私には関係ありませんので、どうぞお好きになさって?

風見ゆうみ

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3  振り下ろすわよ

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「助けていただき、本当にありがとうございました」

 ハーミー様はジェドに何度も礼を言ってから、熱っぽい目で彼を見上げる。

「あの、お礼がしたいので、お名前を教えていただけないでしょうか?」
 
 恋は盲目と言うのでしょうね。
 ハーミー様は私の部屋で必死にジェドにアプローチしている。
 普通なら、人の部屋で人の騎士にそんなことをしてはいけないとわかるはずなんだけれど、彼女には無理みたいだった。

「申し訳ございませんが仕事中ですので」

 ジェドが苦笑すると、ハーミー様はなぜか私を見てくる。

 許可を出せということかしら? 
 ジェドはジェドで私を見て「仕事中だぞ」という圧を掛けてくる。
 
 今回はジェド側に付くことにした。
 考えてみたら、彼女は他国とはいえ伯爵令嬢なので、公爵令嬢の私よりも身分は下になる。

 それなのに、挨拶もなく人の騎士にアプローチするのはどうかと思うのよね。

「ハーミー様ですわよね? ここは私の部屋ですの。出て行ってもらっても良いかしら?」
「えっ! あ、はい。申し訳ございません」

 ハーミー様はがっかりした様子で頷き、長い髪を揺らして部屋から出て行った。

 本当ならハーミー様からここでの暮らしを聞いてみたかったのだけれど、あの調子じゃ無理ね。
 頭の中がお花畑そうだもの。
 
 やっぱり、レミー様に接触してみるしかないかしら。

 ハーミー様が部屋を出ていったことを確認すると、ジェドはすぐに扉の鍵を締めた。
 その後は、やれやれといった表情で近づいてくるから、ソファーに座ってからジェドに話しかける。

「ジェドは相変わらずモテるわね」
「気持ちは有り難いですが、今はそんな状況ではないでしょう。それに気持ちに応えることはできませんから」
「そうね。それなら、最初からはっきりとした態度を見せておくべきね」
「私は騎士で来ておりますから、他家のご令嬢に厳しい態度を取りにくいこともありますので、レイティア様にご配慮いただきたいのですが」
「私が許すわ。厳しい態度をとることは相手のためになる時もあるものね。でも、わざと傷つけるような言葉を言ったりするのは駄目よ? ……そういえば、ハーミー様はとても明るかったけれど、ショーマ様の被害に遭ってないのかしら」
「リシャード国の方が助けているのかもしれません」

 今のところ、騎士や侍女が捕まっているのは婚約者の中ではレミー様の国だけみたいで、他の国の人は人質が殺害、もしくは無事に解放されて帰っている。
 
 ショーマ様が婚約者に飽きることが第一条件で、婚約破棄が認められた場合、新しい婚約者となる人を連れてこいと言われることがあるらしい。

 今いる私を除いた5人の婚約者のうちの1人はレミー様。
 もう1人はリシャード国の謎の女性。
 それからハーミー様。
 残りの2人にはこれから会うことになる。

 残りの2人に関しては私たちの住んでいる国、イエラ国とは敵対関係にあるため、情報を開示してもらえなかった。
 イエラ国だけでなく、イエラ国の同盟国であるほとんどの国と敵対しているため、教えてくれるはずもない。

 その2人にショーマ様側に付かれたら厄介だわ。 

 ジェドとこれからどうするかを話している時にメイドがやって来て、今日の夜はダイニングルームで婚約者の女性だけでの食事会が開かれると教えてくれた。

「婚約者だけで食事会なんて、1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。どんな人たちがいるか確認しておきたいから、ちょうど良かったわ」

 心配げなジェドに微笑んだあと、食事会に行くのであれば、ドレスをもう少し正式なものに着替えることに決めた。



*****


 メイドに案内されたダイニングルームに入ると、まずは30人くらいが一度に会席できそうな大きなテーブルが見えた。
 その向こうには大きな風景画が白い壁に掛けられている。
 
