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10−3  ロードウェル伯爵家 8−2(オルザベート視点)

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「どうして、あなた達がここに!」

 ディランとエドワードの姿を見たオルザベートは焦った表情で叫んだが、すぐになぜか笑顔になって、エドワードに向かって聞いた。

「あなたが来ているという事は、エアリスも来ているんですね!?」
「ああ。来てるよ。だけど、君は彼女に会う事は出来ない」
「ど、どうしてですか…」

 人一人分しか通れない小さな扉の前に、男性二人が立っているせいで、オルザベートは部屋を出ていく事が出来ず、イライラする。

(ああ、エアリスに早く会いたい! エアリスも私に会いたいはず! 早く会いに行ってあげないと!)

「エアリスは君に会いたくないそうだ」

 そんなオルザベートの心を読み取ったかの様に、エドワードが言った。

(嘘よ、そんなの。私にエアリスをとられたくないからそんな事を言うんだわ!)

「エアリスの口から聞くまでは信じられないです。彼女に会わせて下さい」
「無理だと言っているだろう。君はもう二度とエアリスには会えない」
「そ…、そんな事をしたら、エアリスが死んでしまいますよ?」
「エアリスが死ぬ? どうしてだ?」
「エアリスには私の様な友達が、いえ、私が必要なんです! 私だったら一生、彼女を裏切らずに一緒にいてあげられます!」
「彼女を裏切らない?」

 エドワードはベッドの前に立っていたオルザベートの前まで行き、彼女を見下ろしながら続ける。

「ロードウェル伯爵を寝取ったことは裏切りにはならないのか?」
「それはエアリスに目を覚ましてもらうためです。私の裏切りではありません。ロンバートの裏切りです。ロンバートが私の誘惑に負けなければ何もありませんでした」
「ロンバートを寝取った…って、どういう事だい?」

 オラエルはロンバートとオルザベートの仲を知らなかったらしく、立ち上がって、彼女の肩をつかんで叫ぶ。

「あなたには後でゆっくり話すわ。それよりも、今はエアリスよ!」
「そんな暇はないと思うけど、まあいい。まずは、ディランの用件から済ませるか」
「僕はいいよ。今回の僕の役目は、そこの魔法使いの動きを止めるためだから」

 ディランは整った顔に笑みを浮かべると続ける。

「ビアラを殺せと言われたみたいだけど、彼は断ったようだし優しくしてやれるけど、トゥッチ嬢には優しくできそうにないんだ」

 ディランはオラエルに近付き、問答無用でベッドにおさえつけると、後は任せると言わんばかりに、エドワードを見た。

「それは僕もだ。トゥッチ嬢、よくも僕のありもしない噂をエアリスに吹き込んでくれたな」
「な、なんの事ですか…」
「君が考えた噂だろう? 君が一番わかってるはずだ」
「なんの事かわかりませんけど、もう時効なんじゃないですか? 私だって覚えていませんから、無実の証明をしたくても出来ません!」

 オルザベートが叫ぶと、エドワードは氷のような冷たい笑みを浮かべて答える。

「そうだな。証明は出来ないが、僕は君で間違いないと思っている。だけど、罪としては裁けない。だから、僕なりのやり方で罰を与えさせてもらう」
「…何を…」

(なんて恐ろしい笑みを浮かべるのよ。エアリスはこんな殺人鬼みたいな男のどこが良かったの!?)

「エアリスに君を忘れる忘却魔法をかけてもらう事にする」
「…は?」
「君みたいな毒にしかならない友人は、エアリスには必要ない。だから忘れてもらう」
「そんな! あなたにそんな権利あるわけ」
「黙れ。本当なら僕は今すぐにでも君を処刑したいくらいに腹を立ててるんだ。僕を殺そうとした事はまだ許せても、エアリスの心を傷付けた事は許せない」

 エドワードがオルザベートの首を片手でつかんで軽く締め上げる。

(何なのこいつ。イカれてるわ!)

 オルザベートは自分の事は棚に上げて、心の中で叫んだ。

「エドワード、落ち着きなよ。彼女のお腹には子供がいるんでしょ?」
「子供?」

 ディランの言葉にオラエルが反応するが、オルザベートは気にしない。

「私を忘れさせようとしたなんて知ったら、エアリスはあなたを嫌うわよ!」
「そんな事はない。それに、もしそうだとしても、そんな事をしただなんて、彼女にバレなければいいんだから」
「忘却魔法だなんて、そんな事をできる人が…」

 そこまで言って、オルザベートはディランの方を見る。

(そうだわ。この人は魔法が使えるのよ…)

 ディランはオルザベートの心を読み取ったかのように、ひらひらと手を横に振った。

「嫌よ、エアリスが私を忘れるだなんて…。エアリスがいなかったら、私はどうなるのよ!?」
「そんな事、僕の知った事ではない」

 エドワードは冷たく言い放つと、ディランの方を見る。
 ディランは、オラエルをつかんでいた手をはなし、エドワードより先に部屋を出ていく。

「トゥッチ嬢。さすがにこの部屋は二人で暮らすには狭いだろうから、場所は移してやる。エアリスは君を忘れるのだから、君に会いに来る事もないし、君は自由に動けないから、二度とエアリスに会う事は出来ない」
「嫌よ!」

 オルザベートがエドワードに飛びかかろうとしたが、彼は素早く部屋の外に出て、外から閂型の鍵を締めた。

「嫌よ! 嫌! 開けて! 開けて下さい! お願いします!」

 オルザベートは扉を叩いて叫ぶ。

(エアリス、謝らないといけない事は謝るわ! だから、お願い私を助けて! あなたに会えなくなるなんて、そんなの絶対に嫌よ!)

 オルザベートは何度も何度も心の中で、エアリスの名を呼んだ。
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