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38話
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38話
「熱があるし風邪かな?」
顔が赤くなっていて息も荒い……なんだこれは……いいぞ!いいっ!!
「……しろう?」
や、やめろっ!その目は……とにかくダメだ……
「あ………とりあえずしっかり服を着て布団に……あ、違うよっ!ししし下心とか全然ないか……ら」
「うん。いこ……」
と、なぜかバスタオルを僕の目の前でとり着替え始める白崎さん。
「ご、ごめんなさーいっ!!」
と、叫びながら僕は見ないように廊下に飛び出す。
「大丈夫?着替えれる?」
と、扉越しに問う。
「………もう、大丈夫」
と、少し間を置いてから返答が帰ってきた。
「じゃ、入るよ」
そこには誰もいなかった。だが、なぜか僕の布団が蠢いていた。
……は?
なに?僕の布団が……蠢いている!?
おそるおそる僕は布団を少しめくってみると、白崎さんが白シャツ一枚を着て寝息を立ててぐっすりと寝ていた。
まあ、男子禁制の間に行ってしまったら看病もなにも出来っこないんだが……
よし、じゃ、お粥でも作るか。
風邪の時はこれに限るよな。そういえばお粥は梨花がレシピ教えてくれたっけか?
***
そう、あれは中学校の二年生の夏が終わって肌寒くなってきた頃。10月の終盤くらいで、僕は風邪をひいた。本当に凡人らしい風邪のひきかただが、まあ、こればかりは仕方ない
「頭いてえ……なんで暑かったり寒かったりするんだ?風邪かな?」
と、家に帰って着替えていると梨花が帰ってきた。
「ただいまー。お兄ちゃーんっ!!帰ったよー」
ドンドンドンドンッ!!
という頭が響くくらいの大きい足音から、猛ダッシュで僕の部屋に来ているのがわかった。まあ、日常なのでなんとなくわかってはいたのだが……
バタンっ!!
「お兄ちゃんっ!!帰ったよっ!」
「ああ。別に二回も言わなくてもわかってるよ」
「……え?お兄ちゃん?顔赤いよ?どうしたの?」
「あ……いや、別に……なんでもない」
「あー!おでこ出して!」
と、何かに気づいたのか「全部わかっちゃったもんねー」みたいな顔をしてそんなことを命令形で言ってきた。
そして、僕がまだおでこなんて出してもないのに妹は奴のおでこを僕のおでこに当てる。
「お、おいっ!」
「あぁぁぁ!!!やっぱり熱じゃんかっ!!」
「頭に響く。大声はやめてくれ……」
「あ、ごめんなさい。でも、部屋で安静にしててっ!お粥と薬持ってくるからっ!!」
「お、おう」
その時に食べたお粥。お粥は大体風邪をひいている時に食べるから全然味なんてわからないものだが、あれにはなんだろう。優しくて暖かくて…なにかぽかぽかしたものがそのお粥にはあった。
そんなこんなで、妹が風邪をひいた時に作れればいいな。と思い、作り方を聞いた。
それを僕が風邪をひいてから1日後に作るとは思わなかったが……僕の風邪とは別に妹は風邪をもらってきたのだ。その時にお粥を作ったのだ。
その時の梨花の顔はよかったな。自分の料理で喜んでもらえるってのはすごい嬉しいものだ。と、初めての感覚だったので未だによく覚えている。
そんなことを思い出しながらこの思い入れのある料理を作り終え、白崎さんの所に薬と氷水とタオルを一緒に持っていく。
おでこのところに氷水で冷やしたタオルを乗せると白崎さんは起きた。
「ん……あ?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「い、いや……ごめんなさい……」
「謝らないで。それより寝る前にご飯と薬だけでも……」
「……あまり食欲ない」
う、嘘だ……
僕はその言葉に驚きを隠せなかった。
だ、だってあれだぞ?あの吸引力の変わらないあれだぞ!?
それが……どうしたんだ!?
