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10 明るい少女
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ルビーのように赤い綺麗な髪をハーフツインにした可愛らしい顔立ちのイボンヌさんは、テーブルに頬杖をついた状態でわたしを見つめてきた。
髪と同じ色のドレスは胸元が大きく開いていて、痩せているのに豊満な胸が強調されている。
「駄目に決まっているでしょう」
これ見よがしに大きなため息を吐くと、イボンヌさんは口をとがらせる。
「あたし、敬語苦手なんですよぉ」
「なら、わたしで慣れたらどう? 今ならお付き合いするわよ」
「はぁい。ほんと、貴族の人って礼儀とかにうるさいですよね」
「あなたは礼儀を習ったことはあるの?」
彼女が座っている向かい側の椅子をウエイターが引いてくれたので、そこに座ってから問いかけた。
「ないです。学校にも通ってないんで」
「じゃあ今は働いているの?」
「働いているといえば働いてます。今だって仕事ですよ」
「わたしと話をするのが仕事だっていうの?」
「そうです。あ、ここの食事、リアド辺境伯家が出してくれるそうなんで、たくさん食べましょうね」
わざとなのかはわからないけれど、まったく悪びれた様子のない彼女に問いかける。
「あなた、わたしの婚約者と浮気していたんでしょう」
「言いましたよね。仕事です」
「気持ちはなかったと言いたいの?」
「今はないです。あたし、あなたの悪口ばかり聞いてたから、あいつのこと可哀想って思って本気で好きになっちゃったんです。それで、範囲外のことをしてしまったんです。それについては反省してます。ごめんなさい。でも、あたしみたいな女に貢いじゃうような男にしちゃったのはあたしのせいじゃないです」
イボンヌさんに見つめられ、それについては納得して頷く。
「わたしの頭がお花畑だったことは認めるわ。でももう変わりたいの。彼にとっては政略結婚のようなものだった。だけど、わたしは違うのよ。彼と結婚してもメリットはない」
「今までは愛があったからメリットがあったけれど、なくなったらデメリットしかないですよね」
ふふっと笑ってからイボンヌさんは話を続ける。
「あたしはリアド辺境伯家に雇ってもらえるようになったから、オズックはもういりません。それに、オズックがあたしに貢いでいたお金、あなたのお金ですよね。さっきも言いましたけど、オズックはあなたのこと本当に悪く言ってたんですよ。だから、そんな女からなら、お金に困ってるわけでもないし、もらってもいっか、なんて思ってました。あと、他の女に関してはあたし以外の女にお金使われるの嫌だったんです」
コース料理が運ばれてきたので、話を中断したイボンヌさんは前菜の料理を見て目を輝かせる。
「綺麗な盛り付け!」
「お金持ちの人に食事に連れて行ってもらったりするのがあなたの仕事なんでしょう? こういう所にも来ていたんじゃないの?」
「いいえ。もっと気楽ところです。こういうところだと奥さんや恋人に鉢合わせする可能性があるから嫌みたいですよ」
「そこまでするなら、奥様と食事に行けばいいのに」
「あたしもそれは思いますけど、そうなると、あたしたちのような奴の働き口がなくなっちゃうんで!」
食事の仕方がわからないようなので、食べ方を教えると、イボンヌさんは豊満な胸を揺らして笑う。
「アルミラ様って人が良いから騙されちゃうタイプでしょう」
「だから、オズック様にも騙されたんじゃないの。今だって得体のしれない、あなたと仲良く食事をしているわ」
「そういえばそうでしたね。でも、あたしは今はリアド辺境伯の紹介ですから大丈夫ですよ!」
イボンヌさんは明るく言うと、一皿目をわたしの真似をして食べ終えてから提案してくる。
「あたしが色々とオズックから聞き出しましょうか」
「それは助かるけれど、あなた、悪い人とつながっているのよね?」
「悪い人? ああ、傘をくれた男性の話ですか?」
「ええ。あなた、オズックとの関係をその人に知られたくないんじゃないの?」
「嘘をつけばいいだけです」
「はい?」
「オズックに無理やり嫌なことをされたって言えば良いだけなんで」
あっけらかんとした表情で言う彼女に眉根を寄せて尋ねる。
「そんなものなの?」
「そうです。それにリアド辺境伯家に雇ってもらうと聞いたら向こうから近づいてこないと思います」
「リアド辺境伯家のほうは善良な領民を悪の手から守ったという感じにするつもりなのかしら」
「その辺はどうなのかわかりませんけど、で、どうします?」
「その件についてはリアド辺境伯とお話させてもらうわ。別件で、あなたが話せるのなら話してほしいのだけど聞いてもいいかしら」
「どうぞ」
イボンヌさんは口についた白いソースをナフキンで拭いながら首を傾げた。
「あなたを雇ったり、わたしに手を貸すことで、リアド辺境伯家にはどういうメリットがあるの」
「一つだけ教えられるのは、アルミラ様のお友達が同じ職場に来る時に、オズックは職場の女性関係を清算してるらしいです。その中に」
「リアド辺境伯令嬢がいたのね」
「そういうことでっす! リアド辺境伯家はそのことがあるから、あなたに手を貸すんじゃないでしょうか。あとから聞いたとはいえ、自分の娘が人様の婚約者と浮気なんて考えられないことですからね。あと、内緒で付き合ってる中にかなり上の位の人がいるとも言われてます」
何が楽しいのかわからないけれど、イボンヌさんは嬉しそうに話してくれた。
もっと上の位の恋人がいるのに、わたしと婚約を解消しない理由は何か考えた時に浮かんだ理由は一つ。
オズック様の浮気相手の中に不倫をしている女性がいるということだ。
