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28 裏切りあう二人
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「そ、それは……、その、そうよ! だって、毒殺をしようとしていた人間がいたんでしょう? それを聞いていたからそう思ったの。実際はどうだか知らないわ! そうだったんじゃないの? 毒殺をしようとしたのは捕まった人なんだから、私が頼んだ人間とは無関係なんでしょう!?」
「頼んだって……、ケイティ、あなた、やっぱり誰かに陛下の暗殺を頼んでいたの?」
「ち、違うわ! そういう意味じゃない!」
ケイティは本当に賢くない。
一つの嘘をついた時に、新たに矛盾が出来ることを考えていない。
そんな相手だからこそ、やりやすいというのは確かなのよね。
「私は頼んでなんかいないわ! エルードが一人で勝手に考えたのよ!」
「いいけれど、そんなことをしてエルードさんに何の得があるの?」
「……え?」
「こんな言い方をするのもなんだけれど、陛下を毒殺しても、彼には何のメリットもないじゃない」
「そ、そんなのわからないわ!」
「あのね、ケイティ。貴族であろうとも国王陛下は雲の上の人に近い存在なのよ。よっぽどの理由がないと、そんなことをしようだなんて思えないはずよ」
「ソフィア、それはあなたの思い込みよ! 人が何を考えるかなんて、本人以外はわからない。その時はそうしたかっただけかもしれないじゃない!」
私が思っていたよりもケイティはしぶとかった。
こんな性格だから、今までやってこれたのかもしれないわね。
では、違うところから攻めてみましょう。
「あなたは一切、関係していないと言うのね?」
「知り合いだったことは確かかもしれないけど、陛下を毒殺してほしいなんて頼んでないわ!」
「では、ケイティ。あなたと彼に身体の関係があったことは認めるの?」
「そ、それは……」
ケイティが焦った顔でゼント様を見つめると、ゼント様はケイティには目を向けずに口を開く。
「だから、初めてではなかったのか?」
「あ、いえ、それはその……」
「俺には、ソフィアがお前を他の男に襲わせたと言っていたが、実際は違ったんだな!?」
「いいえ! 本当にソフィアに!」
「ゼント様、ケイティと身体の関係を持ったという人間は、先程のエルードという名の男性以外にも複数人います。信じられないようでしたら、彼らを呼び寄せることも可能です」
「嘘を言わないで!」
ケイティが憎悪に満ちた目を私に向けて叫んだ時、ゼント様がケイティの肩を掴んだ。
「ケイティ! どうして俺を騙したんだ」
「ゼ、ゼント様?」
「俺はお前と話をして、やっと俺のことを認めてくれる女性に出会えたと思ったんだぞ! それなのに、嘘をついていたって言うのか!」
「わたしは嘘なんてついていませんし、ゼント様を理解していますよ!」
「なら、どうして嘘をついたんだ!? 俺は人に嘘をつかれるのは嫌いなんだよ!」
「自分は平気で嘘をついてるのに、人に嘘をつかれたら許せないなんておかしいじゃないですか!」
「何だと!?」
二人は他の人間がこの場にいることを忘れてしまったのか、お互いのほうに顔を向けて喧嘩を続ける。
「国王陛下の死を願っていたのはゼント様じゃないですか! だけど、自分ではどうにも出来ないからって、わたしに頼んできたんですよ! それなのに、あなたのせいでわたしが疑われているじゃないですか!」
「ケイティ、馬鹿なことを言うな!」
ゼント様がケイティの口を押さえたけれど、意味はない。
ケイティの言葉は、はっきりと私たちの耳に届いていた。
「あ……、あの、これは、その……」
ケイティも自分の失言に気がついたらしく、遠目からでも身体が震えていることがわかった。
そんな彼女に笑顔で話しかける。
「証言してくれてありがとう。ケイティのおかげで、ゼント様が、そんな恐ろしいことを考えていたということがわかったわ」
「違う! 俺はそんなことは言っていない! 全部、彼女の妄想だ!」
「そ、そうよ、現実の話じゃないわ! さっき言った話は夢で見たお話なのよ! 現実と一緒にしてしまったみたい! こんなによく似た状況が起きるなんて予知夢だったのかしら!?」
ケイティは焦った顔で苦しい言い訳をした。
「ケイティ、もうこれ以上嘘をつくな!」
