『勇者リリアと記憶の王都ミルフェリア』Eden Force Stories Ⅲ(第三部)

風間玲央

文字の大きさ
27 / 36

『第五話・2 : 師として赦せなかったもの』

しおりを挟む
背後で揺らめいていた白灰の景色が、“文の行頭”のように静かに折れ曲がった。
空はねじれ、地表は反転し、遠くの木々が“上へ沈む”という、因果の軸ごと歪む挙動を見せる。
その異変とともに、世界の手触りが変わった。

セラフィーが息を呑む。

「……この戦い、もう避けられないわ。」

その言葉が終わるより早く、リリアの剣が上段に閃いた。
――空気が沈む。
足元の大地が、音もなく張りつめる。

大地が震えたのではない。
ここから先は、退路のない《決闘》だと――
世界そのものが告げていた。

「――上等だよ、ラムタフッ!!
 デモリオンごと、まとめて叩き潰してやる!!」

ラムタフは、その宣言にも微笑を崩さない。
愉悦の影だけが、わずかに揺れた。

「……師匠。
 あなたに、私の歩む“野望”は砕かせませんよ。」

ラムタフはゆっくりと、愛刀《ゴラリス》を上段へ掲げる。
その動きだけで、空気が低く重たく鳴動した。

「あなたに教わったすべてを……私は魔王様と歩む“別の未来”で完成させたのです。」

淡々と紡がれた声。
しかし、その中に――かつて少年だった頃の影は、一粒も残っていなかった。

次の瞬間、ラムタフの口元が、ゆっくりと歪む。
笑い声は高くも荒くもない。
ただ、結果を知っている者だけが浮かべる嗤いだった。

「──哀れな師よ。
 ここで終わるのは、あなただ。」

その嘲りに条件反射するように、リリアは言い返すこともなく一歩踏み込んだ。
レーバティン・ゼロを上段に掲げ、息をひとつだけ整える。

「――聖天に座す光の律よ」

刃が、応えるように白金へと燃え上がる。
夜気が裂け、光が集束し、剣先に“完成された答え”が形を結んだ。

「──《光輝衝破》ッ!!」

振り下ろされた一閃が、夜を断ち割る閃光となる。
白金の軌跡が地表を削り、空気を灼き、砦の影さえ押し潰すように突き進んだ。

だが──その刹那。

ラムタフの口から、まったく同じ詠唱が吐き出された。
「──《光輝衝破》ッ!!」

紅晶の陣が血のように脈動し、同質の光束が対向して放たれる。
二つの光が正面衝突した瞬間、世界が軋んだ。
閃きと閃きが噛み合い、雷鳴のような轟きが大地をえぐる。
白金の閃光が蒼白に揺らぎ、紅晶の光は血濁りのように脈打った。
──天と地が逆向きに叫ぶような、破滅の対位法。
やがて二つの光は、互いを喰い潰すように消え失せた。

「くっ……!」
リリアは剣を軋ませ、足を大地に縫いとめるように踏ん張った。
額に汗が滲み、喉の奥が焼けつく。

(……はぁ!? 何だその軌道……!
 刃に魔力を“乗せる”順が、俺と同じだ……ッ!!
 踏み込み→返し→収束……
 全部、俺の“断流斬”の通し方そのものだ)

(……いや、待て。クソ……あいつ、一ミリも成長してねぇ。悪い癖、何ひとつ治ってねぇ)

(この三年間、何してた……?
 どこで、誰の下で……
 お前は、いったい……
 “どんな未来”を選んだんだよ……)

胸の奥で、リリア──いや、その深層に潜む颯太そのものの怒気が弾けた。
それは言葉になるより先に血流へ叩きつけられ、心臓の鼓動を一拍だけ乱す、むき出しの“生の憤怒”だった。

「……クソがッ。ほんとに……腹立つわ、お前。」

衝突の余波が火花となって光波の裂け目を暴れ散り、砕けた樹々は、炭の羽根が空中でほろほろと解け落ちていく。

その光の嵐の中心で――
リリアの内で渦巻く魔力が、ついに“声”を得た獣のように低く唸り始めた。

怒りではない。焦りでもない。
ただ――これから放つ“一撃”のためだけに存在を昂らせる、氷刃めいた純粋で獰猛な衝動。
肺を灼く呼吸とともに、術式の核へ火種を叩き込み、リリアは静かに詠唱を放った。

「聖天に座す光の律よ――」

その時、わずかに遅れて響く。
背後から、かつての少年の声を思わせる、寸分違わぬ“写し声”。

「……聖天に座す光の律よ――」

リリアの眉が、わずかに震えた。
ラムタフの詠唱が追ってくる。
ただの模倣じゃない。
息の速さも拍も、心臓の鼓動すら合わせるように――完全に一致している。

胸の奥が鈍くきしんだ。
怒りとも焦りとも呼べない何かが、軋みの奥で静かに割れた。
詠唱を“奪われる”――それは、師として決して触れさせてはならない魂の核を、素手で握られるような感覚だった。

(……でも違う。
 同じじゃない。
 あいつの詠唱には、霊が通っていない。
 俺の“表面”だけをなぞっているだけだ。)

(――なのに。
  どうして“そこ”だけは変わらない……?)

そして――二人の声が完全に重なった。

「世界の歪みを断ち割る刃と成らん……!」

世界が一拍だけ息をひそめる。
そしてその静寂を裂くように、同時。

「――《 聖光崩雷 (せいこうほうらい) 》ッ!!」

白金と紅晶の雷閃が、
《レーバティン・ゼロ》の剣先と、《ゴラリス》の刀身から同時に迸った。

だが二つの雷閃が衝突した、その瞬間――
白金と紅晶の光は、完全に同じ速度で噛み合わなかった。
ほんの一瞬。
どちらが速いとも、強いとも言えないほどの誤差。

かつて同じ流派に連なっていた、二つの刃。
だが確かに、
衝突点が“ずれた”という感触だけが、リリアの掌に残った。
そのずれは、痛みでも衝撃でもなかった。
ただ――剣だけが、納得していない感触だった。

そのとき、リリアの胸裏に煮えたぎったのは、
この男が選んでしまった未来を、ひとりの人間として――
そして師として、どうしても赦せないという“痛烈な憤り”だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人
ファンタジー
◆◇◆完結保証◆◇◆ ◆◇◆毎日朝7時更新!◆◇◆ 「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

処理中です...