私には関係ありませんので、どうぞお好きになさって?

風見ゆうみ

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1  わざとではないですわ

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 私、レイティアはナラシール公爵家の次女で、現在19歳である。
 少し前にとある事情で結婚してすぐに離婚をした。
 実家に戻って少ししてから、事情を知っている、私と同じ19歳でシルーク侯爵家の嫡男であるジェドにプロポーズされた。

 それなのに、プロポーズの話は保留になってしまった。
 クプテン国の国王のもとに私が婚約者の一人として向かうことになったからだ。

 今回、なぜ私たちがクプテン国に行く人間に選ばれたのかというと、いくつか理由があり、一つ目は任せられる人がいないということだった。

 クプテン国のショーマ国王は、小さな頃から暗殺者などから自分の命を守るために訓練してきているため、剣の扱いに長けている。

 ショーマ様は自分の国に負い目のある国から、誰かを人質に取り、人質を殺されたくなければ、自分の婚約者になる人間を連れてこいと脅してきていたため、何人もの令嬢が彼のところへ送られていた。

 多くの令嬢は彼に抵抗する力はなく、ひどい目に遭わされている。
 そして、付いていった騎士もショーマ様に負けて、何人も殺されている。

 現在、友好国であるリシャード国のほうから、令嬢と侍女が派遣されており、その二人がショーマ様から逃れたい人たちを助けているそうだ。

 でも、彼女たちだけでは危険なため、ジェドに白羽の矢が立った。
 これが2つ目の理由になる。

 ジェドは婚約者もいないし、騎士としての腕も立つので、誰かを守りながらでもショーマ様の相手ができると考えられた。

 そこでジェドのお父様であるシルーク侯爵が呼び出されて、今回の話を受けることにされた。

 ただ、一つ問題があった。

 ジェドは真面目だ。
 たとえジェドに非がなかったとしても、一緒に潜入した令嬢が傷つけられれば、彼は責任を取るために、その令嬢と結婚しようとするだろうという話になった。

 ジェドには私がいると思い込んでいる令嬢たちでも、チャンスがあれば、ジェドをものにしたいと思っている人もいる。

 そうなることは良くないと判断されて、ジェドと共に行く令嬢は私に決まった。

 私としても他の令嬢が行くよりかは私が行ったほうが良いと思うし、傷付けられる可能性があるとわかっていて、他の女性を行かせるのも嫌だった。
 
 だから、私を任命してくれたことには感謝している。
 私は虐げられている人や困っている人たちを救うために強くなったのだから、私以外に適役はいないでしょう?

 それに、怪我をしたらジェドに責任を取ってもらえるものね。
 何より、私の知らないところでジェドに何かあるのも嫌だった。

 

*****


「お待ちしておりましたわ。わたくしがお兄様の婚約者のお目付け役のイータ・リグナですわ」

 クプテン国の城にたどり着いた私は、ショーマ様への挨拶を後で良いと言われ、これから住むことになる別邸へと連れて行かれた。

 別邸は王城のすぐ隣りにある木造の3階建ての洋館で、現在はショーマ様の婚約者として5人の姫や令嬢とその騎士や侍女が住んでいるらしい。

 別邸の入り口で待っていたのはピンク色のストレートの長い髪を背中におろした、小柄の可愛らしい女性だった。

 イータ様はショーマ様より5つ年下の17歳で、陶器のような白い肌を持っておられて羨ましい。
 ただ、赤色のチークを塗りすぎていて、頬がリンゴみたいに見える。

 アーモンド型の目に瞳の色は髪と同じピンク色で、顔立ちとしては、男性がちやほやしてしまいそうな可愛さだ。

「はじめまして、レイティア・ナラシールと申します。本日よりお世話になります」
「ええ、そうね。本当に嫌になりますわ。お兄様が素敵なのはわかりますけれど、婚約者の人数が多すぎますわ。まあ、この国は一夫多妻制ですから、皆、結婚しようと思えばできるのですけどね」

 イータ様は早口でそう言うと、ウエディングドレスのように真っ白なプリンセスラインのドレスの長い裾を引きずりながら歩きはじめる。

 まるで床掃除しているみたいだわ。

 そんなことを思いながら、ジェドと一緒にイータ様の後を付いて歩く。

「婚約者になったからといって、誰でも結婚できるとは思わないでくださいませね? あなたは美人なほうですけれど、お兄様のタイプではありませんから」
「まあ、そうなのですね! それは嬉し!」

