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美と家を失う

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「本当にお美しい」
「女神ですら霞んで見える美しさだ」
「何処から見ても、何をしていても、絵になるわ」

子爵家の令嬢で、美しいブロンドの髪と、整った造形美を持つ。それが私だ。
そう。たったそれだけで、私の説明は済んでしまう。

14歳を迎えた頃には、性別や年齢も問わず、皆が私を絶世の美女と褒め称えた。
そんな言葉は聞きたくない。誰も、見た目以外は褒めてくれない。

辛い勉学にも耐えた。教養を身に着けるべく、厳しい先生のお稽古にも耐えた。苦手な運動だって一生懸命頑張った。
だけど、何をどれだけ頑張っても、私の中身を知ろうとする人間はいなかった。

この頃から、よく縁談の声が掛かるようになった。
お相手は、貴族の方々。侯爵家といった、我家とは不釣り合いなほど高位な方々から、お声が掛かるようになった。

両親はいたく喜んだ。気が付けば、贈り物の価値で、私との見合いの優先順位を付けるようになった。まるで、オークションだ。勿論商品は私。競りにかけられた家畜だと、自分を評した。

そうやって、何度かお見合いをしていると、私は殿方に問うようになった。
『何故、私と会うのか?』と。
それぞれ、言葉を選びロマンチックな言葉を繕った。けれども最終的には、容姿が美しい、の一点に集約される。

どんな服が好きか、どんな宝石が好きかと、よく尋ねられた。でも、一人として好きな詩集や食べ物の話などは、聞いてくれなかった。どうやって私を飾るかにしか興味が無いのだろう。

ある日、急に堰が切れたように、感情が暴発した。
《悲しい・辛い》
もし私の顔が綺麗じゃなかったら、誰も私を見てくれないの?興味を持ってくれなくなるの?

だから、私はおまじないの本に書いてあった、見た目を変えるおまじないを、自分に試すことにした。勿論、こんなものは眉唾物だと疑っていたけれど。

だが、結果は大成功だった。美しくない私の顔。良かった。これで、ようやく本当の私を見て貰える。
おまじないを解く方法はあるけれど、きっと私はそれをしない。それをしてしまったら、誰も私を見てくれないから。

そして、私は喜びの余り、思わす両親に顔を見せに行った。

でも、両親は嘆き悲しんだ。
「お前など、私の娘ではない。今すぐ娘を返せ。今後の縁談はどうなるのだ」
そう言って、父は、私の顔にガラスの陶器を投げつけた。直撃はしなかったが、僅かに擦れた頬からは、血が流れる。

「こんな娘知らない!今すぐここから出て行って!こんな不細工に用はないのよ!」
母は叫んだ。泣きながら、手あたり次第、物へと怒りをぶつけた。

分かっていたけど認めたくなかった。両親にとっても、私は見た目が全てなのだと。
僅かに残していた希望も全て綺麗に消え去った。

そして、私は家を追い出された。行く当てなど勿論無かったけれど。
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