10 / 45
4−2
しおりを挟む
「イザメル・ロードウェルの昔の姓はザーター。伯爵の爵位をもらう際に、ロードウェルの姓をもらってる。メガイクス・ザーターは彼女の兄だ」
「メガイクス…」
閣下に教えてもらった後、私は小さく、あの男の名を呟いた。
この名前を忘れるわけがない。
お祖父様とお祖母様を使い捨てにして殺した上に、私達を迫害しようとした男の名前なんだから。
閣下の真後ろに立っているイザメル様を見上げて尋ねる。
「私が2人の孫だとわかっていて、結婚を認めたんですか…」
「そうよ。近くに置けば、あなたを存分にいたぶってやれるから。大体、そういう家系なのでしょう?」
「……そういう、家系?」
高級レストランで取り乱すわけにはいかない。
他の人の迷惑になるし、何より閣下の迷惑になる。
だから、我慢しようと思った。
「私は魔法使いなんて得体のしれない人間は大嫌いだったのよ。だから、兄に頼んで、あなたの祖父母を最前線に行かせた。そうしたら、国を守るためになんて命を差し出したわ。とんだマゾ気質じゃないの! 国のため!? それで死ぬだなんてバカだわ! 本当に滑稽」
イザメル様の言葉に怒りが頂点に達して、立ち上がった時だった。
「夫人、あなたには僕が見えないのか」
静かに冷ややかな声で、閣下が顔はこちらに向けたままでイザメル様に言った。
「なんですって!?」
「ここがどこかわかっていないようだな」
ゆっくりと閣下がイザメル様の方に振り返る。
「あ、あなたは!」
「あなたが馬鹿にしている二人は、僕の両親にとって大事な人だった。そして僕にとっても」
閣下は座ったまま話を続ける。
「あと、あなたやロードウェル伯爵は彼女の良さがわからなかった様だが、僕はあなた達と違って見る目がある。だから、エアリスは僕がもらう」
「な、何を…何を言ってらっしゃるんですか? 彼女は魔法使いの子孫なのですよ!?」
イザメル様はブルブルと怒りに震えながら閣下に尋ねる。
「それがどうした。僕は彼女の祖父母を尊敬していた。もちろん、今もな」
完全にイザメル様の方に顔を向けてしまったため、私から閣下の表情は見えなかったけれど、イザメル様や、彼女を連れてきたネル様は青ざめた表情で俯いている。
「おい。ご婦人方の気分が優れないみたいだが?」
イザメル様達のテーブルに付くはずだったウェイターに閣下が声を掛けると、すぐに対応する。
「休憩室がございますので、ご案内いたしましょう」
「け、結構ですわ! 本日は帰らせていただきます! 皆さん、帰りましょう!」
イザメル様がネル様達に声を掛けるけれど、彼女達は、首を横に振った。
「私達は残るわ」
「そうね、せっかく来たんだもの。あなただけ帰ったら良いと思うわ」
そう言うと、ご婦人方はイザメル様を無惨にも切り捨てるようにして、背を向け、ウェイターに声を掛ける。
「食事をして帰るわ。一人分減ったけれど」
「承知いたしました」
見捨てられたイザメル様は怒りで顔を真っ赤にして、ご婦人方を睨んでいたけれど、すぐにくるりと踵を返して店を出て行った。
彼女が出ていって少しすると、私も気が抜けて、すとんと椅子に腰を下ろした。
「よく我慢した」
「我慢はできていません。閣下の発言がもう少し遅ければ、何か叫んでいたと思います」
褒めてくれた閣下に頭を下げる。
「ありがとうございました、閣下」
「エドだ」
「はい?」
「君は幼い頃、僕の事をエドと呼んでいた」
「幼い頃の話ですよね?」
「思い出せないなら、今からそう呼ぶといい」
強引な人だけど公爵閣下だし、私にしてみれば、かなりの偉い人だから、命令されたと受け取っておく。
「承知しました、エド様」
「エド」
「だから、そう呼びましたが」
「君の言い方だと、エド様様になるが?」
「様は敬称ですよ」
「敬称はいらない。君は僕の妻になってもらうから」
「はい?」
真剣な表情の彼に聞き返した。
この公爵閣下、まともなのか、ちょっと変わってるのかどっちなの?
