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3 清くて美しい乙女
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暗闇の中で誰かの荒い息遣いと艶めかしい声が耳に届いて目を覚ました。
まず、目に入ったのは柔らかな光で、自分が覚えている最後の状況を思い出し、慌てて顔を上げて状況を確認する。
私はどこかの部屋に連れてこられていた。
拘束はされておらず、安楽椅子に座らされている。
着ていたドレスはそのままで乱れている様子もない。
シニヨンにしていた髪の毛は横髪が落ちてきてしまって乱れた状態だ。
より明るいほうに視線を向けると、月明かりに照らされているバルコニーに続く扉が見えた。
ガラス扉になっているのと、カーテンが閉められていないため外の様子がわかった。
窓の向こうに何も見えないということは、私がいる場所はバルコニーから飛び出せるような高さではないということだった。
どれくらい眠っていたのかしら……。
時計を探そうとした時、目の前に置かれているベッドのほうから衣擦れの音が聞こえてきたので目を向ける。
すると、魔法で作られたオレンジ色の光がシーツに包まって寄り添う男女の姿を私に見せてくれた。
その2人の顔を見た瞬間、私は勢い良く立ち上がった。
けれど、無理やり飲まされたものに薬が盛られていたようで足がふらついて、すぐに椅子にもたれかかる。
「起きたんだね」
「思ったよりも早かったですね」
オーランド殿下とセフィラは、ベッドの上で寄り添いながら冷たい笑みを浮かべて私を見た。
「……一体、どういうことなんですか」
震える声で尋ねると、セフィラが答える。
「見ての通りよ。私とオーランド殿下は結ばれたの。あなたが寝ている、すぐ目の前で」
「やめてくれ。そこまでは言わない約束だっただろう?」
「良いではないですか。どうせ知れ渡ることです。幸せな一時でした。眠っているとはいえ、ミーアの前であなたと愛し合えるなんて」
セフィラは恍惚の表情を浮かべて、オーランド殿下の胸に頬を寄せた。
「……気持ち悪い」
気持ち悪さとショックとが入り混じり、吐きそうになるのをこらえる。
こんなところで吐くわけにはいかないし、そんなことをしている場合じゃない。
この2人はおかしい。
普通に話をしても常識は通じそうにない。
頭の中で警鐘が鳴り、私を裏切ったことや薬を盛ったことについて責めるよりも命の危険を回避しなければならないと考えた。
目だけ素早く動かして部屋の出入り口を探す。
出入り口は向かって左側の数十歩先にあった。
足に力を入れ、柔らかなカーペットの上に立ち上がる。
勢いをつけて扉に向かって歩き出そうとすると、オーランド殿下が起き上がって私の前に立ちはだかった。
「逃げないでくれ」
「逃げるのではありません。人を呼びにいくのです」
犯罪者がいるので。
と言いたかったがこらえた。
目の前に立ちはだかった殿下は何も着ていなかった。
私が嫌そうな顔をして視線を背けると、殿下は慌ててベッドの上に置いていた白いガウンを羽織った。
「聞いてくれ、ミーア」
殿下は私の返事は待たずに話し続ける。
「君に浄化魔法をかけもらってから、丸1日以上経っている」
「……まさか」
「そうなんだ。呪いを解く方法がわかったんだ」
殿下は満足そうににこりと微笑む。
「清い乙女と交わることが呪いを解く鍵だったんだ」
「……私では駄目だったのですか」
こうなった今ではどうでも良いことだけれど、一応聞いてみた。
すると、殿下は大きく首を縦に振る。
「ミーアだから駄目だったんじゃない。清くて美しい乙女が必要だったんだ」
悔しくて涙がじわりと浮かんできた。
殿下は遠回しに私の容姿が美しくないからセフィラを抱いたんだと言いたいらしい。
こんなことで泣いてたまるもんですか。
悲しくて泣いていると思われるのだけは絶対に嫌だった。
