7 / 56
7 夫なりの思いやり
しおりを挟む
ロン様と義父母は、私がミオ様の住むエイト公爵家の別邸に行くことを反対してきた。
ミオ様は見た目は、大人しそうで人に意見を言えないタイプに見える。
だから、強く言えば引き下がると思ったのかもしれない。
でも、彼女は公爵令嬢だ。
それくらいで負ける人ではない。
「公爵令嬢の私の願いが聞けないというのであれば、父からお願いしてもらえばよろしいですか」
その言葉を聞いた3人は、その場では黙り込み、言い返すことはできなかった。
ミオ様には馬車で待っていてもらい、いつでも出ていけるように用意していたトランクケースを部屋に取りに行く。
その時に、助けてくれたメイドにお礼を伝えた。
パンを持ってきてくれたメイドとは別の人だったから、この世の中、悪い人ばかりではないのだと思って温かい気持ちになった。
世話をしてくれていた使用人たちには改めて礼をするという話をしていると、ロン様とお義母様が部屋にやって来た。
「シェリルさん。エイト公爵家のご迷惑になるから長居はしないようにね。伯爵夫人としての仕事もあるのだから、早めに帰ってきなさい」
「その件なのですが、ロン様に離婚を認めるようにお願いしてもらえませんか。ロン様には私よりも良い人がいらっしゃるかと思います」
「シェリルの代わりなんているわけがない!」
お義母様が応える前にロン様が叫んだ。
「私の代わりはいないかもしれませんが、リグマ伯爵夫人になれる人はいるはずです」
「いないと言ってるじゃないか! 僕の妻はシェリルだけだ!」
表情を歪めて叫んだロン様の前に立ち、お義母様が尋ねてくる。
「シェリルさん。あなた、何が不満だって言うの? こんなにもロンがあなたを大切にしているというのに、どうしてその気持ちがわからないの!」
「価値観の違いとでも言うのでしょうか。私はロン様の行動に愛を感じることができません」
お義母様と呼ぶことも嫌になった。
元リグマ伯爵夫人であるビエネッタ様にそう伝えてから、メイドと一緒に成り行きを見守ってくれていたフットマンに声をかける。
「悪いけれど、トランクケースを馬車に乗せてもらえるかしら」
「承知いたしました」
フットマンが私のトランクケースを持って部屋から出ていくと、我に返ったビエネッタ様が睨みつけてくる。
「絶対に離婚なんてさせないわ。ロンを妻に捨てられた可哀想な男にしてやるものですか!」
「なら、ロン様が私を捨てたということにしてくださって結構です」
「それも世間体が良くないのよ!」
ビエネッタ様は大きく肩で息をしながら、私との距離を縮める。
「ロンは痛がるあなたに無理矢理はできないと言っているの。とても、優しい子よ」
「実際には起きていませんから絶対とは言えませんが、無理矢理にはならなかったでしょう。私は痛みも含めてロン様を受け入れるつもりでした」
「君に失望されるのが怖かったんだ!」
訴えてきたロン様を見て考える。
本当かどうかはわからないけれど、初めての痛みも相手が経験豊富だと楽だと聞いたことがある。
ロン様は女性を買ったりはしていないはずだから、女性経験は少ないはず。
自分が下手かもしれないから、私を抱けなかったということかしら。
痛みを与えないことが優しさだと言いたいのね。
「そんなことで失望なんてしません。幸せな痛みになるはずでしたから」
初夜の時の私は、怖いながらも本当にそう思っていた。
「帰ってきてくれるよね」
「……エイト公爵家の別邸には何日か滞在させてもらいます」
「ずっと待ってるよ」
ロン様が震える声で言うと、ビエネッタ様はロン様の背中を撫でて慰める。
「大丈夫よ、ロン。あなたは何も悪くないのだから。シェリルさんの住む家はここしかないわ」
「でも、エイト公爵家は」
「大丈夫だと言っているでしょう。フェリックス様は別邸にはいないのよ。それに結婚している人を相手にするような方ではないでしょう」
ロン様はビエネッタ様の言葉に頷くと、私を見つめてくる。
「……シェリル。浮気はしないでくれよ」
「あなたと一緒にしないでください」
「僕の心は浮ついてなんかない! 君だけを愛してるんだ!」
駄目だわ。
ロン様は私を愛しているからと言って不貞行為を正当化している。
私のためだから許されるのだと思いこんでいるんでしょう。
これでは話にならない。
エイト公爵家にいつまでもお世話になるわけにはいかない。
だけど、この邸に帰ってくるつもりもない。
別居が長く続けば時間はかかるけれど、離婚は認められる。
相手の不貞行為があるのだから、期間はもっと短くなるはずだ。
裁判をするお金を貯めなければならないとか、色々と考えないといけないことはある。
でも、とにかく今は、一時的とはいえ安全な場所に避難させてもらうことにした。
