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10 聞いても良いんでしょうか?

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「大丈夫?」

 男性陣三人を無理矢理部屋から追い出し、リアは私の所へ戻ってくると、心配そうに私の額に手を当てた。
 やはりまだ熱があるのか、リアの手はひんやりしていて冷たく感じる。

「回復魔法を使えても、自分に使えないのは困ったもんね」
「術者自身が弱ってるから、体力維持に力がまわっちゃうのかもしれない」

 私の回復魔法は特殊で外傷を治すだけでなく、病気も治癒できてしまう。
 だけど、それは自分以外の人にしか無理で、自分の場合はケガしか治せない。
 どういう理由かはわからないけど、自分が回復魔法を使える事を知られたくないから、自分で調べるという事も表立ってできないため、わからないままになっている。
 調べる事によって、怪しまれたりするのも嫌だし。

「とりあえず身体をふいてあげるから、水分と栄養をとって、今日はゆっくり寝なさいな」
「ありがとう、リア。でも、身体は自分で拭くよ」
「出来るならそうして。でも、熱があるからってだけで倒れたわけじゃないんでしょ?」
「うん、まあ」

 さすがリアだ。
 私は倒れる前の出来事をリアに説明すると、病人が寝ているベッドだというのに、バンバン叩きながら言った。

「うわあ、ラス様も押してきたのね!」
「面白がらないでよ」
「迷惑じゃないんでしょ? ラス様の気持ち」

 問われて、私は枕に顔をおしあてて頷く。

「・・・・・うん。迷惑とは思ってない。ただ、ほら、私にはユウヤくんがいるわけだし。普通だったら、こういう関係はだめでしょ? それを考えると、二人に失礼な事をしてるというか」
「別にいいんじゃない? ユウヤくんがオッケーだしたんだし。それに保留とはいえ、このままいけばラス様は婚約者の一人なわけでしょ?」
「うう。そうなるのかな」
「なら別にいいじゃない。今の段階では、ユウヤくんが彼氏で、ラス様が急遽現れた気になる人、みたいな感じ?」
「そ、そうなるのかな?」

 リアの例え話が今の状況とあっているのかはわからないけど、とりあえず頷く。

「このままいけば、ユーニも罪悪感なく、二人を独り占めできるわね!」
「リア!」
「ごめん、ごめん。冗談よ。でも、あながち間違ってない話でもあるけど」

 リアが濡れタオルを用意して手渡してくれたので、ベッドの上で身を起こし、上半身を拭きながら、私は彼女に質問する。

「もし、アレンくんのお願いが叶うような事になったら、リアはどうするの?」
「・・・・・わかんないけど、当たり障りのない人を選ぶよ。私に興味ない人」
「アレンくん、諦めないかもよ?」
「それが問題よね。私なんかのどこがいいんだか」

 リアが困ったようにため息を吐いた。
 いや、リアはとんでもなく可愛いですよ。 
 アレンくんが好きになる気持ちもわかる、って言いたいけど、慰めにはならないからやめておいた。 

「なんにしてもリアは悪くないし、リアが良いな、って思った人を選んで、最終的に幸せになってくれたら良いよ」
「ありがと」

 私の言葉にリアは笑顔で礼を言ったあと、明るい笑顔のまま続ける。

「でもいいなあ。ユーニはラス様とだし、最悪、夜を共にする事になっても優しくしてくれそう」
「ん? 夜?」
「そりゃそうでしょ。初めてはユウヤくんが譲らないだろうけど、ラス様とだって初夜はあるわけだし」
「しょ、しょ、初夜?!」

 初夜という言葉だけでなぜか動揺してしまう。

「結婚したその日の晩は初夜でしょ? 私も噂でしか知らないけど、普通はその日に色々とするんじゃないの? その日までユウヤくんは我慢してるわけだし、ユーニとしてはドキドキね」

 色々とは?
 リアはわかっているみたいだけど、なんだか聞きづらい。
 私も友人から聞いた話で、なんとなくそういう話は知っているけど、実際、詳しくはわからない。
 果実水を飲んで、少し気分を落ち着けてみる。

「やっぱり、ラス様ともそういうのがあるのかな?」
「気になるなら聞いてみれば?」
「誰に?」
「ラス様に。ラス様がしたいというなら、ユウヤくんに相談したらいいじゃない」

 そ、そんな話をしていいもんなの?
 もしかして冗談で言ってるだけ?

