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第3章 戻ってきた救世主
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仕事を続けられる気分ではなくなり、ロビースト様の許可も取らずに、わたしは勝手に部屋に帰った。
わたしの表情を見て、エルファたちが心配してくれたので、先程の話を話してみた。
すると、エルファが怒り始める。
「なんてことを言うのでしょう! このままでは、セフィリア様が不幸になってしまいます! しかも、フィーナ様も酷いです! いきなり、人が変わったようになってしまわれて……! 今までは、セフィリア様と仲良くされていたのに!」
「たぶん、彼だけはわたしのものにならないと思っていたんでしょう」
わたしにはデスタという婚約者がいた。
だから、ロビースト様も手は出せなかったのでしょう。
お姉様はロビースト様はわたしに興味がないと思いこんでしまったのね。
だから、わたしに奪われるかもしれないと思い込んで、人が変わったように、ロビースト様に執着するようになってしまったのかもしれない。
わたしはお姉様を追い詰める気なんてなかったのに。
「わたしは、あんな人なんていらない」
「……逃げますか」
呟いたわたしに、マディアスがぽつりと言った。
「そうね。逃げたいわ。でも、逃げてどうにかなるものではないのよ。王女殿下がデスタから何を聞かされたのかはわからない。でも、わたしのことを良く思っていないことは確かだわ。お父様が反王家派だということにも気が付いているでしょう。王女殿下の手先に捕まれば、わたしは人知れず殺されるでしょうね」
「そんなことはさせません!」
「そうです! 私たちがセフィリア様をお守りします!」
マディアスとエルファが躊躇う様子もなく言ってくれた。
二人の気持ちは本当に嬉しい。
「ありがとう。でも、わたしを逃がしたのが、あなた達だとわかれば、あなた達の家族にまで危険が及ぶ恐れがあるから、気持ちだけで十分よ」
「ですが!」
「いいのよ、マディアス。これはわたしの問題なんだから、自分でなんとかするわ」
礼を言ってから、一人にしてほしいと伝えると、二人は心配そうな顔をしながらも部屋を出ていった。
一人になり、窓際に置いている安楽椅子に座って考える。
どうにかしないといけない。
お姉様は婚約者じゃなく、メイドでも良いだなんて馬鹿なことを言っていた。
わたしにしてみれば、ロビースト様には、そんなことを言うお姉様のほうがお似合いよ。
近々にしないといけないことは、お姉様にロビースト様を押し付けて、王女殿下から自分の身を守らなければならない。
お父様に相談しても無駄だろうし、友人に相談するのも危険だ。
それに、友人やその家族を厄介事に巻き込みたくない。
結局、その日は何も思い浮かばず、夜も一睡もできなかった。
エルファが気を遣って、朝食を運んでくれたけれど、ほとんど喉を通らなかった。
こんな弱気じゃ駄目よ。
それに太らなくちゃいけない。
太って嫌われないと駄目よ!
無理やり、食べ物を口に入れた。
でも、すぐに気分が悪くなって嘔吐しそうになってしまう。
自分の精神の弱さを思い知らされた。
ロビースト様は昨日は何も言ってこなかったけれど、今日は仕事を始める時間の少し前に、わたしの部屋まで迎えにやって来た。
「昨日は無断でサボりましたからね。今日はしっかり仕事をしていただきましょう」
ロビースト様は作り笑顔を浮かべることさえもできないくらいに腹を立てているようだった。
凶悪な顔をして、勝手にわたしの部屋に入ってくると、身支度を整えていたわたしの腕を掴んだ。
「ロビースト様、本日のセフィリア様は体調が」
「うるさい! 侍女のくせにわたくしに指図しないでください!」
ロビースト様はエルファの顔を拳で殴った。
「……っ!」
「エルファ!」
声にならない声を上げて、エルファが後ろにふっとばされた。
エルファが倒れ込む音で異変を感じたマディアスが扉を開けて叫ぶ。
「セフィリア様! それに、エルファ! 一体、どうしたんだ!」
「おやおや、騎士が勝手にレディの部屋に入ってくるなんて許せませんね。どんな罰を与えてやりましょうか」
ロビースト様はにやりと笑って、マディアスを見つめた。
「ロビースト様、彼はわたしの騎士です! わたしを守ろうとするために部屋に入ったのです!」
「わたくしの許可もなしにですか?」
「そうです! ここはわたしの部屋」
「口ごたえするな!」
ロビースト様は激昂すると、私の頭を掴んで、彼の膝でわたしの顎を打った。
「もう、あなたはわたくしのものなんですよ! あなたのお父様はわたくしを婚約者だと認めてくださるはずです! 昨日の間に書類を送りましたから、もう戻ってくる頃でしょう!」
「おやめください!」
床に倒れ込んだわたしの体をロビースト様は何度も蹴ってくる。
そんなロビースト様に向かってマディアスが叫び、彼の手が剣の柄に触れた時だった。
「残念だったなあ。そんな書類は、エルテ公爵に渡す前に燃やしちまったわ」
「……なんですって?」
ロビースト様の動きを止めたのは、わたしにとっては心地良い低音の声だった。
痛むお腹を押さえ、床に寝転んだままで扉の方向に顔を向ける。
