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25 やって来た令嬢
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シャーロット様からの返事はすぐに届き、ぜひ会って話をしたいと連絡が来た。
そのため、ファニたちとの話し合いの六日後、待ち合わせたカフェに向かうと、店の奥にある四人がけのテーブルに、シャーロット様とイボンヌさんがいた。
空は晴れ渡っていて気温もちょうど良いものだったからか、普段は屋敷でゴロゴロしていたいイボンヌさんも付いてきたのだと教えてくれた。
二人はわたしが思っていた以上に仲良くなっていて、お互いに考え方が違うから良い刺激になっているみたいだった。
わたしはファニのことを友人だと思っていたけれど、実際は違っていた。
そんな私にちゃんとした友人ができるのかしらと考えながら二人を見ていると、イボンヌさんが話しかけてくる。
「アルミラ様、顔が暗いですよ。何か嫌なことでもあったんですか?」
「……嫌なことはあったわね。でも、良いこともあったわ」
「何があったんでふか?」
イボンヌさんはわたしが来る前に注文していたケーキを口に含んだままま聞いてきた。
「行儀が悪いわよ」
「……申し訳ございません。で、何があったんですか?」
「レッド様がファニとの婚約を破棄したことは聞いたでしょう」
「聞きました!」
答えたのはシャーロット様だった。
以前よりも顔色が良くなり、漂っていた悲壮感のようなものは消え失せている。
新しくできた好きな人の好みが健康的な人らしく、今は少しずつだけれど体重を増やしていっているのだそう。
「まさか、オズックの次に好きになったのは忠犬だったなんて」
引いてもらった椅子に座ったところで、イボンヌさんが呟いた。
それを聞いたシャーロット様が頬をピンク色に染める。
「オズック様とは正反対ですので余計に気になってしまいました」
「わたしもオズック様よりもレッド様のほうが素敵だと思うわ」
「ありがとうございます」
微笑んで言ったわたしの言葉を聞いて、シャーロット様はとても嬉しそうな顔をした。
シャーロット様は同じ職場になったレッド様に恋をした。
最初はたとえレッド様が自分を好きになってくれても、騎士が相手ではお父様も認めてくれないだろうと諦めようとしたらしい。
でも、今回の件でレッド様は伯爵位を継ぐことになった。
それなら、望みはあるということで諦めることはやめたそうだ。
レッド様は正義感も強いし、シャーロット様を好きになってくれれば、素敵なカップルになると思うし、お互いが幸せになれると思う。
だから、迷惑にならない程度に応援するつもりだ。
今日は、わたしの婚約者についての話をするつもりで来たのだけれど、レッド様とシャーロット様の話で盛り上がっていた時だった。
店内は満席状態だというのに、一人の女性が店内に入ってきたかと思うと、店員の静止を振り切って、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
腰まである緑色の髪をハーフツインにした、私たちと変わらない年代の細身の女性、ドリル子爵令嬢はわたしを睨みつけながら近づいてきた。
近くのテーブルに座っていた騎士が彼女の前に立って尋ねる。
「何か御用でしょうか」
「ええ。レイドック侯爵令嬢とお話をさせていただきたいのです」
「あなたはとても興奮しているようだから、何かされても困るわ。そのままの状態で話をしてちょうだい」
3メートル程離れた場所で立ってもらい、話す許可を出すと、彼女はわたしを睨みつけて叫ぶ。
「アフック様に付きまとうのはやめてください! 彼は私の婚約者なんです!」
「付きまとってなんかいないわ。どちらかというと逆よ」
「嘘をつかないでください! アフック様と婚約したいからオズック様をあんな目に遭わせたんでしょう! この性悪女!」
店内には多くの無関係の人がいるにも関わらず、ドリル子爵令嬢はわたしを侮辱する言葉を発した。
アフック様に騙されているのかもしれないけれど、暴言を吐かれた以上、甘い顔はできない。
わたしが口を開こうとした時、少し離れた席に座っていた誰かが先に口を開いた。
「侯爵令嬢に子爵令嬢が暴言吐くなんて、伯爵令息にしてみたら、婚約破棄をするには良い案件だよなあ」
