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52 それぞれの想い
しおりを挟む先生が美術室に駆け込むようにしてきた時、『先生慌てすぎ~』なんて思っていた自分を殴ってやりたい。過去に戻れるなら殴る……というか、陽香を呼び出しに行かせなかった。
万葉と渡利君には、私のせいじゃないって言われたけど、陽香が宮田と付き合い始める時に、渡利君が言っていたことがすっぽりと抜けていた。
あの時、渡利君は確かに言っていた。
宮田絡みのいざこざ……というか、宮田と仲がいい人への嫉妬でいちゃもんをつける人がいるって。
私も万葉も出身校が一緒だったし、宮田とどうこうとは考えたことが無かったせいか、そんなことは一度も無かったけど、現実は渡利君が言ったようになってしまった。
「明日、怜くんと陽香の病院に行くんだ……」
文化祭が近いけれど、気持ち的な問題で自主休部してる私達は、いつもより早い帰宅の道で陽香と宮田のことを話す。
「万葉……私も一緒に行きたい」
それだけ言うと、しばらく考えて『怜くんがいいって言ったらね……何かあるみたいなんだけど、私じゃ上手く言えないから』
そう言って了承してくれた。
⚫〇⚫〇
陽香が入院して半月が過ぎた。
あれだけ元気だった宮田がすっかり憔悴してしてしまい、体調不良と……陽香の不在を理由に、クラスの文化祭実行委員を交代したらしい。宮田が責められることではないのに、ずっと自分を責めている。でもきっと、誰が何を言っても宮田は納得しないだろうと思う。
昔からそうだった。
里奈よりは付き合いは浅いけど、それだって二年くらいの差だ。宮田が責任感が強いことも、ホントはヘタレで緊張するとお腹を下すことも知っている。
昔から男女分け隔てない態度で付き合う為、誤解されやすいけれど、きちんと宮田を見ていれば分かる。
あいつは不器用なのだ。
大事なところでヘマをしたりもするけれど、それも些細なことで……見た目が良すぎる為、返って損をしていることもあるけれど……基本は努力家で真面目で一途なのだ。
自意識過剰でなければ、だいぶ長い間片思いをさせていた本人としては、絆されてもおかしくは無いくらいだ。
(絆され無かったけどね……)
「里奈…宮田……どんな感じ?」
宮田と同じクラスの里奈に様子を聞く。
クラスが違うと結構会わないもので、様子が伺えないのが難点だ。
「だいぶね憔悴しきってる感じ。部活も休んでるし……目の下にくまができてるから、眠れてないんじゃないかな…」
あの日…陽香が意識を失った日。
男の癖に感情的で涙もろい宮田が、声も無く泣いていたのを、自宅近くの駅のホームで見かけた。
『自分のせいだ』
なんて思っていた気に病んでいるのだろう。
悪いのは宮田じゃないのに。
ちなみに…事件の首謀者となった先輩方は謹慎中だ。治療費等のことはよく分からない。
お母さんが言うには、今回の入院中の費用は"故意の事故"だから保険は効かず全額実費で、先輩方の保護者が支払うだろうと……。
あとは陽香の回復次第じゃないかとの事。
緊急の保護者会で受験前の謹慎は……などと言う人がいたらしいが『受験なんてしなくたって死なない』と、スッパリ言い切って黙らせたらしい。相変わらず、ウチのお母さん最強である。
でもまぁ、そうだよね。
受験しなくたって死なない。
先輩達の自業自得ってやつだ。
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