待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ

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21  打ち明けられる

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 宿への帰り道は、足の汚れは気になるけれど、上機嫌で鼻歌を歌いたくなる気分だった。
 ルーに怒られはしたけれど、空中から振り下ろす、かかと落としをどうしてもしてみたかった。
 それができた上に、一回で成功するだなんて!
 ルーには怒られてしまったけど、やって良かった!
 もちろん、反省もするけれど。

「彼とは仲が良いんだな」

 宿に帰り着き、部屋まで送ってもらったところでルーに言われた。

「はい。昔からの幼馴染なんで。特別仲が良いと言うわけではなかったですけど、私のことを昔から知っているので、令嬢らしくしなくても良いのは楽ですね」
「そうか…」

 ルーが苦笑して続ける。

「彼と婚約したくなったら言ってくれたらいいから」
「ど、どうしてそんな事を言うんですか!」

 ショックを受けて、一瞬、ショックで涙が出そうになったけど、なんとかこらえて聞き返すと、ルーが首を大きく横に振る。

「ごめん! さっきも部下にちょっと忠告されたのもあるし、君が望んでるのに、俺に気を使って言わないだけかと思ったんだ」
「ひどいです! 今日、返事したばかりなのに!」
「悪かったよ! なんか君達を見てたら、その…」
「ルーが私の名前を呼んでくれないのも、ルーがいつでも婚約解消出来るようにですか!?」

 感情的になってしまい、勢いで叫ぶと、ルーはまた大きく首を横に振ってから答える。

「そんなんじゃない!」
「じゃあ、なんなんですか!」
「それは……」
 
 ルーが右手で口をおさえ、言いにくそうにして顔を背けた。

「言えないんならいいです」

 こんな事で喧嘩して嫌われたくない。
 頭を冷やそうと思い、部屋に入ろうとして、ドアノブに手をかけると、ルーは外開きのドアを片手でおさえて、私がドアを開けられないようにした。

「ちょっと待ってくれ」

 ルーは腕で私をはさむようにしてドアに手を付けた。

 こ、これは、市井で一時期流行っていた、壁ドン!?
 いや、ドアだから、ドアドン!?
 なんか、動物の名前みたいになってしまったけど、この状況はドキドキしてしまう。
 …んだけれど、違う事が脳裏に浮かび、膝を曲げて、すきまから逃れようとした。

「逃げないでくれ」

 ルーは私の動きを察知して手を動かし、逃げ場を塞いでくる。
 本当なら、ナイフで応戦したいところだけど、ルーにそんな事は出来ない。
 悪党とのシミュレーションをするつもりだったけど、ルーに暴力をふるうわけにはいかないから無理ね。
 諦めて、降参という意味で両手を挙げると、ルーは大きく息を吐いた。

「他の男には降参はきかないからな」
「ルーから逃れるのは少し厳しそうなので、やめただけです」
「…俺が名前を呼べない理由、聞きたいか?」
「教えていただけるなら」
「カッコ悪いぞ」
「どうかは私が決めます」

 ドアドンされたまま言うと、そのままの状態でルーは私から視線をそらして口を開く。

「もし、婚約解消する事になったら、余計に辛くなるから」
「え?」
「婚約解消されて、君がいないのに、ふとした瞬間に君の名を呼んだりしてしまったら辛いから」
「………」

 これも惚れた弱みなのかしら?
 ルーが可愛い。
 可愛すぎる。

「余計に寂しくなるだろうから嫌なんだ」
「…ルーはひどいですね」
「な、なんでだよ」

 軽く睨むと、ルーは焦った表情になった。

「私はそんな簡単に婚約解消したりしないです。何より、私の婚約者になってくれるのはルーしかいないじゃないですか」
「キーライズン卿は…」
「私は自分より強い人が好きです。ミュラーは喧嘩が弱いわけではないですが、私には勝てた事はありません。あと、タントスに関しては、気の迷いです」
「…気の迷いって」

 ルーが頭を下げて笑うから、彼の前髪が私の額に触れて、心臓が高鳴る。
 そのまま、顔を上げると、ルーの顔がいつもより近くにあって、ばっちり目が合う。
 こういうシチュエーション、恋愛小説ならキスとかしちゃったりするんだろうけれど。

「ごめん、近かった!」

 ルーはドアドンも止めて、後ろに飛び退いてしまった。
 
 私は意識されているのかいないのか、どっちなのかしら?
 まあ、今はいいか。

「呼べる時は名前を呼んで下さいね?」
「わかった」

 ルーは頷いたあと、深呼吸してから私を見て言う。

「リアラ、ありがとな」

 名前を呼ばれただけなのに、頬がゆるんでしまう。

「今日のリアラはやけに、にやけてるな?」

 そんな私を見て、ルーは不思議そうに首を傾げた。
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