すると、私が何か言う前に、殿下が彼女の言葉を遮った。
「お前が全部仕組んだんだろう?」
「……な、なんですって? 何を言ってるんですか!?」
「俺は何も知らんからな! 俺はお前に騙されたんだ!」
あらあら。
勝手に仲間割れを始めてくれたみたい。
ゼント様のケイティへの愛は本当の愛じゃなかったってことかしら。
ケイティはゼント様が自分を助けてくれないと感じ取ったのか、保身にまわる。
「騙されただなんてひどいです! わたしはゼント様が寂しそうにしているから、お声を掛けたんですよ!? それを機に、私に色々と話しかけてきて、ソフィアと婚約破棄したいと言い出したのはあなたじゃないですか!」
「俺はそんなことは言ってない! ソフィアに男として見られていないから、どうしたら良いかとお前に相談しただけだ!」
「どっちにしても、ソフィアを捨てて私を選んだのはゼント様です! それに、ソフィアと婚約破棄をする前に、私と体の繋がりを持ったじゃないですか!」
「あれはお前が誘ってきたから」
「違います! あれはゼント様に襲われたんです! 皆さん、聞いて下さい! 王太子殿下という偉い人なのに、公爵令嬢であるわたしを手籠めにしようとしたんですよ!」
呆れた顔で二人を見ていた、私や他の貴族たち向かって、ケイティは訴える。
「今も言いましたけど、わたしはゼント様に襲われたんです! 辱められたことを公にされたくなければ、ゼント様に従うようにと命令されたんです! でも、もう、そんなことに怯える日々はお終いです。だって、こうやって皆さんに知られてしまったんですから! 悪いのはゼント様です! わたしのしたことは全て彼に脅されてやったことです!」
「だから嘘をつくなと言っているだろう!!」
二人の会話の内容が酷すぎて、なんと答えたら良いのか、どんな言葉を口にしたら良いのかわからず、すぐには言葉が見つからなかった。
まさか、ここまで酷い泥仕合になるとは思ってもいなかったわ。
それは他の人たちも同じみたいで、お父様は机に片肘をついて難しい顔をしているし、他の貴族も頭を抱えたり、両手で顔を覆っていた。
まさか、王太子殿下がこんな人間だったなんて、と思う人がいてもおかしくないわ。
ケイティの言葉を鵜呑みにするわけにはいかないし、ちゃんと調べないといけないけど、嘘と本当が入り混じっているってところかしら。
「嘘なんてついていません! ゼント様こそ、嘘をつかないで下さい!」
「あれだけ可愛がってやったのに!」
「わたしはそんなことは望んでいません!」
二人の喧嘩が終わりそうにないため、私が割って入ることにする。
「ゼント様、確認いたしますが、ケイティが言っていることは本当のことなのですか?」
「そんなことがあるはずがないだろう!」
「では、ケイティが嘘をついているのですね?」
「そうだ! 彼女は俺に罪を着せようとしているんだ!」
「それは間違いありませんか?」
「そうだと言っているだろう!」
「ゼント様、真剣に考えてからお答え下さい。ケイティが嘘をついているとなると、不敬罪なります。それが認められた場合、ケイティがどうなるかはおわかりになりますよね?」
「……っ! それは、わかっている」
さすがに心苦しくなったのか、ゼント様は私から視線をそらして答えた。
「何、何なの、不敬罪って? どういうこと? わたしはどうなるの!?」
ケイティは自分の旗色が悪くなったことを感じ取り、助けを求めてキョロキョロと周りの貴族たちを見ながら尋ねた。
でも、誰も答えようとはしなかった。
「ねえ、教えてよ!? どうなるの!?」
「ケイティ、あなたの罪が確定すれば、あなたが私に望んでいたことが行われることになるわ」
「……わたしが、あなたに望んでいたことって……、そんな! そんなの絶対に嫌よ! どうしてわたしがそんな目に遭わないといけないのよ!?」
「あなたにもわかるように簡単な言葉で説明するわね。ゼント様はあなたが嘘をついていると言っているの。ということは、ゼント様のことをたくさん悪く言ったあなたは、不敬罪に値するの」
「そ、それくらいはわかるわよ。でも、わたしは嘘をついてなんかいない」
「でも、ゼント様はあなたが嘘をついていると仰っているから、私たちは立場上、あなたの言葉よりもゼント様の言葉を信じるしかないの」
「そ、そんな馬鹿なことってないわ!」
ちゃんと調べはするけれど、ケイティが国王陛下の暗殺に関わったことは確かだから、軽い罪で終わるはずがない。
