【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ

文字の大きさ
5 / 53

5 彼を選んだ理由

しおりを挟む
「えっと」 

 頭が混乱してきたので、一度整理してみようと思い、確認するために声を出す。

「あの、空気読めないおバカさんはラス様の弟なんですか? 」
「一応、イッシュバルド家の次男です」
「ジンさんのお兄さんにもなるんですね」
「世間体的には」

 ジンさんというのはイッシュバルド家の三男で、次男に比べたら爽やかな男前だから、ラス様と兄弟と言われても違和感はないのだけど、次男はあまりにも似ていない気がした。

 それにラス様のこの言い方だと、次男とは仲は良くなさそう。
 あまり次男とは関わらないようにしよう。

「まあ、詳しいことは後日にでも。私は一度、家に戻ります。先程、明日に招集がかかったという知らせを受けましたし、内容は今回の事でしょう。今日はお開きにして、また改めて考えましょう」
「ああ、お疲れさん」
「お疲れ様でした」

 ユウヤくんと私のねぎらいの言葉を聞いたラス様は、苦笑して口を開く。

「そう思っていただけるなら、先程の件はなかった事にしていただけませんか」
「無理だな」
「ごめんなさいラス様。それはお断りします」

 二人できっぱり答えると、ラス様はこれみよがしに大きなため息をつく。

「悪いことしてるのは本当にわかってるんですよ!」
「存じてますよ。また、あんな顔をされても困りますし、今日のところは了承した事にしておきます」

 あんな顔とは失礼な!
 まあ、ひどかったのは確かだけど。

「私は譲りませんよ。こうなったらお付き合いしてもらいますから。だって、私は何も知りませんから!」

 そうですよ。
 私は返事もしなくて良いし、何よりラス様の気持ちなんて聞いた事を忘れたし知らないんですから!

「また可愛いけど変な顔になってるぞ」

 ユウヤくんとラス様に笑われて、今日のところはお開きになった。
 持っていった食べ物や飲み物は、ユウヤくんとわける事にして、それを持ってユウヤくんと一緒に私の部屋へ向かう。
 一人で帰れると言ったけれど、送るの一点張りだったから。

「何か話したい事があるの?」
「ん。なんつーか、勝手にあんな事を言い出して悪かったなと思って」
「ラス様のこと?」
「ああ」

 別に謝られることじゃないんだけどな。

「私は助かったよ。それに、頭を下げてくれてありがとう。
その、カッコ良かったよ」

 照れくさくてモゴモゴ言うと、ユウヤくんは両手がふさがっているからか、私の頬にキスしてきた。

「何すんの!」
「いや、嬉しかったから」
「もう!」

 恥ずかしくなったから、笑うユウヤくんの腕を思い切りつねった。

 



 その日の夜。
 私は部屋でリアの来訪を待ちながら寝間着姿でベッドの上に寝転んでいた。

 あのあと、ユウヤくんと部屋に戻ると、陛下からの通知がきていて、要約すると、明日の朝から貴族や官僚を集めてアレンくんの褒美についての話をするから、私にもその場に在席するように、という感じだった。
 ラス様に連絡があったのと一緒だろう。

 それにしても、ラス様には本当に申し訳ない事をしてるなあ。
 ラス様が私を好きでなければ、こんな罪悪感はなかったのかな?

 ふと、今日のラス様の言葉を思い出す。

 そんな簡単に忘れられない、って、言ってたような気がする。
 ということは?

 いやいや、気持ちにこたえられないのに喜んでどうする!
 
 でも、あんなイケメンに好かれるなんて、この先もうないじゃないですか。
 もちろん好きな人はユウヤくんですよ。
 けど、大してモテてこなかった人間には免疫がなさすぎて、嬉しいと思ってしまうんですよ!
 
 しかも、あのラス様ですよ!
 社交界で令嬢達に大人気のラス様!
 ユウヤくんも人気らしいけど、なんか複雑な気持ちになるので素直に喜べない。
 そこが恋愛感情がある、なし、の違いなのかな?
 もちろん、二人を大切に思う気持ちは比べられないけど。

 気持ちにこたえられないのなら、あんなお願いは絶対にすべきではなかった?
 でも、今回のように誰かもう一人を選べって言われた時、告白されてなかったら、迷うことなく一択でラス様を選んでたと思うし。
 大体、自分の嫁になれって、昔はラス様が言ってきてたんだし良いような気も?
 
 ああああ!
 わからない!

