慢した」
「我慢はできていません。閣下の発言がもう少し遅ければ、何か叫んでいたと思います」

 褒めてくれた閣下に頭を下げる。

「ありがとうございました、閣下」
「エドだ」
「はい?」
「君は幼い頃、僕の事をエドと呼んでいた」
「幼い頃の話ですよね?」
「思い出せないなら、今からそう呼ぶといい」

 強引な人だけど公爵閣下だし、私にしてみれば、かなりの偉い人だから、命令されたと受け取っておく。

「承知しました、エド様」
「エド」
「だから、そう呼びましたが」
「君の言い方だと、エド様様になるが?」
「様は敬称ですよ」
「敬称はいらない。君は僕の妻になってもらうから」
「はい?」

 真剣な表情の彼に聞き返した。

 この公爵閣下、まともなのか、ちょっと変わってるのかどっちなの?

 ああ、でも、祖父母を尊敬してるって言ってくれた人だもの。
 信用しないと駄目なの?
 もうこうなったら、前向き前向きよ!
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