ああ、でも、祖父母を尊敬してるって言ってくれた人だもの。
信用しないと駄目なの?
もうこうなったら、前向き前向きよ!
「メガイクス…」
閣下に教えてもらった後、私は小さく、あの男の名を呟いた。
この名前を忘れるわけがない。
お祖父様とお祖母様を使い捨てにして殺した上に、私達を迫害しようとした男の名前なんだから。
閣下の真後ろに立っているイザメル様を見上げて尋ねる。
「私が2人の孫だとわかっていて、結婚を認めたんですか…」
「そうよ。近くに置けば、あなたを存分にいたぶってやれるから。大体、そういう家系なのでしょう?」
「……そういう、家系?」
高級レストランで取り乱すわけにはいかない。
他の人の迷惑になるし、何より閣下の迷惑になる。
だから、我慢しようと思った。
「私は魔法使いなんて得体のしれない人間は大嫌いだったのよ。だから、兄に頼んで、あなたの祖父母を最前線に行かせた。そうしたら、国を守るためになんて命を差し出したわ。とんだマゾ気質じゃないの! 国のため!? それで死ぬだなんてバカだわ! 本当に滑稽」
イザメル様の言葉に怒りが頂点に達して、立ち上がった時だった。
「夫人、あなたには僕が見えないのか」
静かに冷ややかな声で、閣下が顔はこちらに向けたままでイザメル様に言った。
「なんですって!?」
「ここがどこかわかっていないようだな」
ゆっくりと閣下がイザメル様の方に振り返る。
「あ、あなたは!」
「あなたが馬鹿にしている二人は、僕の両親にとって大事な人だった。そして僕にとっても」
閣下は座ったまま話を続ける。
「あと、あなたやロードウェル伯爵は彼女の良さがわからなかった様だが、僕はあなた達と違って見る目がある。だから、エアリスは僕がもらう」
「な、何を…何を言ってらっしゃるんですか? 彼女は魔法使いの子孫なのですよ!?」
イザメル様はブルブルと怒りに震えながら閣下に尋ねる。
「それがどうした。僕は彼女の祖父母を尊敬していた。もちろん、今もな」
完全にイザメル様の方に顔を向けてしまったため、私から閣下の表情は見えなかったけれど、イザメル様や、彼女を連れてきたネル様は青ざめた表情で俯いている。
「おい。ご婦人方の気分が優れないみたいだが?」
イザメル様達のテーブルに付くはずだったウェイターに閣下が声を掛けると、すぐに対応する。
「休憩室がございますので、ご案内いたしましょう」
「け、結構ですわ! 本日は帰らせていただきます! 皆さん、帰りましょう!」
イザメル様がネル様達に声を掛けるけれど、彼女達は、首を横に振った。
「私達は残るわ」
「そうね、せっかく来たんだもの。あなただけ帰ったら良いと思うわ」
そう言うと、ご婦人方はイザメル様を無惨にも切り捨てるようにして、背を向け、ウェイターに声を掛ける。
「食事をして帰るわ。一人分減ったけれど」
「承知いたしました」
見捨てられたイザメル様は怒りで顔を真っ赤にして、ご婦人方を睨んでいたけれど、すぐにくるりと踵を返して店を出て行った。
彼女が出ていって少しすると、私も気が抜けて、すとんと椅子に腰を下ろした。
「よく我慢した」
「我慢はできていません。閣下の発言がもう少し遅ければ、何か叫んでいたと思います」
褒めてくれた閣下に頭を下げる。
「ありがとうございました、閣下」
「エドだ」
「はい?」
「君は幼い頃、僕の事をエドと呼んでいた」
「幼い頃の話ですよね?」
「思い出せないなら、今からそう呼ぶといい」
強引な人だけど公爵閣下だし、私にしてみれば、かなりの偉い人だから、命令されたと受け取っておく。
「承知しました、エド様」
「エド」
「だから、そう呼びましたが」
「君の言い方だと、エド様様になるが?」
「様は敬称ですよ」
「敬称はいらない。君は僕の妻になってもらうから」
「はい?」
真剣な表情の彼に聞き返した。
この公爵閣下、まともなのか、ちょっと変わってるのかどっちなの?
ああ、でも、祖父母を尊敬してるって言ってくれた人だもの。
信用しないと駄目なの?
もうこうなったら、前向き前向きよ!
96
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる