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8  どういうことです?

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 私から攻撃を受けたショーマ様は最終的には、私たちに体を洗ってもらうことは諦めた。
 さすがに命の危険を感じたらしい。

 それくらいの危機察知能力がないと、今まで生きてこれていないわよね。

 いつもショーマ様の体を洗っているというメイドたちにバトンタッチすることになり、私たちは横に避けて、その様子を見学することになった。
 扉に近付いた時、部屋の外が騒がしいことに気が付く。

 そして、すぐに部屋の扉が叩かれた。
 ショーマ様は鬱陶しそうに返事をする。

「今は忙しいんです。後にしなさい」
「緊急事態なんです!」

 ショーマ様の側近であるチョーカ伯爵の声だった。
 ショーマ様はメイドに体を洗ってもらいながら尋ねる。

「緊急事態とはどういうことです?」
「そ、それが、人質が何者かに連れ去られました!」
「な、なんですって!? 警備の人間は何をしているんです!?」
「それが……、塔の入口を護っていた多くの兵士は気絶させられていて、意識が戻った人間に聞いても誰も相手の顔を見ていないんです! そして、人質を見張っていた男は連れ去られたのか行方不明になっています!」

 チョーカ伯爵の話を聞いた私とセナ様は思わず顔を見合わせた。

 ジェドが作戦ミスをするなんて珍しいわね。
 レイティア様がいたからかしら。
 それとも、イレギュラーな出来事が起こっていたのかもしれないわ。
 
 とにかく、ジェドたちの無事を確認したいので、ショーマ様に話し掛ける。

「ショーマ様、ゆっくり体を洗っている場合ではありませんわね! 私たちは部屋に戻らせていただきますわね!」
「くそっ。せっかく体の洗い方を覚えさせようとしたのに!」

 ショーマ様は舌打ちすると、泡だらけの体でバスタブから出てきた。

 一応、視線を逸らしてみると、たまたまレミー様と目が合う。

 すると、レミー様は震えながら私を睨んできた。

「あなたたちのせいね!」
「……はい?」
「人質を逃がしたのはあなた達なんでしょう!? どうして、そんな余計なことをするのよ!」

 レミー様は大粒の涙を流して責めてきた。 
 レミー様にショーマ様が尋ねる。

「一体、どういうことなのです?」
「ショーマ様! 私は何も悪くありません! 悪いのは」

 レミー様が私たちを売ろうとしていることに気が付いた私は、さりげなく彼女の後ろにまわり、首の後ろに手刀を入れて黙らせる。

 意識を失い、ふらりと崩れ落ちたレミー様の体をセナ様が受け止め、ショーマ様に言う。

「人質がいなくなったと聞いてショックで気を失われたようです。自国の人間ですからしょうがないでしょう」
「そ、そういうものなんですか?」

 ショーマ様が眉根を寄せて聞いてきた。

「そういうものです」

 私とセナ様は大きく頷く。

 私の手刀はショーマ様には見えていなかったようで、何とか誤魔化すことができた。

 レミー様の騎士は人質になっていたから、近くにいない。
 だから、部屋の警備をしていた騎士に頼んでレミー様を別邸の部屋に戻してもらうことになった。

 まさか、味方だと思っていた人から背後を撃たれそうになるとは思っていなかったわ。

 もしかしたら、レミー様は私たちの味方ではないのかもしれない。

 王妃陛下のお友達の御息女だから良い方だと思い込んでいた。
 でも、あの様子だとワガママプリンセスという可能性も出てきた。

 その話をしたいこともあり、ジェドたちと少しでも早く合流しようと思った。

「お忙しいようですから、本日は失礼いたします!」

 メイドに体を拭いてもらい、着替えさせてもらっているショーマ様に声を掛けて、セナ様と一緒に急いで別邸に戻ろう部屋を出た。

 すると、部屋の前の廊下にジェドとアーティア様が立っていた。
 二人共、どこか気まずそうにしている。

 セナ様と私は動揺を押し隠して足を止める。

 そして、私はジェドに話しかける。

「待っていてくれてありがとう。もう、やらなければならないことは終わったから帰りましょう」
「承知しました」

 ジェドが恭しく頭を下げた。

 セナ様もアーティア様に声を掛けて歩き出す。
 歩き出したアーティア様にお借りしていたシルバートレイを返しながら、お礼を言う。

「ありがとうございました。本当に助かりましたわ」
「お役に立てたなら良かったです」

 アーティア様は笑顔でシルバートレイの実用性を色々と教えてくれた。

 その後、別邸に帰ってきた私はすぐにジェドに話を促す。

「一体、何があったの?」
「……実は」

 申し訳無さそうにするジェドから聞いた話では、人質が危ない目に遭っていたため介入し、これからどうしようか考えていたところ、まだ話をしたことのない令嬢の付き人が手を貸してくれたらしい。

「その人は信用できるの?」
「アーティア様はそう仰ってました」
「そう。それなら大丈夫かしらね」

 手を貸してくれた相手はイエラ国の同盟国の一つであるガムイ国のオウレテク・ジョウトという騎士だった。

 アーティア様が言うには、実際は騎士ではなく高い爵位を持つ人らしい。

 その方が上手く人質を逃がす段取りをしてくれたらしい。

 そして、数時間後には人質だった人が全員保護されたという連絡が私たちにもたらされた。

 呆気ない幕引きだった。
 でも、これで遠慮なくショーマ様を潰しにかかれると思った私だった。
 ただ、敵はショーマ様だけではなかった。

 彼を好きだというイータ様、ルワカ様がいる。

 この二人が邪魔をしてこなければいいんだけど……。

 そう考えていた時、部屋の扉が叩かれた。
 返事をすると、訪ねてきた相手はレミー様だった。

 部屋の中に彼女を通すと、レミー様は両手に拳を作って私に叫んでくる。

「なんてことをしてくれるんですか! あなたのせいで私が死ぬことになったらどうしてくれるんです!?」
「……はい?」
「ショーマ様に反抗しても私の代わりに人質が殺されるから良かったんです! なのに、人質の解放なんてされたら、私の代わりに死ぬ人間がいなくなるじゃないないですか!」

 この発言には、さすがのジェドもあからさまに眉間にシワを寄せた。

 泣きながら訴えてきたレミー様は、涙も拭わずに私を睨みつけてくる。

 価値観の違いなだけかもしれない。

 でも、彼女の言っていることに賛同はできない。

「人それぞれ思うことはありますでしょう。ですが、自分のためなら他人が死んでも良いと聞こえてしまうような発言は、一国の姫としてどうかと思われますわよ?」
「何を言っているんです? 姫だから言うんじゃないですか!」
「どういうことです?」
「私は王族なんです! 偉いんです! 王族以外の人間は誰も逆らってはいけないんです! 黙って言うことを聞いておけば良いんです! 私の代わりに責任を取って死ねば良いんです!」

 レミー様は暴言とも取れる言葉を大きな声で叫んだのだった。
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