そのことを説明しようとすると、ゼント様が口を開く。
「もういい! 早くこの女を連れて行け!」
どうやら、ゼント様は本当にケイティを切り捨てるつもりね。
あんなに彼女のことを可愛がっていたのに……。
「ゼント様! 酷い! どうしてわたしを裏切るんですか!?」
「裏切ってなどいない! 騙されていたとわかったから、お前とは手を切るんだ!」
「あなたの為に、わたしだって努力したのに! こんな簡単に切り捨てるなんて酷いわ! あなたのやっていたこと、全部話しますから!」
「好きなようにしろ。どうせ誰も信じないし、俺を侮辱したとしてお前の罪が重くなるだけだ」
「そんなっ! 絶対に認めないわ!」
二人が言い合っている内に、私は扉に近付き、外で待たせていた兵士たちに声を掛ける。
「ケイティを連れて行ってちょうだい。行き先は御者に伝えてあるわ」
「ちょっと待って、ソフィア!」
話が聞こえたのか、ケイティは私の所まで走ってきて叫ぶ。
「お願いよ、ソフィア、助けて! 一時は姉妹だった仲じゃないの!」
「あなた、私に言ったことを忘れたの? 私のことが嫌いだったんでしょう? 私はあんなことを言われて許せるような出来た人間ではないの。何より、あなたの指示で人が死んでいるのよ。ケイティ、あなたのやったことが自分に返るだけよ。諦めなさい」
強く言い放つと、それを合図にしたかのように兵士たちが中に入ってきて、ケイティの両腕を掴んだ。
「わたしは何も悪くない! 自分の好きなように生きただけなのに、どうして責められるの! ゼント様、助けてください! 助けてくださるなら、ゼント様のしたことは何も言いませんから!」
「俺は何も知らん!」
泣きながら助けを求めて手をを伸ばしたケイティに、ゼント様は冷たく言い放った。
「死にたくない! どうして私が死ななければいけないの!? ソフィア、助けてよ! こんな時くらい役に立ってよ!」
ケイティの泣き叫ぶ声は、彼女が部屋から出ていって、しばらく経っても、私の耳に響いていた。
これで良かったのよね?
「おい、ソフィア、今日の話は終わったな? 俺はこれで帰らせてもらう。全てはケイティの責任だ。俺は何も知らない」
「……今日のところは終わりにしましょう。ですが、本当の終わりではないことをお忘れなきようにお願いいたします」
罪人はケイティだけじゃない。
あなたもですからね。
「頼んだって……、ケイティ、あなた、やっぱり誰かに陛下の暗殺を頼んでいたの?」
「ち、違うわ! そういう意味じゃない!」
ケイティは本当に賢くない。
一つの嘘をついた時に、新たに矛盾が出来ることを考えていない。
そんな相手だからこそ、やりやすいというのは確かなのよね。
「私は頼んでなんかいないわ! エルードが一人で勝手に考えたのよ!」
「いいけれど、そんなことをしてエルードさんに何の得があるの?」
「……え?」
「こんな言い方をするのもなんだけれど、陛下を毒殺しても、彼には何のメリットもないじゃない」
「そ、そんなのわからないわ!」
「あのね、ケイティ。貴族であろうとも国王陛下は雲の上の人に近い存在なのよ。よっぽどの理由がないと、そんなことをしようだなんて思えないはずよ」
「ソフィア、それはあなたの思い込みよ! 人が何を考えるかなんて、本人以外はわからない。その時はそうしたかっただけかもしれないじゃない!」
私が思っていたよりもケイティはしぶとかった。
こんな性格だから、今までやってこれたのかもしれないわね。
では、違うところから攻めてみましょう。
「あなたは一切、関係していないと言うのね?」
「知り合いだったことは確かかもしれないけど、陛下を毒殺してほしいなんて頼んでないわ!」
「では、ケイティ。あなたと彼に身体の関係があったことは認めるの?」
「そ、それは……」
ケイティが焦った顔でゼント様を見つめると、ゼント様はケイティには目を向けずに口を開く。
「だから、初めてではなかったのか?」
「あ、いえ、それはその……」
「俺には、ソフィアがお前を他の男に襲わせたと言っていたが、実際は違ったんだな!?」
「いいえ! 本当にソフィアに!」
「ゼント様、ケイティと身体の関係を持ったという人間は、先程のエルードという名の男性以外にも複数人います。信じられないようでしたら、彼らを呼び寄せることも可能です」
「嘘を言わないで!」