それに清くて美しいという言葉は、殿下たちは容姿のことだと思っているけれど、実際はそうじゃないかもしれない。
勘違いしているのなら、必ず後悔することになる。
殿下が前を退いてくれそうにないので、聞いておきたいことを先に聞いておく。
「どうして、こんなことをする前に婚約の解消をしてくださらなかったのですか!」
「あなたのお父様が嫌がったのよ。あなたを王家に嫁がせたがっていたから」
殿下ではなく、ベッドで横になったままのセフィラが答えた。
「お父様は知っていたということ!?」
「そうよ。清く美しい乙女と言うなら、あなたのことも当てはまると言ったらしいわ。そんな訳ないのにね」
「そんな……」
呪いの解き方がわかっていたなら、私じゃなくても良かったはず。
お父様は私に隠していたのね……。
セフィラは起き上がってベッドから下りると、なぜか私のほうへ近付いて来る。
「ねえ、ミーア。本当にあなたが邪魔だったわ。気付いていなかったみたいだけれど、私とオーランド殿下はずっと前から愛し合っていた。でも、呪いのことがあったから我慢していたの。だってそうでしょう? あなたに愛想を尽かされたら、オーランド殿下は死んでしまうかもしれなかったんだもの」
セフィラは言い終えたあと、私の首を両手で掴んで、にやりと笑みを浮かべる。
「でもね、もう、オーランド殿下の呪いは解けたわ。だからあなたはいらない。早く死んで! あなたがいる以上、私たちは結婚できない。今日まで私たちが苦しんだ分、あなたは死で償って!」
「絶対に……いや!」
薬が抜けきっていないからか、腕にも指にも力が入らない。
美しいどころかおぞましい形相で、セフィラは私の首を締め上げる。
苦しい。
でも、こんなところで死にたくない。
婚約の解消なんていくらでもしてあげるわ!
こんな女と愛し合う男なんていらない!
コツコツ。
バルコニーのほうから音が聞こえ、そちらに気を取られたセフィラの手が緩んだ。
その隙に彼女の手を振り払い、咳き込みながらも出入り口の扉に向かおうとした。
でも、すぐに殿下に腕を掴まれ、バルコニーに出られる扉のほうに放り投げられた。
ガシャンという音と同時に背中に痛みが走る。
ガラスが割れたりはしていないものの窓の桟に背中をぶつけて痛みを感じたようだった。
「ピイィィ!」
「ピイ! ピイ!」
オトシロちゃんとメトシロちゃんがガラスの扉の向こうで必死に鳴いている。
ヒース殿下に助けを求めるべき?
でも、彼と私は今日初めて会っただけ。
助けを求めても来てくれないでしょう。
でも、これだけはお願いしてみる。
「オトシロちゃん、メトシロちゃん! お願いがあるの! 私が死んだら、犯人はオーランド殿下とセフィラだと伝えて!」
「ピイピイ!」
オトシロちゃんは急いで飛び立っていってくれたけれど、メトシロちゃんは首を横に振り、目に涙を浮かべて私をガラス越しに見つめている。
「鳥に話しかけるなんて、恐怖で頭がおかしくなったのね」
セフィラはそう言うと、バルコニーに続く扉を開けた。
メトシロちゃんが入ってこようとしたけれと、また危ない目に遭うかもしれないので止める。
「入ってきちゃ駄目よ、メトシロちゃん! あなたは逃げて!」
「ピッ! ピイピイ!」
メトシロちゃんは悲しげな声を上げたあと、キュッと目を細めて近くの大きな木のほうに飛んでいく。
その姿を見てホッとした時だった。
「セフィラは君の首を絞めて苦しむ姿が見たいと言っていた。首を絞められた君が気を失ったあと、バルコニーから落とすつもりだったんだ」
「……なんですって」
「もう君を生かしておく理由はない」
殿下は乱れた私の髪を掴んでバルコニーに引きずり出した。
「これだけ騒がしくすれば誰かが気付きますよ」
彼の手を何とか振り払って叫ぶと、殿下は呆れたような表情を浮かべて首を横に振る。
「残念だけど、ここは予備の客室がある館でね。招待客は違う館に泊まってもらっているんだ。だから、近くには誰もいない」
「残念だったわね。助けは来ないわよ」
「最初から私を殺すつもりだったんですね」
