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7  仲良くなろうとしているところですの(途中視点変更あり)

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「さっきから痛いじゃないですか! それに、どうしてそんなものをあなたが持ち歩いているんですか! というか、それはセナ嬢が持っていたものではないんですか!?」
「運動不足でしたのでお借りしましたの」
「シルバートレイは運動不足解消のものではないでしょう!?」

 ショーマ様があながち間違っていないことを言ってきた。

 だから、これは普通のシルバートレイではないことを伝えてみる。

「これは特注のシルバートレイなので、色々な使い方があると聞いてお借りしましたの。メイド姿ですから、おかしくはないでしょう?」
「おかしいのはあなたの頭ですよ!」
「まあ!」

 こんなことを言われるとは思っていなかったので、セナ様に顔を向けて尋ねてみる。

「私の頭はおかしいのでしょうか?」
「変わってることは確かですが、おかしいというのかはわかりません」

 女性のふりをしている時のセナ様は、私にも敬語で話すことになっている。

 セナ様の言葉はショーマ様の言葉を完全否定してくれたわけではないので、レミー様に尋ねてみる。

「私はおかしいでしょうか?」
「……はい」

 レミー様はブルブル震えながら頷いた。

 普通、ここまで私に怯えているのなら「いいえ」と言うべきだと思うのだけれど、私よりもショーマ様のほうが怖いといったところかしら。

 まあ良いわ。
 
 人には色々と考え方があるものね。

「一応言っておきますが、おかしいのは向こうのほうがおかしいですから」

 セナ様がショーマ様を指差すと、ショーマ様は眉を吊り上がらせる。

「暴力をふるうほうがおかしいでしょうが!」
「あなただって、暴力をふるってらっしゃるではありませんか。それに、断りもせずに女性に触ろうとするのもおかしいですわ」

 シルバートレイの重さにも慣れてきて、腕を振る速さも増してきた。

 この勢いで殴ったら、昏倒は無理でも大人しくさせることは可能かもしれないわ。

「婚約者なのですからそれくらい良いでしょう! まずはその凶器をどこかへ置いてきなさい!」
「嫌ですわ。今、シルバートレイと仲良くなろうとしているところですの」
「やっぱり頭がおかしいですね! 性格が好みでなければもうすでにあなたは生きていませんよ! あと、仲良くなるのは今でなくても良いでしょう!」
「わかりましたわ。ここに置かせていただいても?」

 人様から借りたものを床に置くわけにはいかないので、ショーマ様の着替えが置いてある丸テーブルを指差すと、ショーマ様は無言で頷いた。
 
「これで隠せって言ったら、アーティアは怒るかな」

 シルバートレイをテーブルの上に置いたところで、セナ様が近付いてきて小声で聞いてこられたので聞き返す。

「どういうことです?」
「見たくもないものをシルバートレイで隠してもらうんだよ」
「シルバートレイが可哀想ですわ。それに、アーティア様にも失礼です。あの、私は気になりませんわよ。見せびらかしてきて大したものでなかったら、鼻で笑おうかと思っておりますから」
「他の男のを見たことあるのかよ!?」
 
 セナ様がかなり驚かれたのか、男性の言葉でツッコんでこられた。

「ないですわ。ただ、前回の嫁入り前に色々と教えてもらえっていますの。それに、ショーマ様はこちらが嫌がるほうが喜ぶと思いますの。ですから、毅然とした態度をとるべきですわ」
「人が嫌がるほど喜ぶって、わざと見せて喜ぶタイプの変態と同じじゃねぇか」
「二人で何をコソコソしているんです!」

 ショーマ様が文句を言ってきたので、置いていたシルバートレイを持ち、ショーマ様の方に突きつけると「少しくらいなら良いでしょう」と言って許してくれた。

「レイティア様は良いかもしれませんが、レミー様はそうじゃないでしょう」

 セナ様に言われて、レミー様のほうを見る。
 レミー様は立っているのが精一杯というくらいに怯えていた。

「レミー様、あなたはショーマ様の頭を洗ってさしあげてくださいませ。私は他の部分を洗いますわ」
「わ、私、そんなこと、したことないんです!」
「適当に頭をぐしゃぐしゃしておけば良いだけですわ」
「良いわけないでしょう!」