 テーブルの椅子には、すでに4人の女性が座っていた。

 皆、交流が無いのか、等間隔に距離をとって座っている。
 私は5番目にやって来ており、どこに座ろうか悩んでいると後ろから話しかけられる。

「主役ですから奥へどうぞ」

 真後ろに立たれて気が付かないなんてそうないことなので、驚いて振り返る。

 気配を消して、私の背後に現れたのは絶世の美少女だった。

 私の目の位置に肩があるので、背が高く肩幅も女性にしては広くて、男性に近い体型をしている。

 吊り目気味ではあるけれど、ぱっちりとした二重の大きな目で、瞳の色はとても綺麗な紅色だった。

 ハスキーボイスの美少女はダークブラウンの髪を揺らして、あまりの美しさに呆然としている私に尋ねてくる。

「聞いていますか?」
「失礼いたしました。とてもお綺麗でしたのでつい」
「はあ……。ありがとうございます」

 美少女は大きくため息を吐いたあと、持っていた四角いシルバートレイを抱きしめた。
 シルバートレイを持っている令嬢なんて見たことがないから聞いてみる。

「どうしてシルバートレイを?」
「あ、これですか? これは大事な人からお守りにと持たされたんです。大事な人がいつも使ってるんですけど、今回は私のほうが大変だからと」

 美少女は苦笑してシルバートレイを撫でた。

 シルバートレイをお守りに?
 よくわからないけれど、とにかくカーテシーをして自己紹介する。

「はじめまして、本日よりショーマ様の婚約者となりました、レイティア・ナラシールと申します」
「セナです。リシャード国から来ました。これからよろしくお願いいたします」

 セナ様はシルバートレイを脇に挟むと、赤色のシュミーズドレスの裾を掴みカーテシーを返してくれた。

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
「お席に案内しますよ」
  
 その後はセナ様に促され、扉から一番離れた席に向かうと、セナ様が椅子を引いてくれた。

 なんだか、男性にエスコートされている気分になっていると、1人の令嬢が近付いてきた。

 青色の髪をツインテールにした女性はくりくりの大きな目を細くさせて、私の隣に立つと言う。

「帰りなさいよ!」
「どこへでしょう?」
「国に決まっているでしょう!」

 無遠慮に近付いてきた令嬢は、そう言って私の腕を掴んでこようとしたので、その手を掴む。

「あなたに指示される筋合いはありませんわ」
「ちょっと触んないでよ! キモイんだけど」

 外見は似ていないのに、なぜかルワ様を思い出してしまった。

 そういえば、彼女はよくキモイとか、クソだとかよく言っていたわね。
 引きこもりになり、過食症になっているというルワ様のことを再度思い出して、小さく息を吐いた。

 すると、悲鳴が上がる。

「いやあっ! 痛いっ!」

 気が付いた時には、私は無意識に彼女の腕を捻り上げていた。
 やってしまったわ。
 ルワ様への怒りを関係のない人にぶつけてしまった。

「申し訳ございません。やり過ぎてしまいましたわ」
「許すわけないでしょう!」

 手を放して頭を下げたけれど、彼女の怒りはおさまらず、ツインテールの女性は扉のほうに向かって叫ぶ。

「ヨカバオダ!」
「なんでございましょうか、ルヨレ様!」
「この女を痛い目に遭わせて!」
「承知いたしました!」

 開かれたままだった扉からヨカバオダと呼ばれた騎士は中に入ってくると、抜剣して私に近付いてきた。

 こんなところで剣を抜くだなんてどうかしてるわ。
 相手の剣は長剣のため、扇で受け止めるには辛い。
 距離を取って考えないといけないと思った時、ヨカバオダの顔にシルバートレイが直撃した。