「で、でも、食べないといけないぞ?薬を飲むのにもこれ食後だし……」
「食べないと……ダメ?」
「そ、そんなに可愛い顔してもダメです。ご飯食べましょう?ね?」
「わかった……」
そして、口をポカーンとあけて目を閉じている白崎さん。
「……しかりん?」
「あーんして」
「………はい?」
「あーん」
だそうだ。
な、なんだ?なんか……み、右手が疼くっ!!
僕は震えてしまって仕方ない右手でスプーンを持ち作ってきたお粥をすくい上げて白崎さんの口元に持っていく。
その時にスプーンを通じて来る白崎さんの口の感触……
これはやばい……
そして、口からスプーン引こうとする時の少し力の入った感触。
今まで感じたことのない感触だ。
自分で食べる時にやっても出ないこの感じ……口は白崎さんなのでどういう動きをするかわからないし、こっちが動かしてしまうと歯とかに当たるので感触がスプーンからだが、なんとなくわかる。これが共同作業ってやつか!?
「しかりん。味はどう?」
「う、うん……美味しいんじゃない?」
「じゃない?」
なんでかその言葉に引っかかった。
「美味しくない?」
「いや、美味しいと思うよ」
思う……か。
そして、そんな時。脳の中で誰かが喋り始めた。この声は……
「士郎さん?お久しぶりです。それでいいんですか?士郎さんは本音を言わないようにブレーキをかける癖があるみたいですね。そのブレーキ私はとります」
と、問いかけることもなく完璧にあちらのペースでしゃべっている。
…こいつはなにを言っているんだ?
「すぐわかりますよ」
と、またプッチーン!と何かのコードが切れるような音が脳内で鳴り、そして、僕の口からは言葉が洪水のように溢れ出した。それを僕は止めることもやめることも出来ずに漠然としているしかなかった。
喉が焼ききれそうになるくらいお大声で言っているのが自分の喉の痛みでわかる。だが、なにを言っているかは自分では理解できなかった。いや、理解を避けたのかもしれない。しかし、白崎さんの泣きそうな。いや、顔が崩れていく様を見ればわかる。完全に暴言だ。
「し、しろう……ごめんね」
と、一言。白崎さんはか細い声でそう言った。
な、なんで?なんで謝るんだよ……
僕の脳内がパンクしそれからはなにもわからず、ただ家を飛び出していた。
ぼ、僕はそんなことを言いたいんじゃない………こんなの嘘だ……
「なにを言ってるんですか?」
と、闇夜のこんな時間に一人。こんな雲がかっている夜でも輝きを帯びている青い髪を左手の甲で靡かせる見覚えのある少女。あんな馬鹿げたことのできるやつは僕は一人しか知らない。
インスタントガールフレンドだ。
「………お前」
「お久しぶりです。士郎さん」
「ど、どうしてくれんだよっ!!あんなこと言っちゃって…喧嘩どころかあんなに傷つけちゃったら……もうダメじゃないか……」
「………なんて言ってますけど、士郎さん。ひとつ言っていいですか?」
「なんだ?もったいぶらずに言えっ!」
「じゃ、なんでそんなに顔は笑っているのですか?」
「………は?なんの話だ」
「なんなら写メでも送りましょうか?」
「じゃ、送ってみろよっ!!」
と、怒鳴り散らした直後、携帯がうるさく鳴りだした。そして、携帯を開くとそこにはなんだか清々しいくらいな笑顔の青年が立っていた。
「こ、これは………」
「正真正銘、貴方ですよ」
「………そ、そんなわけがない…」
「ははは………ぷっ!ぷっはっはっはっはっはっ!!」
高笑いを決めているインスタントガールフレンドなどの声など僕のところには届いていなかった。
う、嘘だろ……
「うぅ…腹筋が痛い。ふぅ。思い出しただけでも……ぷっ!はっはっはっは………あ、傑作だったのであともう一つ教えてあげますよ。士郎さん。今貴方は何処にいるんですか?」
自分の写真から目を離し今立っている場所を確認する。
「……ここは僕の家」
その時、僕はなぜかホッとしていた。
ガチャ!
と、運良くか運悪くか知らないが、家のドアが開いた。
「………お、お兄ちゃん?」
「……梨花」
「どうして……帰ってきたの?」
「……梨花と会いたくてかな?」
………はぁ!?本当にそんなことを思ってるのか?いや、絶対にない。だってこいつは妹で………そ、そうだ。全部はあいつのせいだ。僕じゃない。あいつに仕組まれたんだ。ならば、早く白崎さんに「ごめん」って言わないと……
「お、お兄ちゃんっ!!」
と、僕の胸に飛び込んでくる妹。
『だから言ったじゃないですか。貴方の心のブレーキを外したって』
また脳内に直接響いてくる声だ。
な、なんで!?僕は白崎さんが好きで……それは本当で妹はただ家族だから……そう、ならば妹に感じていたのは兄妹愛とか家族愛とかそっち系のやつだ。そうに決まっている。
『本当にそうですか?』
本当に……ってなに?
当然だろう……だって、妹だ。
ん?妹ってだけ?だけなの?それだけでブレーキをかけて……
ではこれも恋とか愛とかリア充的なやつなのか?
『はい。そうなんですよ』
そう……なのか……
なら、いいか……もう、何も考えたくない。白崎さんのことを考えて色々やってきたし付き合えた。けど、もう白崎さんのために……は疲れたよ。
さようなら。白崎さん。僕は白崎さんよりも妹の梨花が好きだ。
「好きだよ。梨花」
「私も…お兄ちゃん大好きだよっ!!」
と、涙ながらに僕の胸で泣く梨花。
やっとお兄ちゃんは私を選んでくれたんだね……ありがとう。インスタントガールフレンド。全部任せてよかった……
ふふ。くっついた………あは。あはははっ!!!
****
「よくやったぞ。インスタントガールフレンド」
と、ピエロのような奇抜な格好をしている少年がそこにはいた。
「はいっ!どうでしたか?暇つぶしにはなりました?」
「ああ。風邪を引いているときにやるとはなかなか君も悪だね。と、言っても白崎ちゃん?だったっけ?あの子の心には入り込めないし、士郎くんも心を取りにくかったからね。とにかく、よくやってくれた」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
「じゃ、次も楽しみにしてるよ」
「任せてくださいっ!」
よし、次もしっかりやらないと……
私はインスタントガールフレンド。数多くのリア充達を潰してきた。反応は人それぞれではあったが、最近はもうほとんどマンネリ化というかどんなやつ見ても絶望ってだけで物足りなかった。だが、士郎さんのあの顔はどれとも違っていて幸せそうなのだが、悲しそう。という、片方しか持てないはずの感情をその顔はしっかりと持っていた。
でも、幸せってどんなのなんだろう?
****
頭がズキズキする……
私はあれから布団から出て席に座っていた。
秒針の音だけがチクチクとなっている。
お粥……冷めちゃった。
私の頭の中ではずーっと士郎のあの言葉がずーっと流れていた。
「ざけんなっ!!僕は…白崎さんのためを思って作ったのに……なにがいけないんだよっ!!梨花も美味しく食べてくれたのに……なんで?………白崎さんにはいつもいつも優しくしてたのに……もう無理……僕にはもう…………君はいらない」
……君はいらない。か……
……あれ?机が濡れてる…これは……なに?涙?