「オズック様じゃなくて、オズックと呼び捨てにしても良いかしら」
「良いと思いますよ。あたしが言うのもなんですけど、あいつクズですもん」
独り言のつもりだったけれど、イボンヌさんが明るい笑顔で応えてくれた。
髪と同じ色のドレスは胸元が大きく開いていて、痩せているのに豊満な胸が強調されている。
「駄目に決まっているでしょう」
これ見よがしに大きなため息を吐くと、イボンヌさんは口をとがらせる。
「あたし、敬語苦手なんですよぉ」
「なら、わたしで慣れたらどう? 今ならお付き合いするわよ」
「はぁい。ほんと、貴族の人って礼儀とかにうるさいですよね」
「あなたは礼儀を習ったことはあるの?」
彼女が座っている向かい側の椅子をウエイターが引いてくれたので、そこに座ってから問いかけた。
「ないです。学校にも通ってないんで」
「じゃあ今は働いているの?」
「働いているといえば働いてます。今だって仕事ですよ」
「わたしと話をするのが仕事だっていうの?」
「そうです。あ、ここの食事、リアド辺境伯家が出してくれるそうなんで、たくさん食べましょうね」
わざとなのかはわからないけれど、まったく悪びれた様子のない彼女に問いかける。
「あなた、わたしの婚約者と浮気していたんでしょう」
「言いましたよね。仕事です」
「気持ちはなかったと言いたいの?」
「今はないです。あたし、あなたの悪口ばかり聞いてたから、あいつのこと可哀想って思って本気で好きになっちゃったんです。それで、範囲外のことをしてしまったんです。それについては反省してます。ごめんなさい。でも、あたしみたいな女に貢いじゃうような男にしちゃったのはあたしのせいじゃないです」
イボンヌさんに見つめられ、それについては納得して頷く。
「わたしの頭がお花畑だったことは認めるわ。でももう変わりたいの。彼にとっては政略結婚のようなものだった。だけど、わたしは違うのよ。彼と結婚してもメリットはない」
「今までは愛があったからメリットがあったけれど、なくなったらデメリットしかないですよね」
ふふっと笑ってからイボンヌさんは話を続ける。
「あたしはリアド辺境伯家に雇ってもらえるようになったから、オズックはもういりません。それに、オズックがあたしに貢いでいたお金、あなたのお金ですよね。さっきも言いましたけど、オズックはあなたのこと本当に悪く言ってたんですよ。だから、そんな女からなら、お金に困ってるわけでもないし、もらってもいっか、なんて思ってました。あと、他の女に関してはあたし以外の女にお金使われるの嫌だったんです」
コース料理が運ばれてきたので、話を中断したイボンヌさんは前菜の料理を見て目を輝かせる。
「綺麗な盛り付け!」
「お金持ちの人に食事に連れて行ってもらったりするのがあなたの仕事なんでしょう? こういう所にも来ていたんじゃないの?」
「いいえ。もっと気楽ところです。こういうところだと奥さんや恋人に鉢合わせする可能性があるから嫌みたいですよ」
「そこまでするなら、奥様と食事に行けばいいのに」
「あたしもそれは思いますけど、そうなると、あたしたちのような奴の働き口がなくなっちゃうんで!」
食事の仕方がわからないようなので、食べ方を教えると、イボンヌさんは豊満な胸を揺らして笑う。
「アルミラ様って人が良いから騙されちゃうタイプでしょう」
「だから、オズック様にも騙されたんじゃないの。今だって得体のしれない、あなたと仲良く食事をしているわ」
「そういえばそうでしたね。でも、あたしは今はリアド辺境伯の紹介ですから大丈夫ですよ!」
イボンヌさんは明るく言うと、一皿目をわたしの真似をして食べ終えてから提案してくる。
「あたしが色々とオズックから聞き出しましょうか」
「それは助かるけれど、あなた、悪い人とつながっているのよね?」
「悪い人? ああ、傘をくれた男性の話ですか?」
「ええ。あなた、オズックとの関係をその人に知られたくないんじゃないの?」
「嘘をつけばいいだけです」
「はい?」
「オズックに無理やり嫌なことをされたって言えば良いだけなんで」
あっけらかんとした表情で言う彼女に眉根を寄せて尋ねる。
「そんなものなの?」
「そうです。それにリアド辺境伯家に雇ってもらうと聞いたら向こうから近づいてこないと思います」
「リアド辺境伯家のほうは善良な領民を悪の手から守ったという感じにするつもりなのかしら」
「その辺はどうなのかわかりませんけど、で、どうします?」
「その件についてはリアド辺境伯とお話させてもらうわ。別件で、あなたが話せるのなら話してほしいのだけど聞いてもいいかしら」
「どうぞ」
イボンヌさんは口についた白いソースをナフキンで拭いながら首を傾げた。
「あなたを雇ったり、わたしに手を貸すことで、リアド辺境伯家にはどういうメリットがあるの」
「一つだけ教えられるのは、アルミラ様のお友達が同じ職場に来る時に、オズックは職場の女性関係を清算してるらしいです。その中に」
「リアド辺境伯令嬢がいたのね」
「そういうことでっす! リアド辺境伯家はそのことがあるから、あなたに手を貸すんじゃないでしょうか。あとから聞いたとはいえ、自分の娘が人様の婚約者と浮気なんて考えられないことですからね。あと、内緒で付き合ってる中にかなり上の位の人がいるとも言われてます」
何が楽しいのかわからないけれど、イボンヌさんは嬉しそうに話してくれた。
もっと上の位の恋人がいるのに、わたしと婚約を解消しない理由は何か考えた時に浮かんだ理由は一つ。
オズック様の浮気相手の中に不倫をしている女性がいるということだ。
「オズック様じゃなくて、オズックと呼び捨てにしても良いかしら」
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