 私はベッドの上でゴロゴロと転び、

 ドスン。

 という鈍い音を立てて床に落ちた。

「いだだだ」

 思い切り背中を打ち付けて、痛みと共になんとか起き上がったところで、扉を叩く音が聞こえ、

「ユーニ? 大丈夫?」

 リアの心配そうな声が聞こえた。

「だ、大丈夫」

 返事を返すとゆっくり扉が開き、リアが顔を出した。

「入ってもいい?」
「うん。待ってたよ」

 リアは厨房からクッキーなどのお菓子と紅茶やコーヒーをもらって持ってきてくれていたので、ティーテーブルにそれを置き、飲んだり食べたりしながら今日の話をすることにした。

「アレンくん、元気そうだった?」
「うん。それは良かったんだけどね」
「撤回してくれなさそう?」
「うん。泣き落としにかかったけど、見透かされてたみたいで駄目だった」

 リアはテーブルに肩肘をつき頭を抱えて続ける。

「嫌いになる、って言おうかとも思ったんだけど」
「それは危ないんじゃない?」
「そう思ってやめた」

 止めて正解だと思う。
 そんな事を言ったら、次に何をしてくるかわからない。
 ユウヤくん達が言うように、どこかに監禁される恐れも。

 冷静に考えると愛が重すぎる。
 でも、好きでいてくれるのは嬉しい。
 複雑な乙女心だ。

「あ、そういえばリア」
「何?」
「もう一人選ばないといけないってなった時、ラス様にお願いする事にした」
「ええ?! 大丈夫なの?」
「やっぱり、そう思うよね」

 リアの驚いた反応を見て、また私の罪悪感がふくらんでいく。
 けれど、リアの言葉でそんな事など吹っ飛んでしまう。
 
「まあ、でも私は良かったかな」
「どういう事?」
「ラス様には申し訳ないけど、ユーニが訳のわからない男と結婚させられるって事はなくなりそうだから」
「リア・・・・・」

 次の言葉が出てこなくなってしまった私を見て、リアは食べていたクッキーを咀嚼してから言う。

「だって他に良い人いないでしょ? ジンさんに頼んだりしたら」
「ミランダ様がどうなるかわからないよね」

 ミランダ様というのはジンさんに思いを寄せている伯爵令嬢で、彼にゾッコンなのを本人以外はみんな知っているので、フリであってもジンさんには頼みにくい。

「でもさ、どうしてユウヤくんはラス様にこだわるんだろう。普通なら自分の婚約者を好きだった人間に、夫候補になれなんて言うかな?」

 私は気になっていた事をリアに尋ねてみた。

「うーん」

 すると、私の言葉を聞いて、リアは少し唸ったあと答えてくれた。

「私はユウヤくんの気持ちがわかる気がする」
「どういう事?」
「たぶんだけど、ラス様がユウヤくんを裏切らないって信じてるから」
「え?」
「ユーニはさあ、私にユウヤくんを奪われると思うなんて考えた事ある?」

 突然の話題の転換に混乱しながらも、首を横に振る。

「考えたことない。リアはそんな事しないでしょ?」
「じゃあ、たとえば、ユーニがユウマくんを好きになったとして、私から奪おうって思ったりする?」
「・・・・・思わない」

 リアの言いたいことがわかった。
 ユウヤくんはラス様を本当に信じていて、ラス様が彼からと信じている。

「ユウヤくんは悪い奴だねぇ」

 リアがそんな事を言いながらも、楽しそうに笑う。
 リアが元気になってくれたのは嬉しいけど、笑い事ではないんだけどな。

「でも、私もそれならラス様が良かったなあ」
「え?」

 リアがぽつりと呟いたので聞き返す。

「ラス様とユウヤくんを連れて歩けるなんて、令嬢達にしてみれば羨望の的よ。だから、あんたもそうなるんじゃない?」
「恐れ多すぎるよ」

 小さなクッキーを口に入れる。
 こんな時間に食べたら太る。
 わかってはいるけど、やめられない。
 まだ、しばらく起きてるから大丈夫。
 そんな言い訳を頭の中で考えたあと、明日の事が気になり始め、リアに言う。

「明日の招集の内容、絶対に私達の話だよね」
「たぶん。アレンくんのお願い、皆でどうにかして無かった事にしてくれたらいいんだけど」

 はあとため息を吐いたリアは私を見る。

「無理だろうね」
「だよねぇ」

 顔を見合わせ、二人でティーテーブルに突っ伏した。

「あ、ユーニ」
「何?」
「ラス様を選ぶのは私も間違ってないと思う。それにラス様も頭ではわかってくれてると思うよ」

 リアは突っ伏したままの私の頭を優しくなでながら言ってくれた。

「ありがとリア」

 少しだけ、気持ちが楽になった気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛
恋愛
 男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。  イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

処理中です...