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18-2 娘の婚約者(三人称一元視点)
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「お母様、聞いて下さい!」
ミリエルがジェラルドと共に屋敷を出ていくのを見送ると、レジーノはエントランスホールで、ひとしきりメイドや執事達に当たり散らしたが、怒りがおさまらずに母の所へ向かった。
「お母様、大変です!」
「どうしたの、騒がしいわね」
「ミリーが婚約者と出かけてしまったんです! お茶会には出席しないって!」
「何ですって!? どういうこと!?」
「今日は婚約者と出かける約束をしていたみたいなんです!」
「ああ、まったく! あなたが謹慎なんてされてなければ、もっと早くに茶会を開けていたのに! で、どこの誰なの、私の計画を邪魔した人間は!? 痛い目にあわせてやるわ!」
自室のソファーに座り、くつろいでいたセイは、レジーノを見上げて尋ねた。
「そ、それが……」
「どうしたの、レジーノ?」
「ミリーの相手なんですが……」
レジーノは悔しそうに唇を噛んで言い淀む。
「何よ、名前もわからないような相手なの? 侯爵家に喧嘩を売ってくるだなんて思い知らせてやらないといけないんだから、何とか思い出しなさい?」
「違うんです! 手を出せない相手だから言えないんです!」
「……どういうことなの?」
セイが聞き返すと、レジーノは両拳を握りしめ、悔しそうに叫ぶ。
「ミリーはテインよりも良い人を婚約者にしてたんです! しかも、お父様にも知らせずに!」
「少し落ち着きなさい。相手が誰だか言ってくれないとわからないわ」
窘められたレジーノだったが、彼女は落ち着く様子もなく叫ぶ。
「悔しい! テインがあんなことになったのは、全部、ミリーのせいだったんだわ!」
「レジーノ、あなた、さっきから何が言いたいのかさっぱりわからないわ!」
セイがお手上げのポーズをとった時、扉が叩かれ、メイドがセイに来客を告げた。
お茶会の時間には早い時間であったが、相手がイアーラだと聞いて、セイは彼女を応接ではなく、自分の部屋に招き入れることにした。
レジーノは部屋に戻らせようと思ったが、イアーラはレジーノにも話があると言うので、同席させてイアーラを迎えた。
「おはようございます、イアーラ様。お早いお着きですわね」
「あなた、よくもそんなに呑気にしていられるわね!」
イアーラは叫ぶと、呆然と立ち尽くしているセイとレジーノを睨む。
「自分の娘が誰と婚約者しているのかさえも知らないだなんて!」
「……何の話でしょうか…?」
セイが困惑していると、レジーノが言う。
「お母様! ミリーの婚約者はジェラルド様だったんです!」
「ジェラルド様……? ジェラルド様って……、まさか……!」
セイが大きな声を上げると、イアーラも負けじと大きな声を出す。
「そうよ! あの女の息子よ! 忌々しい! せっかく幸せになれると思ったのに、あいつはいつまでも邪魔をしてきて!」
「でも、どうして、ジェラルド様とミリエルが……? 二人に接点なんてないはずでは!?」
「あなたの主人の愛人が生んだ子のせいよ!」
イアーラが言った意味がわからず、セイ達は首を傾げる。
「ど、どういうことですか?」
「あなたが愛人の子を虐待したせいで、愛人の子は集団カウンセラーに通ってたのよ! そこで、ジェラルドに会ったの!」
「ということは、ジェラルド様も……?」
「ジェラルドはあの女と違って、立ち直りが早くて、立ち直れたという成功例として、その集まりに参加していたみたい」
セイに聞き返されたことには答えず、イアーラはセイを指差して叫ぶ。
「どうにかしなさい! あなたがあんな馬鹿なことをするから!」
「愛人をいつまでも可愛がる主人が悪いんです! 私は悪くありません!」
喧嘩を始めたセイとイアーラを見つめ、レジーノは少し考えてから口を開く。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「……何なの、レジーノ!」
「くだらない話なら容赦しないわよ」
母と公爵夫人から睨みつけられたレジーノは怯えながらも、自分の考えを口にする。
「結局、悪いのはお父様とミリーではないでしょうか。ジェラルド様との婚約をお父様が知らないのは無責任ですし、それを隠していたミリーも悪いです」
「……そうね、ミリエルのくせに生意気だわ。そうよ、私達を馬鹿にするために隠していたのね……! 帰ってきたらただじゃおかないわ!」
セイが言うと、イアーラも頷く。
「徹底的に罰を与えるべきだわ! 親に反抗したらこうなるのだと、鞭打くらいしてやればいいのよ!」
「そうですわね! しっかり口止めして、久しぶりに痛い目にあわせてやらないと」
「あ、あの、お母様」
そんなことをしたら、ジェラルドに知られてしまうと伝えようとしたレジーノだったが、二人の剣幕におされてしまい無理だった。
(まあ、怒られるのは私じゃないし、いいわよね。それよりも、どうしたら、ジェラルド様を私のものに出来るのかしら? 媚薬みたいなものが存在してくれたら簡単なのに! ミリーにはジェラルド様はもったいなさすぎるわ!)