手を顔に持ってこうとして手を近づけようとすると、ぽつぽつと手に雨でも当たっているかのような感触があった。
………ああ。そうか。泣いてるんだ私。
こんな世界なのに、男の人と関わることなんてなかったし、ましてや男の人とお付き合いするなんて考えてもみなかった。
だけど、士郎と付き合ってからは世界が輝いて見えた。特にやることもなかった休日も士郎のことを思えばそんな一日も明るくなった。
なにを間違えた?どうすればよかったんだろ……
「ただいまー!!」
「………ただいま」
と、誰かが帰ってきた。
だけど、その声は士郎のものではない。
先輩方だ。
「お?しかりーんっ!!ただいまー!!って、どうしたの?まさか士郎になんかされた!?ん?あれ?士郎はいないけど……どこいったの?……って、顔赤いけど……しかりんっ!すごい熱…はやく寝ないと……」
それからは記憶がない……私がそれから目を覚ましたのは次の日の朝だった。
すっかり体の方は元気になっていた。
「しかりーんっ!おはよっ!よく眠れた?」
「あ。はいっ!渚先輩っ!なんか元気だった時より元気になれた気がしますっ!!」
「へ、へぇ……」
「それより士郎は……帰ってきました?」
「いや、帰ってきてないよ?全くあいつは……彼女が大変なのになにをしてたんだか……」
「あ、あの……先輩方少しお話が……」
「ん?どーしたの?」
それから、私はあの夜なにがあったかを話した……
「変ね…士郎がそんなことを……」
「………確かにおかしい」
「なにがいけなかったんでしょうか……」
「うーん。私はあいつの彼女じゃないし当人でもない。だから、なんとも言えないけど、貴女は士郎がそんなことをしてしまう男だって思う?」
「いや………そんなことはないと思いますけど……」
「けど?」
「けど、あの目は本気だった。私には見せたことのない顔だった……」
「じゃ、質問を変えるわ。貴女は士郎が好き?」
そんなの決まってる。
「……士郎のことばかり考えて悩んで士郎の笑顔を見ればなんか辛いこととか疲れとかが吹き飛んで……今現在なんというかすっごく辛いです。これはどういうことなんですかね?」
「………それが好きってことなんじゃない?」
そうなんだ……私やっぱり士郎のことが好きなんだ……
「私、士郎の家に行って………行って……」
なにをすればいいんだろう?いや、こんなところで考えてる暇はないっ!
「とにかく行ってきますっ!!」
「しかりんっ!傘っ!!あーあ。行っちゃった……雨降ってるのに……」
そうだ。私は好きなんだ。士郎……士郎っ!!
私はその場に蹲るしかなかった。
「士郎……」
玄関先で……私の見ている前で……妹さんと口づけを交わしていた……
「熱があるし風邪かな?」
顔が赤くなっていて息も荒い……なんだこれは……いいぞ!いいっ!!
「……しろう?」
や、やめろっ!その目は……とにかくダメだ……
「あ………とりあえずしっかり服を着て布団に……あ、違うよっ!ししし下心とか全然ないか……ら」
「うん。いこ……」
と、なぜかバスタオルを僕の目の前でとり着替え始める白崎さん。
「ご、ごめんなさーいっ!!」
と、叫びながら僕は見ないように廊下に飛び出す。
「大丈夫?着替えれる?」
と、扉越しに問う。
「………もう、大丈夫」
と、少し間を置いてから返答が帰ってきた。
「じゃ、入るよ」
そこには誰もいなかった。だが、なぜか僕の布団が蠢いていた。
……は?
なに?僕の布団が……蠢いている!?
おそるおそる僕は布団を少しめくってみると、白崎さんが白シャツ一枚を着て寝息を立ててぐっすりと寝ていた。
まあ、男子禁制の間に行ってしまったら看病もなにも出来っこないんだが……
よし、じゃ、お粥でも作るか。
風邪の時はこれに限るよな。そういえばお粥は梨花がレシピ教えてくれたっけか?
***
そう、あれは中学校の二年生の夏が終わって肌寒くなってきた頃。10月の終盤くらいで、僕は風邪をひいた。本当に凡人らしい風邪のひきかただが、まあ、こればかりは仕方ない
「頭いてえ……なんで暑かったり寒かったりするんだ?風邪かな?」
と、家に帰って着替えていると梨花が帰ってきた。
「ただいまー。お兄ちゃーんっ!!帰ったよー」
ドンドンドンドンッ!!
という頭が響くくらいの大きい足音から、猛ダッシュで僕の部屋に来ているのがわかった。まあ、日常なのでなんとなくわかってはいたのだが……
バタンっ!!
