待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ

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8  恋に落ちる?

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 令嬢がこんなはしたない事をするなんてって絶対に思われてるんだろうな…。
 せっかく、良い婚約者が見つかりそうだと思ったのに…。
 でも、しょうがない。
 チンピラは私に用事があったみたいだった。
 こんな事になったのも私のせいなんだから、縁がなかったと諦めるしかない。

「あの、帰ります。お騒がせして申し訳ございません」

 はっきりとした金額はわからないけれど、自分が飲食したよりも多めの金額をカウンターの上に置いて、ぺこりと頭を下げて、店から出ていく。
 トボトボと歩いていると、店の方が騒がしくなったのと同時、扉が開く音が聞こえて振り返って立ち止まると、殿下が店から出てきた。

「なんで帰るんだよ」
「……あの、私が迷惑を」
「迷惑なんかじゃない! さっきのかかと落とし、すごく良かったぞ」
「はい?」

 聞き返したと同時、店の方から声が聞こえる。

「馬鹿じゃないの!? 口説き文句が、かかと落とし良かったなんて考えられないんだけど!?」
「おい、誰かボスに耳打ちしてこいよ。あのままいくと逃げられるぞ」
「ボス! せめて可愛かったって言わないと!」
「かかと落とし可愛かったって言われて、喜ぶ女いんのか?」

 ギャラリーの声が丸聞こえで、ついつい私が笑いそうになると「逃げるなよ」と私に念押ししてから、殿下はギャラリーの方に振り向いて叫ぶ。

「もっと的確なアドバイスをしろ! お前らが言ってんのは、ただの俺への悪口だからな!」

 殿下の言葉を聞いて、店からわらわらと姉御を含め部下の方が出てきて、口々に言う。

「君のかかと落としの美しさには感銘を受けた」
「かかと落としからはなれろ」
「俺を捨てないで」
「捨てるも何も拾ってもくれてないだろ!」
「ごめん、スカートの中見えちゃった」
「やめろ!!」

 部下の人が何か言えば殿下が返すを繰り返し、スカートの中見えちゃった発言に殿下は真剣に怒ってくれた。

 というか申し訳ない。
 そんなものを見せてしまったなんて!!

「お、俺の方からは見えてなかったから!」
「いえ、あの、中、見えてしまったなら、申し訳ないです。お見苦しいものを…」

 ぺこりと頭を下げると、ギャラリーの1人が親指を立てて言う。

「俺はラッキーだったぜ!」
「おい、誰かこいつの頭を、そこだけの記憶がなくなるように殴れ」

 殿下の言葉に、他の人たちが盛り上がる。

「よっしゃあ! おまかせあれ!」
「まずはあたしが殴るわ!」
「やめろぉ! そんな器用なこと、こいつらに出来るわけねぇだろ!」

 ぎゃあぎゃあ、店の前の狭い道で騒ぐ皆に、つい笑みをこぼすと、殿下が近付いてきて言う。

「あの、俺、なんていうか、女性が喜ぶ様な言葉を知らなくて。ただ、その、なんでいきなり帰ろうとしたかだけ、理由を教えてくれないか? ちゃんと謝りたい。あ、もちろん、あんな輩を店の中に入れた事については謝る。悪かった」
「殿下が謝られる事ではありません! 元々、私がターゲットの様でしたし、たぶん、ビアンカが…」
「それについては、今、部下に奴を追わせてるから、後で報告がくるから良いとして、どうしていきなり帰ろうとしたんだ?」
「かかと落としする令嬢なんていないでしょうし、皆さんにも迷惑をかけたので…」
「迷惑? なんのだよ?」

 暗がりの中、店の明かりで逆光になってしまっているので、余計に殿下の表情が見辛いけれど、声の様子だと困惑しているのがわかった。

「普通は、こんな令嬢いませんよね」
「それがどうした?」
「はしたないと言いますか」
「それを言ったら、俺みたいな王子も珍しいんじゃないか? 部下、あれだぞ」
 
 そう言って、殿下が後ろは見ずに親指で、騒いでいる部下の人達を差す。

「素敵だと思います」
「だから俺も、その、なんだ。えっと、素敵だと思う」
「はい?」
「君のかかと落としは素敵だったと思う」
「……」

 きょとんとすると、殿下が焦る。

「俺、言葉を間違えてるか?」
「……いいえ」
 
 首を大きく横に振って笑う。

「褒め言葉をありがとうございます」
「……おう」
 
 殿下がこくんと首を縦に振ったところで、いつから聞いていたのかわからないけれど、ギャラリーが騒ぎ出す。

「もうちょっと気の利いたことを言えないのかしら」
「ボスは恋愛偏差値ゼロだからな」
「え、って事はまだ、どうて」
「誰だ、殺すぞ」

 殿下が後ろを振り向いて、姉御達に言った。
 その様子を見て、ひとしきり笑ったあと話しかける。

「あの、殿下」
「なんだ?」
「私、嫌われたわけではないんでしょうか?」
「当たり前だろ。俺に何かしたのか?」
「さっきの、令嬢らしくない行動は…」
「ああ。逆だよ。むしろ好印象だ」

 暗闇に目が慣れてきて、殿下の笑う顔が見えた。
 それはもう優しい笑顔で…。

 ごめんなさい。
 チョロいとは自分でもわかってますが、恋に落ちちゃいそうです。
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