冷たい笑みを浮かべて私を見下ろす二人を睨みつけて言った。
私は馬鹿だ。
こんなことをされるまで二人の本性がわからなかっただなんて──
「百年の恋も冷めるってこんな時のことを言うんでしょうね」
自嘲して小さな声で呟いた。
王城の敷地内は全ての攻撃魔法が使えない。
精霊が争いを好まないことと、王城の敷地内は神聖な場所であり、攻撃魔法の使用は必要ないとされている。
例外があり、王族が望めば攻撃魔法の使用が許可される。
魔法を使って対抗するには、殿下に解除してもらわない限り無理だった。
セフィラが床に倒れている私の足を蹴って叫ぶ。
「早く飛び降りてよ!」
「私がこんなところで死んだら他の人が不審に思うわよ!」
「心配しなくていいわ! 薬のせいで自分から落ちたことにしておくから」
「その薬を誰が盛ったことにするのよ!」
「何とかするわよ! あなたは死んでくれるだけでいいの!」
とにかく何とかしなければと、会話を長引かせていた時だった。
「ピイーッ!」
飛んでいったはずのメトシロちゃんが戻ってきて、私の膝の上に止まった。
「ピイッ!」
まるで守ろうとしてくれているかのように、彼女なりに精一杯大きく羽根を広げる。
そんなメトシロちゃんを見た殿下が眉根を寄せる。
「セフィラ。この小さな鳥、昨日の夜もいたよね」
「私たちに攻撃してきた鳥と一緒だわ。仲間かもしれません。そんなに死にたいのなら先に殺してあげましょう」
「やめて!」
メトシロちゃんを守ろうと手を伸ばした時だった。
バサバサと羽音が頭上から聞こえてきた。
驚いたセフィラが手を引っ込め、月明かりのおかげで明るい夜空を見上げた。
メトシロちゃんを手で優しく包んでから私も空を見上げる。
すると、大きな鳥がこちらに向かって飛んでくるのがわかった。
その鳥は迷うことなくセフィラをめがけて飛んでくると、彼女の自慢の綺麗な顔を大きな爪で引っ掻いた。
まず、目に入ったのは柔らかな光で、自分が覚えている最後の状況を思い出し、慌てて顔を上げて状況を確認する。
私はどこかの部屋に連れてこられていた。
拘束はされておらず、安楽椅子に座らされている。
着ていたドレスはそのままで乱れている様子もない。
シニヨンにしていた髪の毛は横髪が落ちてきてしまって乱れた状態だ。
より明るいほうに視線を向けると、月明かりに照らされているバルコニーに続く扉が見えた。
ガラス扉になっているのと、カーテンが閉められていないため外の様子がわかった。
窓の向こうに何も見えないということは、私がいる場所はバルコニーから飛び出せるような高さではないということだった。
どれくらい眠っていたのかしら……。
時計を探そうとした時、目の前に置かれているベッドのほうから衣擦れの音が聞こえてきたので目を向ける。
すると、魔法で作られたオレンジ色の光がシーツに包まって寄り添う男女の姿を私に見せてくれた。
その2人の顔を見た瞬間、私は勢い良く立ち上がった。
けれど、無理やり飲まされたものに薬が盛られていたようで足がふらついて、すぐに椅子にもたれかかる。
「起きたんだね」
「思ったよりも早かったですね」
オーランド殿下とセフィラは、ベッドの上で寄り添いながら冷たい笑みを浮かべて私を見た。
「……一体、どういうことなんですか」
震える声で尋ねると、セフィラが答える。
「見ての通りよ。私とオーランド殿下は結ばれたの。あなたが寝ている、すぐ目の前で」
「やめてくれ。そこまでは言わない約束だっただろう?」
「良いではないですか。どうせ知れ渡ることです。幸せな一時でした。眠っているとはいえ、ミーアの前であなたと愛し合えるなんて」
セフィラは恍惚の表情を浮かべて、オーランド殿下の胸に頬を寄せた。
「……気持ち悪い」
気持ち悪さとショックとが入り混じり、吐きそうになるのをこらえる。
こんなところで吐くわけにはいかないし、そんなことをしている場合じゃない。
この2人はおかしい。
普通に話をしても常識は通じそうにない。
