その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

文字の大きさ
4 / 31

3   新居の確認

しおりを挟む
 二人が去って行ったあとに、謁見の間にやって来たゼント様の補佐官に、こんなことになった詳しい経緯を聞いてみた。

 まずは、ケイティがゼント様に近づき、ゼント様を自分の虜にした。

 魅了魔法が使われたというわけではなく、純粋にゼント様はケイティを好きになってしまったそうだ。

 そんな彼にケイティは私についての嘘を吹き込み、ゼント様はケイティの言葉を信じて、私を憎むようになったというわけだ。

 ゼント様は『ハニートラップにかかった人間はこのようになります』という例にあげたくなるような人だわ。

 その後、私を処刑するために動き出したゼント様だったけれど、宰相たちに却下された。

 お咎め無しに納得がいかなかったゼント様は、どうしても私に何らかの罰を与えたいと言い出し、最終的に決まったのが、殿下が指定した家で軟禁という処分だった。

 嘘で罰を与えられるなんて最悪だわ。

 学園を卒業し、お父様の仕事を手伝っていたけど、このままでは引き続き、お手伝いすることは無理そうね。

 職場で言えば、閑職に追いやられたというところかしら。

 会議に出席していた人たちが、ゼント様に私がケイティをいじめていた証拠はあるのかと聞くと、ケイティの証言だけで十分だと答えたそうだ。

 バカに権限を持たせると碌なことがないわ。

 お父様以外の他の公爵家の当主様たちが、去り際に改めてゼント様に抗議してくれると言ってくれたけど、それは丁重にお断りして、気持ちだけありがたく受け取っておくことにした。

 ゼント様は無茶苦茶だ。
 彼の思考パターンが読めるようになるまでは、下手に動かないほうが良い。

 私のせいで、公爵家の当主に不利益を与えるわけにはいかない。

 城の敷地内にあるのなら、警備面もしっかりしているでしょうし、住めば都とも言う。

 やる前から文句を言うのは避けたかったし、それはケイティたちを喜ばせるような気がして嫌だった。

 ……というか、それしか選択肢がないのだから、覚悟を決めるしかなかったというのもある。

 
******

 それからは慌ただしく、時間は過ぎていった。

 お父様には家族への報告と、ケイティとの養子縁組の解消の処理を進めてもらう話をして、城内で別れた。

 ケイティは平民になってしまうけど、彼女はそれで良いと言っていたし、周りからの反対が出ても、ゼント様が何とかするでしょう。

 だから、ケイティが可哀想だなんて思わない。

 お父様と別れたあと、私はゼント様の補佐官と一緒に、急遽、住むことになった家がどんなものか確かめに行った。

 その家は城壁のすぐ近くにあり、ゼント様は小屋だと言っていたけれど、実際は違っていた。
 平民が家族と暮らすような大きさの家で、一人で暮らすには、部屋が余ってしまうくらいだ。

 どこをどう見て小屋だと思ったのかしら。
 
 …王城に住んでいる人にすれば、この大きさの家でも小屋という感覚ってこと?

 私の家もかなり大きいけど、一軒家を小屋とは言わない。

 感覚の違いってとこかしら。

 この家は十数年前に、王城のお抱えの医者が住んでいたそうで、彼が亡くなってからは、この家には誰も住んでいないとのことだった。

 木造の2階建てで、長く人が住んでいなかったせいか、ところどころに大きな穴が開いていて、中庭の小動物が出入りしているようだ。

「……家を改築するのは良いのかしら」
「かまいません。大体、この家にソフィア様が住むことも、私を含む多くの人間は賛成していませんから」

 補佐官は眉尻を下げて「殿下を止められずに申し訳ございません」と謝ってくれた。

 悪いのはケイティと王太子殿下、そして、もしいたとするなら、私の処刑を望んだ人たちで、補佐官は責めるべき相手ではないと伝えると、ホッとした表情になった。
 
 家の中に家具は残されていたものの、埃だらけだし傷んでいて使えそうにない。

 お父様に頼んで、業者や公爵家の使用人たちに部屋の中を整えてもらうことにした。

 ……どうせ、やることがないんだから、私もお手伝いはしないといけないわね。

 ゼント様は、この古い家に私を一人で住まわせ、惨めな気分を味あわせたいみたいだけれど、家を改築するなとは言われていない。

 だから、原型は残しつつ、私の住みやすいようにリフォームさせてもらうわ。

 空を見上げると、雲一つ無い青空が広がっている。

 今日が良い天気で良かった。
 雨だったら引っ越しは、晴れの日以上に大変でしょうから。

 色々な人に迷惑をかけるのは申し訳ないけど、この状況を悲しんだら負けよ。

 ケイティ、ゼント様、あなたたちの望むような私の姿は絶対に見せませんからね!
 

*****


 1時間後、使用人たちが続々とやって来て、家の中を片付け始めてくれた。

 侍女が着替えを持ってきてくれたので、ドレスであることに変わりはないけど、比較的動きやすい服に着替えて、私の出来る範囲で手伝っていると、ワイアットが訪ねて来た。

「ソフィー、さっきは大人しく引いてくれてありがとうございます」
「罪は認めませんって言ってしまったけれど、それは良かったかしら」
「かまいません。認めはしないでしょうけど、深く調べられて困るのは向こうのほうですから。王太子殿下もケイティを信じると言っていますが、あなたにきっぱりと否定されて、不安になってきているようですよ」

 ワイアットは普段から誰にでも敬語を使う人で、彼が丁寧な話し方をしない時はキレている時しかない。
 彼は私より一つ年上で長身痩躯で眉目秀麗。

 親しくない人の前では、感情をあまり表に出さないせいか、ケイティが言っていたように、貴族の女性の間では氷の貴公子とも呼ばれている。
 
「処分に文句を言っていたら、さすがに私の命が危なかったかしら」
「あなたの処刑を賛成した人間もいますから、その人たちと一緒にうるさく言ってきたことでしょう」
「それにしても、処刑を望むだなんて、二人は私を殺したいほどに憎んでいると思っておいたほうが良いわよね」
「どうでしょうか。君の元妹や王太子殿下の考えていることはわかりません。処刑という新しい言葉を覚えて、使いたかっただけという可能性もあります」
「冗談よね?」
「冗談を言うタイプに見えますか?」
「見えないわ」

 私が大きく息を吐いてから肩を落とすと、ワイアットは苦笑する。

「そのうち飽きるでしょうから、彼らのことは適当に相手をしておけば良いでしょう。でも、油断はしないでください。ここは城の敷地内ですし、賊に押し入られるという心配はありません。ですが、王太子殿下がわざわざ、この家に住むように指示したということは、何か理由があるのでしょう。警備の人間は必ず付けてください」
「わかっているわ。……そういえば、国王陛下のお体の具合はどうなの? 王太子殿下は何だか不安になるようなことを言ってらしたけれど」
「その件ですが、ここでは話しにくいです。場所を移動することは可能ですか?」
「もちろんよ」

 作業を進めている使用人たちに好きな時に好きなだけ休憩してくれて良いと伝えてから、ワイアットと一緒に城へと続く小道を歩き出した。

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...