その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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26  元姉の企み

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 毒見役の女性は自分の身が一番可愛いのか、正直に話せば命は助けてあげるという、ワイアットの言葉を聞いて、泣きながら真相を話した。

 ある日、彼女が城下で買い物をしている時に声を掛けてきた男がいたらしい。
 目深にフードをかぶった怪しそうな男で、逃げたら殺すと言われたため言われるがままに路地に移動した。

 その時に毒の入った小瓶を渡され、陛下の食事に毒を入れるように指示されたらしい。

 最初は断ろうとしたけれど、断れば殺されてしまうかもしれないと考え、小瓶を家に持ち帰ったそうだった。
 最初は、毒見役の人間が毒を入れるなんてありえないと、彼女も考えたらしい。
 なので、小瓶を城には持って行きはしたけれど、暫くの間は、実際に使うことはなかった。

 そんなある日、城内で彼女に接触してきた人物がいた。

 それがゼント様だった。

 彼は彼女がいる控室にやって来て、こう言った。

『お前が毒を持っているのは知っている。今、どこにあるのかはわからないが、もし、これからも持っているだけなら、陛下を殺そうとした犯人としてお前を捕まえてやる』

 そう言われて、彼女は焦った。

 受け取ってしまったとはいえ、脅されて渡された毒のせいで捕まりたくない。

 だから、事情をゼント様に説明したけれど、そんな事はどうでも良さげに、こう答えたそうだ。

『持っているだけなら捕まえると言ったんだ。正しく使用するのであれば、何も言わないし、お前に褒美も与えてやろう』

 毒を正しく使用しろと言われても、パニックになっていた毒見役は何が何だかわからなかった。

 どうしたら良いのか尋ねると、フードを被った男に指示されたようにすれば良いと言われたのだそうだ。

 明らかにゼント様は黒なのに、彼女は他の人に助けを求めることはできなかった。

 自分や周りが殺されてしまう可能性があったからだ。

 それに腹が立つことにゼント様は、肝心なことは口にはしていない。
 
 陛下の食事に毒を入れるようにと言ったのはフードを被った男で、ゼント様は毒見役にフードを被った男に指示されたようにやれ、としか言っていない。

 どうして、日頃は頭が良くない言動をしているのに、こういう時だけ頭が回るのかわからない。
 ただ、純粋に賢い人間でなくて良かったと思った。

 賢い人間なら、こんな馬鹿なことはしない。

 自分が関与していることをわからないようにして、今頃は陛下はこの世にいなかったかもしれない。

 毒見役の女性は殺さないと約束はしたけれど、かなり重い罰になる。

 それでも、ホッとしたような顔をしていたのは、彼女の中でも精神的に限界がきていたのだと思われる。

 国王陛下の毒殺を考えていたのはゼント様だった。
 そして、ケイティもそのことを知っていた。
 となると、フードを被った男はケイティが手配した可能性も出てくる。

 王太子殿下には味方がケイティくらいしかいないから、彼女に頼んだのかもしれない。

 今回のことで、ケイティの関与を問いただしても、彼女は口を滑らせることはあっても、素直に答えてはくれないはず。

 だから、まずはフードを被った男を見つけ出すことにした。
 その男がどんな人物かはわからないけれど、ケイティの知り合いである可能性が高い。
 そして、私の妹だった時期に知り合った人物であるはずだ。
 陛下の食事に毒を入れ始めたのは、私が婚約破棄される前からだから。

 少しずつでも手繰りよせていけば、最後にはケイティに繋がるはず。

 そう思い、ケイティの公爵家時代の交友関係を調べてもらうために、お父様に連絡することにした。

 上書のおかげで、ゼント様は私に嫌がらせをすることもなくなった。
 釘を刺しておいたので、私の家の使用人などの危険も遠のいた。

 陛下の毒見役が捕まったことは、ゼント様もすぐに知ることになるはずだ。

 そうなった時に、彼はどう動くのかしら。
 まずは自分が関わっていた痕跡を消そうと頭を悩ませるはずだから、私の使用人の動きを気にしている場合ではなさそうだわ。

 ゼント様の様子については、彼の側近たちが味方に付いてくれたため、不審なことがあれば、ワイアットに連絡がいくようになっている。
 ワイアットにかなり負担をかけている気がするから心苦しいのだけれど、彼もいつかは公爵になるのだから、これくらいは出来るようにならないと言って引き受けてくれた。


******


 それから二日後、お兄様が家にやって来た。

「母上もそうだが、父上がお前に会いたがっていたよ。だけど、仕事に忙殺されていてな」
「お父様は当主様ですもの。しょうがないです。会いたいけれど、自分のお身体の調子や仕事を優先させてくださいとお伝え願えますか?」
「もちろんだ。それから、父上が、お前に会いに行けないけれど、お前のことをいつも思っているという事だけは伝えてくれと言っていた」
「嬉しいです。私もですと、さっきの伝言と一緒に伝えてもらえますか?」
「わかった」

