私には関係ありませんので、どうぞお好きになさって?

風見ゆうみ

文字の大きさ
10 / 19

8  どういうことです?

しおりを挟む
 私から攻撃を受けたショーマ様は最終的には、私たちに体を洗ってもらうことは諦めた。
 さすがに命の危険を感じたらしい。

 それくらいの危機察知能力がないと、今まで生きてこれていないわよね。

 いつもショーマ様の体を洗っているというメイドたちにバトンタッチすることになり、私たちは横に避けて、その様子を見学することになった。
 扉に近付いた時、部屋の外が騒がしいことに気が付く。

 そして、すぐに部屋の扉が叩かれた。
 ショーマ様は鬱陶しそうに返事をする。

「今は忙しいんです。後にしなさい」
「緊急事態なんです!」

 ショーマ様の側近であるチョーカ伯爵の声だった。
 ショーマ様はメイドに体を洗ってもらいながら尋ねる。

「緊急事態とはどういうことです?」
「そ、それが、人質が何者かに連れ去られました!」
「な、なんですって!? 警備の人間は何をしているんです!?」
「それが……、塔の入口を護っていた多くの兵士は気絶させられていて、意識が戻った人間に聞いても誰も相手の顔を見ていないんです! そして、人質を見張っていた男は連れ去られたのか行方不明になっています!」

 チョーカ伯爵の話を聞いた私とセナ様は思わず顔を見合わせた。

 ジェドが作戦ミスをするなんて珍しいわね。
 レイティア様がいたからかしら。
 それとも、イレギュラーな出来事が起こっていたのかもしれないわ。
 
 とにかく、ジェドたちの無事を確認したいので、ショーマ様に話し掛ける。

「ショーマ様、ゆっくり体を洗っている場合ではありませんわね! 私たちは部屋に戻らせていただきますわね!」
「くそっ。せっかく体の洗い方を覚えさせようとしたのに!」

 ショーマ様は舌打ちすると、泡だらけの体でバスタブから出てきた。

 一応、視線を逸らしてみると、たまたまレミー様と目が合う。

 すると、レミー様は震えながら私を睨んできた。

「あなたたちのせいね!」
「……はい?」
「人質を逃がしたのはあなた達なんでしょう!? どうして、そんな余計なことをするのよ!」

 レミー様は大粒の涙を流して責めてきた。 
 レミー様にショーマ様が尋ねる。

「一体、どういうことなのです?」
「ショーマ様! 私は何も悪くありません! 悪いのは」

 レミー様が私たちを売ろうとしていることに気が付いた私は、さりげなく彼女の後ろにまわり、首の後ろに手刀を入れて黙らせる。

 意識を失い、ふらりと崩れ落ちたレミー様の体をセナ様が受け止め、ショーマ様に言う。

「人質がいなくなったと聞いてショックで気を失われたようです。自国の人間ですからしょうがないでしょう」
「そ、そういうものなんですか?」

 ショーマ様が眉根を寄せて聞いてきた。

「そういうものです」

 私とセナ様は大きく頷く。

 私の手刀はショーマ様には見えていなかったようで、何とか誤魔化すことができた。

 レミー様の騎士は人質になっていたから、近くにいない。
 だから、部屋の警備をしていた騎士に頼んでレミー様を別邸の部屋に戻してもらうことになった。

 まさか、味方だと思っていた人から背後を撃たれそうになるとは思っていなかったわ。

 もしかしたら、レミー様は私たちの味方ではないのかもしれない。

 王妃陛下のお友達の御息女だから良い方だと思い込んでいた。
 でも、あの様子だとワガママプリンセスという可能性も出てきた。

 その話をしたいこともあり、ジェドたちと少しでも早く合流しようと思った。

「お忙しいようですから、本日は失礼いたします!」

 メイドに体を拭いてもらい、着替えさせてもらっているショーマ様に声を掛けて、セナ様と一緒に急いで別邸に戻ろう部屋を出た。

 すると、部屋の前の廊下にジェドとアーティア様が立っていた。
 二人共、どこか気まずそうにしている。

 セナ様と私は動揺を押し隠して足を止める。

 そして、私はジェドに話しかける。

「待っていてくれてありがとう。もう、やらなければならないことは終わったから帰りましょう」
「承知しました」

 ジェドが恭しく頭を下げた。

 セナ様もアーティア様に声を掛けて歩き出す。
 歩き出したアーティア様にお借りしていたシルバートレイを返しながら、お礼を言う。

「ありがとうございました。本当に助かりましたわ」
「お役に立てたなら良かったです」

 アーティア様は笑顔でシルバートレイの実用性を色々と教えてくれた。

 その後、別邸に帰ってきた私はすぐにジェドに話を促す。

「一体、何があったの?」
「……実は」

 申し訳無さそうにするジェドから聞いた話では、人質が危ない目に遭っていたため介入し、これからどうしようか考えていたところ、まだ話をしたことのない令嬢の付き人が手を貸してくれたらしい。

「その人は信用できるの?」
「アーティア様はそう仰ってました」
「そう。それなら大丈夫かしらね」

 手を貸してくれた相手はイエラ国の同盟国の一つであるガムイ国のオウレテク・ジョウトという騎士だった。

 アーティア様が言うには、実際は騎士ではなく高い爵位を持つ人らしい。

 その方が上手く人質を逃がす段取りをしてくれたらしい。

 そして、数時間後には人質だった人が全員保護されたという連絡が私たちにもたらされた。

 呆気ない幕引きだった。
 でも、これで遠慮なくショーマ様を潰しにかかれると思った私だった。
 ただ、敵はショーマ様だけではなかった。

 彼を好きだというイータ様、ルワカ様がいる。

 この二人が邪魔をしてこなければいいんだけど……。

 そう考えていた時、部屋の扉が叩かれた。
 返事をすると、訪ねてきた相手はレミー様だった。

 部屋の中に彼女を通すと、レミー様は両手に拳を作って私に叫んでくる。

「なんてことをしてくれるんですか! あなたのせいで私が死ぬことになったらどうしてくれるんです!?」
「……はい?」
「ショーマ様に反抗しても私の代わりに人質が殺されるから良かったんです! なのに、人質の解放なんてされたら、私の代わりに死ぬ人間がいなくなるじゃないないですか!」

 この発言には、さすがのジェドもあからさまに眉間にシワを寄せた。

 泣きながら訴えてきたレミー様は、涙も拭わずに私を睨みつけてくる。

 価値観の違いなだけかもしれない。

 でも、彼女の言っていることに賛同はできない。

「人それぞれ思うことはありますでしょう。ですが、自分のためなら他人が死んでも良いと聞こえてしまうような発言は、一国の姫としてどうかと思われますわよ?」
「何を言っているんです? 姫だから言うんじゃないですか!」
「どういうことです?」
「私は王族なんです! 偉いんです! 王族以外の人間は誰も逆らってはいけないんです! 黙って言うことを聞いておけば良いんです! 私の代わりに責任を取って死ねば良いんです!」

 レミー様は暴言とも取れる言葉を大きな声で叫んだのだった。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので

水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」 建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。  彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。 婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。   「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」 私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。 (でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。 まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ) 婚約破棄から数日後。 第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。 「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!! お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」 唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。 「まさか。 エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」 王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。 真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...