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10−2  ロードウェル伯爵家 8−1(オラエル語り)

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 あの日の事は今でも鮮明に思い出せる。
 僕はある日、イザメルにつかまり、狭い部屋の中に閉じ込められた。
 その頃の僕は教員免許は持っていたものの、学園の教師として採用されておらず、家族もいないため、失踪しても探す人間がいなかったから、彼女のターゲットにされたのだ。

 イザメルは僕に言った。

『私は魔法使いが大嫌いなの』

 僕は魔法は使えるけれど、補助魔法しか使えない低級の魔法使いだと訴えたが無駄だった。

 痛い事をされるのは嫌だった。

 だから言ってやった。

『僕よりも高い魔力を持った人間がいる』
 
『あまり興味ないわね』
 
 何人かの名前を上げたが、彼女はあまり興味を示さなかった。
 けれど、一人の名前に反応した。
 それがエアリスだった。
 彼女自身からは溢れ出る魔力を感じた事はなかったけれど、祖父母が有名なため、食いつくかと思ったら、思った以上に食い付いてくれた。

『彼女を連れてきて』

『無理です。失踪なんて事になったら、捜索願いが出されますよ』

『あなたが捕まればいいじゃない』

『僕が捕まれば、あなたの事を全部話します!』

『じゃあ、あなたを今すぐ口封じに殺すしかないわね?』

『僕の話を聞いて下さい! すぐには無理ですが、良い案があります』

 そして、僕はエアリスをイザメルの元へと連れて行く方法を考えた。
 最終的に思いついたのが、彼女をロードウェル家に嫁がせる事が、家族から離れさせ、なおかつ、イザメルの手元における良い理由だと思った。

 その頃のエアリスはまだ14歳だったから、時間がかかる事は不満だったようだが、イザメルは僕を監視付きではあるが逃してくれた。
 そして、僕は学園に就職し、オルザベートに出会った。

 彼女はエアリスに近付こうとしている僕を嫌っていたみたいだったけど、僕は彼女がエアリスに執着している事に気が付き、思い付いた事を話した。
 
『ロンバートとエアリスを結婚させる事を手伝ってくれたら、エアリスが結婚してからも君が彼女と一緒に入れるように取りはかろう』

 最初は疑っていた彼女だったけれど、僕がエアリスに魅了魔法をかけ、オルザベートと仲良くするようにさせると、彼女は僕を信じ始めた。
 しかし、なぜか魅了魔法は次の日には解除されているという日々が続いた。
 オルザベートからエアリスが彼女の祖父母からネックレスをもらったという話を聞いていたので、もしかすると、それに原因があるのではないかと気が付いた僕は、オルザベートに頼んだ。

『エアリスの祖父母の形見を持ってくる事は出来る? そうすれば君は、もっとエアリスの近くにいれるようになるよ』

 彼女はその形見を何度か見たことがあると言っていたので、特徴を聞いてレプリカを作り、見抜かれないように魔法をかけた。
 それを渡すと、何日か後には入れ替えて持ってきてくれた。
 僕の魔力には反応しないけれど、明らかに魔法の力を感じた。
 それと同時に、エアリスにかけた僕の魔法が解けなくなった。

 順調に行くかと思われたけれど、邪魔をする人間がいた。
 ディラン・ミーグスだった。
 彼はエアリスの魅了魔法に気付き、勝手に解除をした。
 忘却魔法に関しては、解除をするとエアリス自身がかけた忘却魔法まで解除してしまう恐れがあるためか、解除しなかったようだ。
 幸いだったのが、彼が興味を持つ相手が、基本はミゼライトだけだった事だ。
 エアリスとミゼライトが仲が良かったため、エアリスがミーグスに近づく度に、魅了魔法に気が付いたようだったが、エアリスに忠告するまでは至らなかった様だった。
 しかし、僕への警告はあった。

 わざとエアリスの魔法を解除せず、僕に行き着くまで泳がせ、そして、彼は僕を見つけると、脅しをかけてきた。

『魅了魔法だなんてものをエアリスに使うな』

 と言われた。
 そのせいで一時期、エアリスに魅了魔法をかけられずに苦労した。
 最終学年になると、就職に向けての活動が盛んになるため、ミーグスは学園に来る事が少なくなり、そのおかげで、ロンバートとエアリスの話を進める事が出来た。

 そして、その頃には、僕とオルザベー卜は恋仲になっていた。
 というよりか、僕がいつの間にか、オルザベートにのめり込んでいたのだ。
 ロンバートからエアリスとのデート場所を聞き出し、オルザベートに教えると、それは喜んでくれた。
 その顔が見たくて、僕は頑張った。
 そして、ロンバートとエアリスの結婚をいち早くすすめようと思った。
 イザメルの命令でもあったが、エアリスが結婚すれば、オルザベートは彼女を忘れ、僕を見てくれると思ったのに、なんと、オルザベートはイザメルと手を組んでしまったのだ。
 エアリスとロンバートが結婚してからは、僕は、この部屋から外に出られなくなった。
 でも、オルザベートが会いに来てくれる、それだけで心が保てていた。


 そんな事を考えていた時だった。
 オルザベートが僕に会いにやって来た。

「先生、ミゼライトさんを殺してくれる気になりました?」
「…む、無理だよ。彼女に手を出せば、ミーグスが出てくる」
「先生がやっただなんてわかりませんよ。ねぇ、先生、ミゼライトを殺してくれれば、私、先生の言う事、なんでもきいちゃうかも」

 ベッドに座っていた僕の横に座り、オルザベートがすり寄ってくる。
 ごくりと生唾を飲み込んだと同時、何の合図もなく、部屋の扉が開かれた。

「やあ、お邪魔だったかな」

 扉を開けたのは、見覚えのある人物、ディラン・ミーグスだった。
 そして、その後ろには、怒りを押し殺した表情のエドワード・カイジスが立っていた。
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