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新たな人生は始まりを告げる
「しかし、アルベロは物知りだな。大したものだ。あんなマイナーな詩すらも知っているとは」
「いえ、ルーカスさんに比べたら、私など」
「そう謙遜するな。いや、うん。本当に楽しい時間だった。是非、また来てくれ。俺はそろそろ家に戻らねばならなくてな」
「そうですわね。もうじき暗くなります」
私の力ない表情と声に、何かを感じ取ったのか。怪訝そうな顔をルーカスさんは浮かべた。
「なんだ、帰りたく無さそうだな。何かあったのか?」
私はためらったが、お話をかいつまんで、伝える事にした。
「つまらないお話です。両親が私に望んでいたものを、自らの手で壊してしまったので、お家を追放されてしまったのです」
「ふむ。具体性に欠ける話だが、家を追放されたとなると、それは問題だな。泊るところや、働き先に、あてはあるのか?」
「いえ。そんなものは御座いません。つい、先ほどの事出来事ですから。少しの間でしたら、手持ちのお金で生活できるので、その間に住み込みで働ける場所を探します」
ルーカスさんは、何やら、少し考えているようだった。
「よし。ならば我が家で働かんか?」
「…は?」
「いや、だから俺の屋敷で、住み込みで働いてみる気はないかという提案だ。身の回りの世話をしてくれていたメイドの一人が、赤ん坊を生んでな。育てるためには、親の手を借りる必要があると、実家に帰ってしまったのだ。なに、話をしていて分かったが、君は頭が良い。直ぐに仕事も覚えられるだろう」
はっはっは、と豪快に笑うルーカスさん。
本当ならば有難い提案だが、流石に出会ったばかりで、これは出来すぎだ。しかし、その反面、期待もしてしまった。どうせ行く当てもない。それに、この人なら信じて見てもいいのではないか。勿論根拠などは無いが、なにか大きな器というか、今まで会ったことのないタイプのお人だったから。
「本当に、宜しいですのか?」
「ああ、俺は自分の発言に責任をもつ男だ」
そして、彼は私に手を差し伸べた。
その手を私は、大切なものを触るように、両手で包んだ。
「では、行こうか」
その手を、一度解いたルーカスさんは歩を進めたが、地面の石に躓き転んだ。
「イヤー、参ったな。アッハッハッハ」
笑っているルーカスさんだが、私は大きく地面からむき出しになっている石を見て、考えたことを口にした。
「あの、若しかして、お目が不自由なのでは?」
少しの沈黙の後、ルーカスさんはニコッと笑った。
「すまんな。実はそうなんだ。隠していたわけでは無いんだが。でも大丈夫だ。全く見えないわけでは無いから。近くまでいけば、ぼんやりとは分かる。まあ、色は全く分からんのだが。というわけで、健常者よりも、身の世話が大変かもしれないが宜しく頼んだぞ」
私は、ルーカスさんに手を差し出した。というより、彼の手を取った。
「ん?」
彼は不思議そうな顔で、私を見つめる。
「危ないですから、私が先導します。だから、道を教えてください」
「おお、機転が利くんだな。やはり、俺の目に狂いはなかった。あんまり、見えてないけどな」
またしても、彼は笑った。私が反応に困っていると、
「お前も笑っていいんだぞ。なにせ、俺の中で、史上最高の傑作なのだ」
そう言ったのだ。だから私は、遠慮なく笑った。
何という日だろう。今までの人生を全て積み重ねても、
こんなに笑ったことは無かった。
きっと、この人の傍にいれば、これからずっとこんな風に笑顔でいる事が、当たり前の日々が訪れるのではないか。と、私はそう思わずにはいられなかった。
そして、私たちは歩き出した。
「いえ、ルーカスさんに比べたら、私など」
「そう謙遜するな。いや、うん。本当に楽しい時間だった。是非、また来てくれ。俺はそろそろ家に戻らねばならなくてな」
「そうですわね。もうじき暗くなります」
私の力ない表情と声に、何かを感じ取ったのか。怪訝そうな顔をルーカスさんは浮かべた。
「なんだ、帰りたく無さそうだな。何かあったのか?」
私はためらったが、お話をかいつまんで、伝える事にした。
「つまらないお話です。両親が私に望んでいたものを、自らの手で壊してしまったので、お家を追放されてしまったのです」
「ふむ。具体性に欠ける話だが、家を追放されたとなると、それは問題だな。泊るところや、働き先に、あてはあるのか?」
「いえ。そんなものは御座いません。つい、先ほどの事出来事ですから。少しの間でしたら、手持ちのお金で生活できるので、その間に住み込みで働ける場所を探します」
ルーカスさんは、何やら、少し考えているようだった。
「よし。ならば我が家で働かんか?」
「…は?」
「いや、だから俺の屋敷で、住み込みで働いてみる気はないかという提案だ。身の回りの世話をしてくれていたメイドの一人が、赤ん坊を生んでな。育てるためには、親の手を借りる必要があると、実家に帰ってしまったのだ。なに、話をしていて分かったが、君は頭が良い。直ぐに仕事も覚えられるだろう」
はっはっは、と豪快に笑うルーカスさん。
本当ならば有難い提案だが、流石に出会ったばかりで、これは出来すぎだ。しかし、その反面、期待もしてしまった。どうせ行く当てもない。それに、この人なら信じて見てもいいのではないか。勿論根拠などは無いが、なにか大きな器というか、今まで会ったことのないタイプのお人だったから。
「本当に、宜しいですのか?」
「ああ、俺は自分の発言に責任をもつ男だ」
そして、彼は私に手を差し伸べた。
その手を私は、大切なものを触るように、両手で包んだ。
「では、行こうか」
その手を、一度解いたルーカスさんは歩を進めたが、地面の石に躓き転んだ。
「イヤー、参ったな。アッハッハッハ」
笑っているルーカスさんだが、私は大きく地面からむき出しになっている石を見て、考えたことを口にした。
「あの、若しかして、お目が不自由なのでは?」
少しの沈黙の後、ルーカスさんはニコッと笑った。
「すまんな。実はそうなんだ。隠していたわけでは無いんだが。でも大丈夫だ。全く見えないわけでは無いから。近くまでいけば、ぼんやりとは分かる。まあ、色は全く分からんのだが。というわけで、健常者よりも、身の世話が大変かもしれないが宜しく頼んだぞ」
私は、ルーカスさんに手を差し出した。というより、彼の手を取った。
「ん?」
彼は不思議そうな顔で、私を見つめる。
「危ないですから、私が先導します。だから、道を教えてください」
「おお、機転が利くんだな。やはり、俺の目に狂いはなかった。あんまり、見えてないけどな」
またしても、彼は笑った。私が反応に困っていると、
「お前も笑っていいんだぞ。なにせ、俺の中で、史上最高の傑作なのだ」
そう言ったのだ。だから私は、遠慮なく笑った。
何という日だろう。今までの人生を全て積み重ねても、
こんなに笑ったことは無かった。
きっと、この人の傍にいれば、これからずっとこんな風に笑顔でいる事が、当たり前の日々が訪れるのではないか。と、私はそう思わずにはいられなかった。
そして、私たちは歩き出した。
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