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地獄へ落ちろ②
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朝にライオネスから言われた言葉を振り払うように仕事に打ち込んだエアリスが気づけば、事務室にいる人間はまばらになっていた。
残業3時間と言ったところだ。
「よーし!今日はこれで終わり!」
一区切りついたところで伸びをしてエアリスは事務室を出た。
既に日は沈んでおり、廊下は蝋燭に照らされてぼんやりと明るい。
「エアリス」
「スタイン…」
呼び止められて振り向けばそこに居たのはスタインだった。
正直会いたい顔ではない。
エアリスは思わず顔を顰めてしまった。
「何か用?」
「そんな顔するなよ。ちょっと来いよ。話があるんだ」
エアリスは少し悩んだがまずは話を聞くことにしてスタインについて行った。
裏庭に着くとスタインは不敵に笑った。
「なぁ、エアリス。俺とやり直さないか?」
「は?」
突然の話に本気で聞き直してしまった。
自分の耳がおかしくなったのだろうか?
「何を言ってるの?あなたが婚約破棄してきたんでしょ?そもそもあの女性はどうしたのよ」
「あのあばずれ女!俺の他にも男がいたんだ」
つまりは女に振られたから復縁したいと言っているのか。
「なぁ、浮気は悪かったと思ってる。だからやり直そうぜ」
「何言ってるの?私はもうライオネス様と婚約しているのよ」
まぁ魔界では結婚しているが。
「お前さ、騙されてんだよ。じゃなきゃ侯爵がお前みたいなの相手にするわけないじゃん。不釣り合いもいいところだぜ」
その言葉を聞いて胸がギュッとなって痛んだ。
確かに見目麗しいライオネスと釣り合わないと自覚しているし、ライオネスからも容姿について指摘されたばかりだ。
結婚はしているが契約結婚に過ぎない。
しかもそれは白い結婚ときている。
「釣り合わないなんて…私が一番知ってるわ」
「じゃあ、いいだろ?」
「でも、私はライオネス様とは別れられないの」
「なんだよ。まさか分不相応にも好きになったってか?」
図星だった。だから動揺して何も答えられなかった。
「ちっ。なら既成事実作っちまえばいいよな」
「な、なにを…」
身の危険を感じたエアリスは急いで城へと戻ろうと駆けだしたのだがグイと手を引っ張られ、気が付けば自分の上にスタインが馬乗りになっていた。
「お前、本当にいい女になったよな」
そう言ってキスをしようとするのをエアリスは顔を背けて抵抗した。
だがそのままスタインはエアリスの首筋に唇を寄せてくる。
背中がぞわりとして、猛烈な嫌悪感に襲われる。
「やめて!ライオネス様!ライオネス様助けて!」
その時、薬指にはめられた指輪が光った。
風が渦巻いて思わず目を瞑る。
目を開いてみればそこにはライオネスが現れたかと思うと、瞬時に距離を詰めてエアリスに馬乗りになっているスタインを殴った。
小さい呻きを上げてスタインが吹き飛ばされ地面へと倒れた。
「小僧が!人間の分際で俺の妻に触れるなど…!死んで詫びろ!」
憤怒の表情でそう言ったライオネスの姿を見てエアリスは息を呑んだ。
その姿は銀色の長い髪に金の瞳がギラりと光っていた。
底冷えするような声に加え、纏う雰囲気は静かだが怒りに満ちていた。
「な、なんだ化け物?」
何とか体を起こしたスタインはそう言って後退ったが、その首にライオネスの太い鎖が巻き付く。
そのままライオネスが力を加えてスタインを右へ左へと地面に叩きつけた。
かと思うと今度は自分の元へと引き寄せ、スタインの顔を思い切り殴ったので吹き飛んだスタインは大木に体を叩きつけられて呻いた。
あまりの苛烈ぶりに最初は呆然としていたエアリスだったが、このままではスタインが死んでしまうと気づき慌てて止めに入った。
「ライオネス様、止めてください!このままじゃ死んでしまいます!」
「離せエアリス!愛する妻が乱暴されそうになったんだぞ!」
「…愛する?妻?」
「あ」
仕舞ったというような表情を浮かべるライオネス。
驚くエアリス。
微妙な沈黙。
「と、とりあえずスタインはもう十分痛めつけられてます」
「殺したいが後が色々厄介だ。しばらく地獄で反省してもらおう」
そう言うやいなや、ライオネスがパチリと指を鳴らすとスタインの体に黒い触手の様なものが巻き付いた。
「な、なんだこれは!うわああああ」
触手はそのままスタインを飲み込んで行き、気づけばスタインも触手も跡形もなく消えていた。
再び静寂が訪れるとエアリスはライオネスを見上げ、その顔をじっと見つめた。
そしてあの夏の事を思い出していた。
残業3時間と言ったところだ。
「よーし!今日はこれで終わり!」
一区切りついたところで伸びをしてエアリスは事務室を出た。
既に日は沈んでおり、廊下は蝋燭に照らされてぼんやりと明るい。
「エアリス」
「スタイン…」
呼び止められて振り向けばそこに居たのはスタインだった。
正直会いたい顔ではない。
エアリスは思わず顔を顰めてしまった。
「何か用?」
「そんな顔するなよ。ちょっと来いよ。話があるんだ」
エアリスは少し悩んだがまずは話を聞くことにしてスタインについて行った。
裏庭に着くとスタインは不敵に笑った。
「なぁ、エアリス。俺とやり直さないか?」
「は?」
突然の話に本気で聞き直してしまった。
自分の耳がおかしくなったのだろうか?