ケイティが憎悪に満ちた目を私に向けて叫んだ時、ゼント様がケイティの肩を掴んだ。
「ケイティ! どうして俺を騙したんだ」
「ゼ、ゼント様?」
「俺はお前と話をして、やっと俺のことを認めてくれる女性に出会えたと思ったんだぞ! それなのに、嘘をついていたって言うのか!」
「わたしは嘘なんてついていませんし、ゼント様を理解していますよ!」
「なら、どうして嘘をついたんだ!? 俺は人に嘘をつかれるのは嫌いなんだよ!」
「自分は平気で嘘をついてるのに、人に嘘をつかれたら許せないなんておかしいじゃないですか!」
「何だと!?」
二人は他の人間がこの場にいることを忘れてしまったのか、お互いのほうに顔を向けて喧嘩を続ける。
「国王陛下の死を願っていたのはゼント様じゃないですか! だけど、自分ではどうにも出来ないからって、わたしに頼んできたんですよ! それなのに、あなたのせいでわたしが疑われているじゃないですか!」
「ケイティ、馬鹿なことを言うな!」
ゼント様がケイティの口を押さえたけれど、意味はない。
ケイティの言葉は、はっきりと私たちの耳に届いていた。
「あ……、あの、これは、その……」
ケイティも自分の失言に気がついたらしく、遠目からでも身体が震えていることがわかった。
そんな彼女に笑顔で話しかける。
「証言してくれてありがとう。ケイティのおかげで、ゼント様が、そんな恐ろしいことを考えていたということがわかったわ」
「違う! 俺はそんなことは言っていない! 全部、彼女の妄想だ!」
「そ、そうよ、現実の話じゃないわ! さっき言った話は夢で見たお話なのよ! 現実と一緒にしてしまったみたい! こんなによく似た状況が起きるなんて予知夢だったのかしら!?」
ケイティは焦った顔で苦しい言い訳をした。
「ケイティ、もうこれ以上嘘をつくな!」
すると、私が何か言う前に、殿下が彼女の言葉を遮った。
「お前が全部仕組んだんだろう?」
「……な、なんですって? 何を言ってるんですか!?」
「俺は何も知らんからな! 俺はお前に騙されたんだ!」
あらあら。
勝手に仲間割れを始めてくれたみたい。
ゼント様のケイティへの愛は本当の愛じゃなかったってことかしら。
ケイティはゼント様が自分を助けてくれないと感じ取ったのか、保身にまわる。
「騙されただなんてひどいです! わたしはゼント様が寂しそうにしているから、お声を掛けたんですよ!? それを機に、私に色々と話しかけてきて、ソフィアと婚約破棄したいと言い出したのはあなたじゃないですか!」
「俺はそんなことは言ってない! ソフィアに男として見られていないから、どうしたら良いかとお前に相談しただけだ!」
「どっちにしても、ソフィアを捨てて私を選んだのはゼント様です! それに、ソフィアと婚約破棄をする前に、私と体の繋がりを持ったじゃないですか!」
「あれはお前が誘ってきたから」
「違います! あれはゼント様に襲われたんです! 皆さん、聞いて下さい! 王太子殿下という偉い人なのに、公爵令嬢であるわたしを手籠めにしようとしたんですよ!」
呆れた顔で二人を見ていた、私や他の貴族たち向かって、ケイティは訴える。
「今も言いましたけど、わたしはゼント様に襲われたんです! 辱められたことを公にされたくなければ、ゼント様に従うようにと命令されたんです! でも、もう、そんなことに怯える日々はお終いです。だって、こうやって皆さんに知られてしまったんですから! 悪いのはゼント様です! わたしのしたことは全て彼に脅されてやったことです!」
「だから嘘をつくなと言っているだろう!!」
二人の会話の内容が酷すぎて、なんと答えたら良いのか、どんな言葉を口にしたら良いのかわからず、すぐには言葉が見つからなかった。
まさか、ここまで酷い泥仕合になるとは思ってもいなかったわ。
それは他の人たちも同じみたいで、お父様は机に片肘をついて難しい顔をしているし、他の貴族も頭を抱えたり、両手で顔を覆っていた。
まさか、王太子殿下がこんな人間だったなんて、と思う人がいてもおかしくないわ。
ケイティの言葉を鵜呑みにするわけにはいかないし、ちゃんと調べないといけないけど、嘘と本当が入り混じっているってところかしら。
「嘘なんてついていません! ゼント様こそ、嘘をつかないで下さい!」
「あれだけ可愛がってやったのに!」
「わたしはそんなことは望んでいません!」
