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事故物件
自己嫌悪
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「はあ」
僕がため息をついたのは、千尋さんの部屋を出て、下りのエレベーターを待っている時の事……
「優樹。どうしたのよ? ため息なんかついて」
「いや、ちょっと自己嫌悪」
「自己嫌悪? なんで」
「心霊番組ってさ、霊を見せ物にして金儲けしている非道い番組って思っていたのだけど……それって僕の偏見だったのかな?」
「偏見ね」
即答されちゃったよ。
「偏見以外のなにものでもないわ。だから、千尋さんに意地悪したのね」
「うん……なんか、千尋さんに悪いことをしちゃったなって……」
「気にすることないわよ。向こうだって、霊能者を呼んだ本当の目的が、テレビ番組だってことを隠していたわけだから……」
エレベーターが来て僕たちは乗り込む。
「ところで優樹。私があの部屋に入った時、あんたシャツの裾を慌ててズボンに押し込んでいたわね。私が来る前に、何かあったの?」
気が付いていたのか。
「何もなかったから……」
「あの時もそう言っていたけど、何かあったから『何もなかった』って言っているのでしょ?」
う……
「だから……何かがある前に、樒が部屋に入ってきたから、何も起きなかったんだよ」
「じゃあ、私が来なかったら何が起きていたのよ?」
「それは……たぶん、何もなかったと思う。エロ目的ではなかったみたいだし……」
「はあ!? つまり、エロい事をされたの?」
「うん……」
「何をされたのよ?」
「抱きしめられて、ソファに押し倒されて……服を脱がされそうになったところへ、樒がやって来て……」
「なにそれ!? セクハラじゃないの! それとも、あんたも楽しんでいたの?」
「違うよ! 止めてって言ったのに無理矢理……でも、エロ目的じゃないって……」
「そこまでやっておいて、エロ目的じゃないわけないでしょ」
「そうじゃないんだ。ほら、千尋さん、あの部屋に入ってから、樒の張った結界に気が付かないで、自分の霊能力がなくなったと勘違いしたんだよ」
「それは聞いたけど」
「で、その後で霊能力を回復させる方法をネットで調べたら、現役の霊能者と身体的接触をすれば回復すると誰かに教えられて……」
「それで、優樹に抱きついたと?」
「うん」
「ばっかみたい。そんなの出鱈目に決まって……ん?」
不意に樒が押し黙る。
再び樒が口を開いたのは、エレベーターを降りた時。
「ねえ。千尋さんはそれをネットで誰かに教えられたのよね?」
「そうだよ」
「それって、五日前のヤッホー知恵袋じゃないの?」
「さあ? ヤッホー知恵袋か知らないけど……」
樒の顔がさっと青ざめる。
ん? 僕は千尋さんからはネットで調べたと聞いただけなのに、なんで樒は『ヤッホー知恵袋』とか『五日前』とか、具体的にサイト名や日時を言えるのだ?
まさか?
僕はスマホを取り出し、ヤッホー知恵袋にいくつかのキーワードを入れて検索した。
程なくして、千尋さんの質問にたどり着く。
マジック イン『霊能力が突然なくなりました。どうすれば回復しますか?』
このハンドルネーム『マジック イン』は『魔入』を直訳したものだな。
という事は、これに間違えなさそうだ。
他に霊能力の回復方法なんて、特殊な相談する人なんていないだろうし……
それに対する回答は……
ビーナス『現役の霊能者に、抱きつくように身体的接触をすると回復します』
ビーナス!?
