その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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20  ケイティの本音 ①

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 ゼント様は自分の発言をなかったことにして叫ぶ。

「貴様に説明してやる義理はない! それよりもケイティを侮辱したことは絶対に許さんからな! 不敬罪だぞ!」
「ケイティは貴族ではありませんので、不敬罪になるのでしょうか」
「うるさい! 絶対に許さんぞ! ジュート、お前もだ!」

 ゼント様は叫んだあと、逃げるようにケイティを追って城へ戻っていく。
 ゼント様の姿が見えなくなってから、私は窓を閉めて、呆気にとられているララベルたちに笑顔で話しかける。

「そうではないかと思っていたけれど、ケイティと殿下には身体のつながりがあるみたいね」
「人前であんなことができるくらいですもの。あってもおかしくないですわね」

 ララベルは、はしたないと言わんばかりに顔を歪めて頷いた。
 部屋に戻って、テーブルの上に置いていた封筒に気づいて、私は大きなため息を吐いた。

 せっかく向こうから来てくれていたのだから、この上書も見せれば良かった。

 私も人のことを馬鹿だなんて言えないわね。

 私から会いに行かなくちゃいけないなんて憂鬱だわ。


*****


 気を取り直して今後のことを話し終えたあとは、ララベル以外は、すぐに帰っていった。
 ララベルは質素な昼食というものが気になるというのと、今日の予定を全部キャンセルしたのだから、ゆっくりしていくと言って残ってくれた。

 だから、ララベルを見送ったあとに、ゼント様の所に上書を持って行くことにした。

 二人でお茶を飲みながら会話をしていると、ララベルが尋ねてきた。

「ねえ、ソフィー、あなた、ワイアットとの婚約はどうなったの?」
「……え!?」
「ワイアットから婚約を申し込まれたのでしょう? ちゃんと正式に返事はしたんですの?」
「それがまだなの。お父様に話をしたら、私の好きなようにしたら良いと言われたのだけど、今はそれどころじゃないでしょう?」
「そうですわね。人が亡くなるという、痛ましい事件が起きたんですものね。でも、返事が遅くなることは伝えておいたほうが良いのではなくって? 返事はもう決まっているのでしょうし」

 ララベルは満面の笑みを浮かべて続ける。

「私は祝福しますわよ。公爵家のパワーバランスを気にする人もいるかもしれませんが、何かあった時には、ワイアットとソフィーなら、私の味方になってくれますでしょう?」
「もちろんよ」
「なら、私はソフィーの判断を支持いたしますわ」
「それは有り難いけど、ララベルのほうはどうなの?」

 ララベルにも婚約者がいて、彼女の婚約者は辺境伯の令息だ。

「どうもこうも何も、顔を合わすことがありませんしね」

 ララベルは大きく息を吐いた。
 ララベルの婚約者の領土は、彼女の家からだいぶ離れているのもあり、年に数回くらいしか会わないらしい。
 
「これで結婚なんかして上手くいくものなのかしらね」
「政略結婚なんてそんなものでしょう? 私だって下手すればゼント様と結婚するところだったのよ?」
「そう言われてみればそうですわね」

 ララベルが苦笑して、お茶を一口飲んだ時だった。

「ソフィア! あなたに話があるの! 出てきてちょうだい!」

 突然、ケイティの声が聞こえてきた。

 普通に訪ねてくればいいものを、ケイティは扉をノックすることもなく、外で叫んでいる。

「ソフィー、あなたをお呼びですわよ?」
「話すことなんて私にはないんだけど」

 無視しようかと思ったけれど、ケイティの叫びは止まらない。

「ソフィア! 聞こえているのはわかっているのよ! 早く出てきなさい!」

 ララベルのほうを見ると、彼女はお手上げのポーズをしてから続ける。

「面白そうな話をしていたら、私も参戦することにいたしますわ。容赦なく叩き潰せるような話をしてくれれば嬉しいわ」

 現在時点では友人の助けは得られそうにないので、諦めて私は立ち上がり、ケイティの話を聞くことにした。

 扉を開けると、ケイティは私を睨みつけてきた。

「なんなの、ケイティ。まだ、ララベルが家にいるの。待たせる訳にはいかないから、手短に話をしてくれる?」
「安心して。私だって、あなたと長話なんてしたくないわ。だから、さっさと終わらせるわよ。ソフィア、さっきの話なんだけど」
「さっきの話って何の話?」

 彼女が何の話をしに来たか、大体わかるけれど、一応、確認のために聞いてみた。
 すると、ケイティは眉根を寄せて答える。

「ジュート様の件に決まっているじゃない! 彼からの婚約の申込みを断るってどういうことなの?」
「そのままの意味よ」
「そんなのありえないわ! あの、ジュート様と結婚できるのよ!?」
「ジュートのことは素敵な人だとは思うけれど、結婚したいと思う人ではないのよ」
「ソフィアごときが、そんな贅沢なことを言うだなんて!」

 これに関しては、ケイティの言葉を否定はできない。
 本当にジュートが私に婚約の申込みをしてくれていて断ったというなら、贅沢なことだと思うもの。

 それにしても、案の定、ケイティはジュートの申し出を断った私が許せないらしい。
 プライドが許さないのか、まだ、ジュートに未練があるからかはわからない。
 少し、探ってみることにしましょう。

「どうして、ケイティが怒るの?」
「……どういうこと?」
「だって、私がジュートの婚約の申し出を断ったからといって、どうしてケイティに怒られなければいけないの? ジュートや彼のご家族から苦情が来るというのならわかるけれど、あなたに怒られなければいけない理由がわからないわ」
「ジュート様のことなんだから怒るに決まっているじゃない!」

 当たり前のように答えるケイティに尋ねる。

「だから、その意味がわからないと言っているのよ。ケイティ、あなたは一体、誰の恋人なの?」
「……ゼント様よ」
「なら、恋人以外の男性のことで、そこまで怒る必要はないでしょう? あなた、それともまだ、ジュートに未練でもあるの?」
「未練なんかじゃない! だって、私はフラれていないもの!」
「意味がわからないわ。フラれていようがフラれてなかろうが、恋人がいるのにも関わらず、あなたがジュートのことを好きでいるなら、未練があるのと一緒じゃないの」
「違うわ。お付き合いしているのはゼント様だけど、本当に好きなのはジュート様よ」

 ケイティは私に近付いてきて、耳元でそう囁いてきた。

 
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