「何を言ってるの?あなたが婚約破棄してきたんでしょ?そもそもあの女性はどうしたのよ」
「あのあばずれ女!俺の他にも男がいたんだ」
つまりは女に振られたから復縁したいと言っているのか。
「なぁ、浮気は悪かったと思ってる。だからやり直そうぜ」
「何言ってるの?私はもうライオネス様と婚約しているのよ」
まぁ魔界では結婚しているが。
「お前さ、騙されてんだよ。じゃなきゃ侯爵がお前みたいなの相手にするわけないじゃん。不釣り合いもいいところだぜ」
その言葉を聞いて胸がギュッとなって痛んだ。
確かに見目麗しいライオネスと釣り合わないと自覚しているし、ライオネスからも容姿について指摘されたばかりだ。
結婚はしているが契約結婚に過ぎない。
しかもそれは白い結婚ときている。
「釣り合わないなんて…私が一番知ってるわ」
「じゃあ、いいだろ?」
「でも、私はライオネス様とは別れられないの」
「なんだよ。まさか分不相応にも好きになったってか?」
図星だった。だから動揺して何も答えられなかった。
「ちっ。なら既成事実作っちまえばいいよな」
「な、なにを…」
身の危険を感じたエアリスは急いで城へと戻ろうと駆けだしたのだがグイと手を引っ張られ、気が付けば自分の上にスタインが馬乗りになっていた。
「お前、本当にいい女になったよな」
そう言ってキスをしようとするのをエアリスは顔を背けて抵抗した。
だがそのままスタインはエアリスの首筋に唇を寄せてくる。
背中がぞわりとして、猛烈な嫌悪感に襲われる。
「やめて!ライオネス様!ライオネス様助けて!」
その時、薬指にはめられた指輪が光った。
風が渦巻いて思わず目を瞑る。
目を開いてみればそこにはライオネスが現れたかと思うと、瞬時に距離を詰めてエアリスに馬乗りになっているスタインを殴った。
小さい呻きを上げてスタインが吹き飛ばされ地面へと倒れた。
「小僧が!人間の分際で俺の妻に触れるなど…!死んで詫びろ!」
憤怒の表情でそう言ったライオネスの姿を見てエアリスは息を呑んだ。
その姿は銀色の長い髪に金の瞳がギラりと光っていた。
底冷えするような声に加え、纏う雰囲気は静かだが怒りに満ちていた。
「な、なんだ化け物?」
何とか体を起こしたスタインはそう言って後退ったが、その首にライオネスの太い鎖が巻き付く。
そのままライオネスが力を加えてスタインを右へ左へと地面に叩きつけた。
かと思うと今度は自分の元へと引き寄せ、スタインの顔を思い切り殴ったので吹き飛んだスタインは大木に体を叩きつけられて呻いた。
あまりの苛烈ぶりに最初は呆然としていたエアリスだったが、このままではスタインが死んでしまうと気づき慌てて止めに入った。
「ライオネス様、止めてください!このままじゃ死んでしまいます!」
「離せエアリス!愛する妻が乱暴されそうになったんだぞ!」
「…愛する?妻?」
「あ」
仕舞ったというような表情を浮かべるライオネス。
驚くエアリス。
微妙な沈黙。
「と、とりあえずスタインはもう十分痛めつけられてます」
「殺したいが後が色々厄介だ。しばらく地獄で反省してもらおう」
そう言うやいなや、ライオネスがパチリと指を鳴らすとスタインの体に黒い触手の様なものが巻き付いた。
「な、なんだこれは!うわああああ」
触手はそのままスタインを飲み込んで行き、気づけばスタインも触手も跡形もなく消えていた。
再び静寂が訪れるとエアリスはライオネスを見上げ、その顔をじっと見つめた。
そしてあの夏の事を思い出していた。
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