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一話
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【誰でもいいから俺を紐にしてくれ】
一話
大学の三年間はあっという間に過ぎ去り、俺は今、就職活動というやつをやっている。
毎日慣れないスーツを着て、都内の満員電車に揺られながらあっちこっちを行く日々。
やる気なんて全然ない。それが企業の方にもバレたのかまだ内定もひとつも取れてない。
誰? いい大学入ればいいとこ入れるとか言った馬鹿な親は。あ、親だった。
まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえず、働き口を見つけねえと。
吐きそうになりながらも次の企業の最寄り駅まで行くために、また満員電車に乗り込むとスマホがバイブした。見やると、同級生の友人からの連絡で「おれ内定取ったー」なんていう連絡が飛んできていた。
一瞬、頭が真っ白になる。これで俺の数少ない知り合いは全員、内定を貰えたってことになる。つまり、俺だけ置いてけぼりだ。
「嘘……だろ?」
送り返してすぐに返信が来た。
「はっ! 俺ともなるとすぐなんだなぁこれが!」
「畜生! お前より早く内定貰うつもりだったのに!」
そう返すと、変なパンダがニヤついてるスタンプが飛んでくる。
「髙木も遂にやっちゃったのか……はぁ……」
人混みでもうかなりグロッキーなところに、自分一人だけお先真っ暗というプレッシャーをかけられると、もうダメだ。吐きそう。
俺は満員電車から一度降りて、トイレに駆け込んだ。
「おぇ……はぁ……」
ため息しか出てこない。考えてみればおかしな話だろ。一流大学出てんのにこんなに頑張らなきゃ行けないって……
ずっと帰宅部だったし勉強しかしてこなかったそんな俺が、こんなの体力が持つわけがない。
なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。俺は就職に来たってのに、こんなところで人混みに酔って吐くなんて。
いや、そもそも大人になったら働いて社畜になるなんて方がおかしいんだ。
あんなにやってきた勉強だってどうせ社会気出てしまえば使わねえ。
……もういいや。やめだやめ。こんなのやってられねえよ。マジでヒモになりたい。
その日はそのまま、家に帰った。
俺の家はよくある一軒家で使うのは主に二つ。二階に自分の部屋があって、基本はこっちで生活している。飲み物を取りに行ったりする時にリビングを使うくらいで他は使わない。
苛立ち次いでに下の階からビールを持ってきて、勉強道具なんかがとっちらかった荒んだ部屋でビールを煽りながら、俺は気がついた。
「……そういえば俺、無茶苦茶酔いやすいんだった」
そこからの記憶は無い。
そして、翌日の朝。外はいい天気だってのに頭痛と吐き気でそれどころじゃねえ。
「うぇ……」
昨日の人混みのあれも吐き気が尋常じゃなかったけど、二日酔いは二日酔いでひでえや。
「大丈夫?」
そんな時、背中を優しくさすられた。
「あ、あ……?」
振り返ると、とんでもない美人がいた。
「は……?」
意味がわからなすぎて、開いた口がしまらない。なぜ、見知らぬ美人が俺の家に居るんだ……?
今、両親は出張中で二人とも居ないし俺は一人っ子だ。だから、今この家には俺以外が居るはずがない。
こんな美人、もし、一度でも会ったことがあれば記憶にないなんてことは無いと思う。
だから、多分初対面だ。
それにこんなに優しい人が俺の家に勝手に上がり込むなんてことは無いだろうし、心配してくれてるんだ。悪い人ってわけではなさそう。
……いや、でも、世の中そんなに甘くない。こんな目尻の下のほくろがエッチな黒髪ロングのお姉さんが、見ず知らずの俺にこんなことをしてくれるなんておかしい。それに、かなりのナイスバディだ。こんなのハニートラップって書いてあるようなもんじゃないか。だとしたらなにか裏があって……
「……どうしたの?」
そのお姉さんは首を傾げて訊いてきた。
「え、えっと……夢ですか?」
そうだ! 夢に違いない! こんなの現実じゃない。そんなラノベみたいなことあってたまるか!
「ん? 夢? ほっぺた抓ってあげよっか? 痛いと思うけど」
「お願いします!」
俺は即答していた。
別に美人にほっぺたを抓られたいとかそういう不純な動機のせいで頭の痛みが吹っ飛ぶくらいに喜んだんじゃなく、ただ純粋に夢かどうか知りたいだけだ。
う、嘘じゃないよ? ホントだからね!