ミオ様は見た目は、大人しそうで人に意見を言えないタイプに見える。
だから、強く言えば引き下がると思ったのかもしれない。
でも、彼女は公爵令嬢だ。
それくらいで負ける人ではない。
「公爵令嬢の私の願いが聞けないというのであれば、父からお願いしてもらえばよろしいですか」
その言葉を聞いた3人は、その場では黙り込み、言い返すことはできなかった。
ミオ様には馬車で待っていてもらい、いつでも出ていけるように用意していたトランクケースを部屋に取りに行く。
その時に、助けてくれたメイドにお礼を伝えた。
パンを持ってきてくれたメイドとは別の人だったから、この世の中、悪い人ばかりではないのだと思って温かい気持ちになった。
世話をしてくれていた使用人たちには改めて礼をするという話をしていると、ロン様とお義母様が部屋にやって来た。
「シェリルさん。エイト公爵家のご迷惑になるから長居はしないようにね。伯爵夫人としての仕事もあるのだから、早めに帰ってきなさい」
「その件なのですが、ロン様に離婚を認めるようにお願いしてもらえませんか。ロン様には私よりも良い人がいらっしゃるかと思います」
「シェリルの代わりなんているわけがない!」
お義母様が応える前にロン様が叫んだ。
「私の代わりはいないかもしれませんが、リグマ伯爵夫人になれる人はいるはずです」
「いないと言ってるじゃないか! 僕の妻はシェリルだけだ!」
表情を歪めて叫んだロン様の前に立ち、お義母様が尋ねてくる。
「シェリルさん。あなた、何が不満だって言うの? こんなにもロンがあなたを大切にしているというのに、どうしてその気持ちがわからないの!」
「価値観の違いとでも言うのでしょうか。私はロン様の行動に愛を感じることができません」
お義母様と呼ぶことも嫌になった。
元リグマ伯爵夫人であるビエネッタ様にそう伝えてから、メイドと一緒に成り行きを見守ってくれていたフットマンに声をかける。
「悪いけれど、トランクケースを馬車に乗せてもらえるかしら」
「承知いたしました」
フットマンが私のトランクケースを持って部屋から出ていくと、我に返ったビエネッタ様が睨みつけてくる。
「絶対に離婚なんてさせないわ。ロンを妻に捨てられた可哀想な男にしてやるものですか!」
「なら、ロン様が私を捨てたということにしてくださって結構です」
「それも世間体が良くないのよ!」
ビエネッタ様は大きく肩で息をしながら、私との距離を縮める。
「ロンは痛がるあなたに無理矢理はできないと言っているの。とても、優しい子よ」
「実際には起きていませんから絶対とは言えませんが、無理矢理にはならなかったでしょう。私は痛みも含めてロン様を受け入れるつもりでした」
「君に失望されるのが怖かったんだ!」
訴えてきたロン様を見て考える。
本当かどうかはわからないけれど、初めての痛みも相手が経験豊富だと楽だと聞いたことがある。
ロン様は女性を買ったりはしていないはずだから、女性経験は少ないはず。
自分が下手かもしれないから、私を抱けなかったということかしら。
痛みを与えないことが優しさだと言いたいのね。
「そんなことで失望なんてしません。幸せな痛みになるはずでしたから」
初夜の時の私は、怖いながらも本当にそう思っていた。
「帰ってきてくれるよね」
「……エイト公爵家の別邸には何日か滞在させてもらいます」
「ずっと待ってるよ」
ロン様が震える声で言うと、ビエネッタ様はロン様の背中を撫でて慰める。
「大丈夫よ、ロン。あなたは何も悪くないのだから。シェリルさんの住む家はここしかないわ」
「でも、エイト公爵家は」
「大丈夫だと言っているでしょう。フェリックス様は別邸にはいないのよ。それに結婚している人を相手にするような方ではないでしょう」
ロン様はビエネッタ様の言葉に頷くと、私を見つめてくる。
「……シェリル。浮気はしないでくれよ」
「あなたと一緒にしないでください」
「僕の心は浮ついてなんかない! 君だけを愛してるんだ!」
駄目だわ。
ロン様は私を愛しているからと言って不貞行為を正当化している。
私のためだから許されるのだと思いこんでいるんでしょう。
これでは話にならない。
エイト公爵家にいつまでもお世話になるわけにはいかない。
だけど、この邸に帰ってくるつもりもない。
別居が長く続けば時間はかかるけれど、離婚は認められる。
相手の不貞行為があるのだから、期間はもっと短くなるはずだ。
裁判をするお金を貯めなければならないとか、色々と考えないといけないことはある。
でも、とにかく今は、一時的とはいえ安全な場所に避難させてもらうことにした。
772
あなたにおすすめの小説
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる