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呪殺師は可愛い男の子が好き

式神ヒルコ

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 男は、僕たちに見られている事に気が付いたが、慌てる様子もなく不敵な笑みを浮かべた。

 その足下では、警備員たちが倒れている。

 気絶しているようだ。

「気付くのが遅かったようだな。一応、紹介しておこう」

 男は、スライム状式神を指さした。

「こいつの名はヒルコ。俺の式神だ。そして俺も、通称ヒルコと呼ばれている。もちろん本名ではないが」

 ヒルコ?

「もう、お分かりだと思うが昨夜俺たちが捕まったのは、ここへ連れて来てもらうためさ」

 なるほど。間抜けな侵入者として捕まって縛られていれば、誰もそんな奴を警戒しない。

 警戒されないまま、権堂氏のすぐそばに近寄れる。

 そして、頃合いを見て、ヒョーの送り込んできたネズミ式神がロープを噛み切ってこの男を解放したというわけか。

「そういうわけだ。さっそく死んでもらうぜ。権堂さん」

 式神ヒルコが権堂氏の座っている安楽椅子の方向へ、流体となって流れていく。

 樒が咄嗟とっさに九字を切るが、ヒルコの身体が少しへこんだだけの効果しかない。

「無駄! 無駄! 無駄! ヒルコに、九字は利かないぜ」

 ミクちゃんの方を見ると、懐から式神の憑代を取り出したところだった。

 ダメだ! アクロを召還する前に、権堂氏がヒルコに飲み込まれる。

 結界で守れるだろうか?

「うわわ!」

 慌てて逃げようとする権堂氏を、樒は押さえつけた。

「ここから、動かないでください」
「しかし、化け物が……」
「大丈夫。私を信じて」

 樒の言うとおりだった。

 バチ! バチ! バチ!

 権堂氏に触れる寸前、ヒルコと権堂氏の間で火花が散った。

 ヒルコは、そのまま壁際まで後退する。

「なんだあ!? このクソ堅い結界は!」

 急拵きゅうごしらえの結界だけど、意外と頑丈だったな。

「無駄ですよ。ヒルコさん」

 そう言ったのは芙蓉さん。

「あなたの名前は聞いた事があります。今回はヒョーと組んでいたようですね。ですが、ヒョーならともかく、あなた程度の式神では、この結界は破れませんよ」
「くそ!」

 ミクちゃんがアクロを召還したのはその時だった。

 アクロがヒルコに殴りかかる。

 だが……

 ズボ! ズボ!

 アクロのパンチは、ヒルコの柔らかい身体にめり込むだけで効果がない。

「無駄だ! ヒルコに、打撃系の攻撃は利かんぜ」

 豆腐とうふかすがいぬかくぎとはこのことだな。

 ヒルコには、アクロのギカトンパンチも通じないのか。

 スライムに利く攻撃って言うと、火炎とか電撃とか……ダメだ! 火事になる。

 液体窒素。

 どこにそんな物がある。

 この前読んだネット小説では、主人公がスライムと戦うのに、何か身近な物を使っていたような……

「朝食をお持ちしました」

 扉が開き、使用人が朝食を乗せたワゴンを押して入ってきた。

 こんな時に……ん? これは使えるかも……

 僕はワゴンの方へ飛びつき、食塩の入ったびんを掴んだ。

「これもらいます」
「え? はい、どうぞ」

 呆気に取られている使用人をよそに、僕は瓶のふたを外し、中の塩を掌の上にあけた。

 その塩をヒルコに向かって投げつける。

「ぴきききー!」

 悲鳴を上げて、ヒルコは後退した。

 やっぱり! こいつは塩に弱い。

「クソ! このガキ。もうヒルコの弱点に気が付いたか」
「ミクちゃん今だ! 術者本人を」
「はい」

 アクロが術者の男に殴りかかるが、その寸前にヒルコが壁となってパンチを防ぐ。

 そのヒルコの壁に残りの塩を投げつけた。

 壁に穴が開いたが、術者はすでに式神ヒルコの裏側に逃げ込んでいた。

 術者は、ヒルコの向こうから僕に声をかける。

「ぼうや。何かを忘れていないか」

 え? 何を? そういえば、さっきから何か大切な事を見落としているような気が……

 ええい! かまうものか!

 ワゴンの上にあったもう一つの塩の瓶を掴み、塩を投げつけようとしたその時……

 突然、塩を握った手を誰かに掴まれた。

 誰が?

 振り向くとそこにいたのは……

「捕まえた」

 しまった! もう一人、女がいたのを忘れていた。

 関取のように太った女は、塩を握っている僕の手をがっしりと掴んでいた。

 ふりほどこうにも外れない。

「放せ!」
「無駄だよ。ぼうや。あたしはこれでも、元女子プロレスラーのダーク山本さ。まあ、試合に出るときは、覆面だから分からなくても無理ないけど」

 んな事いったって、僕はプロレスなんて見ないし……うわ!

 突然、女に抱き上げられた。

 相手は女とはいえ、身長差一・ニ倍、体重差ニ・五倍はありそうな相手ではふりほどけない。

「ヒルコ。ぼうやを捕まえたよ」

 男がこっちを振り向く。

「よくやった。闇子やみこ
「闇子言うな!」

 なるほど、ダークだから闇子か。

 て、感心している場合じゃない。

「撤収だ」

 え! 式神ヒルコがこっちへ向かってくる。

 うわわ! こっち来るな! キモい! 怖い! 
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