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第2章 新たな婚約者
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ラソウエ公爵家には幼馴染の二人が付いてきてくれることになった。
侍女が一人と騎士が一人だなんて、公爵家の人間がお世話になるには、連れて行く人数が少なすぎる。
でも、お姉様がたくさん侍女を連れて行くので、何かあった時はエルファのほうから、お姉様の侍女に話をしてくれることになった。
「私はセフィリア様の嫁ぎ先が、たとえ他国であったとしても、セフィリア様が望んでくださるのなら付いていく覚悟をしております!」
「僕もセフィリア様専属の騎士ですから、望んでくださるのなら付いていくつもりです」
「ありがとう二人共」
お姉様と一緒に行くとはいえ、お姉様は味方ではないから不安なことは確かだった。
二人がいてくれるなら頑張れるわ。
思いを伝えあったわけではなさそうだけれど、二人は両思いだから、離れ離れにさせるだなんて嫌だと思っていた。
だけど、こんな風に言ってくれるのなら、私も頼みやすい。
他国に嫁に行く予定なんてない。
でも、今の状況を考えると、良いお相手がいるのであれば他国に嫁ぎたい気分だった。
そして、ラソウエ公爵家に来てから、もっとその気持ちは強くなった。
*****
「違います! それはこっちです! さっきも言ったでしょう! どうして、そんなことも覚えられないのですか!」
ラソウエ公爵家に着いた次の日から、わたしとお姉様は、ロビースト様の側近のような役割をさせられることになった。
やっていることは同じだけど、経験の差が出てしまうのか、お姉様は仕事が遅かった。
わたしの場合は、お父様の時にやっていた仕事と似たようなものなので、ある程度は対処できる。
でも、花嫁修業に専念していたお姉様は、書類仕事は慣れていない。
今も、書類の置き場所を間違えて怒られている。
ロビースト様は神経質だった。
書類が少しでも乱れていれば怒りだして、机の上に置いてあるものを手で下に落としていく。
初めて見た時は、癇癪を起こしている大きな子供だと思った。
子供ならまだ可愛いものだ。
でも、相手の体は子供ではないし、性別も違う。
止めようとしても、力ではかなわなかった。
頼みの綱になりそうなシード様は長期で出かけていて不在だった。
いつ、帰って来るかはわからない。
「ああ、もう、本当にイライラします! 部屋から出て行ってください!」
ロビースト様は持っていたペンをお姉様に投げつけて叫んだ。
「ロビースト様、申し訳ございません! 頑張りますから、お許しください!」
「その言葉を何回聞いたと思っているんですか! もう信じられません」
「お願いです、ロビースト様! 頑張りますから!」
お姉様が大声で泣き始めた。
「ロビースト様、明日、お休みをいただけないでしょうか。そして、その間、お姉様に仕事をお願いしたいのです」
わたしが手を挙げて言うと、ロビースト様だけでなく、お姉様までもが睨んできた。
もう耐えられないわ。
エルファたちには申し訳ないけど、こんなところ、逃げ出してやる。
今まではお姉様の好きな人がロビースト様だから、婚約することが嫌だった。
だけど、今は違う。
お姉様の好きな人であろうがなかろうが、この人の妻にはなりたくなかった。
わたしがいなくなれば、自動的にお姉様は彼の妻になれるはずだ。
どこかへ出かけるふりをして、そのまま戻らないようにしよう。
そう考えた。
「無理です」
ロビースト様は冷たく言い放った。
「……無理とはどういうことでしょうか?」
「こんなに使えない人間に、わたくしの妻になる資格などありません! セフィリア、あなたがわたくしの婚約者になることを、今、決定しました」
「そんな! ここに来て10日程です。見極めるには早すぎるでしょう! それに、わたしは今までにやって来た経験値があります! お姉様にはそれがありません!」
「だとしても、です。一向に痩せもしないではないですか! 仕事が出来ないストレスで、たくさん食べているようですしね!」
ロビースト様は鼻で笑いながら、お姉様を見つめた。
「お姉様」
「うるさいわね! 何よ! セフィリアは、どうして、そんなに真面目に仕事をしてるのよ!」
「ミスをしないようにしていただけです!」
これでも、お姉様に合わせてかなり遅く仕事をしていた。
ロビースト様はネチネチ怒ってくるから、怒られないようにミスをしないように気をつけた。
それが悪手だったのだ。
「決めました。フィーナ嬢はどうしてもわたくしの側にいたいようですから、メイドとして置いてあげましょう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますじゃないわよ!」
わたしは相手がお姉様であることを忘れて叫んだ。
「そういえば、セフィリア嬢に伝えておきたいことがあります」
「……なんでしょうか」
「あなたの元婚約者ですが、我が国の王女と婚約なさいましたよ。もし、あなたがここを逃げれば、わたくしと、あなたの実家、それから王家から探されることになるでしょう。王女殿下はあなたにご立腹のようですから、王家からの追手に捕まれば、どうなるかわかりませんねえ」
