人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ

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22 変わる気のある人とそうでない人③

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 エレインがフールー伯爵令嬢を睨み付けながら話し掛ける。

「必要以上にリネ様に近付くことは許されていないはずよ。しかも暴力をふるおうとしたんだから、どうなるかわかっているわよね?」
「うるさいわね! もう我慢できないのよ! こんな女の顔色を私が気にしないといけないなんて御免だわ!」

 フールー伯爵令嬢は、エレインのほうを見もせずに私に噛み付いてくる。
 この数日の間に、エレインやお義母様には女性との付き合い方を教えてもらった。
 友人と接するものではなく、顔見知りや初対面の相手とのやり取りの仕方などだ。
 もちろん、他のパターンも教えてもらっていて、フールー伯爵令嬢のような人が相手の場合は無視をするのが一番だと聞いた。

 でも、何度も無視したとしても、彼女はしつこく絡んできそうだった。

 大丈夫。
 言いたいことを言うと決めたんだから。 
 それに私は一人じゃない。
 エレインが見守ってくれている。

 大きく深呼吸してから口を開く。

「フールー伯爵令嬢、私はあなたみたいな人と関わりあいたくないの。普通の人は、イライラしたりしても人に攻撃なんかしたりしないのよ。自分の性格の悪さをわざわざ他の人に知らしめているってこともわからないの?」
「うるさいわね! 昔からこうやってきて許されてきたのよ! それなのに!」

 フールー伯爵令嬢の言い分が誰かのものに似ていると思ったら、お姉様だとわかった。

 いつかは戦わないといけない、お姉様との対策のために、まずはフールー伯爵令嬢と戦うことに決めた。

 上半身が熱く感じるのは、怒りとまだ残っているフールー伯爵令嬢への恐怖で興奮状態になっているからかもしれない。

「ちょっと聞いてるの!?」

 とにかく気持ちを落ち着けようとすると、フールー伯爵令嬢は、白ブラウスを着ている私の胸あたりに手を伸ばしてきた。

「やめなさいって言っているでしょう!」

 エレインが叫び、フールー伯爵令嬢の腕に手刀を叩き込んだ。

 フールー伯爵令嬢は腕を反対の手で押さえながら訴える。

「痛いわね! 暴力はやめなさいよ!」
「先に暴力をふるおうとした人間がよく言うわね?」

 このままだと、またエレインに任せてしまうことになるので、立ち上がって止める。

「エレイン、助けてくれてありがとう。もう大丈夫よ。手を出すようなら出させたほうがいいのよ」
「ですが……」
「大丈夫。今日で終わらせるわ」
「……承知しました」

 エレインは渋々といった感じで頷いてくれた。
 フールー伯爵令嬢は私たちの会話を聞いたあと、鼻で笑う。

「今までは何も言えなかったくせに、急に強気になったの? でもね、人間の本性なんてそう変わらないのよ!」
「そうね。そうかもしれない。だけど、変わる場合もある。あなたのお母様は表向きだけでも変わったふりをしてほしいみたいだったけれど意味がなかったのね」
「私の何が間違っているって言うのよ! どうして私がこんな惨めな思いをしなくちゃいけないの!?」
「全ての出来事に対して、やられたらやり返しても良いというわけじゃないけれど、自分も同じような目に遭うかもしれないということくらい考えていないといけなかったのよ」

 いじめをする人やいじめに遭う人と関わりたくないという防衛本能のようなものが働くのは、おかしくないと思う。

 だから、周りの人間がフールー伯爵令嬢と関わらないようにすることだっておかしくない。

 自分が他の人からどう見られているということを考えないのかしら。

 それとも、いじめをする自分がカッコ良いとでも思っている?

 よくわからないわ。

「私はこんな扱いを受けて良い人間じゃない!」
「だからといって人を傷付けても良いという権利はないわ」

 ヒステリックに叫ぶフールー伯爵令嬢に言い返した。

 いつまでものんびり話をしているわけにはいかない。

 エディ様がこんな話を聞いたら私よりも怒るに決まっている。

 早くに終わらせるために尋ねる。

「反省する気はないの?」
「あるわけないでしょう! さっき偉そうに今日で終わるとか言っていたけれど終わるわけがないわ! たとえ修道院に行かされたとしても、あなたを恨んで、いつか復讐してやる!」
「それは大変だ」

 声と共に教室の扉が開き、エディ様とテッド様が中に入ってくる。

 エディ様は顔に笑みを浮かべているけれど、目は笑っていない。

「フールー伯爵令嬢、君は本当に恐ろしいことを言うよね。そんな人でも修道院は受け入れてくれるんだろうけど、僕は君を違うところに送りたくなってきたなあ」

 エディ様の言葉を聞いたフールー伯爵令嬢の顔が一瞬にして真っ青になった。

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