 ショーマ様はガウンを脱ぎ捨てて、裸になると湯が張られたバスタブの中に入った。

 バスタブの中は泡でいっぱいになっていて、見たくもないものを見なくて済むのは助かった。

「まずは髪を洗ってください」

 ショーマ様が促してくる。

「では、レミー様、お手本を見せますわね」

 はっきり言うと、私も髪を自分で洗ったことはあるけれど、メイド達がしてくれたような感じで洗ったことはない。
 メイドたちはそれはもう優しく私の髪を丁寧に洗ってくれていた。

 かといって、この人に対して同じことをしてあげる必要もない。

「お湯加減はいかがですか?」

 近付いて尋ねると、ショーマ様は「まあまあですね」と答えた。

「では失礼して」

 近くにあった桶を手に取り、泡風呂のお湯をすくい上げて、彼の頭の上から勢いよく流した。

「ぶはっ! な、何をするんですか! 顔にかけないでください! 鼻にお湯が、鼻が痛いっ!」
「では、洗わせていただきますわね」

 この人を自由にしてしまったら、ジェドたちが自由に動けなくなってしまう。
 とにかく、時間を稼ごうと思い、ショーマ様の頭をマッサージだと称してグリグリと押すことに決めた。





*****
(視点変更)


 レイティアがショーマで遊んでいる頃、ジェドとアーティアは塔の内部にいた。

「いただいてから、まだ武器としては使ったことないんです」

 アーティアがステッキを撫でながら目を輝かせるのを見て、ジェドは小声でお願いをする。

「アーティア様、危険ですから一人で前に出ようとしないでください。私が先に行きますから」
「ジェド様、私に何かあっても私の責任ですから、気にしなくていただいて結構ですよ」
「アーティア様を危ない目に遭わせるだなんてあってはならないことなんです」
「細かいことは気になさらず」

 塔の内部の階段は、上る足音でさえかなり響くのだが、ちょうど塔の内部が騒がしいため、そこまで気にすることなく、二人は上まで上りきった。
 等の最上部には扉があり、見張りらしき人間はいない。
 その扉の奥から人が騒ぐ声が聞こえてくる。

「大人しくしろ! 次に抵抗したら、この騎士を殺すぞ!」
「嫌ぁっ!」

 野太い男性らしき声と若い女性らしき悲鳴が聞こえ、女性の声からして、今まさに危険な状態だとわかった。
 閂型の扉は男が中にいるからか解錠されたままになっていたので、ジェドはアーティアに話しかける。

「良いですか? ここは作戦変更で助けに入ります。でも、アーティア様は入ってきては駄目ですよ?」
「入るくらいなら良いのではないでしょうか」
「……では、入ってきても良いですが、私の前に出ないでください」
「わかりました」

 アーティアが大きく頷いたのを確認すると、ジェドは扉を開けて静かに中に入り込む。
 すると、騎士らしき格好をした体格の良い男がメイド服を着た女性の髪をつかんで叫んでいた。

「あー、もう、イライラするんだよな、安月給だしよ! 今頃、国王は若くて綺麗な女と一緒に風呂だってよ! なあ、お前が慰めてくれよ!」

 そう言って、男がズボンを下ろそうとした時だった。
 ジェドが動く前に、何かが男の後頭部にゴツっと音を立てて直撃した。

 男は「ぐあっ」という変な声を上げて、膝から床に崩れ落ち、女性の髪から手を放した。

 またゴツっと音を立てて、床に転がり落ちた凶器らしきものを見て、ジェドはゆっくりと後ろを振り返る。

「あ、やってしまったわ。でも、私は前に出てないし」

 苦虫を噛み潰したような顔をして振り返ったジェドを見て、アーティアが慌てて「ごめんなさい」と頭を下げた。

「いえ、アーティア様に攻撃する隙を与えてしまった私が悪いんです」

 ジェドは女性を傷付けないためにどう動くか判断に迷い、動きが遅れてしまった自分を責めることにした。
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