「お兄ちゃんっ!!帰ったよっ!」
「ああ。別に二回も言わなくてもわかってるよ」
「……え?お兄ちゃん?顔赤いよ?どうしたの?」
「あ……いや、別に……なんでもない」
「あー!おでこ出して!」
と、何かに気づいたのか「全部わかっちゃったもんねー」みたいな顔をしてそんなことを命令形で言ってきた。
そして、僕がまだおでこなんて出してもないのに妹は奴のおでこを僕のおでこに当てる。
「お、おいっ!」
「あぁぁぁ!!!やっぱり熱じゃんかっ!!」
「頭に響く。大声はやめてくれ……」
「あ、ごめんなさい。でも、部屋で安静にしててっ!お粥と薬持ってくるからっ!!」
「お、おう」
その時に食べたお粥。お粥は大体風邪をひいている時に食べるから全然味なんてわからないものだが、あれにはなんだろう。優しくて暖かくて…なにかぽかぽかしたものがそのお粥にはあった。
そんなこんなで、妹が風邪をひいた時に作れればいいな。と思い、作り方を聞いた。
それを僕が風邪をひいてから1日後に作るとは思わなかったが……僕の風邪とは別に妹は風邪をもらってきたのだ。その時にお粥を作ったのだ。
その時の梨花の顔はよかったな。自分の料理で喜んでもらえるってのはすごい嬉しいものだ。と、初めての感覚だったので未だによく覚えている。
そんなことを思い出しながらこの思い入れのある料理を作り終え、白崎さんの所に薬と氷水とタオルを一緒に持っていく。
おでこのところに氷水で冷やしたタオルを乗せると白崎さんは起きた。
「ん……あ?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「い、いや……ごめんなさい……」
「謝らないで。それより寝る前にご飯と薬だけでも……」
「……あまり食欲ない」
う、嘘だ……
僕はその言葉に驚きを隠せなかった。
だ、だってあれだぞ?あの吸引力の変わらないあれだぞ!?
それが……どうしたんだ!?
「で、でも、食べないといけないぞ?薬を飲むのにもこれ食後だし……」
「食べないと……ダメ?」
「そ、そんなに可愛い顔してもダメです。ご飯食べましょう?ね?」
「わかった……」
そして、口をポカーンとあけて目を閉じている白崎さん。
「……しかりん?」
「あーんして」
「………はい?」
「あーん」
だそうだ。
な、なんだ?なんか……み、右手が疼くっ!!
僕は震えてしまって仕方ない右手でスプーンを持ち作ってきたお粥をすくい上げて白崎さんの口元に持っていく。
その時にスプーンを通じて来る白崎さんの口の感触……
これはやばい……
そして、口からスプーン引こうとする時の少し力の入った感触。
今まで感じたことのない感触だ。
自分で食べる時にやっても出ないこの感じ……口は白崎さんなのでどういう動きをするかわからないし、こっちが動かしてしまうと歯とかに当たるので感触がスプーンからだが、なんとなくわかる。これが共同作業ってやつか!?
「しかりん。味はどう?」
「う、うん……美味しいんじゃない?」
「じゃない?」
なんでかその言葉に引っかかった。
「美味しくない?」
「いや、美味しいと思うよ」
思う……か。
そして、そんな時。脳の中で誰かが喋り始めた。この声は……
「士郎さん?お久しぶりです。それでいいんですか?士郎さんは本音を言わないようにブレーキをかける癖があるみたいですね。そのブレーキ私はとります」
と、問いかけることもなく完璧にあちらのペースでしゃべっている。
…こいつはなにを言っているんだ?
