その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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27  正念場

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 お兄様と話をした次の日に、私は早速、ケイティとゼント様に連絡を取り、時間を作ってもらうようにお願いした。
 二人は渋々といった感じで、空いている日を教えてくれて、それから一週間後の今日、ケイティたちに城の会議室まで来てもらった。

「……何なの。どうしてこんなに人がいるの?」

 会議室にゼント様と一緒に入ってきたケイティは、大きな長方形のテーブルに沿って等間隔に置かれている椅子に座っている貴族たちを見て叫んだ。

 貴族たちにはケイティたちに指定した時刻よりも1時間早く集まってもらい、今回の事情を説明していた。
 高位貴族のほとんどは、私の味方に付いてくれた。

 殿下達の話を聞いてから判断するという慎重派は数人ほどで、予想よりもスムーズにことが運びそうだった。
 
 現在、五大公爵家の当主も含む、約50人程の高位貴族の当主やその代理が、会議室を埋め尽くしている。

 それを確認したゼント様も眉根を寄せた。

「どういうことだ。俺はソフィアから呼び出されただけだぞ。それなのに、どうしてこんなに人が集まっているんだ」

 下座に着席していた私は、ゼント様に睨まれていることなど気にせずに立ち上がって、二人に謝る。

「驚かせてしまったようで申し訳ございません。この度は重大な事件が発生いたしましたので、高位貴族の方々に集まっていただきました。そして、この場でゼント様とその恋人であるケイティ様に、確認したいことがございまして、ご足労願った次第でございます」
「……わたしに確認したいこと? 一体、何だって言うの!? わたしは何もしていないわよ!」
「そうだ。俺もケイティも何か文句を言われなければいけないようなことはしていない!」
「まずな話を聞いてくださいませ。お二人共、立ったままで話をするわけにはいきませんので、お座りになってください」

 渋々といった様子で、ゼント様は部屋の奥にある空いている席に向かう。

 ケイティにはその横に座ってもらった。
 ゼント様は席に着くなり口を開く。

「偉そうにしやがって! どうしてお前は昔から、そんな態度しか取れないんだ!」
「ゼント様、気分を害させてしまったのであれば申し訳ございません。ですが、話を聞いていただけないでしょうか」

 時間をとられたくないので、頭を下げると、ゼント様は満足そうに笑う。

「最初からその態度でいればいいんだ」
「ゼント様ぁ、話を聞くんですか? わたしは嫌なんですけど」
「俺がいるから大丈夫だ」
「……本当ですか?」
「ああ。心配するな」
「わかりました」

 ケイティはまだ不服そうな顔をしていたけれど、口を閉ざした。

「本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」

 上座に座ったゼント様とケイティと向かい合う形になる下座に立ち、私は話を続ける。

「国王陛下の件で話があり、本日はお集まりいただきました。早速、本題に入らせていただきますが、国王陛下の命を狙っている人物がいることが発覚いたしました」

 貴族たちはあらかじめ、話を聞いているせいか、驚いた様子は見せない。
 だからか、ゼント様もケイティも難しい顔をしただけだった。

「ゼント様はあまり驚きになりませんのね?」

 わざと意地悪な質問をしてみると、私を睨みつけながら、殿下は答える。

「驚いてはいる。だが、なぜ、俺だけに聞くんだ? 他の奴らも驚いていないだろう?」
「そうよ。わたしたちは皆と同じ反応をしただけよ!」

 問われてもいないのにケイティが答えてくれたので、私は苦笑して説明する。

「二人が来る前に、簡単なお話はさせていただいているの。だから、他の方は驚かなくてもおかしくないわ。でも、おかしいわね。ケイティは驚かなかったわよね。……ということは、もうすでに知っていたということかしら?」
「そ、それは……」
「ケイティ! お前は驚きのあまり言葉に出来なかっただけだろう? ソフィア、一々、揚げ足をとろうとするな!」

 ケイティが何か余計なことを口にするのではないかとヒヤヒヤしているのか、ゼント様が割って入ってきた。

「揚げ足をとるつもりなんてございませんわ。ただ、純粋に不思議に思っただけですから聞いたみただけです」
「不思議だからと何でもかんでも質問するな。ケイティは繊細なんだ。貴様から質問されると、パニックになってしまうんだよ」

 ケイティに質問するなと言いたいんでしょうけれど、そんな理由では納得いかないわ。

「……かといって、質問しない訳にはいかないんです。ケイティが、国王陛下を暗殺しようとした件に関わっているのは間違いないようですので」
「わ、わたしは関わってなんかいないわ!」
「……ねえ、ケイティ、とにかく話を聞いてもらえないかしら」
「わたしに関係ない話をどうして聞かないといけないわけ?」

 不貞腐れた顔をするケイティに聞き返したいけれど、ゼント様には質問するなと言われたし、さあ、どうしましょうか。

 少し考えてから口を開く。

「わかったわ。ケイティ、あなたは国王陛下を殺そうとしている人物が気にならないようだから、部屋から出て行ってもらうことにしましょう。そのかわり、今から私が皆さんの前で話す内容に、あなたは一切反論できなくなってしまうのは許してね」
「そ、それは困るわ。変なことを言われても困るもの」
「でも、あなたには関係ない話なんでしょう?」
「そ、そうよ! でも、わたしもやっぱり気になるから、話を聞くことにするわ」

 ケイティは焦った表情でそう言うと、ゼント様は何か言いたそうな顔で口をへの字に曲げた。
 自分の思ったようにいかないから、腹を立てているみたいね。

「ありがとう、ケイティ」
「おい、ソフィア。俺達は貴様のように暇ではないんだ! さっさと本題に入れ」
「承知いたしました。では、結論から言わせていただきましょう。陛下の命を狙っている人物から頼まれたという者たちから話を聞き、最終的にある人物にたどり着きました。そして、そのある人物というのは、ケイティ、あなたよ」