頭の中で警鐘が鳴り、私を裏切ったことや薬を盛ったことについて責めるよりも命の危険を回避しなければならないと考えた。
目だけ素早く動かして部屋の出入り口を探す。
出入り口は向かって左側の数十歩先にあった。
足に力を入れ、柔らかなカーペットの上に立ち上がる。
勢いをつけて扉に向かって歩き出そうとすると、オーランド殿下が起き上がって私の前に立ちはだかった。
「逃げないでくれ」
「逃げるのではありません。人を呼びにいくのです」
犯罪者がいるので。
と言いたかったがこらえた。
目の前に立ちはだかった殿下は何も着ていなかった。
私が嫌そうな顔をして視線を背けると、殿下は慌ててベッドの上に置いていた白いガウンを羽織った。
「聞いてくれ、ミーア」
殿下は私の返事は待たずに話し続ける。
「君に浄化魔法をかけもらってから、丸1日以上経っている」
「……まさか」
「そうなんだ。呪いを解く方法がわかったんだ」
殿下は満足そうににこりと微笑む。
「清い乙女と交わることが呪いを解く鍵だったんだ」
「……私では駄目だったのですか」
こうなった今ではどうでも良いことだけれど、一応聞いてみた。
すると、殿下は大きく首を縦に振る。
「ミーアだから駄目だったんじゃない。清くて美しい乙女が必要だったんだ」
悔しくて涙がじわりと浮かんできた。
殿下は遠回しに私の容姿が美しくないからセフィラを抱いたんだと言いたいらしい。
こんなことで泣いてたまるもんですか。
悲しくて泣いていると思われるのだけは絶対に嫌だった。
それに清くて美しいという言葉は、殿下たちは容姿のことだと思っているけれど、実際はそうじゃないかもしれない。
勘違いしているのなら、必ず後悔することになる。
殿下が前を退いてくれそうにないので、聞いておきたいことを先に聞いておく。
「どうして、こんなことをする前に婚約の解消をしてくださらなかったのですか!」
「あなたのお父様が嫌がったのよ。あなたを王家に嫁がせたがっていたから」
殿下ではなく、ベッドで横になったままのセフィラが答えた。
「お父様は知っていたということ!?」
「そうよ。清く美しい乙女と言うなら、あなたのことも当てはまると言ったらしいわ。そんな訳ないのにね」
「そんな……」
呪いの解き方がわかっていたなら、私じゃなくても良かったはず。
お父様は私に隠していたのね……。
セフィラは起き上がってベッドから下りると、なぜか私のほうへ近付いて来る。
「ねえ、ミーア。本当にあなたが邪魔だったわ。気付いていなかったみたいだけれど、私とオーランド殿下はずっと前から愛し合っていた。でも、呪いのことがあったから我慢していたの。だってそうでしょう? あなたに愛想を尽かされたら、オーランド殿下は死んでしまうかもしれなかったんだもの」
セフィラは言い終えたあと、私の首を両手で掴んで、にやりと笑みを浮かべる。
「でもね、もう、オーランド殿下の呪いは解けたわ。だからあなたはいらない。早く死んで! あなたがいる以上、私たちは結婚できない。今日まで私たちが苦しんだ分、あなたは死で償って!」
「絶対に……いや!」
薬が抜けきっていないからか、腕にも指にも力が入らない。
美しいどころかおぞましい形相で、セフィラは私の首を締め上げる。
苦しい。
でも、こんなところで死にたくない。
婚約の解消なんていくらでもしてあげるわ!
こんな女と愛し合う男なんていらない!
コツコツ。
バルコニーのほうから音が聞こえ、そちらに気を取られたセフィラの手が緩んだ。
その隙に彼女の手を振り払い、咳き込みながらも出入り口の扉に向かおうとした。
でも、すぐに殿下に腕を掴まれ、バルコニーに出られる扉のほうに放り投げられた。
ガシャンという音と同時に背中に痛みが走る。
ガラスが割れたりはしていないものの窓の桟に背中をぶつけて痛みを感じたようだった。
「ピイィィ!」
「ピイ! ピイ!」
オトシロちゃんとメトシロちゃんがガラスの扉の向こうで必死に鳴いている。
ヒース殿下に助けを求めるべき?