ロビースト様は「あはははは」と大きな声で笑った。
侍女が一人と騎士が一人だなんて、公爵家の人間がお世話になるには、連れて行く人数が少なすぎる。
でも、お姉様がたくさん侍女を連れて行くので、何かあった時はエルファのほうから、お姉様の侍女に話をしてくれることになった。
「私はセフィリア様の嫁ぎ先が、たとえ他国であったとしても、セフィリア様が望んでくださるのなら付いていく覚悟をしております!」
「僕もセフィリア様専属の騎士ですから、望んでくださるのなら付いていくつもりです」
「ありがとう二人共」
お姉様と一緒に行くとはいえ、お姉様は味方ではないから不安なことは確かだった。
二人がいてくれるなら頑張れるわ。
思いを伝えあったわけではなさそうだけれど、二人は両思いだから、離れ離れにさせるだなんて嫌だと思っていた。
だけど、こんな風に言ってくれるのなら、私も頼みやすい。
他国に嫁に行く予定なんてない。
でも、今の状況を考えると、良いお相手がいるのであれば他国に嫁ぎたい気分だった。
そして、ラソウエ公爵家に来てから、もっとその気持ちは強くなった。
*****
「違います! それはこっちです! さっきも言ったでしょう! どうして、そんなことも覚えられないのですか!」
ラソウエ公爵家に着いた次の日から、わたしとお姉様は、ロビースト様の側近のような役割をさせられることになった。
やっていることは同じだけど、経験の差が出てしまうのか、お姉様は仕事が遅かった。
わたしの場合は、お父様の時にやっていた仕事と似たようなものなので、ある程度は対処できる。
でも、花嫁修業に専念していたお姉様は、書類仕事は慣れていない。
今も、書類の置き場所を間違えて怒られている。
ロビースト様は神経質だった。
書類が少しでも乱れていれば怒りだして、机の上に置いてあるものを手で下に落としていく。
初めて見た時は、癇癪を起こしている大きな子供だと思った。
子供ならまだ可愛いものだ。
でも、相手の体は子供ではないし、性別も違う。
止めようとしても、力ではかなわなかった。
頼みの綱になりそうなシード様は長期で出かけていて不在だった。
いつ、帰って来るかはわからない。
「ああ、もう、本当にイライラします! 部屋から出て行ってください!」
ロビースト様は持っていたペンをお姉様に投げつけて叫んだ。
「ロビースト様、申し訳ございません! 頑張りますから、お許しください!」
「その言葉を何回聞いたと思っているんですか! もう信じられません」
「お願いです、ロビースト様! 頑張りますから!」
お姉様が大声で泣き始めた。
「ロビースト様、明日、お休みをいただけないでしょうか。そして、その間、お姉様に仕事をお願いしたいのです」
わたしが手を挙げて言うと、ロビースト様だけでなく、お姉様までもが睨んできた。
もう耐えられないわ。
エルファたちには申し訳ないけど、こんなところ、逃げ出してやる。
今まではお姉様の好きな人がロビースト様だから、婚約することが嫌だった。
だけど、今は違う。
お姉様の好きな人であろうがなかろうが、この人の妻にはなりたくなかった。
わたしがいなくなれば、自動的にお姉様は彼の妻になれるはずだ。
どこかへ出かけるふりをして、そのまま戻らないようにしよう。
そう考えた。
「無理です」
ロビースト様は冷たく言い放った。
「……無理とはどういうことでしょうか?」
「こんなに使えない人間に、わたくしの妻になる資格などありません! セフィリア、あなたがわたくしの婚約者になることを、今、決定しました」
「そんな! ここに来て10日程です。見極めるには早すぎるでしょう! それに、わたしは今までにやって来た経験値があります! お姉様にはそれがありません!」
「だとしても、です。一向に痩せもしないではないですか! 仕事が出来ないストレスで、たくさん食べているようですしね!」
ロビースト様は鼻で笑いながら、お姉様を見つめた。
「お姉様」
「うるさいわね! 何よ! セフィリアは、どうして、そんなに真面目に仕事をしてるのよ!」
「ミスをしないようにしていただけです!」
これでも、お姉様に合わせてかなり遅く仕事をしていた。
ロビースト様はネチネチ怒ってくるから、怒られないようにミスをしないように気をつけた。
それが悪手だったのだ。
「決めました。フィーナ嬢はどうしてもわたくしの側にいたいようですから、メイドとして置いてあげましょう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますじゃないわよ!」
わたしは相手がお姉様であることを忘れて叫んだ。
「そういえば、セフィリア嬢に伝えておきたいことがあります」
「……なんでしょうか」
「あなたの元婚約者ですが、我が国の王女と婚約なさいましたよ。もし、あなたがここを逃げれば、わたくしと、あなたの実家、それから王家から探されることになるでしょう。王女殿下はあなたにご立腹のようですから、王家からの追手に捕まれば、どうなるかわかりませんねえ」
ロビースト様は「あはははは」と大きな声で笑った。
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