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3 消えない聖なる力
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「本当に信じられないわ。なんて人たちなの!」
自分の子供に対する仕打ちとしては酷すぎるんじゃないかしら。
考えてみたら、30日ごとに送られてくる手紙には、会ったことのない弟や妹にお金がかかると、遠回しに金銭をねだる内容が書かれていた。
純粋な気持ちで家族を助けたいと思い、宰相や財務担当者に相談して、疑いもせずにお金を送っていた自分が腹立たしい。
門から少し離れて、実家だった家を眺める。
よくよく見ると、家は増築されていて、わたしが住んでいた頃よりも一回り大きくなっていた。
こんな家、潰れてしまえばいいのよ!
……なんて、家族の不幸を願ったりしたら、罰が当たってしまうかしら?
頭でわかっていても、苛立つ気持ちが抑えられない。
恨みを込めて屋敷を見つめていると、わたしを乗せてきてくれた馬車の御者が話しかけてきた。
「お嬢様、よろしければ王都までお送りしましょう。住む場所を探すにしても、王都のほうが安全ですからね」
「お気持ちは有り難いのですが、運賃を支払うお金がないんです」
「お金は必要ありませんよ。どうせ、私も王都に帰るんです。誰も乗せずに帰るよりも、お嬢様と一緒に帰るほうが、私は寂しくなくて良いですよ」
「ありがとうございます」
御者は60代後半の好々爺だった。
今回は、遠くに住んでいる孫たちが遊びに来た時に、プレゼントを買いたくて単発の仕事を受けたのだと言う。
アクセサリー類は両親に奪われてしまったけれど、お小遣いで買ったドレスなどは馬車の中に残っている。
そうよ。これを売れば運賃は払えるわ!
「では、王都までお願いできますか?」
「もちろんですよ」
頭を下げると、御者は被っていた帽子をとって、ペコペコと頭を下げてくれた。
わたしたちの所に馬に乗った騎士たちが近寄ってきて、その内の1人が馬から降りて言う。
「リアンナ様、今回の件につきましては両陛下にお話が伝わるように手配しておきます」
「ありがとうございます。でも、わたしはもう伯爵令嬢でもないみたいですし伝えていただかなくても結構です」
「全て報告しろと言われておりますので」
騎士たちも引き続き、王都までわたしの護衛を続けると言ってくれた。
わたしのせいで彼らの帰りを遅くさせてしまうことは、本当に申し訳ないと思った。
わたしのことは大丈夫だからと断っても、頑なに護衛すると言い張るので、こちらが折れた。
聖なる力は10日経っても未だに使えていたので、王都に向かう道すがら聖なる力を使って、多くの人を癒やした。
日が経つごとに、わたしの噂は広まった。
無償で聖なる力を使うつもりだったのに、お金を出すから屋敷に来てほしいという貴族や、お金を払う、もしくは無料で食事や宿を提供するので聖なる力を使ってほしいと言ってくれる人が増えていった。
だから、わたしたちが王都に戻れたのは行きよりも10日以上かかった23日後だった。
「おかしいわね。どうしてまだ聖なる力が使えるのかしら」
王都に着いたわたしは、別れ際に騎士たちと話をした。
「こんなことを言うのはなんですが、根本的なものが間違っているのかもしれませんね」
「でも、テナミ様が王太子殿下であるということは、次の国王はテナミ様で間違いないでしょう? 神様はどうしてしまったのかしら。そういえば、ムーニャは聖なる力を使えているのかしら」
「確認しておきますが、使えるようになっていれば、もっと話題になっていそうな気がします」
「秘密にしているのかもしれないわね」
この頃のわたしは呑気に、そんなことを考えていた。
騎士たちと別れたあとは、御者のレブさんの家に向かった。
レブさんは奥さんと二人で暮らしていて、部屋が余っているから良かったら一緒に住まないかと言ってくれたのだ。
この頃にはレブさんとはかなり仲良くなっていた。
なんだかんだとお金を稼ぎながらここまで戻ってきていたので、食事込みの家賃を30日ごとにお支払いすることでお世話になることにした。
そして、この日からわたしは、王都で平民としての暮らしを始めることになったのだった。
自分の子供に対する仕打ちとしては酷すぎるんじゃないかしら。
考えてみたら、30日ごとに送られてくる手紙には、会ったことのない弟や妹にお金がかかると、遠回しに金銭をねだる内容が書かれていた。
純粋な気持ちで家族を助けたいと思い、宰相や財務担当者に相談して、疑いもせずにお金を送っていた自分が腹立たしい。
門から少し離れて、実家だった家を眺める。
よくよく見ると、家は増築されていて、わたしが住んでいた頃よりも一回り大きくなっていた。
こんな家、潰れてしまえばいいのよ!