名も知らない美人が白く細い腕を伸ばし、俺の頬に触れる。
「あぁ……」
なんて幸せなんだ……別に夢でも構わない。痛くなくても一向に結構だ。
「じゃ、行くよ?」
「はい! 思いっきりお願いします!」
「言われなくてもそのつもり!」
ギュッと頬が抓られる。いや、抓られるというよりかは抉られるというのに近いような気がする。
「いってぇぇぇ!!! 痛い! 痛いですよ!」
「いい声で泣くね! お姉さん気に入っちゃった!」
嬉しそうな声音が聞こえる。
「マジで! もげる! もげるよぉ!」
「ふふっ!」
涙目になりながらもその美人の方を見やると、楽しそうに頬を緩ませていた。
この人、本当にマジの方のドSだ。
……俺はとんでもない人と酔っている間に知り合ってしまっていたらしい。
一話
大学の三年間はあっという間に過ぎ去り、俺は今、就職活動というやつをやっている。
毎日慣れないスーツを着て、都内の満員電車に揺られながらあっちこっちを行く日々。
やる気なんて全然ない。それが企業の方にもバレたのかまだ内定もひとつも取れてない。
誰? いい大学入ればいいとこ入れるとか言った馬鹿な親は。あ、親だった。
まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえず、働き口を見つけねえと。
吐きそうになりながらも次の企業の最寄り駅まで行くために、また満員電車に乗り込むとスマホがバイブした。見やると、同級生の友人からの連絡で「おれ内定取ったー」なんていう連絡が飛んできていた。
一瞬、頭が真っ白になる。これで俺の数少ない知り合いは全員、内定を貰えたってことになる。つまり、俺だけ置いてけぼりだ。
「嘘……だろ?」
送り返してすぐに返信が来た。
「はっ! 俺ともなるとすぐなんだなぁこれが!」
「畜生! お前より早く内定貰うつもりだったのに!」
そう返すと、変なパンダがニヤついてるスタンプが飛んでくる。
「髙木も遂にやっちゃったのか……はぁ……」
人混みでもうかなりグロッキーなところに、自分一人だけお先真っ暗というプレッシャーをかけられると、もうダメだ。吐きそう。
俺は満員電車から一度降りて、トイレに駆け込んだ。
「おぇ……はぁ……」
ため息しか出てこない。考えてみればおかしな話だろ。一流大学出てんのにこんなに頑張らなきゃ行けないって……
ずっと帰宅部だったし勉強しかしてこなかったそんな俺が、こんなの体力が持つわけがない。
なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。俺は就職に来たってのに、こんなところで人混みに酔って吐くなんて。
いや、そもそも大人になったら働いて社畜になるなんて方がおかしいんだ。
あんなにやってきた勉強だってどうせ社会気出てしまえば使わねえ。
……もういいや。やめだやめ。こんなのやってられねえよ。マジでヒモになりたい。
その日はそのまま、家に帰った。
俺の家はよくある一軒家で使うのは主に二つ。二階に自分の部屋があって、基本はこっちで生活している。飲み物を取りに行ったりする時にリビングを使うくらいで他は使わない。
苛立ち次いでに下の階からビールを持ってきて、勉強道具なんかがとっちらかった荒んだ部屋でビールを煽りながら、俺は気がついた。
「……そういえば俺、無茶苦茶酔いやすいんだった」
そこからの記憶は無い。
そして、翌日の朝。外はいい天気だってのに頭痛と吐き気でそれどころじゃねえ。
「うぇ……」
昨日の人混みのあれも吐き気が尋常じゃなかったけど、二日酔いは二日酔いでひでえや。
「大丈夫?」
そんな時、背中を優しくさすられた。
「あ、あ……?」
振り返ると、とんでもない美人がいた。
「は……?」
意味がわからなすぎて、開いた口がしまらない。なぜ、見知らぬ美人が俺の家に居るんだ……?
今、両親は出張中で二人とも居ないし俺は一人っ子だ。だから、今この家には俺以外が居るはずがない。
こんな美人、もし、一度でも会ったことがあれば記憶にないなんてことは無いと思う。
だから、多分初対面だ。
それにこんなに優しい人が俺の家に勝手に上がり込むなんてことは無いだろうし、心配してくれてるんだ。悪い人ってわけではなさそう。
……いや、でも、世の中そんなに甘くない。こんな目尻の下のほくろがエッチな黒髪ロングのお姉さんが、見ず知らずの俺にこんなことをしてくれるなんておかしい。それに、かなりのナイスバディだ。こんなのハニートラップって書いてあるようなもんじゃないか。だとしたらなにか裏があって……
「……どうしたの?」
そのお姉さんは首を傾げて訊いてきた。
「え、えっと……夢ですか?」
そうだ! 夢に違いない! こんなの現実じゃない。そんなラノベみたいなことあってたまるか!
「ん? 夢? ほっぺた抓ってあげよっか? 痛いと思うけど」
「お願いします!」
俺は即答していた。
別に美人にほっぺたを抓られたいとかそういう不純な動機のせいで頭の痛みが吹っ飛ぶくらいに喜んだんじゃなく、ただ純粋に夢かどうか知りたいだけだ。
う、嘘じゃないよ? ホントだからね!
名も知らない美人が白く細い腕を伸ばし、俺の頬に触れる。
「あぁ……」
なんて幸せなんだ……別に夢でも構わない。痛くなくても一向に結構だ。
「じゃ、行くよ?」
「はい! 思いっきりお願いします!」
「言われなくてもそのつもり!」
ギュッと頬が抓られる。いや、抓られるというよりかは抉られるというのに近いような気がする。
「いってぇぇぇ!!! 痛い! 痛いですよ!」
「いい声で泣くね! お姉さん気に入っちゃった!」
嬉しそうな声音が聞こえる。
「マジで! もげる! もげるよぉ!」
「ふふっ!」
涙目になりながらもその美人の方を見やると、楽しそうに頬を緩ませていた。
この人、本当にマジの方のドSだ。
……俺はとんでもない人と酔っている間に知り合ってしまっていたらしい。
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