 お兄様に今の公爵家の状況を簡単に話してもらった後に、私が調べてほしいと頼んでいたケイティの交友関係について教えてもらえた。
 屋敷にいた頃のケイティは、家庭教師が来ない日は、いつも外に出かけており、その時に何をしているのか私は知らなかった。
 でも、さすがにお父様たちは野放しにしていたわけではないようで、屋敷の外でも密かに監視をつけていたらしい。

 そこでフードの男を用意したと思われる容疑者にあがったのが、2年ほど前から交流のある、とある伯爵家の次男だった。
 その男も素行が悪く、家からお荷物扱いされ、学園に通っていなかったため、ケイティと気が合ったらしい。

 その伯爵家の次男は、悪いお友達がたくさんいて、その中の一人がフードの男だとわかった。
 なぜ、わかったかというと昨日の晩に、お兄様自らがお供を連れてではあるけれど、彼らが屯している酒場に乗り込んだからだ。

 そして、自らが毒見役の女性に接触したという男から話を聞いた。

「その男はやはり、伯爵家の次男から頼まれたと言っていてな。そいつを連れて、伯爵家に乗り込んだら、よっぽど息子に手を焼いていたんだろう。伯爵がこいつは私の息子ではありません、といって部屋から連れ出してきてくれたよ。伯爵家の次男の名はエルードというんだが、エルードが言うには、ケイティに頼まれただけで、何をしようとしていたかは知らないと言うんだ」
「何も知らないわけがないでしょう」
「そうなんだ。エルードが言うには、ケイティから国王陛下を暗殺したいと考えている人がいる。だけど、その人は表立っては動けない。お金などを支援するから、疑われずに陛下を殺す方法を考えてほしいとお願いされたそうだ」
「本当にケイティは、何を考えているんでしょうか」
「さぁな。ケイティのことだから、自分は王太子殿下から、そう言えと言われたと言うか、もしくは、エルードに頼んでいないと言い張るかどちらかだろうな」
「ゼント様は、ケイティを守るでしょうか?」
「本当に好きなら守るだろう」

 本当に好きなら守る、という言葉に、ララベルをなぜか思い出してしまい、お兄様に言ってみる。

「お兄様、ララベルを守ってあげてもらえませんか」
「……ララベル? どうして、ララベルの話が出てくるんだ?」
「……え。なんでもありません」

 ララベルの話を聞いたら、本当に彼女は婚約者と結婚して幸せになれるのかと考えてしまうようになってしまった。

 だけど、今はこんな話をしている場合ではないわよね。

 全てを終わらせてから、改めて相談することにしましょう。

「何か困ったことがあるのなら、ちゃんと言え。ララベルから話を聞けばいいのか?」
「いいえ。ララベルの話は改めてさせていただこうと思います」

 自分で持ち出しておきながら、強引に話を打ち切り、話題を元に戻す。

「今、そのエルードという男はどうしているんですか?」
「本来なら、国王陛下の暗殺を企てたということで、捕まえて処刑されてもおかしくないんだが、今、証言者がいなくなっては困るだろう? 証言台に立つというのなら、処刑はなし、という話をすると、向こうが条件を飲んだ。今は捕まえて監禁している」
「毒見役の女性と同じで、みんな、自分の命が惜しいのね」

 生きたいという心があるからこそ、こういう取引が成立するのだから助かるのは確かだ。

 でも、危ない目に遭いたくないのなら、最初から悪事に手を貸そうとしなければいいのにと、このエルードという男の場合は思ってしまうわ。

「どうする? この証言だけで勝てそうか?」
「エルードという人は、もう伯爵家から縁は切られてしまっているんですか?」
「いや。縁を切ろうとしていたんだが、証言が終わるまでは待ってほしいと頼んだ。縁を切られてしまうと、ただの平民の証言になってしまう。伯爵令息という肩書は残しておきたい」
「いくら素行が悪くても、伯爵家の息子というだけで受け取り方が違いますからね」

 頷いてから、お兄様に話を続ける。

「国王陛下の毒殺を企んだことは大罪です。問題はケイティとゼント様が絡んでいるという証拠がないというところですが、大勢の前でケイティを挑発して、ケイティの口から話をさせようと思います」
「自白させるつもりか。だが、そう上手くはいかないんじゃないか?」

 心配そうにする、お兄様に笑顔で答える。

「お兄様、ご心配なさらないで。私、ケイティを怒らせることは得意なんです」

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