でも、彼と私は今日初めて会っただけ。
助けを求めても来てくれないでしょう。
でも、これだけはお願いしてみる。
「オトシロちゃん、メトシロちゃん! お願いがあるの! 私が死んだら、犯人はオーランド殿下とセフィラだと伝えて!」
「ピイピイ!」
オトシロちゃんは急いで飛び立っていってくれたけれど、メトシロちゃんは首を横に振り、目に涙を浮かべて私をガラス越しに見つめている。
「鳥に話しかけるなんて、恐怖で頭がおかしくなったのね」
セフィラはそう言うと、バルコニーに続く扉を開けた。
メトシロちゃんが入ってこようとしたけれと、また危ない目に遭うかもしれないので止める。
「入ってきちゃ駄目よ、メトシロちゃん! あなたは逃げて!」
「ピッ! ピイピイ!」
メトシロちゃんは悲しげな声を上げたあと、キュッと目を細めて近くの大きな木のほうに飛んでいく。
その姿を見てホッとした時だった。
「セフィラは君の首を絞めて苦しむ姿が見たいと言っていた。首を絞められた君が気を失ったあと、バルコニーから落とすつもりだったんだ」
「……なんですって」
「もう君を生かしておく理由はない」
殿下は乱れた私の髪を掴んでバルコニーに引きずり出した。
「これだけ騒がしくすれば誰かが気付きますよ」
彼の手を何とか振り払って叫ぶと、殿下は呆れたような表情を浮かべて首を横に振る。
「残念だけど、ここは予備の客室がある館でね。招待客は違う館に泊まってもらっているんだ。だから、近くには誰もいない」
「残念だったわね。助けは来ないわよ」
「最初から私を殺すつもりだったんですね」
冷たい笑みを浮かべて私を見下ろす二人を睨みつけて言った。
私は馬鹿だ。
こんなことをされるまで二人の本性がわからなかっただなんて──
「百年の恋も冷めるってこんな時のことを言うんでしょうね」
自嘲して小さな声で呟いた。
王城の敷地内は全ての攻撃魔法が使えない。
精霊が争いを好まないことと、王城の敷地内は神聖な場所であり、攻撃魔法の使用は必要ないとされている。
例外があり、王族が望めば攻撃魔法の使用が許可される。
魔法を使って対抗するには、殿下に解除してもらわない限り無理だった。
セフィラが床に倒れている私の足を蹴って叫ぶ。
「早く飛び降りてよ!」
「私がこんなところで死んだら他の人が不審に思うわよ!」
「心配しなくていいわ! 薬のせいで自分から落ちたことにしておくから」
「その薬を誰が盛ったことにするのよ!」
「何とかするわよ! あなたは死んでくれるだけでいいの!」
とにかく何とかしなければと、会話を長引かせていた時だった。
「ピイーッ!」
飛んでいったはずのメトシロちゃんが戻ってきて、私の膝の上に止まった。
「ピイッ!」
まるで守ろうとしてくれているかのように、彼女なりに精一杯大きく羽根を広げる。
そんなメトシロちゃんを見た殿下が眉根を寄せる。
「セフィラ。この小さな鳥、昨日の夜もいたよね」
「私たちに攻撃してきた鳥と一緒だわ。仲間かもしれません。そんなに死にたいのなら先に殺してあげましょう」
「やめて!」
メトシロちゃんを守ろうと手を伸ばした時だった。
バサバサと羽音が頭上から聞こえてきた。
驚いたセフィラが手を引っ込め、月明かりのおかげで明るい夜空を見上げた。
メトシロちゃんを手で優しく包んでから私も空を見上げる。
すると、大きな鳥がこちらに向かって飛んでくるのがわかった。
その鳥は迷うことなくセフィラをめがけて飛んでくると、彼女の自慢の綺麗な顔を大きな爪で引っ掻いた。
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