 私の後ろに立っていたセナ様がいつの間にか前に出てきてくれていて、シルバートレイでヨカバオダの顔を殴ったてくれたのだ。

「助けていただきありがとうございます」
「良かったらどうぞ」

 お礼を言うと、セナ様が私にシルバートレイを貸してくれた。
 思った以上に重くて、メイドたちはいつもこんなに重いものを持ってくれているのかと感心してしまう。

「お借りしてよろしいのですか?」 
「凹んでも大丈夫なんで、思い切りやっていいですよ」

 セナ様はにこりと微笑んでから、ヨカバオダのほうに視線を向ける。
 ヨカバオダは剣を鞘に戻し、殴られた左頬を両手で押さえて叫ぶ。

「何をするんですか! 令嬢がそんな乱暴なことをしても良いと思ってるんですか!?」
「令嬢がシルバートレイで身を守ってはいけないという法律はない」

 セナ様が言うと、ヨカバオダとルヨレ様が口々に叫ぶ。

「令嬢ってのは大人しく斬られるものなんだ!」
「そうよ! それに殺すまではしないわよ! 顔を傷つけるくらいだから安心なさい!」

 顔を傷つけるくらいだから安心しなさい、の意味がわからないわ。
 大きく息を吐いてから、ルヨレ様に話しかける。

「令嬢は大人しく斬られなければならないという意味はまったくわかりませんし、そんなの嫌ですわ。それから、ルヨレ様、あなたにお聞きしたいのですけれど」
「な、何よ」

 私に睨まれたルヨレ・バシカ男爵令嬢はシルバートレイで素振りをしている私を見て、表情を引きつらせる。

「ヨカバオダという男性の意見を認めておられましたけれど、あなたも令嬢ですわよね?」
「そ、そうだけれど」
「では、顔を傷つけられても良いということですわね?」

 シルバートレイの左右に振る腕のスピードを速めていくと、ルヨレ様は後ろに下がった。
 そして、ヨカバオダの体に彼女の背中が当たるとすぐに、ルヨレ様は彼の後ろに隠れて叫ぶ。

「ヨカバオダ! やっておしまい!」
「承知しました!」

 ヨカバオダが抜剣する前にシルバートレイの片方の取っ手をつかみ、角をヨカバオダの手の甲に打ち付け、そのままシルバートレイを振り上げて眉間に一発入れた。
 手をおろして体勢を整えてから、お腹に前蹴りを入れると、ヨカバオダは後ろによろめく。
 すると、後ろに隠れていたヨルレ様とぶつかり、バランスを崩した2人は床に倒れた。

 気の毒なことにヨルレ様はヨカバオダの下敷きになってしまっている。

「痛い! 痛いわ! 何するのよ!」
「バシカ男爵令嬢、あなたの目的は何なのです? どうして私に国に帰るようにおっしゃるのでしょう?」

 シルバートレイを顔の前でちらつかせ、床に倒れたままのヨルレ様に尋ねると、彼女はヨカバオダの体を押しのけて叫ぶ。

「わたくしはショーマ様のことが好きなのよ! 絶対に婚約者になりたいの! だから、あなたたちなんていらないのよ!」

 人には好みがあると聞くけれど、本当に色々あるものなのね。
 あんな男性が好きだなんて。

「おい! ヨルレ様に話しかけるな!」

 押しのけられたヨカバオダが立ち上がろうとしたけれど、彼の股間あたりにシルバートレイの角をやんわりと置く。

「動くようなら振り下ろすわよ」
「そんな……。令嬢がこんなことを……!」

 ヨカバオダが情けない顔をして言った。

 ヨカバオダの中の令嬢というのは、暴力をふるわない令嬢のことを言うらしいわね。
 
「あのね、世の中には色々な人がいるのよ? ショーマ様のことを好きだとおっしゃるバシカ男爵令嬢のような人もいるんだから、あなたの股間に容赦なくシルバートレイを振り下ろすことを良しとする令嬢がいてもおかしくないでしょう?」
「あ……、悪魔だ」

 ヨカバオダがにんまりと笑う私を見て表情を歪めたその時、ジェドの声が聞こえてきた。

「レイティア様、一体何をしてるんですか!」

 しゃがんでいる状態なので、ジェドの姿はこちらから見えないし、ジェドも私の姿が見えないようなので、片方の手だけ上げて横に振って応える。

「生きてるわよ。ここにいるポンコツ騎士は痛い目に遭うかもしれないけれど」
「た、助けてください!」
「お願いです、殺さないで!」

 ヨカバオダとヨルレ様に懇願され、事情を知らない人間にしてみれば、完全に私が悪役の状態になってしまった。





登場人物紹介に追記しました。

そして、シルバートレイに反応された方、いらっしゃいましたらありがとうございます!
ですがネタバレになりますので、感想で「◯◯ですか」と聞いてくることなどはお控えくださいませ。
「もしかして!?」「何かわかった」という具体的なことが書かれていないコメントは大歓迎です!
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