 言葉の途中だったけれど、ジェドに軽く睨まれて慌てて口を閉じた。

「……なんて言いましたの?」
「まあ、そうなのですね! 残念ですわ、と言いましたの」
「……なら良いですけど」

 イータ様は訝しげに私を見たあと、すぐに考えることをやめたのか階段を上っていく。
 私の部屋は3階にあるのか、何の説明もなく、イータ様が3階に続く階段に足をかけたので話しかけてみる。

「イータ様自らがご案内してくださるのですね」
「当たり前でしょう。私のお兄様の婚約者を私が見極めないでどうするんですの!? それにしても今までの女性は本当に酷かったわ。お兄様が夜に部屋に来いと言っているのに拒むのよ! あんなに素敵なお兄様に誘われているのに!」

 イータ様は私たちに背中を向けているため、どんな顔をしているのかわからない。
 ただ、声と口調から察するに、かなりお怒りのようだった。

「ああ! 本当に腹が立つわ!」

 3階の廊下を歩いていたイータ様が突然、とある部屋の前で立ち止まり、扉を足で蹴ったかと思うと、何度も同じところを蹴り続ける。
 私たちの前で猫を被ることを早々に諦めたらしい。

「ほんと! レミーの奴! 許さない! あんな泣いてばかりの女がお兄様に好かれているなんて! あの豊満な胸で誘惑したに違いないわ!」
「あの、イータ様。その部屋は私の部屋なのでしょうか?」
「違うわよ! レミーの部屋よ!」

 私の問いかけにイータ様が答えた時、蹴られていた部屋の扉が開いた。
 まるで小動物のようにぷるぷると震えながら、ダークブラウンの髪をツインテールにしている女性が顔を出した。

「あのっ……、お願いします……! やめて、くださいっ!」
「やめてほしい? 何を? わたくしは何もしていないわ? 言いがかりをつけるのはやめてくれない?」
「言いがかり……なんてっ!」

 騒がしいからか、向かい側の部屋の扉が少しだけ開き、誰かが外の様子を確認したあと、すぐに扉が閉められた。

 助けてあげるつもりはないらしいわね。
 レミー様の向かいの部屋は噂の令嬢ではないみたい。

「言いがかり以外に何があるの! 謝りなさい!」

 そう叫ぶと、イータ様はレミー様の体を押して彼女を部屋の奥に追いやり、勝手に部屋に入ろうとした。

 そのため、イータ様が引きずって歩いていたドレスの裾を踏んで止める。

 勢い良く部屋に入ろうとしていたイータ様は前につんのめった。

 すぐに足を離すと、イータ様はそのまま受け身を取ることなく顔から床に倒れ込んだ。
 手を付くくらいされるかと思っていたから、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。

「おい」
「しょうがないじゃない」

 ジェドは呆れた顔をしたけれど、レミー様を助けたという行為として受け取ってくれたようで、それ以上は何も言わなかった。

「ちょっと……! あなた、わざとやったわね!?」

 イータ様はゆっくりと身を起こすと、怒りの矛先を私に変えた。

「わざとではないですわ」

 咄嗟に足が出ただけなので、わざとではないわ。

 そう思って首を横に振ると、イータ様は「許さないわ!」と叫んで私につかみかかってこようとしたので、ひらりと躱す。
 たたらを踏んで、イータ様は何とか前に倒れずに済んだ。
 体勢を整えたイータ様は叫んでくる。

「ちょっと、逃げるのはやめなさい!」
「逃げてはおりません。避けただけですわ」
「避けずに正々堂々と戦いなさい!」
「戦っても良いですけれど、痛い目に遭うのはイータ様ですわよ?」

 ポーチから扇を取り出し、ナイフを飛び出させてイータ様の鼻先に突きつけた。

「な、な、そんな、なんで、そんな物騒なものを持っているんですの!?」

 イータ様はナイフから逃れるように後退したのは良かったものの、自分でドレスの裾を踏み、後ろにひっくり返ってしまった。

 これは絶対に私のせいではない。

 ひっくり返り、白のシュミーズが丸見えになってしまったイータ様を見て、慌ててジェドの目の前で扇を広げた。
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