「すぐわかりますよ」
と、またプッチーン!と何かのコードが切れるような音が脳内で鳴り、そして、僕の口からは言葉が洪水のように溢れ出した。それを僕は止めることもやめることも出来ずに漠然としているしかなかった。
喉が焼ききれそうになるくらいお大声で言っているのが自分の喉の痛みでわかる。だが、なにを言っているかは自分では理解できなかった。いや、理解を避けたのかもしれない。しかし、白崎さんの泣きそうな。いや、顔が崩れていく様を見ればわかる。完全に暴言だ。
「し、しろう……ごめんね」
と、一言。白崎さんはか細い声でそう言った。
な、なんで?なんで謝るんだよ……
僕の脳内がパンクしそれからはなにもわからず、ただ家を飛び出していた。
ぼ、僕はそんなことを言いたいんじゃない………こんなの嘘だ……
「なにを言ってるんですか?」
と、闇夜のこんな時間に一人。こんな雲がかっている夜でも輝きを帯びている青い髪を左手の甲で靡かせる見覚えのある少女。あんな馬鹿げたことのできるやつは僕は一人しか知らない。
インスタントガールフレンドだ。
「………お前」
「お久しぶりです。士郎さん」
「ど、どうしてくれんだよっ!!あんなこと言っちゃって…喧嘩どころかあんなに傷つけちゃったら……もうダメじゃないか……」
「………なんて言ってますけど、士郎さん。ひとつ言っていいですか?」
「なんだ?もったいぶらずに言えっ!」
「じゃ、なんでそんなに顔は笑っているのですか?」
「………は?なんの話だ」
「なんなら写メでも送りましょうか?」
「じゃ、送ってみろよっ!!」
と、怒鳴り散らした直後、携帯がうるさく鳴りだした。そして、携帯を開くとそこにはなんだか清々しいくらいな笑顔の青年が立っていた。
「こ、これは………」
「正真正銘、貴方ですよ」
「………そ、そんなわけがない…」
「ははは………ぷっ!ぷっはっはっはっはっはっ!!」
高笑いを決めているインスタントガールフレンドなどの声など僕のところには届いていなかった。
う、嘘だろ……
「うぅ…腹筋が痛い。ふぅ。思い出しただけでも……ぷっ!はっはっはっは………あ、傑作だったのであともう一つ教えてあげますよ。士郎さん。今貴方は何処にいるんですか?」
自分の写真から目を離し今立っている場所を確認する。
「……ここは僕の家」
その時、僕はなぜかホッとしていた。
ガチャ!
と、運良くか運悪くか知らないが、家のドアが開いた。
「………お、お兄ちゃん?」
「……梨花」
「どうして……帰ってきたの?」
「……梨花と会いたくてかな?」
………はぁ!?本当にそんなことを思ってるのか?いや、絶対にない。だってこいつは妹で………そ、そうだ。全部はあいつのせいだ。僕じゃない。あいつに仕組まれたんだ。ならば、早く白崎さんに「ごめん」って言わないと……
「お、お兄ちゃんっ!!」
と、僕の胸に飛び込んでくる妹。
『だから言ったじゃないですか。貴方の心のブレーキを外したって』
また脳内に直接響いてくる声だ。
な、なんで!?僕は白崎さんが好きで……それは本当で妹はただ家族だから……そう、ならば妹に感じていたのは兄妹愛とか家族愛とかそっち系のやつだ。そうに決まっている。
『本当にそうですか?』
本当に……ってなに?
当然だろう……だって、妹だ。
ん?妹ってだけ?だけなの?それだけでブレーキをかけて……
ではこれも恋とか愛とかリア充的なやつなのか?
『はい。そうなんですよ』
そう……なのか……
なら、いいか……もう、何も考えたくない。白崎さんのことを考えて色々やってきたし付き合えた。けど、もう白崎さんのために……は疲れたよ。
さようなら。白崎さん。僕は白崎さんよりも妹の梨花が好きだ。
「好きだよ。梨花」
「私も…お兄ちゃん大好きだよっ!!」
と、涙ながらに僕の胸で泣く梨花。
やっとお兄ちゃんは私を選んでくれたんだね……ありがとう。インスタントガールフレンド。全部任せてよかった……
ふふ。くっついた………あは。あはははっ!!!