 ゼント様の話はあとで話をすることにしている。
 ケイティのことを本当に愛しているのなら、彼女を庇って自白してくれるだろうから。

「私じゃないわ!」

 ケイティは椅子から立ち上がり、机を両手で叩いて叫ぶ。

「私は何もしていないわ! ソフィア、あなたが私を陥れようとしているだけよ!」
「あなたを陥れようとしている? それは何を理由にかしら。……ああ、質問してはいけないのでしたっけ?」
「一々うるさいのよ! 質問されなくても答えてあげるわ! あなたが私を陥れたい理由は、ゼント様を私に取られたからよ!」

 ケイティの言葉を聞き、貴族たちは冷めた目で彼女を見た。
 さすがに彼女もその視線に気付き不思議そうにする。

「え? 何なの?」
「ケイティ、あなたにはわからないことだと思うから、気にしなくていいわ」
「で、でも……」

 ケイティは貴族の間でのゼント様の評判が落ちていることを知らない。

 自分をあんな風に切り捨てた相手に対して、私に未練があるもはずないだろうというのが、お父様も含めた、他の貴族たちの考えだ。

 そして、それは私も同じ気持ちだ。

 彼女は自分のことしか考えていない。
 だから、周りからゼント様がどんな風に思われているか興味もない。

「皆さんの反応を見る限り、私の気持ちはご理解いただけているようですが、ケイティは理解できていないようですので、お話させていただきます。私はゼント様とケイティの婚約について反対しているわけでもありませんし、ケイティからゼント様を奪い返そうだなんて考えは一切ございません。なぜなら、クロフォード家のワイアット様から婚約のお話をいただいているからです」
「あなた、ワイアット様からも婚約の申込みがあったの!?」

 ケイティがなぜか悔しそうにするので、小首を傾げる。

「ワイアットからの申込みは有り難いことだと思っているけれど、どうしてケイティが反応するの?」
「信じられないからよ!」
「信じられないと言われてもね。……とまあ、この話を今はする必要がありませんので、話を戻すことにいたします」

 ケイティの言葉全てにかまっていたら、日が暮れてしまいそう。

 ケイティの反応は待たずに話し始める。

「とある人物はケイティから陛下を暗殺したい人がいる。けれど、その人は表立っては動けないと相談されたそうです」

 話を聞いたゼント様の表情が歪んだ。
 そして、すぐにケイティが叫ぶ。

「わたしはそんな話はしていないわ!」
「ケイティ、あなたはエルードという方はご存知?」
「し、知らないわ!」
「嘘をつかないで。あなたとエルードさんの仲については、たくさんの証人がいるわよ」
「そ、それは、そんな人がいたかもしれないけれど、そんなの関係ないし、私はその人に陛下を毒殺しろだなんて頼んでいないわ! 大体、エルードは私にそんな危険なことを頼まれたと言うのなら、どうして止めようとしないの!? 彼が勝手にやっただけなんじゃないの!?」

 ケイティは自分が失言したことに気付いていない。
 ゼント様も自分の身を守ることに必死なのか、先程のケイティの失言に対して何も言わない。

「どうして止めなかったか? 一つはお金をもらえるからね。彼は、自分の家からお金をもらえていなかったし、遊ぶお金が欲しかったのだと思うわ。それから、もう一つ、彼があなたの頼みを断らなかったのは、あなたと彼が恋人同士だったから」
「何だと!?」

 恋人同士に反応したのは、ゼント様だった。
 驚いた顔でケイティを見て叫んだ。
 ケイティは私を睨みつけながら反論する。

「……恋人同士なんかじゃないわ!」
「あら、そう? では、そうなのかもしれないけれど、あなたと彼とは肉体関係があった」
「そ、そんな訳ないじゃないの!」
「ケイティ。見た人がいるのよ。貴族は婚前交渉だけでもはしたないと言われているのに、あなた、外でそんなことをしちゃ駄目よ」
「……っ!!」
「外で?」

 ゼント様は震える声で呟き、ケイティを見つめた。

 ケイティとエルードが二人で店を出て、路地裏で性交渉をしている所を、監視役の人間が確認している。
 それを聞いたお父様は、相手は一応、貴族であるし、それを理由にケイティをエルードのところに嫁に出そうと考えたから、ケイティに何も言わなかったらしい。
 
「違います、ゼント様! これはソフィアの作り話です!」
「いや。違う。それはこちらが確認をとった話だから、作り話ではない」

 お父様が言うと、ケイティは唇を噛んで口を閉ざす。

「ねえ、そんなことよりケイティ、あなた、先程、大変なことを口にしたのはわかっているの?」
「……大変なこと?」
「ええ。陛下の暗殺方法についてだけれど、あなたが知っているわけないわよね?」
「馬鹿にしないで! 知ってるわよ。毒殺しようとしたんでしょう!?」
「ケイティ!!」

 ゼント様が叫んだけれど、時すでに遅しだわ。

 ケイティはなぜゼント様が叫んだかわかっていないようで、不思議そうな顔をしている。

「殿下はおわかりのようだけれど、説明するわね。どうして、あなたは毒殺しようとしていたと知っているの? 私は、そんなことを口にしてはいないんだけれど?」

 私の質問を聞いたケイティは、慌てて自分の口を押さえた。

 この質問に対して、ケイティが言い訳できる理由はある。

 でも、上手くボロを出させてみせるわ。

 さあ、ここからが正念場だわ。
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