私には関係ありませんので、どうぞお好きになさって?

風見ゆうみ

文字の大きさ
15 / 19

13 何も言えませんでしたわ

しおりを挟む
「やりすぎなかったでしょう?」
「令嬢をナイフで脅す令嬢なんて聞いたことがありません」

 尋ねた私を一瞥したあと、ジェドは大きく息を吐いてから、そう答えた。

 倒れているヨカバオダと座り込んでしまったルヨレ様を置いて、私たちは急いで別邸から外へ出た。
 騒がしくなってしまったからか、騒ぎを聞きつけたセナ様とアーティア様も追いかけてきてくれたので、合流してから城に向かう。

 アーティア様はシルバートレイとステッキを持参していて両手が塞がっている状態だ。

「今から戦いに行くみたいですね」

 たまらずジェドが声を掛けると、アーティア様は笑顔で頷く。

「もうそろそろ家のベッドで眠りたいんです。ショーマ様の頭を何度か殴ったら記憶喪失になってくれるかなと思いまして」
「ショーマ様云々のお話は聞かなかったことにします。あの、枕が変わると眠れないというやつですか?」
「そうです」

 アーティア様が頷くと、セナ様がすかさず「嘘つけ」と言った。
 でも、アーティア様は特に気にする様子はなくジェドと話を続ける。

「元々、狭いベッドに寝ていたので、広いベッドは落ち着かないんです」
「そうなんですね」
「おい、無視すんな」

 セナ様がアーティア様に文句を言った。
 セナ様は元々、見た目が女の子みたいな顔立ちのせいで、男性の格好をしていても女性と間違われるんだそう。
 だから、王子だというのに言葉遣いを悪くして、男らしさを出そうとしているとのことだった。
 公の場ではさすがに丁寧な言葉を使うらしい。

 でも、今の格好は黒色のシュミーズドレスを着ているから、どう見ても女性なのよね。

 ぼんやりとセナ様を見ていると、私の視線に気が付いたセナ様が言う。

「男ですよ」
「承知しております」

 セナ様の反応が面白くて、つい、からかってしまいそうになるけれど、相手は第二と言えども王子なのだから、ここは我慢しましょう。
 それに、セナ様にしてみればコンプレックスみたいだし楽しんではいけないわね。

「セナ様は可愛いですよ」
「可愛いって言うな!」

 アーティア様とセナ様のやり取りを微笑ましく見ている間に、城に着いた。メイドの案内でショーマ様の部屋に入る。

 ショーマ様の部屋は馬鹿みたいに広く、家具や調度品がたくさん置いてあるにも関わらず、ほとんどが空きスペースだった。
 
「さすがにもう、あなたの愚行を許すことは出来ません!」

 天蓋付きのベッドに横たわっていたショーマ様は、私たちが中に入ると上半身だけ起こして叫んだ。

「ショーマ様に言われたくはないのですが」
「うるさいんですよ! 黙って聞きなさい!」

 ショーマ様のベッドのすぐ脇にはイータ様が座っていて、こちらを睨みつけている。
 イータ様がいる反対側にはセンマ様や国の重鎮らしき老人や中年の男性が5人、困った顔をして立っていた。

 イータ様はまるで番犬みたいで可愛いわね。

 そんなことを思っていると、ショーマ様が叫ぶ。

「私は国王の座を降ります! そして、レイティア、あなたを告発します!」
「……はい?」
「今までは国王という身分だったからこそ、あなたに手を下せませんでした! ですが、国王の座を降りれば、あなたに手を下しても私は何の関係もなくなるのです!」
「……」

 ショーマ様は気に食わないことがあれば、すぐに暴力をふるったり人を殺めたりしている。
 そんなことは絶対にしてはいけないことだ。
 だけど、賢くないからそんなことをしていたのだと、今の発言でわかった。

「怖くなって何も言えなくなりましたか!」

 イータ様以外は白けた顔をしてショーマ様を見ていることに、本人は気付かない。
 だから、素直に答える。

「ショーマ様の頭の中が心配になって何も言えませんでしたわ」
「なんですって!?」
「どうしてかお伝えする前に確認したいことがございます」
「なんです?」
「本当に国王の座から降りるのですね?」
「もちろんです!」

 頷いたショーマ様を見て、次にイータ様に視線を向ける。

「イータ様は国王の座を継がれますか?」
「いいえ! 継いだりしないわ! 私はお兄様と幸せに暮らすんですから!」

 ショーマ様とイータ様の言質を取ったところで、センマ様に視線を向ける。
 すると、近くにいた中年の男性が動き、まずは、ショーマ様に書類とペンを手渡す。

「国王の座を降りる際に関することが書かれています。そして、ここにサインをお願い致します」
「……しょうがありませんね」

 そう言って、ショーマ様は書かれている内容の目を通すこともなくサインをしてくれた。
 その後、イータ様も笑顔で書類にサインをした。

 こんなに上手くいくとは思っていなかったわ。
 
 書類にサインをもらった男性が、大事そうに書類を抱えて出ていくのを見送った後、ショーマ様に尋ねてみる。

「あなたは、もう国王陛下ではないということですわよね?」
「そうです! ですから、私はあなたを殺すことができるのです!」
「無理ですわ」

 自信満々な態度で叫んだショーマ様の言葉を否定すると、ショーマ様は表情を歪めて聞き返してくる。

「どういうことですか?」
「ショーマ様、今のあなたは伯爵という身分に変わりました」
「はい? 私は元国王ですよ!?」
「そうです。元国王ですわね。で、先程の書類に何が書いてあったか、センマ様からお伝え願えますか?」
「承知しました」

 センマ様は頷くと、ショーマ様に向かって言う。

「あの書類には、兄上が伯爵の地位になり、レイティア様含む婚約者との婚約は破棄すること、イータと共にこの城から出ていくこと、そして、僕を次期国王として認めるということが書かれてありました」
「な、なんですって!?」

 まさかの展開だったのか、ショーマ様とイータ様は同時に叫んだ。

 それにしても、書類の内容をしっかり読まないというのはお約束よね。

 さあ、どう反論してくるのかしら?
 その仕方によっては、痛い目に遭ってもらわなくちゃいけなくなるわ。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので

水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」 建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。  彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。 婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。   「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」 私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。 (でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。 まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ) 婚約破棄から数日後。 第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。 「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!! お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」 唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。 「まさか。 エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」 王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。 真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...