「リアだったら、どうする?」
「ん?」
「ユウマくん以外とだと」
「んー。ま、ユウマくん以外でどうしても誰かとしなきゃいけないならラス様かな。ラス様は迷惑だろうけど」

 リアはけろりとした表情で答えて、身体を拭いたタオルと飲んでいた果実水のグラスを私から受け取ると言った。
 
「まあ、もう今日は余計なことを考えてないで眠りなさいな。明日からまた元気にレッスンできるようにしよ?」
「う、うん」
「子守唄歌おうか?」
「大丈夫。ありがと、リア」

 私はよっぽど疲れていたんだろう。
 促されて目を閉じると、すぐに深い眠りについたのだった。



 次の日、目を覚ますと、重かった体もスッキリしていて、いつもの調子に戻っていた。
 心配をかけてしまった侍女さん達に心配をかけたことを謝ってから復活したことを伝え、お風呂に入り、リアにも看病のお礼を言い終えると、早速、私はユウヤくんの所へ向かった。
 ユウヤくんは朝イチの鍛錬を終えて、自室で朝食をとっている所だった。

「おはよう、ユウヤくん」
「ユーニ!」

 私が部屋に入ると、ユウヤくんは食事をしていた手を止めて、椅子から立ち上がると抱きしめてきた。
 うん、なんか、やっぱりホッとする。

「ごめんな、気付けなくて」
「こっちこそ昨日はごめんね。もう熱もひいたし大丈夫だよ」

 すり、とユウヤくんの身体に顔を寄せて、背中に腕を回す。

「ダンスの練習、無理しすぎたか?」
「うーん。わかんないけど、今までの疲れがたまってたのかなあ」
「まあ、そうだよな」

 婚約者になる前もそうだけど、なってからが、それはもう忙しかった。
 リアが嫌だと叫んでくれたから、今は少し楽になったけれど、あの状態が続いていたら、もっと早くに倒れていた気がする。
 
 ユウヤくんが私の顎を手で持ち上げたので、慌てて彼の口を塞ぐ。

「風邪かもしれないし、うつすかもしれないから駄目」
「したいんだけど」
「駄目! 大体、練習の時にいっぱいしたじゃない」
「足りない」
「駄目!」

 このままだとしばらく放してもらえなさそうに感じたので、なんとか腕から逃れると話題を変える。

「今からラス様の所に行ってくるけど」
「飯が食い終わるのを待っててくれたら、一緒に行くぞ?」
「いいの! ユウヤくんだって、やらないといけない事があるでしょ?」
「まあ、そうだけどよ」

 ユウヤくんはどこか不貞腐れたような表情で口を尖らせる。

「何が気に入らないの」
「ほら、一応、ライバルっつーか」
「でもまあ、今、有利なのはユウヤくんじゃない」
「このままいけば、ラスも婚約者だぞ」

 私が頭をなでると、ユウヤくんはその手をとり、彼の口に当ててから言った。

「まあ、それはそうだけど」
「婚約者になって、本当に結婚ってなったら、オマエはアイツと」
「なに、なに、なんの話?!」

 慌てる私にユウヤくんは少し悲しげに笑うと、つかんでいた腕を引き寄せて唇をふさがれた。

「ん……」

 深いキスをされて頭が真っ白になり、声が漏れたところで唇がはなされた。
 止めていた呼吸を開始して軽く睨むと、

「可愛い」

 こつん、と額を合わせて、ユウヤくんが微笑う。

「・・・・・・もう! 駄目って言ったのに!」
「わりぃわりぃ」
「ラス様のとこ行ってくる」
「いいけど、何しに行くんだよ」

 問われて、なんて答えたら良いか迷う。
 元気になったよ、っていう報告と、ダンスの練習を今度こそお願いします、と。
 それから。
 ユウヤくんも気になってるっぽいことを聞いてみようかな。
 いや、やっぱり駄目かな。
 でも、リアは聞いたらって言ってたし。

「ラス様に、元気になった報告と、あとはダンスの練習のお願いと、聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「その、まあ、そんなとこ」
「いいけど。落ち着いたら、オレもラスの部屋に行くからな」
「わかった」

 部屋を出ようとした私に、ユウヤくんが何やら必死に言うものだから、私は笑って頷いた。
 
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