二人の喧嘩が終わりそうにないため、私が割って入ることにする。
「ゼント様、確認いたしますが、ケイティが言っていることは本当のことなのですか?」
「そんなことがあるはずがないだろう!」
「では、ケイティが嘘をついているのですね?」
「そうだ! 彼女は俺に罪を着せようとしているんだ!」
「それは間違いありませんか?」
「そうだと言っているだろう!」
「ゼント様、真剣に考えてからお答え下さい。ケイティが嘘をついているとなると、不敬罪なります。それが認められた場合、ケイティがどうなるかはおわかりになりますよね?」
「……っ! それは、わかっている」
さすがに心苦しくなったのか、ゼント様は私から視線をそらして答えた。
「何、何なの、不敬罪って? どういうこと? わたしはどうなるの!?」
ケイティは自分の旗色が悪くなったことを感じ取り、助けを求めてキョロキョロと周りの貴族たちを見ながら尋ねた。
でも、誰も答えようとはしなかった。
「ねえ、教えてよ!? どうなるの!?」
「ケイティ、あなたの罪が確定すれば、あなたが私に望んでいたことが行われることになるわ」
「……わたしが、あなたに望んでいたことって……、そんな! そんなの絶対に嫌よ! どうしてわたしがそんな目に遭わないといけないのよ!?」
「あなたにもわかるように簡単な言葉で説明するわね。ゼント様はあなたが嘘をついていると言っているの。ということは、ゼント様のことをたくさん悪く言ったあなたは、不敬罪に値するの」
「そ、それくらいはわかるわよ。でも、わたしは嘘をついてなんかいない」
「でも、ゼント様はあなたが嘘をついていると仰っているから、私たちは立場上、あなたの言葉よりもゼント様の言葉を信じるしかないの」
「そ、そんな馬鹿なことってないわ!」
ちゃんと調べはするけれど、ケイティが国王陛下の暗殺に関わったことは確かだから、軽い罪で終わるはずがない。
そのことを説明しようとすると、ゼント様が口を開く。
「もういい! 早くこの女を連れて行け!」
どうやら、ゼント様は本当にケイティを切り捨てるつもりね。
あんなに彼女のことを可愛がっていたのに……。
「ゼント様! 酷い! どうしてわたしを裏切るんですか!?」
「裏切ってなどいない! 騙されていたとわかったから、お前とは手を切るんだ!」
「あなたの為に、わたしだって努力したのに! こんな簡単に切り捨てるなんて酷いわ! あなたのやっていたこと、全部話しますから!」
「好きなようにしろ。どうせ誰も信じないし、俺を侮辱したとしてお前の罪が重くなるだけだ」
「そんなっ! 絶対に認めないわ!」
二人が言い合っている内に、私は扉に近付き、外で待たせていた兵士たちに声を掛ける。
「ケイティを連れて行ってちょうだい。行き先は御者に伝えてあるわ」
「ちょっと待って、ソフィア!」
話が聞こえたのか、ケイティは私の所まで走ってきて叫ぶ。
「お願いよ、ソフィア、助けて! 一時は姉妹だった仲じゃないの!」
「あなた、私に言ったことを忘れたの? 私のことが嫌いだったんでしょう? 私はあんなことを言われて許せるような出来た人間ではないの。何より、あなたの指示で人が死んでいるのよ。ケイティ、あなたのやったことが自分に返るだけよ。諦めなさい」
強く言い放つと、それを合図にしたかのように兵士たちが中に入ってきて、ケイティの両腕を掴んだ。
「わたしは何も悪くない! 自分の好きなように生きただけなのに、どうして責められるの! ゼント様、助けてください! 助けてくださるなら、ゼント様のしたことは何も言いませんから!」
「俺は何も知らん!」
泣きながら助けを求めて手をを伸ばしたケイティに、ゼント様は冷たく言い放った。
「死にたくない! どうして私が死ななければいけないの!? ソフィア、助けてよ! こんな時くらい役に立ってよ!」
ケイティの泣き叫ぶ声は、彼女が部屋から出ていって、しばらく経っても、私の耳に響いていた。
これで良かったのよね?
「おい、ソフィア、今日の話は終わったな? 俺はこれで帰らせてもらう。全てはケイティの責任だ。俺は何も知らない」
「……今日のところは終わりにしましょう。ですが、本当の終わりではないことをお忘れなきようにお願いいたします」
罪人はケイティだけじゃない。
あなたもですからね。
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