「まずは、この苛立ちをセファ伯爵夫人にぶつけないといけないわね」
そう呟いたセイだったが、ジェラルドとソルトに先手を打たれていることなど、思いもしていなかった。
ミリエルがジェラルドと共に屋敷を出ていくのを見送ると、レジーノはエントランスホールで、ひとしきりメイドや執事達に当たり散らしたが、怒りがおさまらずに母の所へ向かった。
「お母様、大変です!」
「どうしたの、騒がしいわね」
「ミリーが婚約者と出かけてしまったんです! お茶会には出席しないって!」
「何ですって!? どういうこと!?」
「今日は婚約者と出かける約束をしていたみたいなんです!」
「ああ、まったく! あなたが謹慎なんてされてなければ、もっと早くに茶会を開けていたのに! で、どこの誰なの、私の計画を邪魔した人間は!? 痛い目にあわせてやるわ!」
自室のソファーに座り、くつろいでいたセイは、レジーノを見上げて尋ねた。
「そ、それが……」
「どうしたの、レジーノ?」
「ミリーの相手なんですが……」
レジーノは悔しそうに唇を噛んで言い淀む。
「何よ、名前もわからないような相手なの? 侯爵家に喧嘩を売ってくるだなんて思い知らせてやらないといけないんだから、何とか思い出しなさい?」
「違うんです! 手を出せない相手だから言えないんです!」
「……どういうことなの?」
セイが聞き返すと、レジーノは両拳を握りしめ、悔しそうに叫ぶ。
「ミリーはテインよりも良い人を婚約者にしてたんです! しかも、お父様にも知らせずに!」
「少し落ち着きなさい。相手が誰だか言ってくれないとわからないわ」
窘められたレジーノだったが、彼女は落ち着く様子もなく叫ぶ。
「悔しい! テインがあんなことになったのは、全部、ミリーのせいだったんだわ!」
「レジーノ、あなた、さっきから何が言いたいのかさっぱりわからないわ!」
セイがお手上げのポーズをとった時、扉が叩かれ、メイドがセイに来客を告げた。
お茶会の時間には早い時間であったが、相手がイアーラだと聞いて、セイは彼女を応接ではなく、自分の部屋に招き入れることにした。
レジーノは部屋に戻らせようと思ったが、イアーラはレジーノにも話があると言うので、同席させてイアーラを迎えた。
「おはようございます、イアーラ様。お早いお着きですわね」
「あなた、よくもそんなに呑気にしていられるわね!」
イアーラは叫ぶと、呆然と立ち尽くしているセイとレジーノを睨む。
「自分の娘が誰と婚約者しているのかさえも知らないだなんて!」
「……何の話でしょうか…?」
セイが困惑していると、レジーノが言う。
「お母様! ミリーの婚約者はジェラルド様だったんです!」
「ジェラルド様……? ジェラルド様って……、まさか……!」
セイが大きな声を上げると、イアーラも負けじと大きな声を出す。
「そうよ! あの女の息子よ! 忌々しい! せっかく幸せになれると思ったのに、あいつはいつまでも邪魔をしてきて!」
「でも、どうして、ジェラルド様とミリエルが……? 二人に接点なんてないはずでは!?」
「あなたの主人の愛人が生んだ子のせいよ!」
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「ど、どういうことですか?」
「あなたが愛人の子を虐待したせいで、愛人の子は集団カウンセラーに通ってたのよ! そこで、ジェラルドに会ったの!」
「ということは、ジェラルド様も……?」
「ジェラルドはあの女と違って、立ち直りが早くて、立ち直れたという成功例として、その集まりに参加していたみたい」
セイに聞き返されたことには答えず、イアーラはセイを指差して叫ぶ。
「どうにかしなさい! あなたがあんな馬鹿なことをするから!」
「愛人をいつまでも可愛がる主人が悪いんです! 私は悪くありません!」
喧嘩を始めたセイとイアーラを見つめ、レジーノは少し考えてから口を開く。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「……何なの、レジーノ!」
「くだらない話なら容赦しないわよ」
母と公爵夫人から睨みつけられたレジーノは怯えながらも、自分の考えを口にする。
「結局、悪いのはお父様とミリーではないでしょうか。ジェラルド様との婚約をお父様が知らないのは無責任ですし、それを隠していたミリーも悪いです」
「……そうね、ミリエルのくせに生意気だわ。そうよ、私達を馬鹿にするために隠していたのね……! 帰ってきたらただじゃおかないわ!」
セイが言うと、イアーラも頷く。
「徹底的に罰を与えるべきだわ! 親に反抗したらこうなるのだと、鞭打くらいしてやればいいのよ!」
「そうですわね! しっかり口止めして、久しぶりに痛い目にあわせてやらないと」
「あ、あの、お母様」
そんなことをしたら、ジェラルドに知られてしまうと伝えようとしたレジーノだったが、二人の剣幕におされてしまい無理だった。
(まあ、怒られるのは私じゃないし、いいわよね。それよりも、どうしたら、ジェラルド様を私のものに出来るのかしら? 媚薬みたいなものが存在してくれたら簡単なのに! ミリーにはジェラルド様はもったいなさすぎるわ!)
「まずは、この苛立ちをセファ伯爵夫人にぶつけないといけないわね」
そう呟いたセイだったが、ジェラルドとソルトに先手を打たれていることなど、思いもしていなかった。
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