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事故物件2

とんずら

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 その頃、夜の住宅街を、台車を押して走る三姉妹の姿があった。

 台車に積まれているダンボール箱の中には、直径二センチ高さ三センチ程の小さな壷がぎっしりと詰まっている。 

 小さな壷だが、その一つ一つには凶悪な悪霊が封印されていた。

 三姉妹の先頭を進んでいた長女の羅亜香らあがが、なにやらぶつぶつと小声でつぶやいている。

「計画は完璧だったのよ。北条菖蒲あやめのいる物件へ社優樹を行かせて襲われるようにし向ける。あの女はショタコンだから社優樹を襲っても不自然ではなく、霊界スマホ奪還という目的は悟られない。そして、襲った結果、霊界スマホを所持しているのは彼ではなく、神森樒だと分かった。そこで、北条菖蒲を六道魔入に憑依させて、電話をかけさせて、社優樹の手で霊界スマホを持ってこさせる事に成功して見事に奪還できた。それなのに……」

 羅亜香は、悔しそうに霊界スマホを握りしめる。

「まさか。スマホに追跡装置を仕掛けられていたとは……」

 長女のすぐ後を進んでいた次女の降真こうま 亜羅あらはその呟き声を聞き逃さなかった。

 嫌悪の魔神アラティをその身に秘めている、現在十六歳の女子高生である亜羅は悩ましげな顔をする。

「あのさあ、ラー姉。普通に考えて罠だって分からない? 霊界スマホが人間の手に渡った時点で、死神が仕組んでいたのじゃないかって思わないの?」
「思わないわよ。ねえ、ハーちゃん」

 羅亜香は、一番後ろを進んでいた三女の葉子はこに同意を求める。

「わらわは、少し変だと思ったぞよ」
「裏切り者!」
「そんな事よりラー姉。アジトに残してきた悪霊達はどうするぞよ? これを車に積んだら、取りに戻るか?」

 羅亜香は腕時計に目を走らせる。

「無駄よ。今頃は、死神が回収しているわ。ああ! もう! せっかく霊界から連れてきた悪霊を、半分も失うなんて……」
「半分持ち出せただけでもマシぞよ」

 三姉妹が街角を曲がった時、コインパーキングの黄色い看板が見えてきた。

 そこに、逃走用のワゴン車を用意してあったのだ。

 ワゴン車の荷台に、ダンボールと台車を積み込むと、亜羅は腕時計で時間を確認した。

「そろそろ、死神がアジトに残してきた悪霊の回収作業を終える頃よ」

 亜羅は、霊界スマホから外しておいた霊界GPSを握りしめる。

「とにかく、私がこれを持って逃げ回るから。ラー姉とハーちゃんは次のアジトへ向かって」
「分かったわ」「分かったぞよ」
「まったく、アジトだけでなく、私の学校まで死神に知られちゃったじゃないの。これが済んだら、転校先探さないと……」
「転校先は私が手続きしておくから、亜羅は囮役お願いね」
「はいはい」

 亜羅は身体を霊体化すると、夜空へ飛び立っていった。
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