……なんて、家族の不幸を願ったりしたら、罰が当たってしまうかしら?
頭でわかっていても、苛立つ気持ちが抑えられない。
恨みを込めて屋敷を見つめていると、わたしを乗せてきてくれた馬車の御者が話しかけてきた。
「お嬢様、よろしければ王都までお送りしましょう。住む場所を探すにしても、王都のほうが安全ですからね」
「お気持ちは有り難いのですが、運賃を支払うお金がないんです」
「お金は必要ありませんよ。どうせ、私も王都に帰るんです。誰も乗せずに帰るよりも、お嬢様と一緒に帰るほうが、私は寂しくなくて良いですよ」
「ありがとうございます」
御者は60代後半の好々爺だった。
今回は、遠くに住んでいる孫たちが遊びに来た時に、プレゼントを買いたくて単発の仕事を受けたのだと言う。
アクセサリー類は両親に奪われてしまったけれど、お小遣いで買ったドレスなどは馬車の中に残っている。
そうよ。これを売れば運賃は払えるわ!
「では、王都までお願いできますか?」
「もちろんですよ」
頭を下げると、御者は被っていた帽子をとって、ペコペコと頭を下げてくれた。
わたしたちの所に馬に乗った騎士たちが近寄ってきて、その内の1人が馬から降りて言う。
「リアンナ様、今回の件につきましては両陛下にお話が伝わるように手配しておきます」
「ありがとうございます。でも、わたしはもう伯爵令嬢でもないみたいですし伝えていただかなくても結構です」
「全て報告しろと言われておりますので」
騎士たちも引き続き、王都までわたしの護衛を続けると言ってくれた。
わたしのせいで彼らの帰りを遅くさせてしまうことは、本当に申し訳ないと思った。
わたしのことは大丈夫だからと断っても、頑なに護衛すると言い張るので、こちらが折れた。
聖なる力は10日経っても未だに使えていたので、王都に向かう道すがら聖なる力を使って、多くの人を癒やした。
日が経つごとに、わたしの噂は広まった。
無償で聖なる力を使うつもりだったのに、お金を出すから屋敷に来てほしいという貴族や、お金を払う、もしくは無料で食事や宿を提供するので聖なる力を使ってほしいと言ってくれる人が増えていった。
だから、わたしたちが王都に戻れたのは行きよりも10日以上かかった23日後だった。
「おかしいわね。どうしてまだ聖なる力が使えるのかしら」
王都に着いたわたしは、別れ際に騎士たちと話をした。
「こんなことを言うのはなんですが、根本的なものが間違っているのかもしれませんね」
「でも、テナミ様が王太子殿下であるということは、次の国王はテナミ様で間違いないでしょう? 神様はどうしてしまったのかしら。そういえば、ムーニャは聖なる力を使えているのかしら」
「確認しておきますが、使えるようになっていれば、もっと話題になっていそうな気がします」
「秘密にしているのかもしれないわね」
この頃のわたしは呑気に、そんなことを考えていた。
騎士たちと別れたあとは、御者のレブさんの家に向かった。
レブさんは奥さんと二人で暮らしていて、部屋が余っているから良かったら一緒に住まないかと言ってくれたのだ。
この頃にはレブさんとはかなり仲良くなっていた。
なんだかんだとお金を稼ぎながらここまで戻ってきていたので、食事込みの家賃を30日ごとにお支払いすることでお世話になることにした。
そして、この日からわたしは、王都で平民としての暮らしを始めることになったのだった。
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