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15 思ったよりも元気そうね
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「息子の婚約者を奪うだなんて世間は普通は認めないよ。それにお前は父上にレニス嬢を奪われたあとも、自分の家に父上を置いてやるのか?」
「そんなわけないだろう! 放り出してやる!」
「なら、やっぱり終わりじゃないか。父上がレニス嬢を自分のものにした時点で母上は父上と完全に縁を切るだろう。それに、君の母だって許すはずがない」
「……そうだ。俺の母上はどうしているんだ?」
ジーギス様の問いかけにロード様は答える。
「君の母である、メライラ様は君と同居することに決めたらしい」
「同居だって? じゃあ、母上も僕と一緒に住むのか?」
「そう言ってるだろう。だから、父上はレニス嬢に手を出したくても出せないはずだよ」
「そ、そうか。母上が見張ってくれるのであれば大丈夫だな。でも、母上はどうして僕の見舞いに来てくれないんだ」
表情が見えないからわからないけれど、声だけ聞くと、ジーギス様は落ち込んでいるように聞こえた。
「君がいない家に父上とレニス嬢を二人きりにしたりしたらどうなるかわからないだろう。だから、メライラ様は監視をしてくれてるんだよ。最終的には二人で父上を奪い合うことになるかもしれない」
クラッシュ様を二人で奪い合う?
お姉様がクラッシュ様に本気になりそうなのかしら。
同じ疑問をジーギス様も抱いたようで大きな声を上げる。
「父上を取り合うってどういうことなんだ!? やはり、レニスはもう父上のものになってしまったのか!?」
「そういう意味じゃない。レニス嬢は1人でいるのが嫌なだけで、側に誰かがいてほしいだけだ。父上じゃなければならないというわけではない。メライラ様も自分が捨てられてしまったら行くところがなくなるから必死なだけだろう」
「そ、そんな! そんな心配をしなくても母上の面倒は俺が見るのに!」
ショックを受けた様子に聞こえたけれど、すぐにジーギス様の明るい声が聞こえてくる。
「というか、そのおかげでレニスを奪われずに済むのか!? さすが母上だ。俺のことも考えてくれているんだな!」
実際、メライラ様がどう考えていらっしゃるのかはわからない。
私も何度かお会いしただけで、メライラ様のことを詳しくは知らないから予想がつかない。
ただ、ジーギス様やお姉様と同じで能天気な印象を受けた覚えはある。
それにしても、ジーギス様は思ったよりも元気そうね。
もっと苦しんでいると思ったけれど、回復してきたということかしら。
それとも、お姉様に心配してほしいがために苦しんでいたふりをしていたとかじゃないわよね。
「とにかく、元気そうだから僕は帰る。ここの人にこれ以上迷惑をかけないように、君もさっさと家に帰れよ」
「俺が迷惑をかけるわけがないだろう!」
すでに迷惑をかけているのに、偉そうに言うジーギス様に呆れてしまう。
でも、無事にロード様とジーギス様の面会が終わってホッとした。
「お疲れ様でした」
ジーギス様の監視をしてくれている人に一礼して診療所から出たところで、ロード様を労うと、ロード様は苦笑して首を横に振る。
「僕は大したことはしてないよ。それよりも待たせてごめん。君が僕と一緒に診療所の中に入っていったのを多くの人は見ているから、お見舞いをしたように見せかけることもできたし、今日の仕事は終わりだ。せっかくだし、こっちの街で有名な食べ物でも食べて行かないか? そろそろ腹も減っただろう」
「そう言われてみればそうかもしれません」
今までは緊張していたから何も思わなかったけれど、ホッと一息ついたからか、お腹が急に食べ物を求めている気がした。
朝食は食べてきたけれど、もう時刻は昼を過ぎているから何か口にしたい気持ちになってきた。
毒見役の人も来ているし、食事をしても良いわよね。
「美味しい料理を出してくれるお店を知ってらっしゃるんですか?」
「一応、ここは僕の領地だからな」
「では、お願いします」
「わかった。店はすぐ近くだから歩いて行こうか」
ロード様が笑顔で白手袋をした手を私に差し出してくれた。
「……はい!」
ロード様の手に恐る恐る自分の手をのせると、優しく手を握ってくれた。
こうやって、領地の人に婚約者と仲の良いところを見せるのも処世術なんでしょうね。
こういうことに慣れていない私としては、胸がドキドキして平静を装うのに必死だった。
ロード様が連れて行ってくださったお店は人気のお店で、すでに満席だった。
でも、個室を予約してくださっていたから待つこともなく、この土地ならではの料理に舌鼓を打ったのだった。
ルシエフ邸に帰り着くまでは本当に楽しくて幸せだった。
邸に帰って、メルちゃんとハヤテくんに会えるのも楽しみだし、使用人たちに買ったお土産を見せるのも楽しみだった。
けれど、ルシエフ邸で待っていた来客のせいで、幸せな気持ちは一気に吹き飛んでしまった。
邸に帰ってきた私たちを待っていたのは、ジーギス様のお母様のメライラ様だった。
「そんなわけないだろう! 放り出してやる!」
「なら、やっぱり終わりじゃないか。父上がレニス嬢を自分のものにした時点で母上は父上と完全に縁を切るだろう。それに、君の母だって許すはずがない」
「……そうだ。俺の母上はどうしているんだ?」
ジーギス様の問いかけにロード様は答える。
「君の母である、メライラ様は君と同居することに決めたらしい」
「同居だって? じゃあ、母上も僕と一緒に住むのか?」
「そう言ってるだろう。だから、父上はレニス嬢に手を出したくても出せないはずだよ」
「そ、そうか。母上が見張ってくれるのであれば大丈夫だな。でも、母上はどうして僕の見舞いに来てくれないんだ」
表情が見えないからわからないけれど、声だけ聞くと、ジーギス様は落ち込んでいるように聞こえた。
「君がいない家に父上とレニス嬢を二人きりにしたりしたらどうなるかわからないだろう。だから、メライラ様は監視をしてくれてるんだよ。最終的には二人で父上を奪い合うことになるかもしれない」
クラッシュ様を二人で奪い合う?
お姉様がクラッシュ様に本気になりそうなのかしら。
同じ疑問をジーギス様も抱いたようで大きな声を上げる。
「父上を取り合うってどういうことなんだ!? やはり、レニスはもう父上のものになってしまったのか!?」
「そういう意味じゃない。レニス嬢は1人でいるのが嫌なだけで、側に誰かがいてほしいだけだ。父上じゃなければならないというわけではない。メライラ様も自分が捨てられてしまったら行くところがなくなるから必死なだけだろう」
「そ、そんな! そんな心配をしなくても母上の面倒は俺が見るのに!」
ショックを受けた様子に聞こえたけれど、すぐにジーギス様の明るい声が聞こえてくる。
「というか、そのおかげでレニスを奪われずに済むのか!? さすが母上だ。俺のことも考えてくれているんだな!」
実際、メライラ様がどう考えていらっしゃるのかはわからない。
私も何度かお会いしただけで、メライラ様のことを詳しくは知らないから予想がつかない。
ただ、ジーギス様やお姉様と同じで能天気な印象を受けた覚えはある。
それにしても、ジーギス様は思ったよりも元気そうね。
もっと苦しんでいると思ったけれど、回復してきたということかしら。
それとも、お姉様に心配してほしいがために苦しんでいたふりをしていたとかじゃないわよね。
「とにかく、元気そうだから僕は帰る。ここの人にこれ以上迷惑をかけないように、君もさっさと家に帰れよ」
「俺が迷惑をかけるわけがないだろう!」
すでに迷惑をかけているのに、偉そうに言うジーギス様に呆れてしまう。
でも、無事にロード様とジーギス様の面会が終わってホッとした。
「お疲れ様でした」
ジーギス様の監視をしてくれている人に一礼して診療所から出たところで、ロード様を労うと、ロード様は苦笑して首を横に振る。
「僕は大したことはしてないよ。それよりも待たせてごめん。君が僕と一緒に診療所の中に入っていったのを多くの人は見ているから、お見舞いをしたように見せかけることもできたし、今日の仕事は終わりだ。せっかくだし、こっちの街で有名な食べ物でも食べて行かないか? そろそろ腹も減っただろう」
「そう言われてみればそうかもしれません」
今までは緊張していたから何も思わなかったけれど、ホッと一息ついたからか、お腹が急に食べ物を求めている気がした。
朝食は食べてきたけれど、もう時刻は昼を過ぎているから何か口にしたい気持ちになってきた。
毒見役の人も来ているし、食事をしても良いわよね。
「美味しい料理を出してくれるお店を知ってらっしゃるんですか?」
「一応、ここは僕の領地だからな」
「では、お願いします」
「わかった。店はすぐ近くだから歩いて行こうか」
ロード様が笑顔で白手袋をした手を私に差し出してくれた。
「……はい!」
ロード様の手に恐る恐る自分の手をのせると、優しく手を握ってくれた。
こうやって、領地の人に婚約者と仲の良いところを見せるのも処世術なんでしょうね。
こういうことに慣れていない私としては、胸がドキドキして平静を装うのに必死だった。
ロード様が連れて行ってくださったお店は人気のお店で、すでに満席だった。
でも、個室を予約してくださっていたから待つこともなく、この土地ならではの料理に舌鼓を打ったのだった。
ルシエフ邸に帰り着くまでは本当に楽しくて幸せだった。
邸に帰って、メルちゃんとハヤテくんに会えるのも楽しみだし、使用人たちに買ったお土産を見せるのも楽しみだった。
けれど、ルシエフ邸で待っていた来客のせいで、幸せな気持ちは一気に吹き飛んでしまった。
邸に帰ってきた私たちを待っていたのは、ジーギス様のお母様のメライラ様だった。
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