低くてよく通る声が聞こえてきた方向に目を向けると、言葉を発したのはシャーロット様のお兄様のフィリップ様だった。
そのため、ファニたちとの話し合いの六日後、待ち合わせたカフェに向かうと、店の奥にある四人がけのテーブルに、シャーロット様とイボンヌさんがいた。
空は晴れ渡っていて気温もちょうど良いものだったからか、普段は屋敷でゴロゴロしていたいイボンヌさんも付いてきたのだと教えてくれた。
二人はわたしが思っていた以上に仲良くなっていて、お互いに考え方が違うから良い刺激になっているみたいだった。
わたしはファニのことを友人だと思っていたけれど、実際は違っていた。
そんな私にちゃんとした友人ができるのかしらと考えながら二人を見ていると、イボンヌさんが話しかけてくる。
「アルミラ様、顔が暗いですよ。何か嫌なことでもあったんですか?」
「……嫌なことはあったわね。でも、良いこともあったわ」
「何があったんでふか?」
イボンヌさんはわたしが来る前に注文していたケーキを口に含んだままま聞いてきた。
「行儀が悪いわよ」
「……申し訳ございません。で、何があったんですか?」
「レッド様がファニとの婚約を破棄したことは聞いたでしょう」
「聞きました!」
答えたのはシャーロット様だった。
以前よりも顔色が良くなり、漂っていた悲壮感のようなものは消え失せている。
新しくできた好きな人の好みが健康的な人らしく、今は少しずつだけれど体重を増やしていっているのだそう。
「まさか、オズックの次に好きになったのは忠犬だったなんて」
引いてもらった椅子に座ったところで、イボンヌさんが呟いた。
それを聞いたシャーロット様が頬をピンク色に染める。
「オズック様とは正反対ですので余計に気になってしまいました」
「わたしもオズック様よりもレッド様のほうが素敵だと思うわ」
「ありがとうございます」
微笑んで言ったわたしの言葉を聞いて、シャーロット様はとても嬉しそうな顔をした。
シャーロット様は同じ職場になったレッド様に恋をした。
最初はたとえレッド様が自分を好きになってくれても、騎士が相手ではお父様も認めてくれないだろうと諦めようとしたらしい。
でも、今回の件でレッド様は伯爵位を継ぐことになった。
それなら、望みはあるということで諦めることはやめたそうだ。
レッド様は正義感も強いし、シャーロット様を好きになってくれれば、素敵なカップルになると思うし、お互いが幸せになれると思う。
だから、迷惑にならない程度に応援するつもりだ。
今日は、わたしの婚約者についての話をするつもりで来たのだけれど、レッド様とシャーロット様の話で盛り上がっていた時だった。
店内は満席状態だというのに、一人の女性が店内に入ってきたかと思うと、店員の静止を振り切って、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
腰まである緑色の髪をハーフツインにした、私たちと変わらない年代の細身の女性、ドリル子爵令嬢はわたしを睨みつけながら近づいてきた。
近くのテーブルに座っていた騎士が彼女の前に立って尋ねる。
「何か御用でしょうか」
「ええ。レイドック侯爵令嬢とお話をさせていただきたいのです」
「あなたはとても興奮しているようだから、何かされても困るわ。そのままの状態で話をしてちょうだい」
3メートル程離れた場所で立ってもらい、話す許可を出すと、彼女はわたしを睨みつけて叫ぶ。
「アフック様に付きまとうのはやめてください! 彼は私の婚約者なんです!」
「付きまとってなんかいないわ。どちらかというと逆よ」
「嘘をつかないでください! アフック様と婚約したいからオズック様をあんな目に遭わせたんでしょう! この性悪女!」
店内には多くの無関係の人がいるにも関わらず、ドリル子爵令嬢はわたしを侮辱する言葉を発した。
アフック様に騙されているのかもしれないけれど、暴言を吐かれた以上、甘い顔はできない。
わたしが口を開こうとした時、少し離れた席に座っていた誰かが先に口を開いた。
「侯爵令嬢に子爵令嬢が暴言吐くなんて、伯爵令息にしてみたら、婚約破棄をするには良い案件だよなあ」
低くてよく通る声が聞こえてきた方向に目を向けると、言葉を発したのはシャーロット様のお兄様のフィリップ様だった。
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