開け放たれた扉の前に立っていたのは、わたしにとっては謎の人物である、シード様だった。
わたしの表情を見て、エルファたちが心配してくれたので、先程の話を話してみた。
すると、エルファが怒り始める。
「なんてことを言うのでしょう! このままでは、セフィリア様が不幸になってしまいます! しかも、フィーナ様も酷いです! いきなり、人が変わったようになってしまわれて……! 今までは、セフィリア様と仲良くされていたのに!」
「たぶん、彼だけはわたしのものにならないと思っていたんでしょう」
わたしにはデスタという婚約者がいた。
だから、ロビースト様も手は出せなかったのでしょう。
お姉様はロビースト様はわたしに興味がないと思いこんでしまったのね。
だから、わたしに奪われるかもしれないと思い込んで、人が変わったように、ロビースト様に執着するようになってしまったのかもしれない。
わたしはお姉様を追い詰める気なんてなかったのに。
「わたしは、あんな人なんていらない」
「……逃げますか」
呟いたわたしに、マディアスがぽつりと言った。
「そうね。逃げたいわ。でも、逃げてどうにかなるものではないのよ。王女殿下がデスタから何を聞かされたのかはわからない。でも、わたしのことを良く思っていないことは確かだわ。お父様が反王家派だということにも気が付いているでしょう。王女殿下の手先に捕まれば、わたしは人知れず殺されるでしょうね」
「そんなことはさせません!」
「そうです! 私たちがセフィリア様をお守りします!」
マディアスとエルファが躊躇う様子もなく言ってくれた。
二人の気持ちは本当に嬉しい。
「ありがとう。でも、わたしを逃がしたのが、あなた達だとわかれば、あなた達の家族にまで危険が及ぶ恐れがあるから、気持ちだけで十分よ」
「ですが!」
「いいのよ、マディアス。これはわたしの問題なんだから、自分でなんとかするわ」
礼を言ってから、一人にしてほしいと伝えると、二人は心配そうな顔をしながらも部屋を出ていった。
一人になり、窓際に置いている安楽椅子に座って考える。
どうにかしないといけない。
お姉様は婚約者じゃなく、メイドでも良いだなんて馬鹿なことを言っていた。
わたしにしてみれば、ロビースト様には、そんなことを言うお姉様のほうがお似合いよ。
近々にしないといけないことは、お姉様にロビースト様を押し付けて、王女殿下から自分の身を守らなければならない。
お父様に相談しても無駄だろうし、友人に相談するのも危険だ。
それに、友人やその家族を厄介事に巻き込みたくない。
結局、その日は何も思い浮かばず、夜も一睡もできなかった。
エルファが気を遣って、朝食を運んでくれたけれど、ほとんど喉を通らなかった。
こんな弱気じゃ駄目よ。
それに太らなくちゃいけない。
太って嫌われないと駄目よ!
無理やり、食べ物を口に入れた。
でも、すぐに気分が悪くなって嘔吐しそうになってしまう。
自分の精神の弱さを思い知らされた。
ロビースト様は昨日は何も言ってこなかったけれど、今日は仕事を始める時間の少し前に、わたしの部屋まで迎えにやって来た。
「昨日は無断でサボりましたからね。今日はしっかり仕事をしていただきましょう」
ロビースト様は作り笑顔を浮かべることさえもできないくらいに腹を立てているようだった。
凶悪な顔をして、勝手にわたしの部屋に入ってくると、身支度を整えていたわたしの腕を掴んだ。
「ロビースト様、本日のセフィリア様は体調が」
「うるさい! 侍女のくせにわたくしに指図しないでください!」
ロビースト様はエルファの顔を拳で殴った。
「……っ!」
「エルファ!」
声にならない声を上げて、エルファが後ろにふっとばされた。
エルファが倒れ込む音で異変を感じたマディアスが扉を開けて叫ぶ。
「セフィリア様! それに、エルファ! 一体、どうしたんだ!」
「おやおや、騎士が勝手にレディの部屋に入ってくるなんて許せませんね。どんな罰を与えてやりましょうか」
ロビースト様はにやりと笑って、マディアスを見つめた。
「ロビースト様、彼はわたしの騎士です! わたしを守ろうとするために部屋に入ったのです!」
「わたくしの許可もなしにですか?」
「そうです! ここはわたしの部屋」
「口ごたえするな!」
ロビースト様は激昂すると、私の頭を掴んで、彼の膝でわたしの顎を打った。
「もう、あなたはわたくしのものなんですよ! あなたのお父様はわたくしを婚約者だと認めてくださるはずです! 昨日の間に書類を送りましたから、もう戻ってくる頃でしょう!」
「おやめください!」
床に倒れ込んだわたしの体をロビースト様は何度も蹴ってくる。
そんなロビースト様に向かってマディアスが叫び、彼の手が剣の柄に触れた時だった。
「残念だったなあ。そんな書類は、エルテ公爵に渡す前に燃やしちまったわ」
「……なんですって?」
ロビースト様の動きを止めたのは、わたしにとっては心地良い低音の声だった。
痛むお腹を押さえ、床に寝転んだままで扉の方向に顔を向ける。
開け放たれた扉の前に立っていたのは、わたしにとっては謎の人物である、シード様だった。
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