****
「よくやったぞ。インスタントガールフレンド」
と、ピエロのような奇抜な格好をしている少年がそこにはいた。
「はいっ!どうでしたか?暇つぶしにはなりました?」
「ああ。風邪を引いているときにやるとはなかなか君も悪だね。と、言っても白崎ちゃん?だったっけ?あの子の心には入り込めないし、士郎くんも心を取りにくかったからね。とにかく、よくやってくれた」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
「じゃ、次も楽しみにしてるよ」
「任せてくださいっ!」
よし、次もしっかりやらないと……
私はインスタントガールフレンド。数多くのリア充達を潰してきた。反応は人それぞれではあったが、最近はもうほとんどマンネリ化というかどんなやつ見ても絶望ってだけで物足りなかった。だが、士郎さんのあの顔はどれとも違っていて幸せそうなのだが、悲しそう。という、片方しか持てないはずの感情をその顔はしっかりと持っていた。
でも、幸せってどんなのなんだろう?
****
頭がズキズキする……
私はあれから布団から出て席に座っていた。
秒針の音だけがチクチクとなっている。
お粥……冷めちゃった。
私の頭の中ではずーっと士郎のあの言葉がずーっと流れていた。
「ざけんなっ!!僕は…白崎さんのためを思って作ったのに……なにがいけないんだよっ!!梨花も美味しく食べてくれたのに……なんで?………白崎さんにはいつもいつも優しくしてたのに……もう無理……僕にはもう…………君はいらない」
……君はいらない。か……
……あれ?机が濡れてる…これは……なに?涙?
手を顔に持ってこうとして手を近づけようとすると、ぽつぽつと手に雨でも当たっているかのような感触があった。
………ああ。そうか。泣いてるんだ私。
こんな世界なのに、男の人と関わることなんてなかったし、ましてや男の人とお付き合いするなんて考えてもみなかった。
だけど、士郎と付き合ってからは世界が輝いて見えた。特にやることもなかった休日も士郎のことを思えばそんな一日も明るくなった。
なにを間違えた?どうすればよかったんだろ……
「ただいまー!!」
「………ただいま」
と、誰かが帰ってきた。
だけど、その声は士郎のものではない。
先輩方だ。
「お?しかりーんっ!!ただいまー!!って、どうしたの?まさか士郎になんかされた!?ん?あれ?士郎はいないけど……どこいったの?……って、顔赤いけど……しかりんっ!すごい熱…はやく寝ないと……」
それからは記憶がない……私がそれから目を覚ましたのは次の日の朝だった。
すっかり体の方は元気になっていた。
「しかりーんっ!おはよっ!よく眠れた?」
「あ。はいっ!渚先輩っ!なんか元気だった時より元気になれた気がしますっ!!」
「へ、へぇ……」
「それより士郎は……帰ってきました?」
「いや、帰ってきてないよ?全くあいつは……彼女が大変なのになにをしてたんだか……」
「あ、あの……先輩方少しお話が……」
「ん?どーしたの?」
それから、私はあの夜なにがあったかを話した……
「変ね…士郎がそんなことを……」
「………確かにおかしい」
「なにがいけなかったんでしょうか……」
「うーん。私はあいつの彼女じゃないし当人でもない。だから、なんとも言えないけど、貴女は士郎がそんなことをしてしまう男だって思う?」
「いや………そんなことはないと思いますけど……」
「けど?」
「けど、あの目は本気だった。私には見せたことのない顔だった……」
「じゃ、質問を変えるわ。貴女は士郎が好き?」
そんなの決まってる。
「……士郎のことばかり考えて悩んで士郎の笑顔を見ればなんか辛いこととか疲れとかが吹き飛んで……今現在なんというかすっごく辛いです。これはどういうことなんですかね?」
「………それが好きってことなんじゃない?」
そうなんだ……私やっぱり士郎のことが好きなんだ……
「私、士郎の家に行って………行って……」
なにをすればいいんだろう?いや、こんなところで考えてる暇はないっ!
「とにかく行ってきますっ!!」
「しかりんっ!傘っ!!あーあ。行っちゃった……雨降ってるのに……」
そうだ。私は好きなんだ。士郎……士郎っ!!
私はその場に蹲るしかなかった。
「士郎……」
玄関先で……私の見ている前で……妹さんと口づけを交わしていた……
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