樒の方に視線を向けると、樒は慌てて視線を反らした。
「ビーナスって、樒のみくしいネームだよね。ヤッホー知恵袋のハンドルネームでも使っていたのかい?」
「なんのことかしらあぁぁ……ああ! そういえば、使っていたわね」
「なんでこんな出鱈目教えたの?」
「いやあ、ちょっと軽い気持ちでからかっただけなのに、まさか本気にして実践するとは思わなかったわ」
あのなあ……
まあ、いいか。
もう、千尋さんも僕を指名する事なんて、二度とないだろうし……
と、思っていた。
僕がため息をついたのは、千尋さんの部屋を出て、下りのエレベーターを待っている時の事……
「優樹。どうしたのよ? ため息なんかついて」
「いや、ちょっと自己嫌悪」
「自己嫌悪? なんで」
「心霊番組ってさ、霊を見せ物にして金儲けしている非道い番組って思っていたのだけど……それって僕の偏見だったのかな?」
「偏見ね」
即答されちゃったよ。
「偏見以外のなにものでもないわ。だから、千尋さんに意地悪したのね」
「うん……なんか、千尋さんに悪いことをしちゃったなって……」
「気にすることないわよ。向こうだって、霊能者を呼んだ本当の目的が、テレビ番組だってことを隠していたわけだから……」
エレベーターが来て僕たちは乗り込む。
「ところで優樹。私があの部屋に入った時、あんたシャツの裾を慌ててズボンに押し込んでいたわね。私が来る前に、何かあったの?」
気が付いていたのか。
「何もなかったから……」
「あの時もそう言っていたけど、何かあったから『何もなかった』って言っているのでしょ?」
う……
「だから……何かがある前に、樒が部屋に入ってきたから、何も起きなかったんだよ」
「じゃあ、私が来なかったら何が起きていたのよ?」
「それは……たぶん、何もなかったと思う。エロ目的ではなかったみたいだし……」
「はあ!? つまり、エロい事をされたの?」
「うん……」
「何をされたのよ?」
「抱きしめられて、ソファに押し倒されて……服を脱がされそうになったところへ、樒がやって来て……」
「なにそれ!? セクハラじゃないの! それとも、あんたも楽しんでいたの?」
「違うよ! 止めてって言ったのに無理矢理……でも、エロ目的じゃないって……」
「そこまでやっておいて、エロ目的じゃないわけないでしょ」
「そうじゃないんだ。ほら、千尋さん、あの部屋に入ってから、樒の張った結界に気が付かないで、自分の霊能力がなくなったと勘違いしたんだよ」
「それは聞いたけど」
「で、その後で霊能力を回復させる方法をネットで調べたら、現役の霊能者と身体的接触をすれば回復すると誰かに教えられて……」
「それで、優樹に抱きついたと?」
「うん」
「ばっかみたい。そんなの出鱈目に決まって……ん?」
不意に樒が押し黙る。
再び樒が口を開いたのは、エレベーターを降りた時。
「ねえ。千尋さんはそれをネットで誰かに教えられたのよね?」
「そうだよ」
「それって、五日前のヤッホー知恵袋じゃないの?」
「さあ? ヤッホー知恵袋か知らないけど……」
樒の顔がさっと青ざめる。
ん? 僕は千尋さんからはネットで調べたと聞いただけなのに、なんで樒は『ヤッホー知恵袋』とか『五日前』とか、具体的にサイト名や日時を言えるのだ?
まさか?
僕はスマホを取り出し、ヤッホー知恵袋にいくつかのキーワードを入れて検索した。
程なくして、千尋さんの質問にたどり着く。
マジック イン『霊能力が突然なくなりました。どうすれば回復しますか?』
このハンドルネーム『マジック イン』は『魔入』を直訳したものだな。
という事は、これに間違えなさそうだ。
他に霊能力の回復方法なんて、特殊な相談する人なんていないだろうし……
それに対する回答は……
ビーナス『現役の霊能者に、抱きつくように身体的接触をすると回復します』
ビーナス!?
樒の方に視線を向けると、樒は慌てて視線を反らした。
「ビーナスって、樒のみくしいネームだよね。ヤッホー知恵袋のハンドルネームでも使っていたのかい?」
「なんのことかしらあぁぁ……ああ! そういえば、使っていたわね」
「なんでこんな出鱈目教えたの?」
「いやあ、ちょっと軽い気持ちでからかっただけなのに、まさか本気にして実践するとは思わなかったわ」
あのなあ……
まあ、いいか。
もう、千尋さんも僕を指名する事なんて、二度とないだろうし……
と、思っていた。
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